INTERVIEW

“エゴ”だけじゃ形にならない。『フリースタイルな僧侶たち』初代・三代目の編集長に聞く、いま、誰かと編集部に集うわけ。

銭湯の脱衣所でニュースを眺めていると、SNSのフォロワー数が就職活動でひとつの評価基準になることが話題になっていた。インフルエンサーなんて言葉にも違和感を覚えなくなって久しい。個人で発信する機会も、発言力もずいぶんと得やすい社会になった。「なのに自分たちはわざわざ人と集まってメディアをやっているんだよな」ということをふと考える。そこにどんな意味を見出せばいいんだろう?そんな考えを巡らせていた時に、『フリースタイルな僧侶たち』の初代編集長・池口龍法、三代目編集長・稲田ズイキの二人にたまたま取材する機会を得たのだった。

BOOKS 2021.05.14 Written By 堤 大樹

『フリースタイルな僧侶たち(以下、フリスタ)』は、今の時代における仏教の役割を問う超宗派のフリーマガジン。池口さんが2009年に創刊して以来、アナーキーな僧侶やお寺の取り組みを58もの冊子を通じて伝えてきた。その様子がガラリと変わったのが2021年1月発行の「本気で地獄」特集でのこと。煩悩クリエイターを名乗る稲田ズイキが、三代目の編集長に就任してつくる初めての号だった。

 

「やられた」というのが特集が発表された時の正直な感想。そして手にとって中身を読んだ時、声をあげて笑った。おもしろい。今までと、毛色が違う。これまでの仏教シーンの「紹介」をベースとしたコンテンツから、随分と僕たちの世界に下山してきたという印象。20,30代が愛してきたポップカルチャーの影響も随所に見て取れる。編集長の交代で中身がこんなに変わるのか、と感心するのと同時にひとつの疑問が湧く。稲田くんは、一人でやろうとは思わなかったのだろうかと。

 

稲田くんは著書も出しているし、文筆家としての評価も高い。一人でも自由に言葉で表現する力がある。同じくメディアを運営している身から言わせてもらうと、メディアでの表現には不自由さが付きまとう。企画にしろ、デザインにしろ、他者とのやり取りが介在すれば思い通りにならないことが増えていく。正直、自分一人で発信したほうが楽なことは多いのだ。それでも彼は編集部として集まって、誰かと意見を交わすことを選んだ。

 

「自分の好きなものだけを獲得するのが生きるってことではなくて。良いも悪いも、なにかしら人には与えられている縁がある」と稲田くんは語る。それは自身と仏教の関係性についての言及だったが、ことメディアに関しても同じことが言えるのかもしれない。バンドは方向性を違えば解散する。しかし、メディアは「方向性が違う人間が集まること」がはじまりなのだ。

フリースタイルな僧侶たち

2009年に池口龍法が創刊し、2015年まで代表・編集長を務める。現在は自身が住職を務める龍岸寺での活動を精力的に実施。2020年9月に三代目編集長に稲田ズイキが就任。

 

公式サイト:https://freemonk.net/

僧侶であることを売りにしない、本気でおもしろい雑誌づくりを目指して

左:三代目編集長・稲田ズイキ / 右:初代編集長・池口龍法
──

稲田くんが三代目の編集長になり、フリスタの方向性が大きく変わりました。まず編集長になった経緯から聞いてもいいですか?

稲田ズイキ(以下、稲田)

先代の編集長に声をかけられたのがきっかけで、もともとWebの担当をやっていたんです。その2年後くらいに、編集部の空気として、制作に行き詰まってきたなってタイミングがあって。その時に僕が「編集部っていうのは熱意を持って、責任を持って、それぞれのこだわり抜いた魂みたいなものでやり抜かないといけないっすよ!」、みたいなことを編集会議で言ったら、「じゃあ稲田くんやってよ」って空気になったのでそのまま「じゃあ」と就任しました。メンバー集めも初めからやっていいですかって聞いたら「いいよ」って感じだったんで、いまの編集部は20代の同世代が集まっています。

──

ちなみになんでメンバーを若い世代に一新しようと思ったんだろう?

稲田

あまり年齢で線は引きたくはないのですが、あえて言うなら、微妙にギャップがある感じがしたんですよね、自分たちと上の世代に。僕ら20代は「仏教を布教することになんの意味があるんだろう」って根底の疑問を持ちながら僧侶になっている人が多い気がして。だから仏教的な世界観をみんなに浸透させたい、インストールしたいという気持ちはそれほど強くない。仏教を使ってなにかを解決していくことに重きを置いてるんです。いろんな世界観や宗教を持っている人たちがいて、そういうひとたちと共存、対話していくためのひとつのアイデンティティというか。

──

対話というキーワードで話したいのが、フリスタのリニューアル後に「地獄ってなんだろう」と仏教に興味がなくても楽しめる内容になってること。今までのフリスタって仏教界隈の紹介っていう側面が強かったじゃないですか。テーマによって、より媒体の射程距離が伸びたというか。

稲田

まさにそのとおりで。僕は、自分が見たり聞いたり信じたりしているものって全部言葉に出ると思っていて。だから地獄って言葉も使う人によって大きく意味が違う。もちろん仏教としての地獄は僧侶の立場からすると説明できますよ。でもみんなが見ている地獄は違うはずだから、僧侶も含めた様々な立場の人が交われる対話のためのテーマとして、今回は地獄を選びました。

──

これまで以上に多様な人が集まるために、アイコンであるお坊さんも一切出さなかった。それだけで手に取りにくくなる人もいるから?

稲田

実は、お坊さんをバーン!と出すほうがウケるんですよ。でもそれって「俺たちを見てくれ!」っていう一方通行な表現な気がして。あと仏教ってやっぱりレガシーなイメージがあるので、ちょっと異物とかけ算するだけでウケちゃうんです。音楽でも雑誌づくりでもなんでも、表現をしている人が真剣にものづくりをしている中で、意外性ってだけで簡単にバズれるんですよ!でも、それってただ消費されているだけなんですよね。バズってしまうのは、自分たちのレガシーを物語ってるみたいで悔しくて。

──

どんなに良いものをつくっても、中身を評価されていないってことだよね。今回、制作の中で特に大切にしたことはある?

稲田

僧侶として嘘をつかない、正直でいるってことかな。ウケるから混ぜ合わせるのではなく、ちゃんと自分たちの好きなものとか、普段ふれているカルチャーを自然に配合させること。仏教を根底に置いた上で、一人の人間としてちゃんと表現や創作をしたいんです。それがこれからの仏教をつくっていくことにつながるはずなんで。じゃないと仏教をカルチャーとして消費していくだけの、焼き畑農業になるとも感じていて。

──

一方で難しい方向には進んでいませんか?業界の紹介って非常にわかりやすいコンテンツでしょ。特に内部にいる人にとっては納得度も高いはず。完成したとき、どういうリアクションでした?

稲田

フリスタは編集長とは別に代表がいて、その方は制作時はずっと暖かい目で見守ってくれてたんですよ。「好きにやっていいよ」と。それで僕は好き勝手つくって「出来上がりました!」ってPDFを見せたら、無言で一分間くらい止まってて(笑)。もう一人の昔から関わっているメンバーも横で「うーん」って唸ってて。「えー!」みたいな(笑)

 

よりわかりにくくはなったかもしれない。でも新しい編集部メンバーの感覚からすると「より友達に渡しやすくなった」ってみんな言ってるんです。今までは「これどう!?」ってフリスタを見せても、なんかちょっと「おお……」ってなるじゃないですか。

──

お布施を求められているのか……?的な。

稲田

そう、だから、よりコミュニケーションを取りやすい共通項を模索していたんです。でも、しばらくしてからは代表たちから「すごいものをつくったな」って言ってもらえましたけどね。いろんな感情がありそうでしたが(笑)。どうでした?新しいフリスタ。実は、池口さんはすごく褒めてくれてたって聞いてまして(笑)

池口龍法(以下、池口)

率直に、よかったね。僕がフリーマガジンをつくりはじめたときは「お寺にこれを置いていいんやろうか」っていう異物感のある冊子だったけど、ここしばらくはマンネリ化してたかな。最新号は再び「これお寺に置いていいんやろうか」っていう懐かしい感覚が(笑)

 

創刊号がここまで尖っていたわけではないんだけど、あのときは内部からの反発も強くて。まずは業界に風穴を開けるのが目標だった。「若い俺らにも喋らせろ」と。それはできたから、次は業界の外に仏教を浸透させていくコンテンツに切り替えた方がよかったんだよね。でもそれができないままズルズルやってきた。フリーペーパーは作り手がナマの言葉を語ってこその媒体だから、本当はこれくらい振り切った表現ができないと意味がなくて。

──

ちなみに外からのリアクションは?

稲田

普段反応しない層が反応してくれた感じはありますね。実際にサポーター申請(*1)とスポット登録(*2)は増えました。3年くらい前からフリスタのSNS運用は僕がやっていたんですけど、これまでは冊子を出してもあまり反応がなかったのが、今回はかなりドンと。あとは知人のBRUTUSの編集者さんから「すごい!」って連絡が来てサポーター登録してくれたりとか、違う業界の人も面白がってくれてます。

*1 サポーター制度
フリスタの活動を応援するために、年会費を支払いサポーターになることができる制度。個人サポーターと、法人サポーターの2種類がある。サポーターになると、最新号が制作されると送付してもらえる。

*2 スポット登録
フリスタをお店や事務所に設置することで配布の支援を行う方法。いわゆる配布スポットのこと。

時代に寄り添いながらできることを模索した、初代から三代目までの11年

──

最新号の「本気で地獄」特集は何部くらい刷ったんでしたっけ?

稲田

これまでと同じ、15,000部くらいですかね。フリーマガジンって刷りすぎても、こっちの首が絞まる難しい媒体なんで正直なところもう少し減らしたいんですけど。いま、サポーター制度とわずかな広告で成り立っていて、毎回予算がギリギリで。

──

有志のフリーマガジンとしては冊数が多いね。もともとマネタイズを目指す活動じゃないし。

稲田

そうですね。より仏教やお寺を身近に感じてもらうという意思の元、スタートしているので。僕たちは年2回ペースでの発行を目指してますが、池口さんが編集長だった時代は年6回だったみたいでもっと大変だったんじゃないかな。

池口

その頃はフリーマガジンを出してるお坊さんがいるって認知が大事だったので、とにかく数を出して知ってもらうことにウェイトを置いてました。

──

知ってもらうっていうのは、お寺の外の方にですよね?当時、どうしてそのようなアクションが必要だったんでしょう。

池口

当時すでに、多くの方にとってお寺が遠いものに思われてしまっていて。そして「人が来ないよね」ってお坊さんがお寺の中で言ってる。それなら街に出て「来てよ」って言えばいいじゃんっていうのが最初の動機です。

──

仏教そのものの良し悪し以前に、そもそも知られる機会がなかった。そうなってしまったのはなんでなんでしょう?

池口

お寺は基本的によそのお寺の檀家をとるのがタブーで、自分のところの檀家さんとのお付き合いだけを大切にする文化があって。あと檀家さんの当主を飛び越して、子どもや孫の世代に対しても直接はアプローチしないっていう暗黙のルールもあった。当主の方が先祖供養をきっちりと行っていれば、その背中を見て育った子どもたちはお寺との付き合いが自然と身についていくっていうのが昔からのお寺の考え方。「そのままのやり方でいけたらいいよね」って思ってたお坊さんは多いんだけど、いまどきそんなルールは通用しないので。

──

商売とは違ってクローズドなコミュニティを大切にするがゆえに、広報そのものがNG。新しい出会いや、機会をつくるのが非常に難しかったんですね。

池口

僕自身は1980年生まれで15歳の時がインターネット元年。ネットが当たり前になっていく中で、なぜ子どもや孫の世代と直接コミュニケーションを取ってはいけないのかが、理解できなかったんですよね。檀家さん側にも同じような意識の変化があるはずだし、直接つながる方法があるならやればいいじゃんって。

──

いまはもう暗黙の了解はなくなったんですか?

池口

だいぶなくなりましたよね。お寺側の危機感というか、法事や葬儀も簡略化されて、収入もだいぶなくなってるし。「お寺のなかも結局お金で動いてんのか」って思うとムカつきますけど。

稲田

若い世代の意識の変化は大きくて。推しのお寺と呼んで、仏教やお寺を自ら求めてくれる人が増えてきましたね。そんな空気が生まれたのは、ニコニコ動画で人気を博した蝉丸Pとか池口さん率いるフリースタイルな僧侶たちとか、お坊さんの露出を増やした先人の存在が大きいです。

「フリースタイルな僧侶」ではなく、「僧侶たち」に意義がある

──

フリスタってなぜ、こういった形の媒体を選んだんですか?今日二人と話したかったのってまさにそこで。個人でも発信力が持てる時代に、メディアをわざわざやる理由ってなんなんでしょうか。

池口

これ、しょっちゅう聞かれるんだけど、結論としては「つくるのが好きだから」になるんですよね。「紙なんていらないじゃん」、「SNSで伝わるじゃん」ってよく言われるけど、つくる楽しさみたいなのがベースにある。

稲田

「フリースタイルな僧侶」ではなく「僧侶たち」って言ってるのはすごいと思いますよ。なんで複数人としてはじめているのか、メディア名を(笑)

池口

「たち」をつけることによって集まってきてしまった人、いるからね(笑)

──

たしかに単数形だと「自分は違う」って思うかも。複数形になっているとそこに参加するための器というか、余白が生まれる感じがありますね。

稲田

僕は編集長なので、ああしたい、こうしたいっていうのは自由にできるんですが、まずは全員とコンセンサスを合わせないといけないんですよね。この作業自体に価値がある。ひとつのテーマに対していろんな批判、批評のもとつくっていくことができるのでエゴが通らない。編集部の価値ってそこにあるのかなと思います。

──

今回の地獄特集で印象に残った論点はある?

稲田

一番もめたのは「仏教でいう地獄の情報をどれくらいいれるのか」、みたいな話で。僕たちが本当にやりたいのは仏教の布教ではなく、読者ともフラットな目線に立って、いろんな思想を混ぜ合わせて議論をするということだから。あと今回は地獄を知っていくことで、その対になる極楽浄土を読者が感じられるようにしたくて。それを勝手に感じて救われる、そのためにどうしたらいいかをかなり議論しましたね。

──

読み手は地獄を見て笑ってもいいし、自分の境遇とのギャップで救われてもいい。そういった受け取り方の余白のバランスが肝であると。初代との編集部の違いはどうでしょうか?

池口

いろんな意見の違いはありましたよ。僕は編集長で決定権があるはずなのに、全然折れてくれない人がいたりして。

──

どうやって折り合いをつけてたんですか?

池口

あまり強引にやりすぎてもみんなついてこれないし、譲歩できるところは譲歩して。満足感がないとやめちゃう人もいるし。名前に「たち」ってつけてるからね(笑)

──

池口さんもみんなでつくることに意味を見出していたんですね。

池口

意見を取り入れながら、ちょっとずつみんなで変わっていこうというバイブスですよね。若手のお坊さんの中でもどんどん突っ走っていきたい人が集まってきていたし、替えのきくスタッフではないということもあった。自分が間違っていることもあるだろうし、ものをつくってみんなで成長していこうみたいな。

稲田

秦くんという編集部メンバーがいてね、二代目編集長の若林さんをめちゃくちゃリスペクトしていて。学生時代にフリスタを読んで感動して、わざわざ東京から京都まで夜行バスで会いに行くような熱いファンなんですよ、彼は。前のフリスタをめちゃくちゃリスペクトしてるから、リニューアルで方向性を変えることにはかなり慎重で。僕は方向性としてはこうあるべきって想いが先行していたのですが、そういった声とのバランスを取っての今回の着地ですね。

──

着地のバランスは、いまどう思う?

稲田

僕の感覚としてはちょっと固いコンテンツに寄っちゃったかなって。だから次号はもう少し不真面目に、砕いていきたいと思う。そしたらまた秦くんに怒られると思うけど(笑)。でもそういうこだわり同士がぶつかる瞬間が楽しいんです。

池口

秦くんの担当は?

稲田

制作進行、ディレクション、事務全般ですね。なんでもやってくれる腕利きです。

池口

進行してくれる人がいると助かるね。

稲田

僕がほんと、スケジュールガン無視男なんで。

自分で手を動かしてみないと、自分のサイズもわからない

──

フリスタって、全部自分たちで制作されているんですよね?企画から編集、デザインまで。

稲田

そうですね、池口さんの代からずっと自分たちだけでやっている媒体なんで。

──

DIYで「つくる」、そういった感覚は身近なものだったんでしょうか。

池口

お寺の運営って大体DIY。お経をあげられたらお坊さんになれるかって、案外そういうことでもなくって。庭木の手入れをしないといけないし、会計のことも知っておく必要もあれば、古い本堂や庫裏は瓦屋根も床板もいろんなところが傷んでくるから、ときには自分で応急処置もする。全部が自分一人でできるわけではないから、スタッフにまかせる仕事もあります。でも、これだけ大きな建物を維持管理して檀家さんとも接してたら、結構トータルでものごとを考えるようになるんですよね。そんなこともあって、編集ができるだけでは冊子はできないって感覚は最初からありましたね。

──

フリスタをつくるときには、誰かに一部でもお願いしようとは思わなかったんですか?

池口

自分でつくってみると満足いくものができるかってそうでもないんですけど、とりあえず形にすることが大切で。グランドデザインが見えてくるとそこに関われる人がいるから、まずは形にしてみようっていうのが創刊号。実際にどれだけできないかってことも含めてわかっていくし、それで全体が見えてくる。

──

いいものが世の中にたくさん溢れているのに、自分でつくってみると全然いいものができない。その結果から自分の大きさを知るのも怖い。そういうことって、多いと思うんですよね。だからそれを素直に受け入れているのが、本当にすごい。

稲田

お寺もお金を持っているところは、広告会社が入ってそれっぽいものを出すんですよね。かっこいいやつを。僕はそれに対して違和感を持っていて。それって自分を大きく見せすぎてるんじゃないかと思うわけですよ。自分が拡張されすぎてるというか。

 

でも結局お寺や僧侶って自分が目の前の人と接して、人生をともにしないといけないじゃないですか。なのに、拡張されたイメージがその人と出会っても意味がないんですよ。ちゃんと自分たちでつくる、等身大のものをつくるってそういうことだと思います。

──

稲田くんはその違和感を持つきっかけはあったんですか?

稲田

僕は自分で文章を書いてて違和感を覚えだしました。自分と乖離した言葉を使っていると、気持ち悪さを感じますね。

池口

伝統って言葉も、まさにそんな言葉だよね。

──

ついつい大きなブラックボックスの中にいれちゃってる言葉ってたくさんありますよね。そのハコに意味のありそうなラベルがついてたりするとなおさら。つくるを通じて、二人は仏教というブラックボックスに手を突っ込んでるんでしょうね。

稲田

僕が編集部員にいつも「よく分かんないです」って言われているのが、「ちゃんと宗教というものを解体したい」ってことで。「初音ミクを好きな人も、仏教を好きな人もあまり変わらなくない?」って言ってるんですよね。対象がボーカロイドやアイドルであれ、それぞれ信じるものがあるって意味では、大小はあれ宗教には変わらないと思ってて。それをちゃんとフラットに描きたいんだよって言ったら、「う〜ん」といつも悩まれて。

──

たしかに難しい問題だと思います。

稲田

僕はどっちかというと関係性を描きたいんですよ。初音ミクとファン、仏と仏教徒。そうやって描けた方がお互いの解像度が高まって、それぞれの現象も尊さが増して見えると思うんです。すると回りまわって宗教の良さもわかるはずなんで、そこを解体してやりたいって言ってるんですけど、このブラックボックスはね、かなり垣根が高い。抵抗力がある。

──

一人じゃ解体できないから、一緒にするための仲間が編集部なんですよね。

稲田

そうそうそう、だからいいんですよね、「たち」でやっているから。

池口

お寺は昔からずっと変わらないものだって思ってる人がお坊さんにも一般の方にも多い。でも変えていいんだってことを、積極的に伝えていくのが大事かなと思ってて。うちは芸大生とかも関わってもらうことがあって、彼らと一緒にフェスなんかをつくっていく中で、「どうする、好きに表現してよ」って言うと目の色が変わるんですよね。「お寺アイドルのプロデュースがしたい」とか、斬新なプロジェクトが立ち上げられたりもしました。お寺を使って表現していいんだってタガが外れると、いろんなものが新鮮だし、興味深く見えてくる。

 

お寺って紐解いていくと、ひとつひとつに歴史があって。畳とかふすまにしても、日本文化が詰まってる。仏像や思想に興味を持つこともできる。ここで表現していい、ここを変えていいと感じられるだけで、お寺との関わり方が変わる。

──

仏教そのものの諸法無我(*3)ですね。仏教という固定の概念はなくて、人との関わりの中であり方が変わる。その可能性を伝えるためにも、まずお寺から変わるという姿勢を伝える必要がありますね。

*3 諸法無我
この世のすべてのものには固定された自分(我)はないという考え。すべての存在は周囲の条件や環境、他者の存在に影響を受け存在している。そのためそれらとの関係性の変化により、自分もまた常に変化をする存在であるということ。

池口

そう、本来の地獄とはなにか、ということを雑誌で表現しちゃうと一般の人には圧が強すぎるでしょ(笑)。イベントも、やっていいけど最後は法話がマストね、みたいなお寺さんもあって。それやっちゃうと、表現する方も気を使いながらやっちゃう。あなたなりのお寺感を表現して欲しいって投げかけるほうが後々いいものができると思うけど、そこまで任せきれるお寺はなかなか多くないですね。

稲田

だし、仏教の布教の一貫、マーケティング的にやっているんだっていう風にも見えちゃう。それは求めてないんだってことを伝えなきゃいけない。それを証明するためにも自分たちの手で媒体をつくっていないと説得力がないんですよね。

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