【安尾日向が見たボロフェスタ2017 / Day3】ストロベリーパンティース / yahyel / シャムキャッツ / 大森靖子
ストロベリーパンティース
土俵型のステージの上で男臭い円陣を組んでいる野郎たち。京都発、コミック・ヒップホップバンド、ストロベリーパンティースの登場だ。それぞれにMPCなどのマシンを操る、BINGOとジャッキーゲンの息のあったサウンドが空気を震わせる。尻込みしてなかなか前に詰めない観客たちに向かって、ビートに乗りながら「よっ、てらっしゃい見てらっ、テケテヨゥ!」とMC歩歩が詰め寄る。一曲目”よってらっしゃい”だ。その熱にロビーにいた観客たちは引き寄せられる。「やっと念願のボロフェスタにやってきたぜ、ストロベリーパンティース!」と高らかに叫ぶ声に、客席には「お、なんかめっちゃオモロイこと始まりそう」というニヤケ顔が増えていく。
続く”一心不乱”の途中では、MC歩歩が「ちょ、おんぶして」と、もう1人のメンバー、マネージャーのゆーじの背中に立ち上がり、「ああーーっ!」と言いながら落ちる。「おんぶじゃないんかい!」と心の総ツッコミが入ったこと間違いなし。気づいたら彼らに目が釘付けになっている自分に気づく。MC歩歩「今日の雨も、目の前の壁もぶっつぶすガッツがある人はどれくらいいますか」、会場「いえーーーい!」とすっかりどすこいステージは彼らのものだ。観客を巻き込む力、引き込む力がケタ違いだ。その後も会場の空気と一体になりながら、アツいビートとラップが繰り広げられる。紙吹雪あり、胴上げあり、上裸ありのなんでもあり!アルコールとボロフェスタをお題に披露したフリースタイルでボロフェスタへの感謝を語る姿に否応もなくアガる! ラスト、”お前はもう”で「今日の楽しんだもんランキング第1位」が発表される。「あなた、あなた、あなた、あなた、あ、あーたたたたたたたた…… お前らはもう、楽しんでいる」いやそういうことかーい! いやいや、何をおっしゃいますか、今日の楽しませたもんランキング第1位は、ストロベリーパンティースに決まりでしょう。
(写真:岡安いつ美)
yahyel
ドラムとボーカル、そして並ぶ3台のPC。プテラノドンステージ上方に大きく映し出される古代文字のようなバンドロゴ。明らかにこれまでのボロフェスタとは違う空気が漂い始める。そう、VJ(ビデオジョッキー)をメンバーに有する、yahyelのステージが始まるのだ。映し出されるのは、爆発、X線、ピラミッド、宇宙人、幾何学模様……。劇的で美しい色と強烈な光、怪しいモチーフにぞわぞわさせられる。「いったい何が始まるのか」と後方から前方へ、どんどん人が集まってくる。
一曲目”Kill Them All”から彼らの異邦人、いや異星人的なパフォーマンスが鮮烈な刺激として飛び込んでくる。重たいビートと無機質な電子音、そしてそれらに肉体感を与える生ドラムの音。ズシンズシンと体の芯に響く。頭によぎるのは今年公開された映画『メッセージ』の世界だ。地球外生命体との接触の物語だが、まさにyahyelからもたらされるのはその未知との遭遇のスリルだった。SF、ディストピアへの入り口を目の当たりにしたような。そしてそんな世界へと観客を導くのは、間違いなくVo.池貝のエフェクトの効いた高音ヴォーカルだ。高いのにズシンとくる凄みがある。映像が音の色や温度、ビートを伝え、音楽が映像に意味を待たせる。その双方向的な溶け合いを、こんなにも感覚的に体感できるなんて。
YouTubeにMVの上がっている”Rude”、”Iron”、”Once”も披露された圧巻のアクトとなった。気になった人はとにかく一度MVを見てみることをお勧めする。そこにはきっと、新たな体験がある。
(写真:益戸優)
シャムキャッツ
夜も更け、いよいよ今年のボロフェスタも終わりが近づいている。プテラノドンステージに最後に登場したのは、東京を拠点とする4人組バンド、シャムキャッツである。一曲目は優しく重なるコーラスが中心に置かれた”Coyote”。<台所で茶碗を洗うとき思う>や<友達を誘って / 下世話な話をする>という生活感のある日常の風景から、失ってしまったものへの強がりのような愛を歌った曲だ。そこに描かれた風景は僕のものではないけれど、なんだかかいだことのある匂いがするような懐かしさをVo.夏目の歌声から感じる。
続く二曲目はボーカルをGt.菅原にチェンジし、”Four O’clock Flower”。<春の風が伸びすぎた 前髪の長さを教える>というフレーズから始まるこの曲。良すぎるでしょ。短いワードから浮かぶ情景の彩度が高い。Gt.菅原のネイキッドなファルセットが吹き渡る。
MCでは、ライブ前にモグラ氏に間違えて初登場と紹介されたことを受け、「もう3回目なんだけどね。全然覚えられてないね(笑)でもいいか、若手っぽい感じが出るし初登場ってことで!」と笑いを誘う。自ら「ヒット曲」と触れ込んでプレイされた名曲”MODELS”で完全に観客は心を掴まれ、夢見るように踊る人が増えていく。さらに”渚”、”Hope”と、どの曲も歌の言葉がすっと入ってきて体の中で膨らむ。そのふくよかさな暖かさが彼らの魅力なのだろう。
(写真:益戸優)
大森靖子
さあボロフェスタ2017もこれで終わり。3回目の出場でついにマンモスステージ、しかも大トリを務めるのは、大森靖子! ど真ん中に花々で装飾されたピンク色の十字架と銅鑼がそびえ立つステージに、真っ白いドレスとベールを纏った彼女が登場する。彼女が一声「感情のステージに上がってこい!」と叫ぶと会場は一気に彼女のモードになる。
一曲目は”ドグマ・マグマ”。カワイイポップと賛美歌とハードロックを行ったり来たりする目まぐるしい展開と、「神様」をモチーフとした歌詞の世界観に圧倒される。惜しげも無くスタートから全開の神々しいステンドグラスと彼女のいでたちがあまりにもマッチしすぎていて、神聖さすら感じられるほど。激しく銅鑼を叩きながら、無限に使い分けられる声色、歌の表現。「これが大森靖子か……!!」と初見の筆者は完全になすすべもなく飲み込まれる。その後も神聖かまってちゃんのの子とのコラボ曲”非国民的ヒーロー”、凛として時雨のTKとのコラボ曲”draw (A) drow”と怒涛のパフォーマンスが続く。著名なクリエイターたちも彼女の表現に魅了されていることの証だ。
そして、なんといっても”M”がすごかった。とあるAV女優から届いた手紙をもとに書いた切実な独白曲である。衝撃的な歌詞と、「演者」としての彼女の歌に息を飲む。キーボードによる伴奏のみでパフォーマンスされるが、曲の終盤<強く強く生きるのは どうしようもなく恥ずかしい>というフレーズがアカペラ、マイク無しの生声で歌われた。見ていて心配になるくらい、彼女は心を、魂を削りながら歌っているのが痛いほど伝わってくる。この曲の持つ力、言葉の厚みが凄まじすぎて、彼女にもコントロールできない、そういうふうにさえ見えた。
”マジックミラー”で大森靖子は<あたしのゆめは/君が蹴散らしたブサイクでボロボロのLIFEを/掻き集めて大きな鏡をつくること>と歌う。強い言葉で彼女が歌うのは、そういうことなのだと思い知らされる。この曲の最後で少し見えた彼女の笑顔に救われる。
本編ラストは”音楽を捨てよ、そして音楽へ”。<音楽は魔法ではない>と辛そうに繰り返し歌い、観客にもそれを促す。僕は歌った。口にしてみるとなんとも不思議な気分になる。だって、彼女がそう思ってるとは、どうしたって思えないから。そして最後の最後に彼女はこう言う。<でも、音楽は>……。その先はわからない。だけど、わかる。彼女の姿全てがその答えだと、思った。
「あなたがあなたのことをどんなに醜く思っても、あなたたち一人ひとりの人生は、美しいです」と言い残して去っていった彼女に追いすがるようにアンコールが求められる。そして1人で帰ってきてくれた彼女は、音楽への愛を話し、アカペラで”さようなら”を披露した。最後に<わたしはまだ歩ける>と歌い、「明日からも頑張っていきましょう。ありがとう。気をつけて帰ってね」という言葉を残していった。これでボロフェスタ2017は終わり。でも、僕の中には終わらない何かが残されていった。
(写真:yuki kimura)
WRITER
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1997年生まれの大学生ライター。
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丸眼鏡がトレードマークだが編集長と被っている。
ブログ「九六フィートの高さから」では、かっこわるいことをかっこつけて書いておりますが、別にかっこついてないです。