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金田金太郎のアートウォッチメン!【番外編】

【番外編】は前代未聞のウイルス(COVID-19)流行について取り上げる。とりわけ京都の文化芸術の現場も危機に瀕している。現在の不安な現状を一ヶ月前と比較しながらお伝えするとともに、今後について思慮をめぐらせてみたい。

一ヶ月前はどうだったか?

こんな事態になるなんて誰も想像もしてなかった…。この度の新型コロナ・ウイルス(COVIT-19)流行に対して、誰もがそう思ったはずだ。振り返れば、武漢での感染者の発覚以来、ところかまわず世界中の人々が対応を追われることとなったこの問題。

 

筆者の体感上、京都の文化面では、いまから一ヶ月前がどうだったか振り返ると、文化庁や企業の支援のもと府が文化芸術おこしとして力を注いで3年目になる『ARTIST’S FAIR KYOTO 2020』以後:AFK)の中止についての波紋が思い起こされる。

 

筆者もこのイベントの設営作業に関わることがあり、2月25日(火)は片方のメイン会場の現場に入っていた。作品が設置され、ほぼ完成間近の会場をあとに家路についたのが18時ごろ。しかし、翌朝にスマートフォンを見ると、出展者から「中止になりました」というメールが入っていた。

中止の理由は、国からの自粛要請が主なものだった。ただ、アーティストに前触れもなく中止が決定されれたことに対して内部では問題視する声も上がっていたようだ。この2月末の状況では、まだ京都では感染例は少なかったし、イベント側がアーティストとの対話を省略したことに対する不満や保証を訴えるものもいた。たしかに、時には政治や社会の問題に対しても鋭い切り口をみせるこの美術分野のイベントで、トップダウン(要請)を鵜呑みにすることでいいのかという議論はもっともらしい。そこで一部のアーティストたちは、各々でこの中止決定の消化試合を決起することを思いついたようだ。今思えばそれは「自粛や忖度」とは程遠い価値観だったように思う。

 

イベントの開催を予定していた3月1日(日)、出展アーティストの一人である黒川岳は鴨川にいた。パフォーマンス『黒川岳による太鼓と鉄板とボヨンボヨンのライブ@鴨川』を行うためだ。このパフォーマンスは、AFKの開催中止を受けて、展示会場から黒川の出展作品のうちのいくつかを鴨川河川敷(鴨川デルタ)に持ち出し、公開予定であったパフォーマンス作品のうち2作品を同地で(ゲリラ的に)上演するものだ。パフォーマンス参加者には黒川の声かけもあって、他にも打楽器奏者の谷口かんなや同じ展示会場にて出展予定だった米村優人らも飛び入りで参加した。ここではまさに、作家の主体性が「市場」ではなく「表現」にあることが示されていた。

 

昨今、美術作品の売買取引はSNSや個人通販などが栄えてきたおかげで、かつてのように、ギャラリストが作家と買い手の間を仲介し手数料をとる形態から、個人取引を行う形態が多く見られるようになった。いわば作家のセルフ・プロデュースが多くなったのだ。買い手にとってはこれが言うまでもなく、仲介手数料(マージン)がかからない卸値の取引になったために、美術作品の流通増進が期待されている。しかし、仲介する第三者を挟まないこれらの売買形態では、両者の信頼関係の築き方やトラブルの深刻化がかえって複雑になるというデメリットが指摘されてきた。

 

此度のAFKはこうした従来型ではなく、アーティストが主体となってコレクターや鑑賞者との直接な繋がり(いわば濃厚接触)を生み出す場である点が先ほどのそれと似ている。つまり、出展アーティストには表現・市場のシーソーの上でのバランス感覚が強く求められていたはずである。マーケットが中止になったことで市場主体に振り回されるのでなく「(中止になったアートフェアを)どうやってぼくたちのものにしていくか」という黒川の言葉には、表現に対する作家の強い意思が現れていたように思う。

アーティストの黒川岳さん
パフォーマンス風景:画面中央、太鼓の下に映る女性のパフォーマーの「がんばれー、まだいけるよ!」という囃子たてのような声かけが印象的だった。

withコロナ時代の文化芸術、「社会的距離」どう埋めるか?

今からの話もしよう。今や、コロナなき時代とは状況は一変した。心外にも私たちはコロナの及ぼす影響とともに歩まねばならない。泣いても後戻りはできないと感じ、すでに動き出しているものたちもいる。たとえ収束したとしても、また見えない驚異に晒されるという不安から、ソーシャル・ディスタンス(社会的距離)は思いの外、深い傷を残すことになるだろう。一度離れてしまったこの物理的・心理的距離をどのように埋めることが最適なのだろうか。打開に向けては、おそらく文化・芸術が最も早く取り掛かっている。

 

今や4G回線が“当たりまえ”となった現代では、オンラインでのライブ配信やイベントコンテンツが早くもSNSのタイムラインを賑わせる。改めて、これらのことは地方にいても都会にいても情報の格差が埋まってきたことを示しているだろう。

 

イベントが中止になったミュージシャン達のSNSコラボ配信や、インターネット空間での美術館のオンラインビューイングにリソースが不足がちなギャラリーなども参加できる仕組みなどはまさに、ひとびとの物理的距離と精神的な孤独を埋めるみごとな機会創出であり、社会的なビジネスモデルにまで影響を生み出しつつある。このように、情報の民主化がおこった現代社会の文明では、旧来ならば退屈だったはずの自宅待機の時間が書き換えられている。これは情報を受け取る者に限らず、発信する者にまでツールが行き渡ったからである。そしてこれは3.11以来、ここ数週間で何よりも感じる日常社会の変化ではないだろうか。

しかし一方で、この瞬間ほど情報に対するリテラシーを試されている時もないだろう。コロナを出汁につかった芸術の政治利用や過激な文化搾取の構造が露見してきている。こうした状況を危機と読み込めないものがどれくらいいるかはわからないが、私たちも大なり小なり声を上げなければならないだろう。今、時代が動いている。

黒川岳による太鼓と鉄板とボヨンボヨンのライブ@鴨川

会期

2020年3月1日(日曜日)

13:00~16:00

会場

鴨川デルタ(出町柳)

出展作家

黒川岳 / KUROKAWA gaku

パフォーマンス参加者(五十音順)

岡野瑞季 / 楠井沙耶 / 谷口かんな / 吉田開登 / 米村優人

ライヴの概要

ARTISTS’ FAIR KYOTO 2020開催中止を受け、展示会場から黒川の出展作品のうちのいくつかを鴨川河川敷(鴨川デルタ)に持ち出した。公開予定であったパフォーマンス作品のうち2作品を同地で(ゲリラ的に)上演。打楽器奏者の谷口かんなや同じ展示会場にて出展していた米村優人らも飛び入りでパフォーマンスに参加した。

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