ボロフェスタ主催のひとり飯田仁一郎に聞く、ナノボロフェスタでトークイベントを行う理由
飯田仁一郎という人物をご存知だろうか?
肩書だけで語れば、ボロフェスタの主催者、Limited Express (has gone?) のギタリスト、リアル脱出ゲームのSCRAPの取締役、音楽メディアOTOTOYの取締役と、今でこそ誰もが一度は耳にしたことがあるものがずらりと並ぶ。飯田さんはいずれにも立ち上げから関わっており、その先見の明には舌を巻くばかりだ。
そんな彼が四年前からナノボロフェスタ内で力をいれて取り組んでいるのが、『日本インディーミュージックガイド』というトークイベントだ。このイベントは飯田さんとSSWでボロフェスタ主催者のゆーきゃん、それに音楽ライターの岡村詩野を加えた三名で毎年ナノボロフェスタに合わせ開催されており、それぞれの最新の音楽情報を交換するような場となっている。音楽フェスの中で何故このような取り組みを行なっているのか、その理由を探るためにインタビューを行なった。
インタビュアー:堤大樹
新しくて尖った人たちを早く発掘することを大切にしている
ナノボロフェスタで四年前から継続して行なっている、『日本インディーミュージックガイド』について教えていただきたいのですが、毎年どのようなことをお話されているんでしょうか。
基本的にはトークをする三人が、今キている音楽やミュージシャンを、体系立てて紹介するといった形です。大体ひとり5つか6つ紹介するんですけど、知名度があがって売れてきたバンド、インフルエンサーが騒いでいるけどまだリスナーには届いていないバンド、売れてないけど自分が好きなバンドあたりを織り交ぜて紹介していますね。
今年で四度目となりますが、ずっとこの三名でやってこられたんですか?
ゆーきゃんがサンレインレコーズを辞めてしまってから、代わりの人に入ってもらうことも考えましたよ。ただ彼は今情報量が少なくなる代わりに、ローカルという新しい視点を手に入れたので、引き続きこの三人でやっています。東京はもちろん京都よりもずっと小さな街、富山や金沢、福井で見える景色っていうのは彼だからこそ伝えられるものがある。もちろんサンレインレコーズの経験もあるから、インディーミュージックを体系的にとらえる言語力はあるので。
最先端をうたいながら、ローカルの視点を織り交ぜたいというのが非常にボロフェスタらしい部分ではありますね。
そうですね、元々は……今もそうだけど、ネームバリューのあるアーティストにもボロフェスタには出演してもらうんですが、新しくて尖った人たちを早く発掘することを大切にしているし、ボロフェスタを経由してそんなミュージシャンが大きくなって欲しいという気持ちは強いです。
三人とも共通して「ほぼすべてのバンドは、どんなにしょぼくてもきらめく部分を持っている」とう感覚を持っている
これまでにどのようなバンドが紹介されていますか?
三年か、四年前に僕が東京で起こっているムーブメントをツリー型にして紹介したのはよく覚えています。Suchmos、never young beach、YOGEE NEW WAVES、D.A.N.が出てきたあたりですかね。「東京では今こういう人たちが新世代のシーンを担っているんです」、と紹介させてもらいました。その次の次の年くらいに、今度は詩野さんが京都の音楽ツリーを作って、台風クラブとか、本日休演、バレーボウイズなんかを紹介していたかな。それが東京に住んでいる人間からするととても新鮮で、ものすごく面白かったですよね。今いろんな場所で起こっていることを体系立てて知れるっていうのはとても大切なので。
それぞれに居住地も違うので、紹介に色が出るのは面白いですね。何故このトークを始められたのか教えていただけますか?
スタートの経緯は、音楽に造形がある人を集めて「今この音楽が面白いよ」と、体系立ててリスナーに発信していきたかったことですね。僕はOTOTOY、ゆーきゃんがサンレインレコーズ、岡村詩野さんは京都でライターをしていて、条件に合う人がそろったのでスタートしました。この三人に共通していることは、音楽を仕事にする”プロのリスナー”ということですね。仕事で音楽を聴く、つまりものすごく体系的に音楽をとらえていて、自分の好き嫌い以外で語らなければいけない。熱いインディーファンとはまた少し違った、客観的な視点を持って伝えられるポジションにいるということが重要なんです。
”客観的な視点”とはどういったことか、もう少し違いを教えていただいてもよいでしょうか?
「これがキている、熱いんだよ」ということを、たくさんの情報量を持って話せるということですね。過去の音楽の歴史や背景を含めて発言できることが大切かと。
何故それを伝えることが大切になってくるるんでしょうか?
言葉にはしていないけど、三人とも共通して大前提として大事にしている感覚があって、それは「ほぼすべてのバンドは、どんなにしょぼくてもきらめく部分を持っている」ということですかね。ライブハウスで1,2年もきちんと活動しているバンドは、良いところが絶対にある。それを誰かに伝える時、何故その音楽が良いのかその理由や背景も説明できず、「このバンド最高」とだけ発信しても説得力がないですよね。良いもののひとつのバロメーターとして、集客があるっていうのはわかりやすいですが、それ以外にもバロメーターがたくさんあるので。
今もずっと面白い音楽は生まれてきているし、さぞ今の時代の音楽がつまらないみたいな言い方はしないで欲しい
日本インディーミュージックガイドを通じて、より情報感度の高いリスナーを育てたいという思いはありますか?
それは間違いなくあります。耳の肥えた、新しい音楽を求めるリスナーじゃないと、いずれ音楽を聴かなくなってしまう。30代、いや20代で音楽から離れてしまうんです。それはもとても悲しいことだと嘆いているんですが、仕事が忙しい、子育てが忙しくて時間がないと新しい音楽を掘り下げる力っていうのはなくなってしまいますよね。でも常に新しい音楽は生まれているし、面白いことは起こっているので知って欲しいんです。
僕のまわりにもそういった知り合いは多いですね。
少し前に音楽に携わる仕事をしていた友人が、仕事を変えて音楽から離れてしまったんですよ。その友人が宇多田ヒカルのCDを買いにレコ屋に行ったらしく、その時「久しぶりに欲しいCDがあったから」って言葉を聞いて、「それお前が言うなよ」って思ったんです。今もずっと面白い音楽は生まれてきているし、その人の感度が下がって面白いものをキャッチできていないだけで、さぞ今の時代の音楽がつまらないみたいな言い方はしないで欲しい、と。だから少しでも「もっと新しい音楽や、もっと面白い音楽があるんだよ」ってことを伝え続けたいと思っています。
飯田さんは今でも強く音楽の力を信じていると思いました。
音楽が原発を止めることはできないのも知っているし、政権を交代させることもできないとは思っています。ただ音楽があることで人生は間違いなく豊かになるし、なにより新しい音楽を見つけた時のワクワク感が、生きるエネルギーになるので、そこは強く信じていますね。
久しぶりにゆっくりお話をお伺いできてよかったです。ありがとうございました!
日本インディーミュージックガイドは、8/26(日)の17:00-18:00に喫茶マドラグにて。
公式:http://borofesta.jp/schedule/japan-indie-music-guide-vol4/
日時 | 2018年08月25・26日(土・日) |
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場所 | Live house nano / □□□ん家(Livehouse nano2階 旧ラクボウズ) / 喫茶マドラグ / LIVE&SALON 夜想 / タベルトマル二条城 okatte |
料金 | 1日券 前売2500円 / 当日3000円 |
出演 | Homecomings / ハンブレッダーズ / おとぼけビ~バ~ / imai(group_inou) / in the blue shirt / TRIPMEN / ベランダ / ラッキーオールドサン / Kento Tani(Turntable Films) / Suess / 伊藤祐樹(THE FULL TEENZ) / bed duo(山口&ジューシー) / KK manga / アイアムアイ / メシアと人人 / テト・ペッテンソン / NAHAVAND / バカがミタカッタ世界。 / Bagus! / 花柄ランタン / ゆ~すほすてる / The Fax / 三好真弘 / ゆーきゃん / Ribet town / ARSKN / 浪漫革命 / ULTRA CUB / カーミタカアキのフリースタイル嘘話 |
チケット予約 | 公式:http://borofesta.jp/nanoboro/ 各バンド取り置きも可 |
飯田仁一郎
Limited Express (has gone?)リーダー / 音楽情報・音源配信OTOTOY(オトトイ)取締役 / リアル脱出ゲームSCRAPの取締役 / BOROFESTA(ボロフェスタ)代表 / JUNK Lab Records主催 / Less Than TVをリスペクト!
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WRITER
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26歳で自我が芽生え、とうとう10歳に。「関西にこんなメディアがあればいいのに」でANTENNAをスタート。2021年からはPORTLA/OUT OF SIGHT!!!の編集長を務める。最近ようやく自分が持てる荷物の量を自覚した。自身のバンドAmia CalvaではGt/Voを担当。
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