「そりゃそうでしょ」をちゃんとやる グラフィックデザイナーの赤井佑輔さんに聞くデザインの第一歩 言志の学校第2期レポート④ デザイン実践編
フリーペーパーとZINE を作りたい人のための言志の学校の第2期が開講しました。
フリーペーパー専門店只本屋とわたしたちアンテナが共同主催する『言志の学校』というこの学校では、ライティングやデザイン、印刷や流通といった紙モノの製作に関わるエキスパートを毎回ゲスト講師にお迎えします。講師陣の授業を参考にしながら、全4回の期間内に1冊の作品を自分で作り上げて流通させるまでがゴールです。
この日は、小学館で『Maybe!』の編集長を務める小林由佳さんに「決断がすべてをつくる!」という、企画・編集の秘訣を教わりました。
>編集とは決断すること!小学館「Maybe!」編集長の小林由佳さんに聞く良い企画を生み出す秘訣 第2期レポート③ アイディア・編集編<
小林さんと交代ですぐに次の講義がスタート。グラフィックデザイナーの赤井佑輔さんへとバトンが渡されます。「デザインする」とひとことで言っても、一体どこから手をつけていいかわからない方も多いはず。「僕はどちらかというとセンスや感覚ではなくて理論でやってきた」と語る赤井さんに、自分の思い描く表現をデザインで実現する方法を教えてもらいました。
講師プロフィール
赤井佑輔
1988年生まれ奈良県出身。2011年に京都造形芸術大学情報デザイン学科卒業。卒業後グラフィックデザイナーとしてgrafへ入社。2014年に独立し、paragramという屋号で大阪を拠点に活動。話を聞いて、寄り添うようなデザインを目指してがんばっている。
デザインとは「中身と外見を合わせること」
一見謎のスライドから始まったデザインの講義ですが、赤井さんが伝えたかったのは「外見と中身を合わせること」の大切さ。
例えば、おしゃれな人は、おしゃれな服を着ていることはもちろん、服がその人の体型や雰囲気と合っているはずです。ハイブランドな服を着ようと思ったら、それに見合うだけのオーラのある人間にならなければ、服に着られてしまいますよね。そうやって外見と中身が合うように調整することこそがデザインなのだ、と赤井さんは言います。
では、具体的に「外見」「中身」とはなんなのでしょうか? 「外見」から詳しく見ていきましょう。
「外見」のデザイン:印象を決める
「外見」のデザインとは、ただ単にぱっと見をおしゃれにすることではなく、中身、つまり情報を説得力を持ってよりよく伝えるための印象のコントロールのことだ、と赤井さんは語ります。
「こうしたい、というのが大事なのは大前提として、客観的にそれがどういう受け取られ方をするのかということへの意識は忘れないようにしたいですね」
例えば「僕を信じてください」と伝えたいときには、きっとゴシック体よりも明朝体の方が気持ちが伝わるし、その文字を太くしてみたらより真剣味がでるかもしれない。画面で見るとほんの少しの違いで見逃しそうになるほどですが、その選択には明確な意図があるのです。
ではここで例題です。物語の最後に出てくるいわゆる“ラスボス”には「高めの情けない声で早口」と「低くて野太い声でゆっくり」、どちらの発話が合うと思いますか?
きっと多くの人が後者だと考えるのではないでしょうか。役に合った声色・声質・声量・雰囲気・音の高低・話す速さが揃って初めて、その役が話す内容に説得力が出るのです。
これを「外見」のデザインに応用すると、ラスボスのセリフを書き起こすときには、ゴシック体よりかは明朝体を選んで、文字は太く、色は黒か濃い紫で画面いっぱいの大きさで、字間にゆとりを持たせよう、といった考え方ができますね。
自分で1からデザインをやろうと思うと何から手をつけていいかわからず途方に暮れてしまう。例えば「◯と△、どちらが好き?」と尋ねられても「どっちでも……」となってしまうけれど「手にぎゅっと握るとしたら、◯と△どっちが好き?」という質問ならずっと答えやすくなるはず。自分が作りたいものの雰囲気や、情報の流れ・属性、どんなものを誰に届けたいのかをきちんと「決断」しておけば、「外見」のデザインもどんどん見えてくるのですね。
「中身」のデザイン:自分が伝えたい情報を検討・整理する
作品における「中身」とはつまり「情報」のこと。情報を伝える度合いや順番を決め、自分が伝えたいものをより届けやすくする作業が「中身」を整える作業です。
「例えばボールを投げるとき、何も意識しなくても投げることはできますが、よりいい球・速い球を投げたいならきちんとセオリーを知っておいた方がいい。“当たり前のことを意識する”というのはすごく重要です。だけど、そもそもセオリーを知らないと意識はできないんです」と教えてくれた赤井さんが提示した意識すべきポイントは以下の4つ。
- グリッド:格子状の直線を意識する
テキストやイラストの始まりと終わりが直線上に並んでいると読みやすい。
- ジャンプ率:目立ち度合い
文字や写真の目立ち度合いを色の濃さや大きさ、形で調整する。 - 視導線:目線が移る流れ
横書きの文書なら紙の左上から右下へ、縦書きなら右上から左下へと視線が移るなど。 - プライオリティ:情報の重要度
自己紹介をするとき、一番重要な情報は自分の名前。その次が年齢や出身地。
これらを駆使することで、自分が強調したいポイントや情報を伝える順番をコントロールできるようになります。このように見ると専門用語っぽくてウッ……となってしまいそうですが、実は「灰色より黒の方が目立つ」「テキストは整然と並んでいた方が読みやすい」「大きい文字は目に入りやすい」といった、当然のことをきちんと意識しているだけなのです。
当然のことながら、この作業の前には「自分の“好き”はどこにあるのか? 自分が強調したいことってなんなのだろう?」 ということをを自分自身できちんと問いただし、「決断」しておく必要があります。今まで受けた講義が一本の線で繋がりましたね。
実際に「デザイン」を意識してみると、色々なものが見えてきた!
さて、では実際に手を動かして「デザイン」を意識してみましょう。
今回の講義では、あらかじめ受講生に自分の好きなフライヤーを持ってきてもらっていました。そのフライヤーに、に定規でグリッド線や視導線を引いてもらいます。そうすることによって、自分の好きなフライヤーがどのように「デザイン」されているか、把握しやすくなるのです。
赤井さんは受講生の周りを「紙を半分に折ってみたらわかりやすくなりそうですね」「一旦区切ったグリッドも、さらに細分化できるのでは?」と声をかけつつ歩きます。
いざ手を動かしてみると、それぞれのフライヤーで情報の伝え方が考え抜かれ、それぞれの構成に細心の注意が払われているのがわかります。なんだか世界を見る解像度が上がったような気持ちになりますね。
まとめ:「そりゃそうでしょ」を意識する
講義全体を通して強調されていたのが、当たり前のことを意識することの大切さ。駅のチラシの構成は? 大好きなあの本の装丁はどうなっているんだろう? 普段何気なく見ているものの前で一度立ち止まり、分解してみる。この視点は、たとえ制作から離れたとしても我々の生活を豊かにするものだと思います。
受け取り手のために頭をひねって最善の届け方を考え、想いを発信する。デザインとは、究極のコミュニケーションと言えるのかもしれません。普段は「消費者」として至る所でデザインの恩恵を受けている私たちですが、今度は作り手となって自らの想いを届ける番です。
時にいたずらっぽく場を和ませながら、ひとつひとつ例を挙げて粘り強く私たちにデザインのエッセンスを教えてくれた赤井さんの講義は「セオリーはあるけど、“ありえへんところにありえへんものがある”という面白さも勿論あります。それも含めて、制作を楽しんでくださいね」という温かい言葉で幕を閉じました。
次は流通とデザイン考え方の講義
2回目の講義を終え、ライティング・印刷・編集・デザインについて学んできた言志の学校第2期もついに折り返し。今回からはゼミ講義も始まり、アンテナ堤ゼミ・只本屋山田ゼミ・グラフィックデザイナー後藤ゼミの指導を受けながら、受講生たちはいよいよ本格的に制作に取りかかり始めました。
次回の講義では大垣書店の大垣守可さんとグラフィックデザイナーの後藤多美さんをお迎えします。流通とデザインの講義を通して、作品をどのように流通させれば届けたい人に届くのか? デザインのゴールの設定の仕方は? などを学び、さらに自分の作品をブラッシュアップしていきます!
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WRITER
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1997年土曜日生まれ。結果オーライの申し子。言葉と、人々のそれぞれの暮らしを愛しています。
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