COLUMN

俺の人生、三種の神器 -堤大樹 ①初めてのひとり旅編-

OTHER 2016.11.14 Written By 堤 大樹

▼俺の人生、三種の神器とは?

人生の転換期には、必ず何かしらきっかけとなる「人・もの・こと」があるはずです。そのきっかけって、その当時は気づけないけれども、振り返ると「あれが転機だった!」といったことはありませんか?そんな人生の転機についてアンテナ編集部で考えてみることにしました。それがこの「俺の人生、三種の神器」。

折角なのでもっとアンテナ編集部員ひとりひとりのことを知ってもらいたい!そんな気持ちも込めたコラムです。これから編集部員が毎週月曜日に当番制でコラムを更新していきます。どうぞお楽しみに!

そうだバルセロナへ行こう

「人生を変えた人・もの・ことを考える」、となった時に一番最初に思いついたのが23歳の時にバルセロナへ行ったことだった。この時の経験が今の自分の「とりあえずやってみるか」精神をを形成している。先にひとつ弁明をすると、この話のスケールは非常に小さく、多くの人にとって取るに足らない話だと思う。それでも初めての海外一人旅は当時の自分にとっては大きな価値があり、ひとつの転機となったため恥を偲んで書き記したい。

 

しかし転機とは言っても、実はバルセロナで特別な経験をしたわけではないし、衝撃的な出会いがあったわけでもない。パックツアーには申し込まなかったものの、有名な観光地へ行き、現地のものを食い、人並みの出会いをしたよくある話だ。それでも自分にとって大きかったのは、「バルセロナに一人で行った」という経験だった。

カサ・ミラ

当時の自分は世間知らずのしょうもない学生で、思い返すと恥ずかしくて顔から火が出そうになる。勉学に励むわけでもなく、バイトも週2程度にダラダラと行い、特に興味のない会社になんとなくで就職を決めた。とにかく面倒なことはしたくなくて、音楽だけは好きだったから続けている状態、絵に描いたような中身のない学生だった。俺は何故こうなってしまったのか?

失敗を恐れているわりに失うものなんて実はほとんどなかった

原因はわりとはっきりしていて、苦労することなく中高大と進学し、人生をかけて打ち込むことも特にないので、失敗や挫折も覚えることなく年齢だけ重ねていったことだ。小さい頃から周囲に言われてきた「やればできる子」という根拠もクソもない自信のみが肥大して、そこに元々の「他人の評価を過剰に気にする性格」が拍車をかけた。

 

そうなると失敗が怖く、許せない。だから当時絶対に失敗をしないように、失敗しそうなことは全て避けて生きていた。何より質が悪かったのはそのことに無自覚なことで、無意識のうちに「できないこと」には線を引き、「どうすればできるようになるか」に意識や興味が向かなかった。そんな自分にとって、「海外」は関係のないこと筆頭だ。英語なんか喋れないし、日本で生きていけば関係なんかないのだから。

カサ・バトリョ

それが急に一人でバルセロナへ行くことになった。はっきりとは覚えていないが、就職を目前にして急にこの先の人生が怖くなった記憶がある。社会人になれば海外旅行へ行く時間もなくなって、見たかったものは全て「見たかったね」だけですませて人生が終わるのではないかと(今思うと全然そんなことはないけど)。こうして仕事が始まる前に最後のモラトリアムを利用して、いそいそと一人でバルセロナへ出かけることにした。

 

初めての海外は驚きの連続だった。まず当たり前のことが当たり前にできない。当時はスマートフォンも普及しておらず、手軽に翻訳したり、Google Mapのような便利なものはない。「地球の歩き方」のみが唯一の頼りで、スペイン語にまるっきり触れたことがない自分にとっては、「ご飯を頼む・道を尋ねる・電車に乗る」などの日常の全てにかなりのエネルギーを必要とする。その時初めて「自分が何者でもないこと」を知るとともに、旅先での大小様々な失敗体験が、「失敗すること」に対する恐怖心を取り除いた。

「どうせ最初から完璧にはできないし、とりあえずやってみるか」の精神

多くの失敗はあったが、結果として「バルセロナへの一人旅」は非常に楽しい経験として無事に終わった。そしてこの小さな成功体験は「自分にはできない」と、多くのことに無意識に線を引いていたことにも気付かせてくれた。それ以来、今までの人生で多くのことを見過ごしたことをもったいなく感じ、少しでも取り返すべく興味がわいたものには一度は手を出すようにしている。「Try & Error」を繰り返して経験しなければ、自分が本当に好きかどうか、やりたいことかどうか判断ができない。「失敗してもよい」、こんな当たり前のことに気付くのに23年も費やしたと思うと、本当に恥ずかしい。

 

しかし、そこから自分の人生が面白くなり始めたことは言うまでもない。

You May Also Like

WRITER

RECENT POST

REPORT
【SXSW2023】移りゆくアジアの重心と、裏庭に集う名もなき音楽ラバーたち
REPORT
【SXSW2022】地元に根津いたバカ騒ぎの種火たち、3年ぶりのオースティン探訪
INTERVIEW
あの頃、部室で – 夜音車・頓宮敦がDo It Togetherにつくりあげた果実と、その界隈
INTERVIEW
25万人集まる海外フェスも、30人規模の地元のハコもやることは同じ 手探りで進み続ける、おとぼけビ~…
INTERVIEW
失われた「ジャンク」を求めて – WHOOPEE’Sというハコと、GATTACA / GROWLYの…
INTERVIEW
土龍さん、この10年どうやった? 最小で最愛な私たちのライブハウス、nanoの旅路
COLUMN
未来は僕らの手の中(か?)|テーマで読み解く現代の歌詞
INTERVIEW
“エゴ”だけじゃ形にならない。『フリースタイルな僧侶たち』初代・三代目の編集…
COLUMN
書評企画『365日の書架』4月のテーマ:はなればなれになって
COLUMN
書評企画『365日の書架』3月のテーマ:ここじゃない場所に生まれて
COLUMN
書評企画『365日の書架』1月のテーマ:時間が経つのも忘れて
INTERVIEW
バランスのいい選択肢が無い!!多様な価値観の都市で育った〈汽水空港〉店主・モリテツヤさんが人生の選択…
COLUMN
書評企画『365日の書架』12月のテーマ:もっと読むのが好きになる
COLUMN
【東日本編】ライブハウス・クラブでの思い出のエピソード
COLUMN
【西日本編】ライブハウス・クラブでの思い出のエピソード
COLUMN
【Dig! Dug! Asia!】Vol.1:Stars and Rabbit
INTERVIEW
自分たちで責任を取り続けられる企業であるために。FREITAGの創業者Markus Freitag来…
INTERVIEW
台湾インディーシーンの最前線を走り続けるSKIP SKIP BEN BENこと林以樂、初の本名名義と…
COLUMN
【2019年10月】今、大阪のライブハウス店長・ブッカーが注目しているアーティスト
COLUMN
【2019年09月】今、大阪のライブハウス店長・ブッカーが注目しているアーティスト
COLUMN
【2019年08月】今、ライブハウス店長・ブッカーが注目しているアーティスト
INTERVIEW
制作もライブも自然体で。京都のシンガーソングライターいちやなぎインタビュー
COLUMN
【2019年07月】今、ライブハウス店長・ブッカーが注目しているアーティスト
COLUMN
【2019年06月】今、ライブハウス店長・ブッカーが注目しているアーティスト
COLUMN
【2019年05月】今、ライブハウス店長・ブッカーが注目しているアーティスト
COLUMN
【2019年04月】今、ライブハウス店長・ブッカーが注目しているアーティスト
COLUMN
【2019年03月】今、ライブハウス店長・ブッカーが注目しているアーティスト
COLUMN
【2019年02月】今、ライブハウス店長・ブッカーが注目しているアーティスト
COLUMN
【2019年01月】今、ライブハウス店長・ブッカーが注目しているアーティスト
COLUMN
【2018年12月】今、ライブハウス店長・ブッカーが注目しているアーティスト
COLUMN
【2018年11月】今、ライブハウス店長・ブッカーが注目しているアーティスト
COLUMN
【2018年10月】今、ライブハウス店長・ブッカーが注目しているアーティスト
COLUMN
【2018年9月】今、ライブハウス店長・ブッカーが注目しているアーティスト
REVIEW
Homecomings – Songbirds
INTERVIEW
ボロフェスタ主催のひとり飯田仁一郎に聞く、ナノボロフェスタでトークイベントを行う理由
INTERVIEW
出町座
INTERVIEW
【モーモールルギャバン / ゲイリー・ビッチェ】好きで好きでたまらない!スーパーノアは俺に語らせて!…
INTERVIEW
【くるり / ファンファン】好きで好きでたまらない!スーパーノアは俺に語らせて!3rd mini a…
COLUMN
【2018年7月】今、ライブハウス店長・ブッカーが注目しているアーティスト
COLUMN
【2018年6月】今、ライブハウス店長・ブッカーが注目しているアーティスト
REVIEW
Siamese Dream – The Smashing Pumpkins
REVIEW
MISS YOU – ナードマグネット
COLUMN
【2018年5月】今、ライブハウス店長・ブッカーが注目しているアーティスト
INTERVIEW
「自分たちが面白いことが一番面白い」この二年間の活動の変化を、踊る!ディスコ室町Vo.ミキクワカドに…
COLUMN
【2018年4月】今、ライブハウス店長・ブッカーが注目しているアーティスト
REPORT
【SXSW2018】国別に見る、良かったアーティストまとめ
REPORT
【SXSW2018】世界のミュージックフリークスに聞いた、今年のおすすめ出演者
REPORT
【SXSW2018】日本のミュージシャンの世界への接近と、各国のショーケース
COLUMN
ki-ft×アンテナ共同ディスクレビュー企画『3×3 DISCS』
REVIEW
Man Of The Woods – Justin Timberlake
COLUMN
【2018年3月】今、ライブハウス店長・ブッカーが注目しているアーティスト
COLUMN
【2018年2月】今、ライブハウス店長・ブッカーが注目しているアーティスト
COLUMN
ライブハウス店長・ブッカーが振り返る、2017年ベストアクト
COLUMN
HOLIDAY! RECORDS / 植野秀章が選ぶ、2017年ベストディスク10
COLUMN
【2017年12月】今、ライブハウス店長・ブッカーが注目しているアーティスト
COLUMN
【月一更新・まとめ】今、京都のライブハウス店長・ブッカーが注目しているアーティスト
REPORT
映画『MOTHER FUCKER』京都みなみ会館 特別先行上映レポート
COLUMN
【2017年10月】今、ライブハウス店長・ブッカーが注目しているアーティスト
COLUMN
俺の人生、三種の神器 -堤大樹 ③広島東洋カープ編-
INTERVIEW
【特別企画】ミュージシャン、好きな映画を語る – バレーボウイズ・本日休演・踊る!ディス…
REPORT
【SXSW2017】vol.0 まとめ
COLUMN
俺の人生、三種の神器 -堤大樹 ②音楽編-
REPORT
終わらない孤独な旅で見つけた、彼女の”光”とは?Laura Gibson ジ…
REPORT
the coopeez 『キネマBANPAKU』 @ みなみ会館 2016.05.21
SPOT
朧八瑞雲堂
SPOT
吉靴房
SPOT
BOLTS HARDWARE STORE
REPORT
ナードマグネット – 怒りのデス・ワンマン@天王寺Fireloop 2015.12.20
INTERVIEW
CARD×椎木彩子の関係について:後編
INTERVIEW
CARD×椎木彩子の関係について【前編】
INTERVIEW
鈴木実貴子ズは何故ライブバー&鑪ら場を始めたのか?
REPORT
斑斑(skip skip ben ben) “台湾から来た二人” @公○食堂 2014.11.01
REPORT
スキマ産業vol.39 @ 木屋町UrBANGUILD ライブレポート
REPORT
the coopeez newbalance tour @京都MOJO ライブレポート

LATEST POSTS

REVIEW
「キテレツで王様になる」SuperBack『Pwave』のキュートなダンディズムに震撼せよ

2017年に結成、京都に現れた異形の二人組ニューウェーブ・ダンスバンドSuperBack。1st ア…

REPORT
台湾インディーバンド3組に聞く、オリジナリティの育み方『浮現祭 Emerge Fest 2024』レポート(後編)

2019年から台湾・台中市で開催され、今年5回目を迎えた『浮現祭 Emerge Fest』。本稿では…

REPORT
観音廟の真向かいで最先端のジャズを。音楽と台中の生活が肩を寄せ合う『浮現祭 Emerge Fest 2024』レポート(前編)

2019年から台湾・台中市で開催され、今年5回目を迎えた『浮現祭 Emerge Fest』。イベント…

INTERVIEW
2024年台湾音楽シーンを揺らす、ローカルフェスとその原動力―『浮現祭 Emerge Fest』主催者・老諾さんインタビュー

2024年2月24,25日の土日に、台中〈清水鰲峰山運動公園〉で音楽フェス『浮現祭 Emerge F…

COLUMN
【2024年3月】今、大阪のライブハウス店長・ブッカーが注目しているアーティスト

「大阪のインディーシーンってどんな感じ?」「かっこいいバンドはいるの?」「今」の京都の音楽シーンを追…