INTERVIEW

わからないものをそのまま楽しめるようになった。CARD 3rd ALBUM『TUNNEL VISION』リリースインタビュー

MUSIC 2019.11.15 Written By 金子 ゆか

年を経れば、よく悪くも目や耳は肥えてしまう。そうなると自身が作り出すものに対するハードルは自然とあがる。これが原因で制作に向き合えなくなってしまう人も多いのではないかと思う。上がり続けるハードルに挑み続けるのは楽なことではない。

 

大阪のCARDは自分たちの楽曲を信じ、ピュアに音楽に向き合い続けてきたバンドだ。インタビューでは「前作が最後のつもりで作った」と語るVo / Gtの中野。これまでの人生では大きなステージも経験し、職人気質な彼らが納得する音楽活動がどのようなものなのか、3rd ALBUM『TUNNEL VISION』のリリースに合わせてインタビューを行った。

世の中に良い音楽が溢れている中で、自分が音楽をやる理由はどこにあるんだろう

──

2ndアルバムの『Lucky Me』のリリース以来の取材なので、約4年ぶりとなります。CARDにしては、リリースまでの期間が長かったですね。

中野

『Lucky Me』をリリースしたあとの半年は、ほとんど曲ができなくて。ツアーが少し長引いて、気持ちの切り替えもあまり出来ていなかった。デモを作ってスタジオに持っていくけどまとまらない。しっくりこないというか、正解がわからなくなっちゃって。『Lucky Me』は自分的に最後のアルバムのつもりで作ったので、当時出来る事は全て出し尽くしたという気持ちもあった。

──

そうだったんですね。今作が聴けて、本当に良かったと思います。ちなみになぜ最後にしようと思ったんでしょうか。

中野

自分やバンドメンバーを含め、音楽的なキャパシティを考えた時にこれ以上やっても同じレベルの物しか作れない気がしていて。他メンバーと自分のモチベーションの差も大きくて、曲作りやバンドの活動にメンバーをかなり付き合わせてしまって悪いなという気持ちもあったから、「『Lucky Me』は最後でもいいからなんとか完成させたい」という気持ちだった。長年バンドをやっているし、このタイミングで面白いものが作れなかったら、もう一生できないって強迫観念があったというか。レコーディング中も、雰囲気が悪くて、動画を撮ってくれた友人も「イヤだ」って言ってましたね(笑)。『Lucky Me』で全て出し切って、バンドはもういいかなという気持ちもありました。

──

中野さんがバンド活動について、もういいかなと思うことがあるんですね。

中野

前作を更新し続けて音楽的に常にフレッシュな状態での活動じゃないと意味がない、と考えるか、バンドを続けることそれ自体に意味があると考えるのか。『Lucky Me』の時の自分は、完全に前者の考えだった。15年くらいずっとバンドを続けていたので、スタジオでメンバーと音を出して単純に「楽しい」とかの娯楽的な部分も薄れていたし、良い音楽が世界に沢山ある中で、これから先、自分が音楽をする理由を探していたのかもしれない。そんな気分を引きずっていて、『Lucky Me』リリース後はあまり積極的に曲を作る気にもならなかったんだよね。

──

そんな状況を打破できたから、今作があるんですよね?

中野

気持ちが前向きになったのは、ドラムの泉くんが正式に加入したのが大きい。メンバーが変わって、新しい曲を作ってみたくなった。時間はかかったけど、それでできたのが『TUNNEL VISION』に入っているM7 “DOLL”とM8 “円” とM10 “待つ人” 。新曲をライブでやっていくうちに、「もうちょっとやれるかも」と感じて、考えが変わっていったんだよね。生活の延長にある音楽活動にも少しは価値があるかもって思えるようになった。それで少し気も楽になったというか。

タイミングひとつで、自分の感覚が転がされるなら、もっと肩の力を抜いてみていいんじゃないか

──

なぜ変わったんでしょうか。前作リリース時、別媒体のインタビューで、「納得できないことはしない」と語られていたんですが、バンド活動への考えが変化する中で、今作の楽曲はどこに納得をしてリリースに至ったのかお伺いできますか。

中野

曲に対する納得の基準は、それまでに触れてきた音楽や他者との交流、色々な刺激や経験で形作られるものだから、自分の中でゆっくりと変化していると思う。自分が以前と一番変わった点は「CARDにとってベストな形は何か」ということを念頭に置いてスタジオで曲作りをするようになった事かもしれない。以前はバンドをするなら、自分の基準でデモ以上のクオリティにブラッシュアップできないと意味がないと考えていたから。独りよがりの部分もあった。

──

バンドのマジックみたいなものを、ある種一番信じていたんですかね。今はいろんな引き出しを楽しめるようになったということですか?

中野

そうだね。今回一番の大きかったのは、椎木彩子さんの個展用にソロで作ったM2 “時間を捨てて”という曲をバンドで再アレンジしていた時の経験。曲をまとめる過程でメンバーがフレーズなどのアイデアを出してくれたことも影響が大きかったけど、なにより自分から出てくるアイデアが1人の時と全く違う事に気付いて、それが不思議で面白かった。自分が想像しているより、バンドにはもっと複雑な力学みたいなものが働いている事に気付かされたんだよな。同時にそのことがこのメンバーと一緒に音楽を作る意味だと思わせてくれて。それで今回もなんとかリリースできたと思います。

──

椎木さんに誘われたタイミングがよかったんですね。

中野

そんなタイミングひとつで、自分の感覚も転がされるなら、もっと肩の力を抜いてみてもいいんじゃないかとも思えたしね(笑)

──

肩の力を抜いてみてどうですか?

中野

良くも悪くも許容できる幅が広がってきていて、『TUNNEL VISION』のミックスはエンジニアにほとんどお任せにした。前作に比べたら5分の1のくらいの時間で終わったと思う。

──

今回、録音とミックスは京都music studio SIMPOの荻野さんが担当されていました。

中野

事前に方向性についての話もしているし、「この人が良いと思うミックスだったら大丈夫だろう」と。気にするより、「これもあり」って楽しめる部分が増えたのかな。

──

以前は「CARDってこういうのがいいんじゃない?」と提示されたものに対して、「いや、俺たちはこうだから」と感じて許容できなかったけど、今はその違いも面白いと思えるようになったということですね。

中野

そうかも。メンバーに対しても、エンジニアに対しても。

気持ち悪いとか、不思議とか、心がざわつくってことも音楽でもっと表現されてもいいよな

──

3rdアルバムの話ももっとさせてください。まず所感ですが、僕は前作と比較すると日常に近づいた音楽になったと感じました。

中野

歌録りを家でやったことがひとつの要因だと思う。それから、歌詞はほぼ全曲に自分が経験した元ネタがあることも関係しているかも。自分の日常の、あの日の事とやこの時のこと……みたいな。

──

それは今までと歌詞の書き方を変えたということですか?「来る」「行く」「追いつく」「歩く」「先」「ルート」と、道を想起させる言葉が多い印象だったんですが、中野さんの人生を辿っていたのかも。

中野

自分の今までのバンド活動を一度総括したいという気持ちがなんとなくあって。20歳くらいからずっとやっているので、今までの事を少しまとめてみたくなった。でも半年くらい考えたんだけど、全然まとまらなくて(笑)。結局、断片的に思い出をつないでいく形になったんだよね。そう言えば、堤くんは音楽活動総括したくなったことない?いろいろな活動をしている中で、バンド活動はどんな位置づけなの?

──

恥ずかしいですけど、僕はしがみついているんですよ。プレイヤーであること、表現者であることに。こうやってメディアもやっていますけど、確かにメディアは僕が作っているものではあっても、自分の体験を表現するものではないので、現状それができるのは音楽しかないんですよね。

中野

メディアをやっている反動もあるのかな。

──

そうかもしれません。聞き手としては問題ないんですけど、やっぱり中野さんたちと同じ土俵で話がしたいと思ってしまう。刺激も受けるし、ずっと憧れていて、みんなに追いつきたいんでしょうね。

中野

俺もこの年になっても楽曲に対しての憧れだけでやってる気がする。憧れを目指して曲を作るけど、なんか違う、できないっていうのを、ずっと繰り返してる感じ。

──

終わりがないですね!

中野

ない。曲作りは毎回苦労して嫌になるし(笑)。最近だとBig Thiefのサウンドメイキングに驚いた。リズムとアコギと歌の上に1本ハモりがあるくらいの音数が少ない曲なんやけど、そのコーラスに強めのエフェクトをかけて上のレンジを埋めて、足りない部分だけ弦楽器で少し足すとか、そういうアイデアはスタジオで曲作りするだけの作業ではなかなか出てこないなと思って。逆算というか録音過程を含めた曲に対するアプローチというか。そういう斬新なアイデアを持っているバンドには憧れる。

──

そう言えば今作はゆったりしたBPMの楽曲が多い印象でしたが、何か意識したことはありますか?

中野

各曲BPM前後20は試していて、気持ち良いところを探していったら、結果遅くなったという感じ。M5“今もどこかで”は当初よりBPM20くらい遅くなってる。あと隙間を多めにするってことと、音数減らすってことは意識して。

──

それはなぜですか?

中野

ここ数年よく聴いてる音源の影響かな。後、今回のアルバム曲は音数を減らして空気感を含めて録音したいものが多かったから。隙間を聴いてもらうというか。代わりにギター1本の音色とか、歌の雰囲気にこだわってみるアプローチをしてみたかった。いつも参考にしてるのはWilcoなんやけど、各楽器の音量バランスが結構アンバランスだったりするけど、不思議と心地良くて。

──

何が不思議でしたか?

中野

うーん。何だろう?ドラムとかあまり聴こえない時もあるし、多分根本的に音量を揃えて綺麗に各楽器を聴かせるとかではない、全く違う概念や基準があると思う。捉え方が全然違うというか。歌の音量もでかくてパンニングも偏ったりしてるけど、なぜか全体で聴くとちょうどよくてグッとくる。

──

最近音楽ってすごいなと思うんです。いくら言葉を尽くしても伝えられない感情や情景を音楽だとスパーンと伝えられるんですよね。インタビューではどうしても言葉を欲しがってしまうけど「グッとくる」なんていうのは、音楽や芸術特有の受け取り方だと感じます。

中野

わからないことをわからないままにすることは、結構大事かも知れない。仕事とか日常生活の中で言葉や説明は常に必須なものと言われがちだよね。だから言葉で説明できないものは価値が低いと思われがちだけど、言葉で説明するということは全体の一部を切り取る作業とも言える。言葉はこぼれ落ちてしまうものも多いと思うから、音楽ではその辺を意識したい。説明できないものが、音楽的に悪いものとは限らないからね。

──

その考えは以前からですか?

中野

以前は確実に自分を説得できるフレーズやサウンドじゃないと、残したくないと思ってた。ある程度「良い」と思える裏付けが自分の中であったり、またはいろんな場所で聴いても良い曲だと感じられるかどうかとか。今はそれがちょっとなくなった感じ。良いかどうか、わからないのも面白い。

──

そのスタンスの変化は楽曲に影響はありましたか?

中野

各曲にそういう要素が少しある。M8“円”はコードの使い方をセオリーから外してみたら、なぜか不思議な感じがして気にいっているからそのまま使ったり。M1“UNBALANCE”なんかは歌詞の部分で、いつだか変な日があって、あの時の感じ面白かったなと。ただそれだけなんだけど。

──

そこにただあるみたいな音楽の在り方ですね。

中野

音楽対して多くの人が娯楽性、共感、快楽だけを求めている事にも以前から違和感もあって。もちろん、流行の曲がダメとかそういうことを言いたいわけではなくて。不思議とか、心がざわつくってこともだけでも十分だと思います。

視点が異なるメンバーだからこそ、バンドが面白い

──

ちなみに今回M9“BE A BOY”をBa 白神さんが歌われているのには、何か理由があるんでしょうか。

中野

単純に白神くんがこの曲を気に入ってくれたからというのが一番の理由。前から歌ってほしいなとは思っていたから、タイミング的にちょうどよかった。素朴で良い感じに仕上がった。

──

良い声ですよね。白神さんが歌うM9があることで、より他の曲のコーラスワークも際だって聴こえている気がしました。

中野

白神くんはコーラスは上手いし、最近ベースフレーズもいろんなパターンを出してくれるようになった。最近調子よさそうです(笑)。とはいえ、彼はめちゃ変なやつやけど。

──

独特のグルーヴですよね。

中野

清水・白神ラインは特にね。あの二人と9年も一緒にバンドやってる事をもっと褒めてほしい(笑)。何考えてるかわからないもんな。泉くんも変だけど。まあ視点が異なるメンバーだからこそバンドが面白いかな。

──

そういう人たちとじゃないと納得できないんじゃないですか?同じ穴のムジナですね。

中野

そうかも。以前全く同じことを他の人に言われたことがある(笑)

──

ちなみに今回、stiffslackからFLAKE RECORDSにレーベルを移籍して何か変化はありましたか?

中野

stiffslackは俺が22,3歳の時からCDをずっと扱ってくれていた大事なレーベルで、CARD結成時にも真っ先に声をかけてくれた。そんな中で、数年は自分たちの音楽を世間に届ける難しさも痛感していて、もう少しいろんなアプローチも試してみてもいいのかもと思った。だからFLAKE RECORDSに移籍してなにかが変わった、といより、環境を変えてチャレンジするためにって感じ。プロモーションも以前より頑張っています。

──

逆に、今までそういうプロモーション的なことをしてこなかったのが不思議ですね。

中野

メンバー全員がびっくりするくらいプロモーションに対する意識が低くて(笑)。曲を作って納得、終わりみたいな感じでしたね。それはそれで良いんだけど、このままだとCARDの音楽を気に入ってくれる可能性がある人にも全く届かないんじゃないか、って危機感みたいなものが生まれて。それで今年はMVを作ったり、サブスク配信も始めて。MVもいざ作ってみたら楽しいんだけど、やっぱり世間に届けるっていうのは難しいなとも改めて感じてますね。

──

この記事でも、まだCARDの音楽に出会ったことがない人にも届けられるように協力できると嬉しいです。ありがとうございました!

アルバム制作期間によく聴いていた楽曲のプレイリスト

作品情報

 

 

アーティスト:CARD
タイトル:TUNNEL VISION
発売日:2019年09月25日
価格:¥2,700(税込)

CARD

 

 

2010年に結成された4人組バンド。
現在までにアルバム2枚、EP1枚、トリビュート参加、7inchレコードなど発表している。 関西を中心に活動中。

https://cardofband.com/

WRITER

LATEST POSTS

REVIEW
「キテレツで王様になる」SuperBack『Pwave』のキュートなダンディズムに震撼せよ

2017年に結成、京都に現れた異形の二人組ニューウェーブ・ダンスバンドSuperBack。1st ア…

REPORT
台湾インディーバンド3組に聞く、オリジナリティの育み方『浮現祭 Emerge Fest 2024』レポート(後編)

2019年から台湾・台中市で開催され、今年5回目を迎えた『浮現祭 Emerge Fest』。本稿では…

REPORT
観音廟の真向かいで最先端のジャズを。音楽と台中の生活が肩を寄せ合う『浮現祭 Emerge Fest 2024』レポート(前編)

2019年から台湾・台中市で開催され、今年5回目を迎えた『浮現祭 Emerge Fest』。イベント…

INTERVIEW
2024年台湾音楽シーンを揺らす、ローカルフェスとその原動力―『浮現祭 Emerge Fest』主催者・老諾さんインタビュー

2024年2月24,25日の土日に、台中〈清水鰲峰山運動公園〉で音楽フェス『浮現祭 Emerge F…

COLUMN
【2024年3月】今、大阪のライブハウス店長・ブッカーが注目しているアーティスト

「大阪のインディーシーンってどんな感じ?」「かっこいいバンドはいるの?」「今」の京都の音楽シーンを追…