スキマ産業vol.39 @ 木屋町UrBANGUILD ライブレポート
なにかがマチにやってくる
なんて贅沢な夜だろう、この日のライブ中に私は何度もそのことを感じていた。それほどまでに今回のスキマ産業は濃厚な夜だったのだ。全てのバンドに期待を上回るパフォーマンスを見せられ、一緒に音楽の深淵の一部を改めて覗かせてもらったように思う。
UrBANGUILDに到着すると、DJおやきボーイズの流す知らない言葉の曲がさっそく扉の奥からもれて聞こえてきた。どこか異国の祭りを思わせるようで、覗いたら後戻りできないような、イケないことをしている気分になる。オープンすると会場内はすぐさま席が埋まる盛況ぶり。DJおやきボーイズの流す曲は決して派手に踊らせるわけではなく、ゆらゆらとお客さんが持っているビールを静かに波立たせる。空が夕暮れに染まるようにゆったりとライブがはじまった。
最初にステージにあがったのはゑでぃまぁこん。男女混成の6人グループで、Vo.Gt.ゑでゐ鼓雨磨とBa.柔流まぁこんを中心に2001年に結成。スティールギターやサックス、フルートなどが幻想的な音を紡ぎだすバンドだ。メンバー全員が着席するとあやしげな鍵盤ハーモニカから曲がはじまる。それはまるで遠く暗がりから聞こえてくる動物の鳴き声のような音で、会場の期待を高めていく。しかしあやしげな雰囲気はいつの間にかゑでゐの純度の高い透き通った美しい声に支配されていた。そこからさらにスティールギターやドラム、コーラスがどんどんと継ぎ足されていく。次々と姿を変えるその様子はまるでひとつの生き物を思わせた。この時お客さんはキャンドルの炎のように体を左右に揺らしていたのをよく覚えている。
ゑでぃまぁこん
最後の曲の前に一度だけMCを挟んでメンバー紹介をした。それまでの神聖な雰囲気から一転、たどたどしい様子にお客さんの頬も緩む。最後の曲では入りに失敗し、ゑでゐが慌てて曲を止めて「これは夢です」と笑った。照れ隠しのつもりだろうが、その瞬間だけでなく私たちはライブ中まるで夢を見ていた気分だった。
二番手はスキマ産業主催のキツネの嫁入りだった。2006年から京都で独自の活動を続けている4人編成のバンドで、この日はゑでぃまぁこんの余韻を引き継ぐかのようにKey.ひさよから歌い始めるしっとりとしたナンバーでスタート。言葉を散弾銃のように発し、変拍子を多用することから普段はロックバンドとも取られがちなキツネの嫁入りだが、こういう曲調の幅広さが彼らの強みだと再認識した。しかし2曲目でいきなり“俯瞰せよ、月曜日”を演奏し、それまでの空気を破壊した。身体をタテに揺さぶるそのビートが、さっきまでの曲調との対比も加わり随分と鮮烈なものに聞こえる。曲終わりには大歓声が上がったことからもオーディエンスのみんなにもかなり印象的だったことがわかる。
キツネの嫁入り
Key.ひさよが産休に入るため、正式メンバーの4人でのライブはしばらくおあずけとなる。ひさよの産休中にはサポートとしてエレキギターとトランペットが入るようで、途中からはその2人を足して3曲を演奏した。正直これがとてもよかった。音の奥行きが広がり、まるでArcade Fireを思わせるような楽曲へと一瞬で変貌を遂げる。複雑に絡み合うリズムに歌声やギターを乗せ、そして突如サビで姿を現すメロウなメロディ。
キツネの嫁入りは決して洗練されたおしゃれなバンドではない。しかしどこまでも正直に生きる、マドナシの人としての泥臭さに美しさを感じずにはいられない。だから私はこのバンドが好きなのだ。
この日のトリは、9月初旬に1stアルバムをリリースしたばかりのYankaNoiだ。トクマルシューゴバンドでマルチな活躍をしているユミコが構想5年を経て最近活動をはじめたバンドで、そのメンバーが豪華なことでも知られている。Gt.Co.トクマルシューゴをはじめ、Ba.田中馨(ショピン、ex. SAKEROCK etc.)、Dr.岸田佳也などが参加しており、その本気度が垣間見える。この日はコーラスとトランペットなどに松本、三浦の女性メンバーを加えて、6人での豪勢なライブメンバーとなった。
YankaNoiの素晴らしいところは沢山ある。美しいコーラスワークだとか、海外のバンドを思わせるような多彩な楽器ワーク、そこから生まれるグルーヴなどあげればキリがない。その中でも私が一番素晴らしいと感じたのは、人数が多いだけに足してしまいがちな音を必要最小限でまとめていることだ。一切の贅肉を削ぎ落とし、一聴すればバランスを崩してしまいそうな楽曲が実に力強くまとめられている。コーラスと手拍子だけで展開する曲があったのだけど、その美しさは鳥肌が立つほどだった。
YankaNoi
YankaNoiはロックやポップス、民族音楽のようであり、一度見ただけではその全貌は掴めないルーツの深さを感じた。彼らはまるで得体の知れない不思議なサーカスのようで、その全貌を掴むにはもう一度見に来るしかないと思わされる。気がつくと私は当たり前のように他のお客さんと拍手をし、アンコールの催促をしていた。いつまでも、何度でも見たくなる不思議な魅力がこのバンドにはあるのだ。
全てのライブが終わり帰路につく中で、マドナシが歌う「くだらない時代かい?」という問いをふと思い出した。しかしこのイベントに「世界はまだまだ楽しいことが溢れている!」と教えられたような気がした気がしてならない。
WRITER
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26歳で自我が芽生え、とうとう10歳に。「関西にこんなメディアがあればいいのに」でANTENNAをスタート。2021年からはPORTLA/OUT OF SIGHT!!!の編集長を務める。最近ようやく自分が持てる荷物の量を自覚した。自身のバンドAmia CalvaではGt/Voを担当。
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