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吉靴房

DESIGN OTHER 2016.03.21 Written By 堤 大樹

京都西陣と言えば昔から着物の製造が盛んな場所だが、吉靴房はそんな物作りの街に拠点を構えている。名前に入っているように靴を製造・販売しており、アトリエとショールームが一体となった工房は築100年を超えるという。一階は外から見えるような作りになっており、近くを通れば作業している姿も見られるだろう。

 

吉靴房のコンセプトは”日本の履物文化を踏まえた上で和服にも洋服にも合うような靴を作る”こと。新しいものを生み出すという使命感と、歴史に対する責任感から生まれる商品はどれも丁寧に作り込まれている。商品は革の雪駄やチャッカ、ミュールなどに加え、ここでしか見られないような大胆な形のものまで実に幅広い。ここに置いてある革靴が町家に馴染みきっている姿を見れば、靴は洋のものという常識はひっくり返されるはずだ。

 

靴はオーダーメイドで手縫い。採寸等も全て工房で行われており、納期は約3ヶ月程度。時期によって若干前後するようなので、プレゼントに考えている人はご注意を。

 

良い靴は長く履けるだけでなく、人生の良きパートナーとなる。吉靴房の靴はあなたにとってそんな一足になるはずだ。

住所

京都府京都市上京区 大宮通寺之内下る花開院町111-2

制作日

火・水・木曜日

営業時間

月曜日・金曜日 10:00 ~ 16:00
土曜日・日曜日 14:00 ~ 17:00

電話番号

075-414-0121

HP

http://kikkabo.info

──

早速ですが吉靴房を始めた経緯についてお聞きしてもよいでしょうか?

野島孝介さん(以下野島)

元々物作りはほとんどやったことがなかったんです。小さい頃からずっと剣道をやっていて、周りを見渡してみると警察官とか公務員とか実業団とかそんな方ばかりだったので、自分でも警察官になるものだと思っていたんですけどね。

──

警察官ですか、今のお仕事と全然違いますね。

野島

ある日国際強化選手の練習の話をいただいた時に「どこまで本気でやるのかな……」みたいなことを考えてしまって。本当に突然やーめたと(笑)

 

それで何をしようかと考えた時に、ファッションが好きだったので、ファッション関係のデザイナーやスーツの仕立屋や家具屋、靴屋のことが頭にありました。何も知識がない状態で始めるとして、かつその先1人でできそうなことを考えた結果が靴屋ですね。

──

1人でできそう、ということは最初から独立は頭にあったんですね。

野島

そうですね、勤めるというのは手段としか考えていなかったですね。たまたま親族に物作りとか変わった仕事している人が多くて、あとから考えたら珍しい家族ではあるんですけど。靴屋として独立した時に僕の親族を知っている人には「やっぱり野島さん家の子なんだね」とは言われました(笑)。

──

血は争えないということですかね。

野島

全然意識していなかったんですけどね。それでこれから何をするか悩んでいた時期におじと話していたら、「学校なんか行かなくていい、業界に入ってしまうのが一番早いよ」と言われて納得してしまって、そのまま浅草に引っ越しをしました。今思えばむちゃくちゃでしたけどね(笑)

──

どのようなことがあったんでしょうか?

野島

仕事も決まっていないのに浅草に引っ越しをして、靴のメーカーに面接へ行ったら落とされてしまいました。それで不採用の電話がかかってきたんですけど、「困ります、靴屋をやろうと思って浅草に来ているのでそんなに簡単に結論出されたら困ります」みたいなことを言って、入社しました。

──

なんだか就職で考えると立場が逆ですね。

野島

後で聞いた話では、いろいろな偶然もあったんですけどね(笑)

 

入社後は独立するためにあらゆる仕事をこなしました。専門学校も行ってないしなんの知識もないので、とにかく吸収しようとみんなが嫌がるような仕事も含めて全部するようにしていましたね。決めてかかったことだったので、決めたからにはやろうと。

──
──

ありがとうございます。野島さんの考える革、靴の魅力を教えていただけますか?

野島

靴に関して言えば、全体のバランスを決める最後の決定的な要素だと思うんです。全身が普通のシンプルな服でも靴が良ければ良く見えますし、良いスーツ着ていても靴が良くなければ悪く見えますし、最後の全体を構成する大事な要素だと思うので、アイテムとしての存在感は非常に強いものだと思います。

──

なるほど、革はどうでしょうか?

野島

革というのは世界中で長い時間をかけて発展したもので、それ自体が知識の結晶というか。本来捨てられるはずだったものを、なめすという技術で色んなことに使えるようになりましたよね。また革は複雑な繊維の集合体で、今でも人工で生み出せないんですよね。そういったことが非常に興味深いですね。

──

ありがとうございます、吉靴房のコンセプトや特徴教えてください。

野島

世界中それぞれの国の歴史と文化があります。日本は特に長い歴史がありますし、独特の履物の文化というものも勿論あるので、その文化の歴史の延長戦上にあるようなデザインというものを目指しています。革靴が日本に伝わってから約140年くらい経過していて、日本から発信できるようなものが生まれてもいいんじゃないかなという思いがあってこういうことを始めました。

──

ありがとうございます。ちなみに何故京都を選ばれたのでしょうか?

野島

このテーマでやる場合、世界で一番このテーマに合う場所、かつ世界中から人が来る場所を考えたら、日本なら京都しかないだろうと(笑)。だから独立するかなり前から京都に行こうとは決めていました。

──

その中でも西陣に工房を構えた理由はありますか?

野島

1つ目は経費をなるべく抑えたいという理由ですね。2つ目は、織り機のガチャンガチャンという音があれば、僕らがコンコン叩いていても文句を言われないだろうという理由です。今は減ったと言ってもこの辺りは昔から物作りをしている人も多かったので。

──

今でも多いんでしょうか?

野島

多いですよ。

──

地域の方との交流はどうですか?

野島

1人でやっている時は入りやすかったのか、「なにやってるの?」という感じで沢山来ましたね。最近はスタッフが2人いますが、スタッフを含め地域の方にお世話になっております。

──

お客さんはどのような方が多いですか?

野島

旅行者を含め、10代から70代の方まで日本全国からお越し頂いております

──

HPでの発信等に関して言えばかなりしっかりやっておられますよね?

野島

それはたまたまよくしてくださる方がおられたので。でも僕は元々表に出たいタイプではないんですよ。物作りをしようと思った一番最初のきっかけは、”物さえ見てもらえればいいかな”というのが少なからずあったんです。だけど今の時代そうじゃなくて、生産者とのコミュニケーションを求める方も多いので、僕も出ざるを得なくなったというか(笑)

 

誤解を与えないようにきちんと発信したいという思いはあります。

──

ありがとうございます。野島さんが京都で好きな場所をお聞かせできますでしょうか。

野島

沢山あるんですけど、神社仏閣は基本的に大好きですね。中でも強いて言うなら上賀茂神社や下鴨神社は歴史があって好きです。

──

きっかけはあるんでしょうか?

野島

僕は小さい頃から日本の歴史を調べるのが趣味みたいな感じだったんですが、17歳くらいの時に読んだ本が衝撃だったんです。国ごとに宗教があって、国の成り立ちにも基本的な考え方として宗教的な観念というものがある。そのことを意識しないと日本史の理解が進まないということに気付かされました。それでその時から靴屋を始めるまでずっと宗教と哲学と日本史の本ばかり読んでいましたね。それもあって歴史を感じさせるものが好きです。

──

靴房さんもぜひこれからどんどん歴史を築いていって欲しいです。

野島

それは僕の意思ひとつですね。「やーめた」ってなればそれまででしょうし(笑)。今は目標があるのでそんな風になりにくいとは思いますが。

──

どのような目標でしょうか?

野島

あまりこういった場で言うのも恥ずかしいんですが、神主さんやお坊さんが履く公式な履物をいつか作りたいですね。その先には天皇陛下の履物があるでしょうし、そういうものを作る依頼が来たら大変名誉なことだと思います。

──

ご報告を聞けること楽しみにしています!

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