作り手の温度が伝わるZINE即売会! TAKE OUT!! Vol.3 レポート
フリーペーパー・ZINEといったリトルプレスを愛する人たちのためのイベント『TAKE OUT!! vol.3』が8月4日に開催されました。今回のTAKE OUT!! はフリーペーパーやZINEを作りたい人のための学校・言志の学校 第2期の最終講義ともリンクしつつ、ブース出展あり、トークあり、ワークショップありと、制作から流通までをひとつの建物で体感できる刺激的なイベントとなりました。ついに本格的な夏が始まり、照りつける日差しと同じくらい熱かった会場の模様をお届けします!
今回の「TAKE OUT!!」は一味違う!読者と作り手が密に触れ合える?
TAKE OUT!!とは、フリーペーパー専門店・只本屋と私たちアンテナが共催するフリーペーパーやZINEといったリトルプレスを愛する人たちのためのイベントです。実際に足を運んで、手に取る(TAKE OUTする)ような仕組みや場所を作って、京都を中心とした関西の紙モノシーンをもっと盛り上げることが目的です。
リトルプレス制作者たちが集まってその場で新たな作品のアイディアを形にしてきた過去2回とは趣向を変えて、今回のvol.3では「制作者と読者が実際に顔を合わせ、語り合う」をテーマとしました。というのも、フリーペーパーやZINEはどこかに設置したり販売を委託したりすることが一般的で、直接本の作者さんと交流を持つ機会は少ないのです。
そんなわけで、今回はリトルプレス愛好家たちはもちろん、フリーペーパー団体や書店、印刷会社や出版社など、インディ・メジャーを問わず様々な立場の人たちが一堂に会し、制作者が売り子をする即売会のようなイベントになりました。
すぐに感想を言ったり、作った人のこだわりの声を直接きける。そんな場所を目指しました。
想定以上の交流が!
私が今回嬉しかったことは、当初想定していた「制作者と読者の交流」だけでなく、出展者同士の交流も盛んに見られたことです。恵文社さんがこのイベントのために自己紹介フリーペーパーを作ってきてくださったり、今日の服装の話から団体のあり方の話、制作にまつわるtipsまで、どんどん横のつながりができてゆく様を目の当たりにすることができました。
和室になっている2階ではみんな靴を脱いでまるで座談会のよう。和やかな雰囲気の中、フリースタイルな僧侶たちのブースではお寺の話も。
もちろん制作者と読者との交流も盛んでした。文鳥社(「社」は旧字体)のブースでは歌集『100年後あなたも私もいない日に』やインタビュー集『経営者の孤独。』が出品され、著者の土門蘭さんと編集者の柳下恭平さんに制作秘話を伺ったり、サインをいただいたり。
京都を中心とした関西の紙モノ団体が一挙に集まることで、読者にとっても制作者にとっても、新たな磁場が生まれるきっかけとなるイベントになりました。
そうそう、忘れてはいけないのが今年のボロフェスタへの出店も決定しているりんご食堂店主によるもっさんcafeです。
疲れた頭と体に優しいお菓子と「わんぱくサンド」がじんわり染み渡りました。
目の前でイメージが形になる!ワークショップ
会場内でときどきあがる歓声、ガチャン、きりきりきり……という音。会場内でもひときわ賑やかな一角に目を向けると、修美社さんの活版印刷、レトロ印刷JAMさんのシルクスクリーンワークショップが開催されていました。
修美社さんの活版印刷
修美社さんのブースでは活版印刷を体験。自分で10文字までの好きな言葉を本のしおりに印刷することができます。こんなに小さなパーツをひとつずつ機械にはめて、アドバイスをもらいながら印刷機を回します。完成した自分だけの栞には独特の味があって、なんだかお守りめいていてうれしい。
レトロ印刷さんのシルクスクリーン
レトロ印刷さんのブースではシルクスクリーンを体験することができました。初心者の人でも失敗少なくできるように緩めに調合されたインクを使って、トートバッグや巾着に印刷を施します。
デザインは、アンテナメンバーであり、言志の学校でデザインの講師を担当した後藤多美が担当。今日のイベントの記念になるような素敵なデザインに、持参したTシャツで体験したアンテナ編集長の堤も大満足でした。顔は怖いけど。
ワークショップを通して自分が思い描いたものがその場で形になってゆく様子に、参加者たちの顔がぱっと輝きます。すぐその場で「自分の制作で実際にやるには?」という相談につながっていたのも印象に残っています。
ほんで実際、どうなん? トーク2本立て
さて、今回のイベントでは、 学生フリーペーパー団体による「紙モノシーンの“モテ” 」に関するトークショーと、紙モノ関係者による「ローカルシーン・流通」についてのトークショーが開かれました。
「本作ってる人はモテますか?」男子トーク、女子トーク!
1本目は、華の大学時代を、地味な作業も少なくないフリーペーパー制作に捧げた彼らの、輝きやモチベーションに迫りました。
トークショーに参加してくれたのはmoco・FASTNER.・印刷物を売る会・chotbetter(敬称略)のみなさん。
みなさんがその団体に入ったきっかけを伺うと「自分で言うのは恥ずかしいんですけれど、言ってしまえば承認欲求を満たすため」、「自分が死んでも残るモノを作りたかったから」など様々な声があがりました。しかし印象的だったのは印刷機から完成品が出てくる瞬間、出来上がったものを誰かに手に取ってもらえた時、自分が感じた「良さ」を読者と分かち合えた時など、自分で自分のことを「かっこいい」と思える瞬間をみなさん持っている、つまり「自分にモテている」ことでした。
インスタグラム全盛の今だからこそ、「紙」にこだわるみなさんの輝きの源が垣間見れた気がしました。
紙サミット P20! 関西ローカルに紙の地場はある?
2本目は紙モノの関係者が膝を揃えて紙モノのローカルシーンを語る重大会議。修美社・恵文社・FOLK old book store・はっち・只本屋・(敬称略)が集まり、主に “流通” をメインテーマにあれやこれやと意見を交わしました。
紙の磁場をどう作るか? という大きな質問から始まったトークショー。みなさん土地柄やそこに住む人々との密接な関わりを語ります。
「営業時間を調節することで想定していた層のお客さんが来るようになった」、「京都の各エリアのイメージとのギャップをどの程度埋めるかには気をつけている」、「例えばアニマルTシャツの展示など、ある程度企画に自由度をもたせて、紙の磁場を持ちつつそれ以外にも取り組んでいる」など、興味深いお話がたくさん聞けました。
みなさん共通の問題意識として「若者にとって情報を得るための選択肢の1番として紙の本が来なくなった時代にどうやって層を広げていけるか」というのものがあり、試行錯誤しつつもここに集ったみなさんで5年スパンで、協力し合いながらクロスオーバーしていこう、という結論が出てお開き。
関係者が一挙に集まることで、また新たな磁場、連帯が生まれたのは大きな収穫です。これからの関西の紙モノシーンから目が離せません。
言志の学校 第2期 最終回!
さて、今回参加したのは書店やフリーペーパー団体だけではありません。フリーペーパーやZINEを作りたい人のための学校・言志の学校第2期受講生の皆さんが、最初の作品をしたがえて出展してくれていました。作品を完成させて終わりではなく、誰かの手に届くところまでを見届けることで、作品に対してのフィードバックを得るのが目的です。
特徴的だったのはブースの形。受講生の皆さんはその場で来場者から自分の作品の感想をもらえるように、椅子と机を用意しました。そうすることで自然と会話が始まり、周辺は常に賑やか。
会場内にいる人たちに自らの作品を売り込みにいく姿も見られ、その貪欲な様に「創作ってこういうことだよなあ」と、胸が熱くなりました。
イベントの最後には受講生ひとりずつが3分ずつの持ち時間で「どのような意図で、どのような経緯で、どのような本が出来たのか」発表しました。抽象度の高いテーマをどのように紙に落とし込んだのか、工夫や反省など、達成感と面映さに満ちたとても眩しい発表でした。
さらに最終回の今回は主催のアンテナ賞・只本屋賞、さらに来場者によるひとり一票の投票によるオーディエンス賞が発表されました。
アンテナ賞
『ご自愛ください』 木村奈穂
自分がちょっとご機嫌になるための贅沢についての写真とエッセイが詰め込まれた一冊。自分がどういう人間で、何を心地よく思うのか。「知らないを楽しく」をモットーにするアンテナですが、こんなにも近くに“自分”というまだ知らないものがあったなんて!
自分の内面をさらけ出し、徹底的に向き合った渾身の一冊には、青春18きっぷが送られました。編集長からは「何もないと思っていたところにこそ行ってみてほしい」との言葉が。見知らぬ土地でまた新たな自分と向き合ってみてほしいとの激励がこもっています。
只本屋賞
『RACING COLORS』 竹内優衣
「馬とファッションが大好き!」と言う彼女が、自分の“好き”を掛け合わせた結果、競馬のジョッキーのレース服を取り上げた一冊ができました。付録のフィルムでジョッキーを自分好みに着せ替えできたり、お気に入りの馬を紹介してくれたりと、競馬場に行ったことのない人でもこの一冊さえあれば競馬を楽しめること間違いなし。
只本屋さんからは「只本屋でのジョッキー服の展示」が贈られました。どんな催しになるのか、今から楽しみです。
オーディエンス賞
1位:『ご自愛ください』
2位:『まずは、ずらす』
3位:『CHOCOMINT ZINE』
言志の学校受講生のみなさんと、制作した作品
まとめ:制作から流通までを一つの建物で
リトルプレス愛好家たちはもちろん、フリーペーパー団体や書店、印刷会社や出版社など、インディ・メジャーを問わず様々な立場の人たちが一堂に会した今回のイベント。ワークショップでものづくりの端っこを覗き見し、トークショーでは制作者たちの裏側を、そして各ブースでは作品についての熱い思いを語り合い、一つの会場で制作から流通までをまるっと体感できる刺激的な催しになりました。
とはいえ各々の活動はまだまだ続きます。インターネット全盛のこの時代にわざわざ「紙」で何かを表現したい人がひとつの場所に集まった今回のイベントを旗にして、これからの紙ものシーンをますます盛り上げてゆきましょう!
参加してくれた団体様
最後に、感謝の意を表しまして改めてこのTAKE OUT!! vol.3 – Kansai Art Book Fair –に参加してくれた皆様をご紹介してからお別れです。
印刷物を売る会
みんなのつくった印刷物を売る会です。2018年MEDIA SHOP/京都で開催後、ゆるゆるとサテライト活動を継続中。ZINE、同人誌のほか、地域、メディウム問わず印刷物を扱っています。(第一回情報はこちら→http://u0u0.net/uwJX)
毎年11月に行われる京都市立芸術大学の芸大祭に現れる移動式の本屋。京芸生が制作したZINE、絵本や漫画、紙雑貨などの販売を行っています。また、Twitter(@idoubookshop)にて素敵なZINEや移動本屋にまつわる情報も発信中です。
恵文社
誰もが知っている京都の本屋といえば「恵文社」です。 実は今回に合わせてフリーペーパーを作ってきてくれました!
修美社
京都で印刷にこだわりたいなら、絶対に行きたい印刷所のひとつ!工場に併設されているPRINTING Lab.では多くの紙見本や制作物が展示されていて、新しくZINEを作りたくなることが必至です。印刷デザイナーの山下さんに人柄にひかれて訪れる人も多いはず。それくらい親身になってくれるあなたの街の印刷屋さんです。
只本屋
只本屋は、京都の清水五条で 月末の土日のみオープンするフリーペーパーのお店です。全国の素敵なフリーペーパーを取り揃えています。私たちアンテナと一緒にこのイベントをつくってくれました。
chotbetter
京都大学の新入生向けのフリーペーパー。 「あなたの学生生活をチョットお得にするおもしろ情報誌」をコンセプトにしています。
文鳥社
まだ『100年後あなたもわたしもいない日に』という短歌集を一冊しか出版していかなかったにも関わらず、日本だけでなく海外のブックフェアにも引っ張りだこの人気の出版社。ライターの土門さんと、編集者の柳下さんの血の通った活動を見るたびに襟を正される気持ちになります。
はっち
大阪駅近くで毎週「火曜日〜木曜日夜」の3日間だけ運営している”はちみつとフリーペーパー”のお店。全国から送られてくる100誌以上のフリーペーパー、農家さんオススメの蜂蜜を店舗にて取り扱う他、東京の「Picaresque」や大阪の「往来」, 「ビーハイブホステル大阪」のセレクト設置も担当しています。
含羞草
含羞草(ハンショウツァオ)は 藤田紗衣と陸瑋妮(weini Lu)によるZine Shopユニットです。二人のZINEだけでなく、台湾やフランスのZINEを仕入れて販売しています。
大阪・北浜の古本屋。「民」や「みんなの」を意味する”FOLK”という名前を冠した「FOLK old book store」は、その名の通り、雑多でありながら一人ひとりの個性や気分に合う一冊が見つかるお店です。
宗派を超えた僧侶と仏教ファンのコミュニティです。 「”お坊さん=お葬式”というイメージを脱却したい」, 「仏教の持つ豊かな可能性に出会っていただきたい」 その想いからフリーマガジンを通し発信しています。
京都のフリーペーパー制作団体、FASTNER. 常に京都をテーマにしたフリーペーパーを手がけ、団体の中にフォトグラファーを置いていることもあり、いつも目につく写真でクオリティーの高いフリーペーパーを製作してます。
言わずとしれた大阪を拠点とする人気の孔版印刷所。工夫次第で表現が無限に広がる、まさに印刷沼。台北に拠点を持っていたり、印刷のスクールを実施したり、「印刷は楽しい!」を伝えるための活動多数。『TAKE OUT!! Vol.3』ではシルクスクリーンのワークショップと、取り扱っている印刷物を持ってきてくれました。
(五十音順)
FOOD: もっさんcafe
ボリューミーなこのイベントは、脳が疲れること間違いなし。そんな現場のお腹を満たしてくれるフード出店でした!今年のボロフェスタへの出店も決定しているりんご食堂店主による「わんぱくサンド」は大人気。大満足の一品でした。
ご参加いただきありがとうございました!
私たちは引き続きTAKE OUT!! vol. 4 の開催を企画しています。詳細は未定ですが、またいつかきっと素敵な本たちに埋め尽くされた空間でお会いすることができるでしょう。
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WRITER
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1997年土曜日生まれ。結果オーライの申し子。言葉と、人々のそれぞれの暮らしを愛しています。
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