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編集とは決断すること!小学館「Maybe!」編集長の小林由佳さんに聞く良い企画を生み出す秘訣 言志の学校第2期レポート③ アイディア・編集編

ART BOOKS 2019.07.03 Written By 和島咲藍

フリーペーパーとZINEを作りたい人のための言志の学校の第2期が開講。第2回目となる今回の講義は、初夏の爽やかな陽気のなかMTRL KYOTOで開催されました。

 

フリーペーパー専門店只本屋とわたしたちアンテナが共同主催する『言志の学校』は、講師陣の授業を参考にしながら、全4回の期間内に1冊の作品を自分で作り上げて流通させるまでがゴールです。作品制作をサポートすべく、ライティングやデザイン、印刷や流通といった紙モノの製作に関わるエキスパートを毎回ゲスト講師にお迎えします。

 

第2回目講義のゲスト講師は、新しくてリアルなファッション&カルチャーマガジン『Maybe!』編集長の小林由佳さんと、グラフィックデザイナーとして大阪を拠点に活動されている赤井佑輔さんのお二人です。

 

この記事では、『Maybe!』編集長の小林さんの講義の一部をお伝えいたします。

 

面白いアイディアはどこから生まれるのか? 「編集」って一体なんなのだろう? 長く制作を続ける秘訣は? 学生時代に自らもフリーペーパーを制作していたという小林さんに、アマチュアの悩みに寄り添いつつ、制作にあたってのマインドセットから企画のコツまでを丁寧に教えてもらいました。

講師プロフィール

小林由佳

編集者。1980年東京都生まれ。武蔵野美術大学造形学部デザイン情報学科卒業。現在はファッション&カルチャーマガジン「Maybe! (メイビー!)」編集長。

 

小学館の児童書の部署に所属し、小学館の『図鑑NEO 花』などの図鑑、『おじさん図鑑』や『あたらしいみかんのむきかた』といった類書のない単行本を手がける傍ら、自ら企画し、念願だったというファッション&カルチャー雑誌Maybe! (メイビー!)」を立ち上げました。

 

Maybe!:https://www.shogakukan.co.jp/pr/maybe/

 

編集とは「決断すること」

「編集で一番大切なことってなんだと思いますか?」

 

シンプルながら、とてつもなく難しい質問から講義が始まりました。2回目の講義ということもあって和やかだった会場の雰囲気が、キリッと引き締まります。

「編集とは、決断すること。だから、編集する上で一番大切なのは、決め続けることです」と小林さんは断言します。

 

フリーペーパー・ZINE制作では、企画からライティング、デザイン、コストの計算、締め切りの設定、宣伝までを自分でやり遂げなくてはなりません。どこに置く? 予算はいくら? 誰に向けて? 何を書く? どこまでこだわる? など、実は決めなければならないことを挙げればキリがありません。フリーペーパーやZINEは自主制作ですから、制作者である私たちが自ら、ときに編集者の視点を持って無理やりにでも「決断」を重ねていくことが不可欠です。そうしていくことで、荒くとも作品の形が見えてくるのです。

小林さんはさらに「制作物の設定をきちんと作るのも重要です」と続けます。

 

設定とは、ここでは制作物の設置場所、発行部数、発行ペースなどのこと。

例えば、あまり部数を多く作らないのなら、インターネット上や一般の出版物では言えないような少し過激なことを書いても問題ないかもしれない。「フリーペーパー・ZINE」という閉ざされた空間には、出版社を通さない面白さがあるのです。

 

一つひとつの「決断」が、私たちの頭の中のぼんやりとしたアイディアを具体的にしてゆくのですね。

良いアイディアはどこから生まれるのか?

さて、いざフリーペーパーやZINEを作る時に、最初にぶつかる壁は「企画」ではないでしょうか。せっかく作るのだから、いろんな人に届けたい。そのためには、良いアイディアが必要です。

 

小林さんが語る良いアイディアの出し方はズバリ「インプットとアウトプットを繰り返すこと」。失敗したくない、恥ずかしいという気持ちはいったん捨てるべし! とにもかくにも自分が興味を持ったものに触れ、自分の思いを表現する、つまり、手を動かしてみることが重要なのだそうです。

 

「ただ、SNSでインプット結果をつぶやくのはあまりオススメしません。第一発見者気分で近場のいいねに満足してしまう。これが制作のモチベーションを奪ってしまいます。「評論家」になってはいけないんです。皆さんは作り続ける人でいてください」

 

これはなんだか耳の痛いお話でした。自分が実際に行動していないのに、外から作品や制作者を冷笑する行為は、確かに私たちから「作り出す」場に足を踏み入れる勇気を奪います。自分に対しても他人に対しても真摯であることが大切なのですね。

クリエイティブな人は「悪口がうまい」?

アイディアが浮かんだとしても、日々いろいろな作品に触れていると「果たして自分のアイディアは良いものなんだろうか?」と不安になることもあるかもしれません。自分をぶれさせないために「ちゃんと人の悪口を自分の中に溜めておくことも重要」と小林さんは語ります。ここで言う「悪口」とは、自分の美意識を基準にして「このアーティストのここは嫌い」「あの作品のあそこがダサい」を断言するということ。

「クリエイティブな人は悪口がうまいんですよね。それは、自分の美意識をちゃんと持っているから。周りに流されないで自分の美意識を基準にして物事を見つめることができれば、おのずとアイディアも磨かれてゆく。自分の嫌いなものをきちんと弾いていけば、企画はどんどん濃くなるんです。」

 

例えば食べ物で「◯◯は好きですか?」と尋ねられても、相当嫌いでなければそれを「好き」と言ってしまうと思います。それが食卓に並んだら、きっと食べるでしょう。でも、嫌いなものは絶対に食べたくないですよね。「好き」より「嫌い」の方が意志がはっきりしているので、美意識を発見しやすいのです。

 

あれは嫌だから自分はこうしよう。この作品のここがダサいので自分はこうしよう。そうやって考え続けていくうちに、自分らしい濃い企画が出来上がっていきます。

 

自分の嫌いなものをきちんと考えることは「好き」を形にするフリーペーパー・ZINEには関係ないことのように思えるかもしれませんが「余計なものをそぎ落として自分の感覚を研ぎ澄ます」という意味では、前回講義で物件ファンの森岡さんがおっしゃっていた「好きを磨くこと」にも役立ちそうです。

 

>超絶技巧は必要ない!物件ファンの森岡友樹さんに聞く心を打つ文章を書くための思考のステップ 言志の学校 第2期レポート① ライティング編<

「企画」を実践から学ぶ

「さあ皆さん、手を動かさないことが一番ダメですよ!」という小林さんの言葉から、ワークショップが始まりました。

 

課題は以下のふたつ。

 

①10分間で「自分ならこの2ページの企画のためだけにこの雑誌を買う!」という企画を考えること

②A3用紙に誌面のラフを描くこと

 

A3用紙は実際の雑誌『Maybe!』の誌面2ページとほぼ同じサイズ。いざ目の前にすると想像以上の大きさです。このサイズの用紙にいきなり企画ラフを描くというのはかなり高いハードルでしたが、小林さんの言葉に励まされてとにかく手を動かします。

間がきたら、ラフの発表タイムです。受講生の発表に「それってどういうことですか?」「それだと何人か集めて特集という形にするのが良さそうですね」「汎用性は低そうだけどやることに価値があるタイプの企画かも」など、小林さんが自身の経験を交えながら的確にコメントを返してゆくさまは編集会議そのもの。企画を練る際の切り口や「決断」のポイントを、実践から学ぶことができました。

まとめ:とにかく手を動かそう

小林さんが何度も強調していたのは、インプットとアウトプットを繰り返すことの大切さ。自分が主体になっていろんなものを貪欲に吸収し、とにかく手を動かす。そしてその道中では、絶えず「決断すること」が求められます。

 

その上で、うまく納得して長く制作を続けるためには、「受け取ってもらえなくて傷つくことにも意味がある」と訴えていたのも印象的でした。「受け取ってもらえない」という経験をすることで、私たちは「なぜ受け取ってもらえなかったのか」を考え、学ぶことができるからです。もちろん作品を受け取ってもらえることが一番ですが、何もしないより絶対に得るものがある。このような経験は無駄にはなりません。

 

自分で「決断」を下していくことは、はっきり言って怖いことです。それは、自分の制作に責任を持つことだから。時には傷つくこともあるかもしれないし、妥協だって必要になることもあるでしょう。それでも、人に届けたいものがある。そうと決まれば、あとは手を動かすのみ。大きな夢を見ながら、それでもちゃんと地面に立って、一歩ずつ制作への道を進むのです。

 

 

 さて、次はデザインの講義。自分の伝えたいことをいかにして伝えるか? どうすれば表現したいことをデザインで実現できるのか? そのエッセンスを赤井さんに教えていただきました。

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