INTERVIEW

CARD×椎木彩子の関係について【前編】

MUSIC 2015.04.15 Written By 堤 大樹

最初に浮かんだのは単純な疑問でした。

 

“この人たちどこで出会ったんだろう?”

 

身の回りの作品・商品は多くの人間の手が加わって完成しています。普段なにげなく眺めているCD一枚を例にとっても、ミュージシャンはもちろん、ビジュアルを作っているデザイナーも関わっているわけです。彼らは一体どのように繋がり、制作をしているんだろうか……。

 

そんな人々の”繋がり”に焦点を当ててインタビューをしてみよう!と思ったのが今回の企画です。

第1回目の今回は、2015年2月4日に2年半ぶりとなるアルバム『LUCKY ME』を発表し、現在もリリースツアー中のCARD。彼らは1枚目の『BANQUET』に続き今回もイラストレーターの椎木彩子にビジュアルを依頼をしています。

以前から彼らが気になっていた我々は、早速そんなCARDのGt.Vo中野博教さん、椎木彩子さんのおふたりに話を聞いてきました。

 

どのように椎木さんがCARDに出会い、また何故彼らはまた椎木さんを選んだのでしょうか。前編では作品がどのように出来上がるかを、後編では彼らのプライベートに迫りたいと思います!

CARD

 

 

2010年に中野博教と清水雅也を中心に結成された 大阪を拠点に活動するオルタナティブギターバンド、2015年2月に約二年半ぶりの2NDアルバム『LUCKY ME』を発売。 USインディーと連動する敏感なアンテナを張り巡らしたリスナー気質なサウンドスケープは曲毎に万華鏡の如く変化し、それに加え日本語バンドの素晴らしさを再確認させてくれる中野氏の詩世界は楽曲により深みが増し、とにかくセンスの良いバンドならではの飽きのこない生活にそっと寄り添うような心地良い音楽です。

 

Official Website:http://www.cardofband.com/

椎木彩子

 

 

1983年東京生まれ。 2012年よりイラストレーターの仕事を開始。音楽、WEB、書籍の媒体で仕事を広げながら東京や関西や台北を中心に精力的に展示活動をする。 原風景である市井の日常を描く。散歩中の写真や記憶から色面と線で構築して絵にする。 「あまり意味のないものが好きで、絵にする事で違う見え方にしたいです。」 2015年は3月に東京(新代田RR)、6月に名古屋(sand pit)、秋に台湾(61note)で個展巡回予定です。

 

Official Website:http://shiikisaiko.jimdo.com/

『BANQUET』が私のイラストレーターの初めての仕事

──

始めにCARDと椎木さんの出会いからお聞きしたいと思っているのですが、覚えておられますか?

中野博教(以下中野)

malegoatっていうバンドのハジメ君が、椎木さんの絵をSNSで載せていたんですよね。それをメンバーの清水が見て僕らに、「この人いいやろ」と言ってきて。僕らは一番最初に4曲入りのEPがあって、それは清水がジャケット作っていたんです。その時は椎木さんにまだ面識なかったんですけど、お願いしてみようかとなって。

──

この流れは椎木さんはご存知だったのですか?

椎木彩子(以下椎木)

あとから少し聞いて。でもなんでしたっけ、最初は写真でいこうとしていたって話が。

中野

そうそう、そうなんですよ。stiff slackの新川さんがAmerican footballの写真を撮っている人と知り合いで、紹介してくれるとか。繋がりがあるから、とか言って。

──

段階的には椎木さんに声をかけたのはどのようなタイミングだったのでしょうか。

中野

レコーディングの途中ですね、多分。前のアルバムも1年くらいかけて録音していたんで。その辺あんまり覚えていないです、すいません。

──

椎木さんはその時CARDのことはご存知だったんですか?

椎木

ごめんなさい、実は知らなくて。前のバンドの話をしてしまうとあれなんですけど、私の幼なじみのアカセさんがLOSTAGEの写真を撮っていたんです。プロフィールを見て名前があったんで、その人たちなんだっていう認識だったのですが。

──

実際に作品を作る流れを教えていただいてもよいでしょうか?

中野

それはですね、途中のラフを聞いてもらってといった感じですね。レコーディングが終わってからでは間に合わないですからね。

椎木

ラフの音源というか、あのミックスが終わってないやつですね。

中野

そうそうそう。それでイメージしてもらう感じですよね、椎木さんに。

BANQUET
椎木

実は1stの『BANQUET』が私のイラストレーターの初めての仕事でした。清水さん(CARD.Gt)に曲を、中野さんに歌詞をいただいたので通勤の時に毎回聞いたり、見たり。音があってビジュアルがあるものだから、イラストレーターって結局脇役になるので、音に沿わなきゃって思い込んでしまっていました。

──

かなり気負ってしまったんですね。

椎木

そうですね、それで最初世界観そのままのラフを見せたんですよ。そうしたら清水さんからNGがきて。「なんかちょっと違うんですよね」って言われたので、「どう違うんですか」って聞いたら、「僕らの曲にそのままの絵を描いて欲しいわけじゃないんだ」って言われました。どういうことか聞いたら「もっと熱が欲しいんですよね」って言われて、余計に訳がわからなかったです(笑)

中野

(笑)

椎木

ね、熱!?みたいになっちゃって。日常の感じがよくでている曲で、私もよく日常を描くので、「私の思う日常の絵を描いたらいいんですかね」、みたいなことを聞きまして。そうしたら清水さんが「それでいきましょう!」というようなこと言ったんです。それであの食べている絵になりました。あの1stのビジュアルができたのは本当にCARDのおかげなんですけど、清水さんの所に乗っからせてもらったっていうのがあって。もう1stに関しては清水さん様様でした。

中野

そうだったんだ。

──

CARDのデザインは全て清水さんが管理されているんでしょうか。

中野

ほとんどそうですね、1stは特にそうですね。

──

他のメンバーは口出しされないのですか?

中野

椎木さんが1stのラフを出してくれた、おそらく気をつかって描いたであろうやつは正直僕もちょっと違うなとは思ったんですよ。それでもっと好きに描いてもらったら、ってことを清水に言ったんですよね。そしたら多分そういうやり取りがあって。だから僕はもう出来上がったやつの方が断然いいと思ったんですよ。これでしょ!みたいな感じになりましたね。

ひとりのアーティストとして一緒に作品に参加して欲しい

Lucky Me
──

2ndはどのような流れでしたか?

椎木

私に関しては最初の一歩がCARDで、その後個展を重ねたり仕事をいくつか受けたりしていたので、なんというか良くも悪くも知識や経験が入り込んだ状態だったんですよ。2ndは1stから2年半経っていたんで。私1stもすごく好きなんですけど、2ndはCDを作る前にライブで聞いていて、1stと高揚感が違うなって思っていたんです。それとやっぱり悲しさもあると感じていて、盛り上がっているんだけどどこか悲しいってイメージだったから、ジャケットのイメージもドラマチックな方がいいかなって思っていたんですよ。空がグラデーションになっている絵とか考えていたんですけど、途中でちょっと方向転換するきっかけが。

──

きっかけですか?

椎木

清水さんから「題名どうしようかなあって思ってる」ってメールが来たんですけど、最初はLUCKY MEじゃないストレートにかっこいい題名が書かれていて、これくさいかなあって。「今回のアルバムかっこいいし、いいんじゃないですか」って返したら、「でも『LUCKY ME~ついてる俺~』(笑)とかも良いと思ってる」ってメールが来て、この人冗談言ってるのかなって思ったんですよ。

中野

はは(笑)

椎木

「いつからそんなにポジティブになったんですか」って返したら「俺本気なんだけど」って返ってきて驚きのあまり電話かけちゃったんですよ。「ほ、ほんとですか!?」って聞いて電話を切った後に、「ださいと思ってるだろ」ってメールが来て、「そんなことないです」って返したんですけど。CARDの11曲を総括してのLUCKY MEって、元気で俺はついているって感じのLUCKY MEではないなと。色んなことがあってのLUCKY MEだなっていうのが伝わって、それで全く関係ない絵の方がいいやって思ったんですね。それで描いていたビジュアルでは全然だめだと思っちゃって。

──

そこから今の女の子の後ろ姿の絵になったんですね。

椎木

あのジャケットの女の子には実はモデルがいて、私が毎朝乗ってる電車に毎朝同じ時間に乗る女の子なんですけど。その子の後ろ姿をずっと見ていて、これだって。後ろ姿の女の子がいて、この感じからLUCKY MEというタイトルがあって、CARDの曲がきたら絶対いいと思ったんですよ。それでほぼ決まりかけていたビジュアルがあったんですけど、本当はこっちがいいんですって、ほぼ完成させた今のジャケットを見せました。そうしたら清水さんが「これええやん」って、CARDの皆さんに流してくれたと思うんですけど。

中野

最初に見た時からいいと思いました。きた!って思いました。

──

しかしよくそのタイミングで切り出せましたね(笑)

椎木

LUCKY MEって言葉を聞いてから私がわからなくなっちゃって。これでいいのかなっていうものを出し続けていたんですけど、清水さんは私の絵を信頼してくれているので、「椎木さんがこう解釈するならこれでデザインするよ」という感じだったんですよ。すごくちゃんとやってくださっていたのに、このジャケットでは絶対だめだって思っていて。でももうここに歌詞カードを載せるって所まで話が進んでいたから、やっぱり嫌なんですって言えなくて。でも勇気をだして見せたら、これだ!ってなりました。

中野

いやすごいですねそれでも、言えるっていうのは。

椎木

実はなんですけど、一度白神さん(CARD.Ba)に本当はこう思っているんだけど清水さんに言っていいと思う?って電話をしたんですよ。

中野

えー、そうだったんだ。

椎木

そこで白神さんに言われたのが、「椎木さんは僕らの曲のために描くっていうよりも、僕らの曲があって椎木さんの絵があって作品になるんだよ」ということと、「だからイラストレーターだからサブだなんて思わないで、ひとりのアーティストとして一緒に作品に参加して欲しい」というようなことを言ってくれたんです。それでまずは白神さんに本当はこっちでいきたいんですっていうのを見せたら、「絶対こっちの方が良いと思うし、清水さんもこっちの方が良いって言ってくれると思うよ」って。本当に清水さん今までの時間ごめんなさい、本当はこれがいいんですってのを見せたらこれええやんと。

中野

でも結構気をつかってたよな椎木さん(笑)

椎木

いや、でもほんとに私が悪かったんで(笑)

──

CARDとしては1stに引き続き2ndを椎木さんに頼むのはどのような流れだったんでしょうか?

中野

いや、もう流れっていうか、そうなるかなって思っていたらみんなそう思っていて、いつの間にか誰かが頼んでたという。多分清水が頼んでたのかな。だからその話し合いはなかったです。

──

自然に。

中野

そうですね、自然と。でもあれですね、今聞いていたら1stと2ndの間のやりとりで大分なにか出来上がった感じがありますよね。いい話でした。大変だったと思いますよ、相当(笑)

椎木

やっている最中は大変だったこともあるんですけど、もう思い出せなくて。今回みんなが本当にCARDのアルバムが良いって言ってくれているんです。最近初めてCARDのファンの方と会うことができたんですが、みんなCARD好きなんだなっていうのがよくわかって。ビジュアルに関する話をしてもらったり、それとライブしているのを見て、いつの間にか力強いバンドになっていてそれが嬉しかったんで、清水さんとの喧嘩ももう全然……。

──

喧嘩されたんですか?(笑)

椎木

喧嘩っていうか私が悪くて謝ったという感じなんですけど(笑)。もう今となっては全部面白かったです。

中野

本当にがっつりやってくれたなって感じです。椎木さんしんどいところまでがっつりきたなって感じで(笑)

椎木

すいませんなんか、節度を超えていた時が(笑)

中野

白神君に相談とか、色々やってくれていたみたいだし。

──

色々あったんですね(笑)

椎木

私も清水さんもめんどくさい人なんですよ(笑)。めんどくさい同士がやっているから余計にめんどくさくなるんです。でも私清水さんをアーティストとしてすごく尊敬していて、あのめんどくさい繊細な部分があるからこそああいう音楽が作れたり、演奏ができるんだなと思うんです。あ、本人の前では言いませんけどね(笑)

中野

細かいやり取りの中でもね、結構嫌な思いも沢山していると思うんですよね。

──

お互いに良いものを作りたいという思いの衝突ですね。

椎木

そうですね。自分がダメなジャケットで話を進めて行く時に、一番浮かんだのが、私はジャケットを作るのは何故かという部分です。今って正直ダウンロードでいいわけじゃないですか。でもビジュアルを作るのは何故か。初めての人が受け取るきっかけになるし、あのちっちゃなアイコンになるよりもモノとして目の前にあるってすごく強いことなんですよね。これだけ良い音源ができたんだから本当にCARDのことをみんなに知って欲しいって思っていました。そうですね、絶対に良いジャケットを作るって思いがあったから衝突しちゃったんですかね。

──

いや、しかしここまで思って描いてくれる人がいるってアーティストとしてこれ程嬉しいことはないですね。

中野

そうですね、ここまで思ってくれる人いないですからね。仕事でしていたらニーズに合わせてなんぼって人が多い中で、ちゃんと解釈して考えてやってくれるだけでも嬉しいですよね。それは清水も思っています。そう言ってましたよこの前。

椎木

ありがとうございます。ほんとですか?

──

相思相愛ですね(笑)。このインタビューを通して本当にお互いにリスペクトをしていることが伝わります。

椎木

ふたりとも清水さんが好きってことで(笑)

中野

でもね、本当めんどくさいから。僕バンドやってるから知ってるじゃないですか。そこが申し訳なかったんですよ。そのめんどくさいことに巻き込んでしまったなっていうのがね。

椎木

私もめんどくさいんでおあいこです(笑)

──

最後に普段なかなか聞きにくいことなので今回必ず聞きたいと思っていた部分なのですが、金銭部分のやりとりはされているんでしょうか。

椎木

お金はきちんといただいています。

中野

安くしていただいてますけどね。

──

それでもきちんとフィーをお渡しするのはお互いプロ意識がきちんとあるからこその線引きなんでしょうね。

中野

もっと渡せるように頑張ります。

椎木

いや、もう本当に十分すぎるお金をいただいているので……。やっぱり椎木にお願いしてよかったなと。CDが手元にないよ!となるような良い絵を描けるようにもっと頑張ります!

中野

椎木さんがね、すごいですよね。

──

これだけアーティストに思い入れてくれるイラストレーターはいないですからね。

椎木

そうなんですか?

中野

そうですね。

──

頼まれて頼まれたものを作ることができる人はいますが、自分なりに解釈をしてそれ以上のものを作れる人は中々いないと思います。

椎木

多分私思い込みが激しいんです。

中野

いや、でもその前にそこまで思い込めないですよ(笑)。相性もね、いいんだと思います。僕らがやってた音楽がたまたま椎木さんが好みだったというのは大きいでしょうね。

椎木

好きでしたね。お母さんが、「あんた自分の好きな音楽の絵が描けてよかったね」って言うんですよ。「嫌いな音楽なら毎日聞かなきゃいけないから大変じゃん」って。母親は素朴に思ったのだと思いますが(笑)

中野

本当にラッキーでしたね。

──

第三者として見ていても2ndは中身もビジュアルも現段階でのCARDのベストなアルバムだと感じました。ぬるい関係ではなく、はっきり作品に対しての善し悪しを言い合えるのからこその今回の作品なんですね。

後編に続きます

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