COLUMN

俺の人生、三種の神器 -新原なりか ①コントラバス編-

OTHER 2020.04.27 Written By 新原 なりか

▼俺の人生、三種の神器とは?

人生の転換期には、必ず何かしらきっかけとなる「人・もの・こと」があるはずです。そのきっかけって、その当時は気づけないけれども、振り返ると「あれが転機だった!」といったことはありませんか?そんな人生の転機についてアンテナ編集部で考えてみることにしました。それがこの「俺の人生、三種の神器」。

折角なのでもっとアンテナ編集部員ひとりひとりのことを知ってもらいたい!そんな気持ちも込めたコラムです。これから編集部員が毎週月曜日に当番制でコラムを更新していきます。どうぞお楽しみに!

物心ついた時から、音楽はなんとなく好きだった。小学1年生からピアノを習っていたので、演奏する楽しさもなんとなく知っていた。でもその”なんとなく”が心からの喜びに変わったのは、コントラバスという楽器に出会ってからだ。私の人生の「三種の神器」、1つめはコントラバスで間違いない。

不本意な運命の出会い

コントラバス、ウッドベース、ダブルベース、ストリングベース(弦バス)…… これらの名前はすべて同じ楽器を指している。バイオリン属の弦楽器の中で一番低い音を奏でることができ、形はバイオリンに似ているが高さが2メートルほどあるため、立ち姿勢で演奏するこの楽器。楽器自体の大きさのわりにその低い音はあまり目立たないが、クラシックやジャズをはじめ様々なジャンルの音楽に欠かせない存在だ。冒頭に挙げたような数々の呼び方は、どれだけ多種多様なシーンでこの楽器が使用されるかをそのまま表していると言えるだろう。

私は“コントラバス”という名前でこの楽器に出会った。中学生になってしばらくたった頃、管弦楽部の体験入部でのことだ。中学校や高校に吹奏楽部があるところは多いが、私の通っていた学校にあったのはクラシック音楽を主に演奏するオーケストラ=管弦楽部だった。

 

友達と2人で部室に向かった私は、バイオリンかビオラを弾いてみるつもりでいた。しかしそのポジションはすでに他の新入生で埋まっていて、弦楽器で残っていたのはチェロとコントラバス。今となってみれば偶然っておそろしいなと思うが、その時一緒にいた友達が私と比べて小柄だったというそれだけの理由で、彼女がチェロ、私がコントラバスを体験することになった。

 

不本意な結果に少しがっかりしつつ、先輩の手ほどきを受けてコントラバスを構える。あれ、なんかこの大きさ安心するな……。そして弓を持って弦に当て動かしてみる。わ!音が出た! その瞬間、私はそれまで存在すら認識していなかったこの楽器の虜になった。深みのある重低音、弦が大きく震える感覚。なにこれめっちゃ楽しい! 即コントラバス担当として入部することを決めた。

ひとりでは気づけなかった、音楽の喜び

しびれるような体験はこの後も続く。それは初めて合奏に参加した時のこと。曲はヨハン・シュトラウス作曲のワルツ「美しく青きドナウ」だった。三拍子のワルツのリズムの頭の一拍を刻むのがコントラバスの役割。自分の出す音が初めて他の楽器と合わさった時、個人練習をしていた時にはわからなかったこの楽器を演奏する喜びがわーっと体を駆け巡った。広がりのある低音がオーケストラ全体の和音の基盤を支えている。自分の奏でるリズムが音楽の推進力を生み出している。そんな実感を得ながらみんなで演奏するのはひとりの時に比べて何倍も楽しかった。

バイオリンのように目立つメロディーを奏でることはほとんどないし、低く響く音色は意識しなければはっきり聞こえることすらないけれど、絶対になくてはならない存在。“オーケストラは指揮者がいなくても演奏できるが、コントラバスがいなかったら演奏できない”という言葉を聞いたことがあるが、これは半分冗談で半分本当だと思う。

 

この楽器を演奏する喜びは尽きることなく、私は中高一貫校で過ごした6年間コントラバスを弾き続けた。特に高2の時には部長を務め、演奏だけでなく部を引っ張ることにも奮闘した。

コントラバスから“ウッドベース”へ

卒業して大学生になり、どんなサークルに入ろうかと考えた時、大好きなコントラバスで別のジャンルの音楽をやってみようと思った。そこでジャズの演奏形態のひとつであるビッグバンドの新歓ライブを観に行った。ビッグバンドは、丁寧に淡々と名曲を再現するオーケストラとはまた全然違う魅力があり、メンバーの個性を存分に発揮しながらの演奏はとにかく楽しそうで、一目見てすぐに加わりたくなった。

 

いざビッグバンドに入ってみると、そこでコントラバスは“ウッドベース”と呼ばれていた。同じ楽器なのに呼び方も違えば奏法もバンドでの役割も違う。クラシックでは主に弓を使って演奏するが、ジャズでは指で弦をはじく奏法が基本。また、ジャズではリズム楽器としての性格がより強く、指揮者のいないバンドを四分音符のリズムでコントロールするような役割も担っている。改めてこの楽器の奥深さに夢中になった。

 

私の所属したビッグバンドは軽音楽部に属していて、そこにはジャズやロックを中心に様々なジャンルの音楽を演奏する部員が集まっていた。私もビッグバンドだけでなく、より小編成のジャズコンボを組んだり即興で演奏するセッションをやったり、エレキベースに持ち替えてロックやポップスのバンドで演奏したり、ベースではなくシンセサイザーとコーラスでインディーポップバンドに加わったりと、いろいろな音楽を演奏した。ライブもたくさんやって聴きにも行って、録音してCDを作ったりもして、大学4年間は音楽一色で過ぎていった。

偶然の出会いが開いた音楽の扉

大学を卒業してからは楽器はあまり弾けていないけれど、iPhoneのGarageBandでちまちまと曲を作ったりしている。これも軽音楽部で出会った人たちの影響を受けてやり始めたことだから、もとを辿ればコントラバスからつながっているといえるだろう。コントラバスとの偶然の出会いが、こんなに様々なジャンルの音楽への扉を開いてくれたことを考えると、本当に人生っておもしろいなと思う。

 

今年、ひさしぶりに母校の管弦楽部の定期演奏会にOGとして出演することを決めた。曲目はいつか演奏したいと思っていた、大好きなドヴォルザークの交響曲第9番「新世界より」。届いた楽譜を眺めながら曲を聴いていると、自分の出す音を基盤にオーケストラの演奏が組み立てられていくぞくぞくするような感覚を思い出し、血が騒いだ。残念ながらコロナウイルスの影響で演奏会は中止になってしまったが、いつか絶対リベンジする。その時は、いろいろな経験を経た今の私だからこそできる最高の演奏をしたい。音楽を奏でることの本当の喜びを教えてくれたコントラバスへの大きな愛を込めて。

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