俺の人生、三種の神器 -松原芽未 ③服を買う編-
▼俺の人生、三種の神器とは?
人生の転換期には、必ず何かしらきっかけとなる「人・もの・こと」があるはずです。そのきっかけって、その当時は気づけないけれども、振り返ると「あれが転機だった!」といったことはありませんか?そんな人生の転機についてアンテナ編集部で考えてみることにしました。それがこの「俺の人生、三種の神器」。
折角なのでもっとアンテナ編集部員ひとりひとりのことを知ってもらいたい!そんな気持ちも込めたコラムです。これから編集部員が毎週月曜日に当番制でコラムを更新していきます。どうぞお楽しみに!
古着屋さんとおしゃべりしていて、気づいたら1時間くらい経っていることがある。サッと見て帰ろうと思っていた少し前の自分はどこにいったのか、店員さんとかわいいお店の情報をシェアし合ったり、試着してあれこれ質問したり、なぜか焼き鳥をもらって食べたりしているうちに、楽しくなって長居してしまうのだ。でもそんな愉快な時間が好きで、暇ができると結局近所の古着屋さんをうろうろしている。
楽しい古着の世界
学生時代、友達に高円寺の古着屋さんに連れて行ってもらったことが古着との出会いだった。シルクよりコットン、シャツよりTシャツ、スカートよりパンツが多いけど、強いこだわりはない。かわいくて自分に似合うと思ったら買っている。
服のストーリーを知ることができるのが古着の面白さの一つだ。例えば、約20年前のフランスのポリスジャケット。反射板がついていたり、名前や組織のエンブレムをくっつけていたのだろうか、マジックテープの片側だけが縫い付けてあったりする。ミリタリーやワーク系の古着は、用途に応じたデザインになっていて、どういう使い方をしていたのか想像するのが楽しい。
ヘンテコなデザインの服に出会えるのもいい。例えば、80年代のリーバイス501をリメイクしたジーンズ。当時、素人の方が作業したらしく、裾の縫い方が独特で、ロールアップするとフリンジのようにフサフサしたほつれ糸が見える。狙ってデザインされたのではない、ちょっと間の抜けたふざけた服は、ばっちりキメるのが苦手な自分に合っていると思う。
店員さんとのおしゃべりはプライスレス
しかし、なんといっても一番楽しいのは店員さんのおしゃべりだ。国や年代、デザインのポイントなど、プロの皆さんは丁寧に教えてくれる。服の情報と一緒に、店員さん自身の話を聞けるともっとわくわくする。「それ、本当は僕が欲しかったけど、試着したら似合わなかったんですよね」とか、「夏はちょっと派手くらいの色の方がふざけた感じでかわいいなって思ってるんです」とか。ECサイトの[アイテム説明]欄には絶対に載らないような、店員さんの人柄がにじみ出る瞬間が好きだ。
そうやって選んだお気に入りを持ち帰ると、店員さんと話した時の楽しい気分を、着るたびに思い出すことができる。高価な服でなくても、自分にとって宝物の1着になる。だから、たくさんおしゃべりして買った服は何年経っても、どのお店でどんな会話をしてどの店員さんから買ったか覚えている。逆に、急いでいたり、あまり会話をせずにサクッと購入したものは、すぐどこで買ったか忘れてしまう。
人に教わる、人に伝える。服はその間にある
服を買ったらあとは一人で着るだけかというと、そうではない。迷惑なのはわかっている……わかっているんだけど、買うとすぐ周りの人に自慢してしまう。なにもそれを着ている自分を見てほしいわけではない。その服がどれだけ魅力的なのかを、つい他の人にも伝えたくなってしまうのだ。(いつも嫌な顔をせずに聞いてくれる関係者各位、本当にありがとうございます)。周りの人が着ている服も、素敵だと思ったらすぐ口に出してしまう。服について話すのが楽しいし、その人ならではのエピソードが聞けると嬉しくなる。
「ファッションは自己表現」と良く言うけれど、自分を表現するために服を買うのかと問われると素直に頷けない。もちろん自分の目で見て気に入ったものであることは前提として、私にとって重要なのは「他者」だ。店員さんに教わる。周りの人と話す。誰かと共有して楽しむ時間の真ん中に服がある。あくまでも服は機嫌よく過ごすためのアイテム。そして、服への愛着を補強するのは誰かとの体験なのだ。
さて、このコラムは最終回。3回分書いてわかったのは、誰かに教わるのが好きで、教わったらそれをほかの人にも言いたくなっちゃうってことだった。昔は人に話して終わりだったけど、今はライターという肩書がある。人と出会って、何かを教わって、その良さを他の人に伝える。そんなシンプルなことを、これからもやっていきたいと思う。記事を読んでくださったみなさん、ありがとうございました!
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WRITER
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千葉出身、東京在住の天然パーマ。いなたい古着と辛すぎないカレーを求めてうろうろしています。旅先で本屋さんと喫茶店に入りがち。ごはんをおいしそうに食べます。
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