INTERVIEW

あの頃、部室で – 夜音車・頓宮敦がDo It Togetherにつくりあげた果実と、その界隈

たった一人のサラリーマンが海外バンドのツアーを手掛け、大学の部室でイベントをしてしまうこと。そしてツアー資金を稼ぐためにカンパで資金を調達し、友人・知人のツテを辿って日本各地を転々としていくこと。「それ、自分でやってもいいんだ」、やり方の一つひとつに新鮮な驚きを覚えたし、思い込みで自分を小さくしていたものの多さに目がくらんだ。Do It Yourself、DIYという言葉を知ったのもこの時だ。

MUSIC 2021.12.01 Written By 堤 大樹

2008年3月30日にアメリカのOff Minorを招いて行われた『experiment of life vol.10』。立命館大学・衣笠キャンパス、当時筆者が所属していた軽音楽部の部室を使って行われたイベントだったが、扉を開けるとどう見ても学生には見えない人たちがギュウギュウ詰めで、異様な湿度になっていたことをよく覚えている。このイベントの仕掛け人は夜音車の頓宮敦(トングウアツシ)というらしい。

 

厳密には頓宮さんの活動は2010年代の少し前の話となる。でも思うのだ、この10年をつくったのはその前の10年ではないかと。僕自身、このイベントに足を運んでいなかったら「自分でメディアをやれる」とは思っていなかったはずだから。

夜音車fanzine & distro

頓宮が制作するZINEのタイトル。後に「ディストロ・イベント企画」を行う際の活動名にもなった。国内外の激情系ハードコアシーンや、地元・京都のパンクシーンとのつながりを持ち、自身が通っていた立命館大学でのイベントなどを通じ後継となるバンドや界隈も生み出す。頓宮自身はメロディックパンクバンドthe lions(2007-2013)のGt//Voとして活動。2016年に転職のため京都から神奈川に移居。
夜音車の主な活動期間:2004-2009年

「やりたい以上につくっているとき、楽しい」夜音車としてZINEづくりをはじめるまで

頓宮さんが音楽に興味を持ったのは中学2年生のころ。当時、周りには音楽の趣味を共有できる友人はおらず、ただ一人で興奮や感動を噛み締めるような日々を送っていたという。高校生になってもその環境は変わらなかった。

「高校生の時、北欧のスウェーデンとかフィンランドに、ロックンロールでバッドボーイな感じのすごくローカルなシーンがあったんです。そういうのを買い求めて、埼玉から新宿の西口、輸入レコード屋さんがたくさん並んでたところに通って」

 

その状況はWindows 95が登場し、インターネットが家庭の足元にまで迫ったことで大きく変わった。誰でも気軽に自分の「好きなもの」を世界に向けて発信、共有できるようになったのだ。「自分が好きな音楽を分かち合いたい、もっと世間の人に知ってもらいたい」という想いを人一倍強く持っていた頓宮さんは、ほどなく自分でもバンドのアルバムやライブのレビューを書き始めた。

 

「そんなことを続けているとインターネットの世界で知り合いができ、それが現実世界にも転がって。ライブに一緒に行って話をしたり、自分の知らないバンドを教えてもらったり。そうして長年付き合うことになるパンクや激情系ハードコアの世界の入口にたどり着いていました」

 

「その入口をくぐってからはジェットコースターに乗ったようなもの、ありとあらゆるものが自分にとって新鮮で衝撃」と語るほど、それまでの音楽との接し方はすっかり変わったという。そこにあったのは現実社会をただ受け入れるのではなく、理想とするあり方を模索し、音楽を通じて仲間と自分たちの居場所をつくっていくDIYな姿勢。同時にファンジンにも出会い、貪るように読みふけった。

 

その後、大学2年生のときに『BETTER DONE THAN BETTER SAID』という一冊のZINEに出会い自身でもZINEの制作をスタート。その行動力の源泉は「未知の価値観と出会う楽しさ」、そして誰かと「価値観を分かち合えたことの喜び」だった。こうした頓宮さんの欲求は自身が手掛けるイベントのカラーにも色濃く反映されていくことになる。

後に200人のツアーバンドを泊めることにつながる、DIYイベント『experiment of life』

イベントを行うようになった背景には、京都で活動するdOPPOやdiary tree(後のbed)、the drippersという同世代のバンドとの出会いがあった。その活動を“手の届く距離で”見られたことがまた、少しずつ「自分にもなにかやれるかも」という気持ちを醸成したという。

 

「彼らは京都出身で連帯感があって、土着的。『面白いことをやりたい』という意欲がすごく強かったし、少しずつ夢を形に移していくのを横で見ていた。そのことが自分でイベントを行う一つのきっかけとしてあったと思います」

 

京都では、雪だるま式に知り合いが増えていった。その時、人とのつながりやシーンとの連帯を初めて体験する。

 

そうして気持ちが高まった大学3回生の夏。2005年7月31日に夜音車初のイベント『experiment of life』を西院の〈music studio hanamauii〉で開催。初回にも関わらず50人が来客し、スタジオからは人が溢れた。開催後の頓宮さんの興奮や熱気は今も残るブログのテキストからも伺える。その後も企画を続けながら、ライブ終わりにCDや本を持ち寄ってトレードする時間や、誰もが自由に物販を出せるような場所をつくり、いろいろなことを試しながら理想となる場づくりを模索した。

 

回を重ね、理想の会場を探した結果、スタジオライブからはじまった『experiment of life』は立命館大学のホールや部室へとその舞台を移し、さらには共催などの形を持って他の大学にも伝播していった。場所が変わっても、コンセプトの一つ「コミュニケーションや、つながりができる場であること」はぶれなかったという。

 

「ライブに来て一言も喋らないで帰っちゃうお客さんをゼロにしたくて。結局、僕らがやっていたようなイベントに来てくれる人ってニッチな趣味を持っていて。でもそこにだけは同じような音楽が好きな人が集まっている。自分もよく一人でライブに行ってたけど、そのとき声をかけてくれる人がいたから世界が広がった。だから自分もそういう機会をつくりたいと考えていました」

最も印象に残っているイベントについて聞くと、アメリカのampereや、イタリアのla quieteの日本ツアー・京都編となった、2007年8月26日の『experiment of life vol.7』をあげた。

 

「この時のライブは、既成のシステムとまったく違う大学という場所で自分たちで一から会場をつくりあげ、ライブだけではない自由なコミュニケーションができる場をつくり、ツアーバンドをできる限りサポートできた(ヴィーガンフードを用意したり、カンパで交通費を集めたり、ツアーメンバー全員を泊めたり)。それまで自分が実際にライブに足を運んだり、ZINEを読んだりする中でいつか自分が実現したいと思っていたことがすべて形になった瞬間でした」

 

イベントには150人もの人が集まった。これまで顔も見なかった人も多く足を運んだという。しかし、気がつけばこの日が夜音車の活動の分岐点にもなっていた。

Do It Togetherとその果実

「実はこのイベントの後になにを感じたかというと、一つは燃え尽きた感覚。つまり、自分がやりたいことをすべて実現してしまって、これ以上はないんじゃないかと思ったということ」

 

「もう一つは、自分のキャパを超えたという感覚。この日、いっぱいお客さんが来てくれてうれしいと思う気持ちと同時に、彼ら一人ひとりと向き合うことはもはや無理だと感じたような気がします。それまでの企画の中では、自分が考えていることが伝わっている、コミュニケーションが成立している、そういう感覚を少なからず持っていました。でも、この日、多くの人影を見たときはそこに一線を引いてしまったような感覚があります」

「企画に来てくれる人がなにを感じて帰るかはそれぞれ」と考える自分と、「自らの理想や想いを分かち合える人に来て欲しい」という自分。アンビバレントな気持ちを抱えることは不思議な話ではない。「なにもお客さん一人ひとりと向き合う必要はなかった」と、今となってみれば自らの心情や状況を冷静に振り返ることができる。ただ当時の感覚については「喉元になにかが引っかかる感じ」と例えた。そして夜音車の活動は2008年8月の『experiment of life vol.11』をもって収束した。

 

また2007年には頓宮さんは大学を卒業。社会人にもなっている。こうした環境の変化が頓宮さんの感覚に少しずつ影響を与えていったのも事実だ。その後、最も変化したことについて次のように語ってくれた。

 

「アメリカのEbullitionというレーベルが掲げている『MORE THAN MUSIC』という言葉があって、僕はずっとそれがよりどころになっていました。

 

『音楽以上』のものがあると信じていたし、実際に『音楽以上』のものに触れて体が震える瞬間が間違いなくありました。でも、時間の経過とともに、それが引っくり返るようになったんですよね。それは自分の嗜好性の変化と属しているシーンとのギャップだったり、音楽の周辺にあるさまざまな関係性に対する疲弊だったり。自分はそもそも音楽が好きでこの世界に飛び込んだはずなのに、いつの間にかそれ以外のことにがんじがらめになって、純粋に楽しめなくなっていたことに気が付きました。今思えばこれはとても皮肉なことだなと思います」

最後に、野暮だと思いつつ「夜音車の活動を継続するためには、なにが必要だったと思いますか?」と聞いてみた。

 

 

「90年代の音楽ファンジンを読み返すとすごく主張が強いんですよね。『俺はこう思う、君はどう考える?』、みたいな。DIYな活動は広いソーシャルな問題に紐づいているんです。それに比べて自分の活動は身の丈に合った、自分の身の回りにある問題を解消・改善するためものだったんだなと今は思います」

 

 

「それが良いのか悪いのかは分からないですけれど」と付け加える頓宮さん。だがこの感覚は「私」を中心とした半径1メートルの課題にいかに向き合うかが問われる「2020年」の感覚に近いのではないか。そのことをより感じたのは、後日追加で送られてきた取材への回答だ。そこには夜音車の活動を初期衝動や青春という言葉でまとめてしまうには惜しい、「つくることを楽しむ」ための一つの答えがあるように思うのだ。

 

 

「DIYという言葉に、実はあまりピンときてなくて。もはや自分の中では当たり前の概念になっていたからだと思います。その代わりに自分にとって大切だったのはDo It Togetherという言葉で。

みんなで協力しながらなにかをつくる、なにかをみんなで共有する、そういったことが夜音車の活動の醍醐味だと感じていたのだと思います。そもそも特定の人、バンドに依存したシーンは長続きしないし、それを失った時の損失は大きい。自分で課題を見つけ、自分事として取り組んでいくことは大切なことです。でも、僕にとってはそれと同じぐらい、それを自分だけの果実にするのではなく、みなで分かち合うことが重要だと感じています」

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