駆け抜けてきた20代を文字通りファンシーに昇華し、ドリーミーなシンセポップサウンドで彩った『Fancy in Twenties』。大阪在住のSeinaのソロプロジェクトThe Neon Cityによる本EPは、GarageBandとiPadを用いたDIYなアプローチがどこか懐かしさを感じさせる快作だ。過去の出来事は時間が経つにつれて曖昧にならざるを得ない。楽しい思い出も、悲しい記憶も、時間が経過するうちに徐々にその形を変えて、いつの間にか反対の意味を持ち始めることすらある。そんな不安定でおぼろげな過去の思い出をポジティブに捉え、輪郭が溶け出したポップなサウンドで記録しようとしている。
作品全体の軸に据えられているのは、質感が柔らかでありながら芯の通ったボーカルだ。サビを中心したポップソングの紋切り型の構成ではなく、彼女が以前所属していたLady Flashでも培ったキャッチーで口ずさみたくなるメロディパターンを2、3個組み合わせる。その周りにシンセサイザーやパッド、コーラスの歌声などの多様な音色が少しずつ重なる緩やかな変遷がサイケデリックで心地いい。ボーカルに焦点を当てた作品のトーンを整えたのは、プロデューサーのシンセポップアーティストMerk。彼女がニュージーランド滞在中に出会った友人であり、Fazerdazeのサポートメンバーだった彼のシンプルながら絶妙なポップセンスが遺憾無く発揮されている。
ループするビートから滲み出るドリーミーな雰囲気が全体に漂う『Fancy in Twenties』だが、とりわけニュージーランドの公園を散歩しているときに作られたというM4の“Flower Park”は象徴的だ。前半はドラムにフィルターがかかる掠れたローファイな音作りによりふわふわと漂っている気分だが、後半は一気に輪郭が鮮明になり、シンセサイザーのキラキラとしたキャッチーなリフが終盤にかけてクライマックスを演出する。作品を通してシンプルな歌メロが反復されることで、いつまでも同じところに留まっているいるかのようで実はゆっくりと前に進みつつ周囲の景色が移りゆくような、夢見心地でほのかなサイケデリアを感じるだろう。
『Fancy in Twenties』の構成は作り込まれ過ぎておらず、まだ詰められるがそのままになっている余白がリラックスした雰囲気を際立たせている。おぼろげなサウンドで20代のパーソナルな経験をまとめあげた本作は彼女の音楽的な地盤を固めたが、ベッドルームポップの範疇から飛び出し、バンドを伴ったライブパフォーマンスの音の生々しさによってThe Neon Cityの音楽はどんな化学変化を起こすのか、その経験が今後の作品にどう反映されるのか……。本作はドリーミーなサウンドスケープのスケールがますます大きくなることを期待させる、アーティストとしてのポテンシャルが存分に感じられるデビューEPだ。
The Neon City『Fancy in Twenties』
定価:1,222円(税込)
フォーマット:CD
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収録曲
1. Magical Love
2. City Girl
3. The life that walks
4. Flower Park
5. Let’s go sunday night (feat Merk)
WRITER
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奈良県生まれで東京在住のライター。普段はSleepyhead_blogというインディーロックを中心に扱う音楽ブログを運営しています。Tame ImpalaとLostageが好きです。
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