ドラァグクイーンとコンテンポラリーダンサーが出会う時、なにが起こる?『SYNTHESE-DRAG meets CONTEMPORARY-』シモーヌ深雪、ゴーダ企画インタビュー
8名のドラァグクイーンと10名のコンテンポラリーダンサーがひとつの舞台で競演する『SYNTHESE-DRAG meets CONTEMPORARY-』が、2021年1月10日、京都芸術センターで開催される。公演を前に、本公演を企画した京都を拠点とするコレクティブカンパニーのゴーダ企画と、総合演出を務めるシャンソン歌手・ドラァグクイーンのシモーヌ深雪にインタビューを行い、この異色のコラボレーションが目指すものについて伺った。
アイキャッチ『SYNTHESE-DRAG meets CONTEMPORARY-』フライヤー表面
タイトルに掲げられている「SYNTHESE」(ジンテーゼ)。論理学において、テーゼ(正)とアンチテーゼ(反)を統一して矛盾を解決し調停するという意味を持つ言葉だ。
ドラァグクイーンが持つのは、過剰なまでの装飾を伴い自己をどう見せるかを突き詰める外向きのパワー。一方コンテンポラリーダンサーは、自己の身体性にストイックに向き合い表現に昇華する内向きのパワーを持つ。そんな相反する要素が「正」と「反」なのだろうか。そしてその矛盾はいったいどのように解決されるのか。
そんなことに考えを巡らせている私をよそに、「タイトルには特に意味はない」とシモーヌ深雪はさらりと言う。「小難しい人たちが勝手に何か考えてくれればいい」。そう言って微笑むのだ。もちろん、意味がないはずはない。だけどそんなふうに言ってしまえる、そういう気高さ、アイロニー、アンニュイさにしびれる。
しかし、ドラァグクイーンの魅力はそれだけではない。ゴーダ企画の合田有紀は「クイーンの好きなところは、最終的には愛で包んでくるところ」と語る。今回のインタビューで『SYNTESE』とはどんな舞台なのかを探っていくうちに、ギラギラしているのに仄暗いドラァグクイーンの世界の美しさに引き込まれていった。あなたもぜひ、その入り口に立ってみてほしい。
シモーヌ深雪/SIMONE FUKAYUKI (シャンソン歌手/DragQueen)
1980年代初頭から関西のインディーズシーンで活動を開始。全国のライブハウスやクラブ、劇場などでパフォーマンスを展開。怪奇と官能をこよなく愛し、「愛の不毛あるいはエログロナンセンス」を座右の銘とする。ゴージャスにして妖艶、退廃的魅力が溢れたシャンソンステージと、アヴァンギャルドと正統派レヴューが絶妙なバランスで混在するショーステージ、そのふたつを縦横無尽に行き来する、日本のアンダーグラウンドシーンを代表するパフォーマーのひとり。また、雑誌およびメディア媒体などでの映画や音楽、アート、フェティッシュ、BL(Boy’s Love)、ホラー/オカルトに関するコラムの執筆や、様々なゲストとのライブトークなども勢力的に行っている。代表するレギュラーイベントとしては、毎月第4もしくは最終金曜日に京都METROで開催される「DIAMONDS ARE FOREVER」で、DJ LaLa(山中透:ダムタイプ)と共にオーガナイズを努める。その他に「宝塚パリ祭」「CAMP -midnight movies-」などがある。
ゴーダ企画
コンテンポラリーダンサーの合田有紀と野村香子を中心として活動するコレクティブカンパニーであり企画団体。合田、野村共に京都を拠点とするダンスカンパニーMonochrome Circusの主要ダンサーとして約10年所属し国内外で多くの舞台経験を積んだ後、2017年よりカンパニーから独立。以降ゴーダ企画の活動に専念し、ワークショップやイベント、公演などの企画運営及び出演を主軸とし活動。その後、企画ごとに多分野の芸術家と共にチームを作成しコラボレーションを行う「コレクティブカンパニー」スタイルの活動を始動。
対等なレイヤーをひとつずつ重ね合わせる
練習場に足を運ぶと、出演者でもあるゴーダ企画の合田有紀と野村香子を含む3人のダンサーが稽古をしていた。ぴったりと息の合ったしなやかなダンス。しかし同時に、のびやかさ、丁寧さ、力強さと三者三様の形容が当てはまる動きには、それぞれの身体性の微妙な差異が美しく反映されていた。
合田は、今回の公演を作り上げるに当たってシモーヌ深雪から最初に言われた言葉をこう振り返る。「たとえクイーンがいなかったとしても、ダンサーだけで成立するように、見せきれるように作っていってほしいと言われたんです」。たしかに、視覚的に目立つクイーンが同じ舞台上にいることで、コンテンポラリーダンサーがバックダンサーのように見えてしまう可能性もある。そうならずにあくまで対等にすべての要素が交わるよう、ここまで試行錯誤を積み重ねてきたという。
「公演を作り上げるレイヤーが何個もあるうちの一つに、クイーンがいて、ダンサーがいて、照明、音楽、衣装もある。そうやって、アニメのセル画みたいに何層も重なりあって一つの絵になるような、そういうふうに舞台を作っていくっていう意識でいます」
清潔なコンテンポラリーダンサーと、不潔なドラァグクイーン
シモーヌ深雪が語る「一緒にやるからにはやっぱり、コラボレーションというよりはファイティングとかバトルをしたいじゃないですか」という言葉からも、クイーンとダンサーが対等であることを重要視していることが伺える。
しかし、2つの異なるものを対等な立場で組み合わせることには相当な困難が伴うものだ。「コンテンポラリーダンスもドラァグクイーンのショーも、エンターテイメントとして似たようなところがあるものだと思っていたんですけれど、やっていくうちにかなり違うということがわかってきて。それをどう結びつけるか、今でも苦労しています」
コンテンポラリーダンスには、クラシックバレエ、モダンバレエを経て成立したという歴史もある。「大元となっているものがやっぱりどこか高尚というかストイックなものとして受容されているので、そういう呪縛がついているんですね。一言で言うと清潔なんです。じゃあドラァグクイーンはというと、とても不潔だということを再認識して。今まで周りを見てもドラァグクイーンだらけなので、どれくらい不潔かわからなかった。清潔な人が目の前に現れると、いかに私たちがダーティというか汚れているかということを認識できました。不潔の上に不潔を重ねてさらに不潔で装飾するのがドラァグクイーンなので。エンターテイメントのマイノリティの中でもさらに特殊なんです」
ドラァグクイーンの「不潔さ」とは、もちろん物理的なものではない。不条理や不謹慎、意味不明さといった、「常識的」な世界で切り捨てられがちなものにこそ意味を見出し、愛し、表現するアティチュードのことだ。「でもそれはその付加価値をわかる人たちだけに通じる記号であって、やみくもに街中でわーっとやっても理解もされないし評価もされない。やっぱりクラブで、かつドラァグクイーンパーティーっていうとても限定された中での刺激なんですね。そこにはいわゆる共犯関係があるんですが、そこにコンテンポラリーの清潔な人たちが入ってきたときにどう汚すかというのがすごく難しくて、それは今でも悩んでいるところです。ちょっと汚れてきたかな、ほんとにちょっとだけ」
バンドのライブみたいに、本番の現場で作るおもしろさを生かしたい
一般的なダンスの公演では、リハーサルと本番がほぼ同じ、あらかじめ決められたとおりのパフォーマンスをきっちり行うことが前提となっていることが多い。しかし『SYNTHESE』では異なるとシモーヌ深雪は語る。
「私は今回の舞台はバンドのライブみたいな感じだと思っていて。パフォーマーも音響も照明もその時のいわゆる自分のセンスでやってもらおうと思っているんです。大枠は決まってはいるんですけれど、例えばバンドのライブならギターのソロで単音を弾くところをちょっとトレモロにしてみようとか、そういうことをアリにしています。それが功を奏するかしないかはやってみないとわからないんですけれど、そういう面白さ、現場で作るおもしろさでなにか化学反応が起こるかなと思っていて。もしかしたら昼公演を見た人と夜公演を見た人で印象が違うというようなこともあるかもしれない」
そんなアドリブを活かしたパフォーマンスも、ドラァグクイーンならでは。「クイーンって勝手に動くんですよ。こうしてって言っといても本番で違う動きをするとか」。公演の組み立て方も、音楽を最初に決め、そこを起点に曲の世界観をどう解釈して表現するか考えていくというドラァグクイーン流だ。「私は私のやり方でしかできないので、『それでもいいの?』とゴーダ企画の2人に聞いたら、『それでいいんです』と返ってきたから」
この公演をとにかくやりたくて、いてもたってもいられなかった
ゴーダ企画は、そもそもなぜこの企画を立ち上げたのだろうか。そこにはドラァグクイーンたちの愛への敬意と共鳴、そして90年代への憧れとその次世代としての思いがあった。「『DIAMONDS ARE FOREVER』には僕も香子も何度も参加していて、影響を受け続けています。パーティーの最後の時間、そこで必ず“愛の時間”になる。人類愛的な、そういう空気が漂うんですね。その時間は何回か泣いてしまうくらいすごくて。それが毎月ですよ、30年間も。しかもダイヤモンドっていうそんなに世の中では有名じゃないところで起こっている。その切なさもすごくいいなと思います」
「90年代のエネルギーを自分の体で味わうことは、これから京都の舞台芸術をやっていく中で絶対避けて通ってはならないことだと思っていて。今後、自分たちがうねりを作ったり社会に向かって何かを投げかけたりする時に、90年代を経験した人から近い距離でエネルギーを全部吸いとるじゃないですけど、そういうことが大事だと。それがないと絶対何もできないというわけじゃないかもしれないけど、自分たちはそれを踏まえていたい。……まぁ全部後付けなんですけどね(笑)。なんせいてもたってもいられなくて。これをやることは相当大事だと思ってやっています」
90年代への憧れが根底にありつつも、それは過去を懐かしむノスタルジーとは別物だ。「おもしろいのが、この人たちはまったく過去の人ではないんです。常に今の人なんです。シモーヌ深雪も毎日更新されていっている。パフォーマンスだけでは語れない裏にあるそういう部分も、ものすごく勉強になる。お客さんも出演者も、いろんな人がいろんなことを繫げて気づくきっかけになる、そんな要素がすごく多い公演になる気がします」
SYNTHESE-DRAG meets CONTEMPORARY-
日時 | 2021年1月10日(日) |
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会場 | 京都芸術センター 講堂 |
WRITER
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ライターや編集を中心にいろいろやっているフリーランス。大阪市在住。蚕とクミンが好き。京大総合人間学部卒の人間性フェチ。
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Twitter: @kekkaohrai