【SXSW2018】未成年でもSXSWは満喫できるのか!?
絶望から始めよう
上の写真をご覧いただきたい。両手の甲にこれでもかというほどわかりやすく大きなバッテンを描かれて、苦悶とも怒りとも見える表情を浮かべているのは、他でもない僕である。ではなぜ僕はこのような姿になったのか?話はそこから始めようと思う。
僕は1997年生まれの20歳である。昨年成人した。お酒も飲めるようになり、ほろ酔い気分でライブを見ることの楽しさももう知っている。
だからアメリカでもたくさんのライブを見ながら現地のお酒を飲んで楽しもうと思っていた。だがそれは叶わぬ夢、それどころか予定を狂わす大きな障壁であったことを知るのである……。
そう、ご存知の方もいるであろう。アメリカでは飲酒は21歳からなのである!
恥ずかしながら知らなかった。もしかしたら聞いたことはあったような気もするが、都合よく忘れていた。アメリカではほぼ未成年扱いだったとは。海外の方がそういうことはゆるいイメージがあったが、アメリカはそうではないようだ。飲酒は21歳から、路上飲酒・路上喫煙は厳禁。お酒の瓶をストリートで持ち歩いているだけでもポリスに声をかけられるらしい(カバンや袋に入れていなければならない)。
なるほどそうか、それは仕方ない。残念だが、お酒が飲めないくらいは我慢してやろう。
……ところがどっこい、僕の前に立ちはだかった壁はそれだけではなかったのだ。
SXSWのライブ会場の多くはパブや飲み屋に併設されたステージである。まさにお酒を飲みながら音楽を聴くための場所だ。それはつまり、お酒を飲むことが前提とされているといっても過言ではないのだ。その結果なにが起きるか。……21歳未満は入れてくれないのだ!
会場の入り口では必ずと言っていいほど、パスポートの提示を求められ、年齢確認が行われる。これは21歳未満をあぶり出し、爪弾きにするための厳戒態勢だ。そこで21歳未満だと見つかれば入れてくれないところもあるし、入れてくれるとしてもある処置をなされる。そう、それが冒頭の写真のバッテンである。あれは「こいつにお酒出しちゃダメよ」マークなのである!入れてくれるのはとてもありがたいことだが、やはり少しの屈辱を感じる。
でもそういえば……。
SXSW公式のショーケースはサイトで丁寧に詳細が書かれている。そこに「21+」という文字がよく見られたことを思い出した。あれは21歳以上のみ可ということを表したものだったのだとようやく理解した。迂闊だった。せっせと立てた計画が崩れ落ちる音が聞こえた。
しかし、もう祭りは始まっている。落ち込んでいる暇はない。
SXSW期間中は昼間に開かれているイベントもたくさんある。年齢制限がないものが多い。こうなったら昼間だけでSXSWを満喫してやろうじゃないか!
前置きが長くなってしまったが、この記事ではSXSWを昼間に満喫するための方法を紹介したいと思う。前半はSXSWが公式で企画しているショーケースやイベントから、後半はアンオフィシャルに開催されているイベントから、それぞれイチオシを紹介する。
ライブは夕方から深夜にかけてが主として行われているが、「夜はしんどいな」「夜の海外は怖いな」という方や未成年でもSXSWは楽しめるということをお伝えしたい。
自分好みのイベントの探し方
SXSW期間中は、公式だけでなくアンオフィシャルなイベントが無数に開かれている。大きなものから小さなものまで、本当に数えたらきりがない。その中から自分好みのものをどうやって見つけるかが勝負だ。
オフィシャルのイベントはSXSW公式サイト、または公式アプリから探すことができる。日付、アーティスト名、会場名それぞれから調べることができるので便利。アカウントを作れば、気になったアーティストやイベントをお気に入り登録し、一覧することができる。
アンオフィシャルのイベントの情報は取り扱うサイトが多数存在するが、ただただ羅列されているものもあってわかりにくくて僕はうまく使えなかった。
僕がお勧めする方法は、Facebookからたどる方法である。まずはSXSWに出演する自分の好きなアーティストのFacebookのページからイベントのスケジュールを確認したり、アーティスト名で検索してみる。「SXSW」という文字列をともに打ち込むとより効果的だ。するときっとそのアーティストが出演するイベントが見つかるだろう。それに参加するもよし、そのイベントのページから関連リンクで出てくる他のイベントをチェックすれば、似たような系統のイベントをかなり網羅することができる。これが一番簡単な方法ではないだろうか。
オフィシャルイベント
まずはSXSW本部が置かれるコンベンションセンターで行われる公式イベントから!
Radio Day Stage & International Day Stage
コンベンションセンターでは1階はもちろん上階でもさまざまなイベントや講演が行われている。
Radio Day Stageはラジオ局がスポンサーとなり開催されており、SXSWの中で、実は一番大きい屋内ステージで行われている。過去にはSpoonやChvrches、White Denimなどがここでパフォーマンスをしている。バーコーナーでお酒も販売しているほか、たくさんの椅子と一人がけのソファまで用意されており、ゆったりとライブを楽しむことができる。
そのとなり、International Day Stageには、その名の通り世界各国のアーティストが立つ。ここに来ればあらゆる国のあらゆるジャンルの音楽を楽しむことができるわけだ。ただし会場には人数制限があり、中は余裕があるのに誰かが出ないと入れない状況になることだけは注意。ここには今年、日本からはyahyelが出演。個人的にはカナダのCorridorが超カッコよくて印象に残っている。
カナダの4ピースバンド、Corridor(コリダー)。Noiseyというメディアでthe Best French Record of 2017と評されるなど評価も高いバンドである。
無骨でタイトなビートと固い高音のギターリフが男らしい。同じフレーズ、同じコード進行の繰り返しの中でジリジリと展開していく。メロディーは抑制の効いていて、歌よりも演奏で魅せるバンドなのだということがひしひしと感じられる。演奏する姿も非常にクール。真夜中の高速道路をドライブをしながら聴きたい。
Flatstock 65 & SXSW Marketplace
コンベンションセンター1階のメイン会場では、前半期はTRADE SHOWというビジネスのショーケースが開かれており、後半期はアーティストのアートワークのポスターが多数展示されたFlatstock 65と、地元オースティンのメーカーやその他あらゆるところから集まったお店のグッズを買うことができるMarketplaceが開催されている。
「あのアルバムのジャケットが好き!」「あのバンドのあの年のツアーのポスターが最高にクール!」みたいなことを思ったことがある人は多いだろう。Flatstock 65でなら、あなたのお気に入りのアートワークを実際に見て、ものによれば購入することだって可能だ。グラフィック大好きな僕も物欲を無尽蔵に刺激されたが、持ち帰りのことも考えやむなく断念。次はなんとかして買いたい。
Marketplaceでは音楽に関係ない品物もたくさん販売されている。お土産に困ればここに来れば間違いないだろう。少しお値段ははるかもしれないが。
もちろんここでも音楽を楽しむことができる。会場の一角に設置されたライブスペースには、座り心地の良いソファも設置されており、贅沢なくつろぎスペースとなっている。
Outdoor Stage
コンベンションセンターを飛び出して南下、コロラド川を越えたところにある広大な公園に、SXSW公式の巨大アウトドアステージが設置されており、SXSW最大のステージとなっている。ここではベテランやビッグネームがパフォーマンスを行うほか、無料のイベント、フードやドリンクの出店も多くあり、まさにフェスと行った風景。日が暮れるにつれ人の数もどんどん増えていき、最終的には歩くのも困難なほどの混雑を見せていた。
Caamp、Albert Hammond Jr、Shakey Graves、Nathaniel Rateliff & The Night Sweatsを見た。Shakey Gravesは弾き語りしながら足でバスドラとタンバリンを鳴らすパフォーマンスが圧倒的で感動した。今年のフジロックに出演決定しているNathaniel Rateliff & The Night Sweatsは貫禄がすごい。あんなにかっこいいデブのおっさんいるのか。老若男女問わず笑顔で踊っていた。
アンオフィシャルイベント
次はSXSW期間中にたくさん開催されている非公式のデイパーティーからオススメのものをいくつか紹介しようと思う。
Waterloo Records Day Party
オースティンの定番お買い物スポット、Whole Foods Marketの斜め前に店を構えるレコードショップ、Waterloo Records。かわいいロゴが目を引くこの店の駐車場スペースでもデイパーティーが4日間行われる。SXSWのバッヂかリストバンドがあれば、もちろん入場無料! ラインナップも豪華。僕は参加していないが、特に3日目はすごかったようだ。なにせ今年のミュージック部門のアワードを取ったStarcrawlerとJade Birdが両方出ていたほか、日本でも話題だったShameなんかも名前を連ねていた。
僕はスケジュールの関係上、初日トップバッターしか見られていないが、4日間ここに来るだけでも注目のアーティストは網羅できるのではないだろうか。
スペインはマドリードからやってきた4人組ガールズバンド、HINDS(ハインズ)がWaterloo Records Day Partyのトップバッターとして登場。
SEに合わせて踊りながらステージに上がる彼女たちに、観客の表情はほころぶ。ベースの機材トラブルでなかなかアクトを始められなくなってしまうなか、それでも彼女たちは自分たちのペースを崩さない。そんなときは、そう、踊れば良いのだ。
ようやく始まった演奏は、イメージにぴったりな自由でゆるいインディーロック。テンポも展開も自由気ままで陽気だ。
最後の曲が飛び抜けて良かったけれど、タイトルがわからなかったのが残念。
AdHoc Unofficial SXSW Showcase
アメリカのアンダーグラウンドな音楽シーンに焦点を当てたメディアでありイベンターであるAdHocが開催している非公式のショーケースイベント。このようにメディア単位で自分たちのオススメのアーティストをラインナップするイベントも多く開催されている。好きなアーティストが出ていれば、他にも自分の好みに引っかかるアーティストが出演している可能性は高い。
会場となるのはCheer Up Charliesというライブバーだ。ここはSXSWに来たら何度も訪れることになる場所の一つだろう。それくらい良いライブがいつでもやっている。ここは21+の指定になっていても、両手の甲に大きなバッテンを描いて入れてくれる(冒頭の写真を参照)。「お酒を提供したらダメよ」マークだ。入れてくれるだけありがたい会場だ。
5バンドほど見たが個人的に最高だったのが、Hovvdy(ハウディ)というバンドだ。
地元オースティンの2人組がバンド編成でステージに立つ。実は、かなり楽しみにしていたバンドだ。
音源を聴くと、爽やかだけど哀愁があって、乾いているけど重さがあって、そして優しい、という印象を受けた。スローでドライなインディーは大好物である。期待大。
するとどうだ。確かに先述のツボをがっつり押さえつつ、しかもそこにエネルギッシュな熱さと激しさまで加わるではないか!最高だ。
演奏もうまいし、2人とも声がいい。そして何より曲がいい。両脚でステップを踏みながらリズムを取る2人の姿も、音にぴったりで良かった。また見たいバンドだ。
BrooklynVegan SXSW Day Party “LOST WEEKEND 2”
こちらもニューヨークを拠点とした音楽メディア、BrooklynVeganのショーケースイベント。3日間で46ものアーティストが出演する一大デイパーティーだ。ラインナップももちろん素晴らしい。
2日目を見に行ったが、Ratboysがよかった。
アメリカ・シカゴのインディー・オルタナティブ・デュオ、Ratboys(ラットボーイズ)。ガレージ感もある王道のインディー・サウンドに遊び心たっぷりのアレンジ、それでいてカントリーな空気も感じられる爽やかなバンドだった。
Aussies in Austin SXSW Day Party
こちらはオーストラリアのアーティストだけが集まったイベント。聖パトリックの祝日である3月17日に開催され、街には緑色のTシャツを着た人ばかり。会場であるパブにも、ビールを片手に談笑する緑たちがたくさんいた。
僕がなぜこのイベントを選んだかというと、好きな女の子が出るからである。もとい、言い過ぎた。先述のAdHocのデイパーティーで一瞬だけ見た女性シンガーが素晴らしくて、調べてみるとオーストラリア出身で、このイベントにも出るとのこと。17日は滞在最終日だったので、ぜひ最後にもう一度見たい、あわよくばコミュニケーションがとりたい、と思ったのだった。
それが彼女、Stella Donnelly(ステラ・ドネリー)である。
弾き語りスタイルで活動を行なっている彼女。とても若い。いくつなのだろう? 調べてもはっきりとは出てこない。そしてとてもキュート! しかもユーモアたっぷりのジョークで観客を笑わせる。スター性も抜群だ。
演奏も素晴らしい。繊細なアルペジオからパンチの効いたストロークまで、色とりどりに弾き分けながら歌い上げる。鼓膜をくすぐる歌声は最高に気持ちよく、そしてしっとりと沁みる。切なさが込み上げる楽曲とパフォーマンスだった。個人的ハイライトは、アウトロで徐々に声とギターを落とすアナログなフェードアウトをする彼女の遊び心たっぷりの表情だ。ぜひとも日本に来て欲しい!出番の後話しかけて2ショットを撮ってもらってしまった。やったぜ。
そしてRVGというバンドも凄まじかった。
サーフ感のある爽やかなサウンドに、熱量たっぷりのボーカルががなる。なんだかデヴィッド・ボウイの”Heroes”を想起させる胸アツ感がたまらない。ヴィジュアルとのギャップも印象的。最高だった。
結論:未成年でも楽しめるのか?
いかがだっただろうか。最初に爪弾きにあった時はかなりの絶望感を感じたけれど、未成年が参加可能なイベントだけでも十分にSXSWを楽しむことができるのだということが体感できた。結果的には特に不満が残ることもなく満喫できたことが何よりも重要だ。未成年の方、夜は嫌だけどSXSWには興味がある方、ご安心してオースティンに行ってほしい。昼間のイベントだけでだって、SXSWは十分に味わえるのだ。
WRITER
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1997年生まれの大学生ライター。
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丸眼鏡がトレードマークだが編集長と被っている。
ブログ「九六フィートの高さから」では、かっこわるいことをかっこつけて書いておりますが、別にかっこついてないです。