COLUMN

俺の人生、三種の神器 -辛川 光 ①野球編-

OTHER 2020.04.20 Written By 辛川 光

▼俺の人生、三種の神器とは?

人生の転換期には、必ず何かしらきっかけとなる「人・もの・こと」があるはずです。そのきっかけって、その当時は気づけないけれども、振り返ると「あれが転機だった!」といったことはありませんか?そんな人生の転機についてアンテナ編集部で考えてみることにしました。それがこの「俺の人生、三種の神器」。

折角なのでもっとアンテナ編集部員ひとりひとりのことを知ってもらいたい!そんな気持ちも込めたコラムです。これから編集部員が毎週月曜日に当番制でコラムを更新していきます。どうぞお楽しみに!

小さい頃、地元の野球チームに所属し野球をしていた。ポジジョンは主にセンターを守り、貴重な左投げということもあったので投手を担当することもあった。野球に関する思い出は無数にある。色濃く残っているのは、チームメイトと春夏秋冬、同じ時間を過ごし練習に明け暮れたこと。実際のプレー以外でも阪神タイガース18年ぶりの優勝を見守り母親と涙を流したこと、パワプロのサクセスでキャラクターにケガをさせ、野球人生を終わらせたことなど、少年時代の生活の中心は常に野球であった。

 

どちらかというと失敗体験が多かった野球人生だが、三種の神器の1つに数えるに至った要素が2つある。「物事を知ることが好きになったこと」と、「トンネル」をしたことだ。私の「三種の神器」の話は野球から始めるとしよう。

「知ること」が好きになる

背の小さい順から並ぶ全校集会。忘れもしない、私は前から3番目だった。小柄でも輝いているスポーツ選手はいる。しかし当時、己の非力さと才能の無さを痛感し、嘆いていた私はトレーニングよりも野球について「知ること」に没頭する。野球を「すること」も好きだったが野球を「知ること」のほうが好きになっていたのだ。野球に関する情報は徹底的に調べ上げ、特に阪神タイガースに関しては、各選手の出身高校など周辺情報までをも暗記していた。そのリサーチは当時の全プロ野球チーム選手、野球の台頭を支えてきた偉人にまで及び、野球漫画やゲームなどから得た情報も相まって、情報のかたまりは段々と巨大化していった。

 

野球についての情報を収集していったことは間違いなく現在、音楽をつくり、ライターとして活動している私の「知ること」の原点である。中学校で野球を辞めた私は、音楽を能動的に聴くようになる。「知らないよりは知っている方が好きな物事を色々な方向から眺め、もっと親しめるようになる」という考えも新たに持った。

 

家族でプロ野球の試合を観戦するために野球場へ何度も足を運んだ。いつも球場が持つ雰囲気や整備された芝生などを見て、泣きそうになったものである。野球場の魅力に取り憑かれた私は、全国の野球場が載っている『球場物語』という本を買ってもらった。その本から甲子園球場の黒土は数種類の土が混ぜられ、私の地元、鳥取県の大山という山の土も使われていることを知る。野球場に焦点を当てた本でも、かつての名選手がプレーしたことや現存するチームの元ホーム球場だったことなど、「場所と人」や「場所と歴史」が繋がることにも気づいた。

 

野球という競技ひとつにしても長い歴史の中で蓄積された情報は無限にあり、すべてのことを知ることは到底できない。物事の主題を大きな木だとすると、それに関する副題は木の枝となっている。枝に焦点を当てるとそこにも無数の情報が存在しているが、いくらか範囲が絞られ、欲しい情報をスムーズに得やすくなる。「鍛冶は鍛冶屋」というように、野球場にも野球場のことが大好きな人達がまとめた書籍などが既に存在しているのだ。音楽においては「楽しい曲をつくりたい!」と思い立った時、曲の方向性を定めると「楽しい曲」は既に先人アーティストが無数につくっており、参考にすることができる。何かを調べる際に自分がなにを求めているのか、どの枝を調べればよいのかという「方向性の決定」が大切ということに気付いた。

 

「知ること」の原点である野球は私に、情報は大きな木とそこに生えている枝で成り立っているということ、そして枝に焦点を当てたとしても枝は木の一部なのだから、木全体のことも学ぶことができるのだということも教えてくれた。

トンネルをしたときの出来事

野球のトンネルをご存知だろうか。野手が転がってきたボールをキャッチできず、股の下に通してしまうミスのことを指す用語なのだが、とある試合でこれをやった。外野を守っていた私は向かってきたボールをトンネルし、ボールは無情にも後ろへと転がっていった。トンネルについて解説する動画があったら間違いなくそのときの私の映像が適しているであろう。ボールを追いかけるとき、思考が目まぐるしく働き、数メートルの距離を何百もの言葉を生成しながら何十分間も走ったような気がした。このエラーが語り継がれることになるという羞恥心と、もっと練習をしておけば防げたかもしれないという後悔などが脳内を駆け巡った。

 

私の予想に反して、この失敗は他人にとっては大したことではなかったのか、すぐに皆の記憶から消えた。一つの行動により注目を浴び、羨望、あるいは嘲笑の眼差しが自分に向けられることがあるが一つの成功、失敗で注目を浴びても一時的なものであり、次第に薄れていく。そんなこともトンネルは教えてくれた。「失敗を避けるためには失敗を経験すべきなんだ。失敗したことから目を背けず、相応の努力をして成功へと繋げよう」と決意し、それまで作業としてこなすことが多かった普段の練習も目的を持って積極的に行うようになった。

 

今でも少し傾向があるのだが、少年時代はなにかと言い訳をつくり行動に移せない人間であった。「石橋を叩いて渡る」ということわざがあるが、私は目標達成に繋がる「石橋」を渡らずにただ傍観していた。しかし強烈な失敗体験から「石橋を渡る」ようになれたのだった。野球を知ることを好きになったのだからうまくなる方法をもっと調べ、実践していたら技術が向上し、野球を続けていたかもしれないがその場合、音楽に出会っていなかったかもしれない。人生においてなにかを辞め、なにかを始めるという分岐点は不思議なものである。

 

現在、音楽に深く関わっている私の石橋を渡り方は「駆け抜ける」か「四つん這いになるか」になっているのだが、そのことについてはまた残る2つの神器にて説明したい。

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