一瞬たりとも目を離したくない、変化の夏
これまで内にある心理にベクトルを向けていた彼女の世界が、外へと広がっていくのを、今私たちは目の当たりにしている。岡山出身・在住のシンガーソングライター・さとうもかによる3枚目のフルアルバム『GLINTS』。 “繊細だけど大胆、ユーモラスだけど甘くない” と自身のプロフィールで語っているが、前作のフルアルバム『Merry go round』がまさにその象徴であった。しかし、今年1月にリリースされたシングル『melt bitter』では、運命だと思い込んでいた恋に区切りをつけ、後ろ髪を引かれそうになりながらも、新たな日々へ目を向ける心情を歌ったことで変化の兆しが垣間見えた。本作ではその変化がより確かなものとなっている。
“永遠に夏してたい” という歌い出しで本作の幕を開ける表題曲 “Glints” こそが、彼女のベクトルが外へと向いている象徴であろう。時間は永遠ではないからこそ、今、目の前にある恋を全力で楽しむ彼女を描く。目に見えるもの、感じるもの全てが儚く、永遠のものにしたいほど奇跡のような瞬間の中にいることを、彼女は知っている。いつかその思い出を忘れてしまうかもしれないが、確かにこの瞬間を生きている彼女のきらめきが、4分24秒の中に詰まっているのだ。TENDERによるアレンジでその世界観はより鮮やかになり、打ち寄せる波間に反射するキラキラした光のように、眩しくも切なさが胸に迫るシティポップサウンドに仕上がっている。
そんなポップなきらめきとは反対に、振り回されながらも愛していた彼への別れを歌う “愛ゆえに” は、同じような恋をする者へ、または過去にそのような思い出があった者へストレートに響くことだろう。相手を深く想っているが故、離れられなかった愛から別離しようとする心を、痛いほどの憂いと吐露が込もったエレキギターがかき鳴らしている。 “あなたのことを同じように愛するほど あなたも私もきっと壊れる どうしたら一緒に幸せになれたかな” と歌うこの曲は、彼への最後の愛である。
本作は夏をテーマにした短編映画のような全10曲を通して、それぞれの主人公による恋模様が描かれている。付き合いたてのぎこちない恋、終わりの見える乾いた恋、アイスが溶けそうなほど熱々の恋……。聴けば聴くほど、どれもが愛おしく思えてくるのは、楽曲がリスナーの中にある思い出に共鳴しているのだろう。そしてそれを可能にしたものこそ、さとう自身の変化である。出演したラジオ番組のインタビューにて、「一人で聴く時に心に染みそうなイメージ」と表現するこれまでの楽曲とは対照的に、今回はもう少し開けた感じを意識したそうだ。さとう自身に起こったことから発した一つの感情から生まれた人物になりきり、曲を書いたことで、より多彩な楽曲を生み出すことができた。また、先述したTENDERやSPENSR、ANATAKIKOUの松浦正樹などがアレンジャーとして参加し、時にはさとうもかバンドと共に本作を作り上げた。いずれもさとうが愛してやまないアーティストであり、「もし一緒にコラボできたら面白そう」と思い浮かんだことがきっかけである。その心情の変化も、外へとベクトルを向けるにあたり大きな一助になったであろう。
内にあった世界が外へと開き始めたことで、変幻自在なさとうの進化はさらに加速していく。だからこそ、さとうから目が離せない、離したくない。夏の一瞬を永遠のものにした本作は、これからも私たちリスナーの心にある夏の記憶と共鳴し続けるに違いない。
GLINTS
アーティスト:さとうもか
仕様:CD / デジタル
発売:2020年8月5日
価格:3,000円(税込)
収録曲
1.Glints
2.オレンジ
3.Poolside
4.愛ゆえに
5.パーマネント・マジック
6.Strawberry Milk Ships
7.あぶく
8.アイスのマンボ
9.My friend
10.ラムネにシガレット
Webサイト:https://satomoka.work br>
Twitter:https://twitter.com/rrw6sv br>
Instagram:https://www.instagram.com/_satomoka_/ br>
SoundCloud:https://soundcloud.com/satomoka
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宮城県出身。
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好きな写真家は奥山由之とソール・ライター。ラジオが好きで、ジングルとコールサインが特にツボ。よく書き、よく撮り、よく眠る。