the coopeez 『キネマBANPAKU』 @ みなみ会館 2016.05.21
「the coopeezが映画館であるみなみ会館でライブを行う」。その情報を耳にした時、「ヤラれた」という気持ちに加え、正直かなりわくわくした。いつも新しい音楽を新しい音楽の形を模索する彼らが、ひとつの実験を試みる。これはthe coopeezファン、みなみ会館ファンだけでなく、京都で音楽に携わる人間であればどのようなライブになるか見届けたいはずだ。
the coopeezは不思議なバンドで、その歩みは他に類を見ない。the coopeezの発起人、藤本が初めて楽器を手にしてバンドをスタートしたのが24歳である。大学を卒業してから楽器を手にする人は、そう多くないだろう。幾度かのメンバーチェンジを経て、現在のメンバーに落ち着いてからの活動は目覚ましいものだ。
彼らからいわゆる“京都っぽさ”を全く感じない。音楽性、活動の仕方などたくさんの要因は考えられるが、中でも彼らが京都にありがちな『バンドマンのコミュニティに属していないこと』が一番の理由と見受けられる。知り合いのバンドマンだけが見にくる、内向きな音楽活動とは一線を画し、外に向けて自分たちの音楽をボリュームマックスにして叫ぶ。だから彼らは純粋な音楽ファンを獲得できたのだ。
そんな彼らが今選んだひとつの方法が今回のライブである。まずはこの日の実験的なライブについて振り返り、そしてMCでVo/Gt.藤本が発した「キャーキャー叫びながらやっている、いつものライブとは違う形でライブをしてみたい」、この言葉の意味を少し考えたい。
スタート時刻になると会場が暗転し、映画の開始を知らせるあのブザーが鳴り始めライブが始まる。前方のスクリーンには『the coopeez』の文字が浮かび上がり、さながら“映画の予告”のようなライブ告知が流れ始める。その後ご丁寧にも「No more 映画泥棒」を真似た、「自分たちのライブ映像は録音・録画OK」を差し込み会場を沸かす。ひとしきり予告映像が流れた後、昨年8月にリリースした3rdアルバムである『リュックサック』の”イントロダクション”をSEに、メンバーが登場。ステージに奥行きがないため、下手から横一列にDr.夏音、藤本、Ba.山本、Gt.小川と並ぶ。メンバーの登場とともにお客さんからは早速歓声があがった。
一曲目は”イチカ&バチカ”で、登場SEを利用した、『rucksack』を踏襲した流れだ。ステージや音響は全てバンド持ち込みだと聞いていたので、普段のcoopeezの良さをどれほど味わえるのか不安もあったが、一音目を聴いて完全に杞憂だったことがわかった。下手をすればライブハウスで見る時よりも音が大きいかもしれない。妙な反響やハウリングもないのでストレスなくライブに集中できる。みなみ会館は音楽をじっくり聴くにも適した空間であることが感じられた。
そこから息をつく間もなく”ヒント”、”長所と短所のブルース”、”バックトゥザフューチャー”と、立て続けに演奏を続ける。早くも楽しそうに小川と山本が向かい合って演奏するシーンも見られ、お客さんはそれに対して座ったまま、歓声と手をあげる。その後MCを挟むも、藤本の口から来場のお礼を伝えるくらいで、間髪をいれず演奏を続けていく。この日は新旧織り交ぜたセットリストになっており、1stや2ndアルバムの曲など、普段のライブではあまり聴けないような曲も演奏された。10曲近く演奏した前半戦は、今日の会場に合わせた”シネマへ行こう”という、この日のシュチュエーションにぴったりの曲で終了した。
今日のライブは北は北海道、南は鹿児島からお客さんが来ているらしい。わざわざ遠方から足を運んでくれた人達のためにも少し特別なこともしたいと、特別ゲストにシライリゾートオーケストラのKey.よっちゃんを迎え後半戦がスタートした。”未知との遭遇”から始まり、新曲の”アートワーク”で落ち着いた雰囲気に。その次の”恐竜人間”で、藤本が「直前の二曲を辛気臭い」とそれまでの流れをぶち壊す。着席スタイルでthe coopeezのライブを“鑑賞”する人たちのウズウズした感情がフロア中に漂っているのを肌で感じる瞬間だった。
終盤は前半に比べ、”オンナノコ・ネバーギヴアップ”や”サグラダファミリア”など、少しシッポリとした曲が多めに用意されていた。二時間に及ぶライブの終わりは、大作映画の大団円と似たような感情を覚える。終わりが見えてしまうと少し寂しいが、それはただ”寂しい・切ない”というだけでなく、同時にこれからも続くストーリーへの期待を感じさせた。お客さんのアンコールには二度応え、バンド初期から大切にしている”僕らのサーカス”や、”ターミネーター”を披露し『キネマBANPAKU』は幕を閉じる。最後に藤本はひとり客席の真ん中を突っ切り、ステージをあとにした。
全ての演奏が終了するとスクリーンにエンドロールが流れ、the coopeezからの感謝が記されていた。藤本がライブ途中で「夢を諦めた人もそうでない人も沢山いると思うけど、もし諦めた人は僕達にそれを託して欲しい」と語っていたことが印象的だった。彼らはMARVELヒーローのように特別な力を持ったヒーローではない。しかしヒーローがヒーローたる所以は特別な力にあるのではなく、その高い志にあるのだと思う。そういった意味でthe coopeezはファンにとって最高のヒーローであるように感じた。
「キャーキャー叫びながらやっている、いつものライブとは違う形でライブをしてみたい」。その真意は“自分だけに用意された席で、自由なスタイルでthe coopeezの曲をじっくり聴いて欲しい”ということだった。ひとえには彼らの自分たちの曲に対する自信が伺える。彼らが今まで作り上げた曲に対する自信があるからこそ、じっくり聴いて欲しいと思えるはずだ。またその上で今日のライブは、自分たちの魅力を最大限に引き出すための、”見せ方”という部分での試行錯誤の結果だ。彼らの思い通り、お客さんは一緒に来た人と手を繋いでいたり、ふかふかのソファに身を沈めて目をつぶって曲を聴き入っていたり、思い思いの格好で、リラックスしてライブを楽しんでいたように見える。彼らの意図が、きちんと会場全体で共有されていた。
この日を通して、彼らはさらなる一歩を歩みだした。今後は楽曲制作と、自分たちのポテンシャルを最大限に発揮出来る見せ方に余念なく取り組むはずだ。彼らはいつだって“今が最高の状態”を更新していて、私たちはその足取りを記憶する証人になるのかもしれない。この日は改めて今後のthe coopeezのあり方を宣言をするための一日だった。ますます目が離せない彼らが、どのように進化するのか楽しみで仕方がない。
WRITER
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26歳で自我が芽生え、とうとう10歳に。「関西にこんなメディアがあればいいのに」でANTENNAをスタート。2021年からはPORTLA/OUT OF SIGHT!!!の編集長を務める。最近ようやく自分が持てる荷物の量を自覚した。自身のバンドAmia CalvaではGt/Voを担当。
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