COLUMN

変わりゆく自分の現在地|テーマで読み解く現代の歌詞

特集『言葉の力』の企画「#テーマで読み解く現代の歌詞」。サブスクリプションでのリスニング・ライフが主流となる中で、歌詞を見ながら音楽を聴くことが以前と比べて少なくなった気がする。逆に気になった楽曲を調べて歌詞を見ることは増えた。つまり「歌詞を味わう」ことがより能動的な行為になってきているのかもしれない。ならばいっそ、その能動性にフォーカスして、歌詞を軸にして現代の音楽を紐解いてみようじゃないか。

 

本企画では8人のライターがそれぞれ現代のポップ・ミュージックの歌詞を捉えるためのテーマを上げ、それを象徴している4曲と共に解説してもらった。

MUSIC 2021.05.20 Written By Sleepyhead

Tame Impala(テーム・インパラ)が2020年にリリースしたアルバム『The Slow Rush』は”One More Year”のこの一節から始まる。

“Do you remember we were standing here a year ago? Our mind were racing, and time went slow”

〈一年前、ぼくらがここに立っていたことを覚えている?脳は高速回転して、時間はゆっくりと進んだ〉

新型コロナウイルスの感染拡大による急激な世界の変化は、行動を制限し生活の中に流れる時間をスローダウンさせた。しかし大きく変わった世界の中で、個人としてのあなたの中で起こった小さな変化にも自覚的になれるのだろうか。家で過ごす時間が増えたり、人との対面でのコミュニケーションが取りづらくなったり、コロナ以降の一年間で生活そのものあり方がじわじわと形を変えて、新しい日常となった。

 

多くの人は、人生をより良くするために激動の時代から学びを得たり、己を見つめ直すことで、不安定な状況がいつまで続くかわからない中でも人生を前に進めている。Foo Fighters(フー・ファイターズ)の”Time Like These”は2003年にリリースされた曲だが、2020年4月にBBC Radio1Oneで放送されたコロナ禍で沈んでしまった世界を勇気付けるチャリティーライブで、Dua Lipa(デュア・リパ)やColdplayのフロントマン、Chirs Martain(クリス・マーティン)ら多数のアーティストが参加する形でカバーされた。先が見通せない時代を共に乗り越えようと個人の心に寄り添うだけでなく、不安な時代を無に返すことなく、より良い自分自身へ変換していくきっかけを与えた出来事だった。“It’s times like these you learn to live again”〈もう一度生き方を学ぶ時なんだ〉と歌い、ポジティブな変化を起こそうと勇気を与えている。

 

一年前、あなたはどこに立っていたのだろうか。そして目まぐるしい一年を経てあなたはどう変わっただろうか。現在位置を確かめてより良い未来へと向かうためにも、自分の思考や生き方にじっくり向かい合って点検する時間を意識的に取るべきだと思う。アーティストが己の人生に向かい合い、その経過を切り取った歌詞を読んでみると、これまで気がつかなった、変化したあなた自身の輪郭がくっきりと浮かび上がってくるかもしれない。

Tame Impala “Yes, I'm Changing”(2020年)

題材は恋人との別れ。でもTame ImpalaことKevin Parker(ケヴィン・パーカー)は、「変わりゆくこと」をより大きな枠組みで捉えて「人は変わり続けている」ことを歌う。

 

“Yes I’m changing, can’t stop it now. And even if I wanted I wouldn’t know how.” 〈そうさ、僕は変わり続けて、それを止めることはできない。止めようとしたとしても、どうすればいいのかわからなかったんだ〉

 

価値観や性格、思考は日々のささやかな事件の連続の中で緩やかに変わり続ける。大切な人との別れのような大きなインパクトを与える出来事と対峙するとき、初めて無意識のうちに進行した変化を意識できる。そして、自分が過去と比べて違っていることに気がつくのかもしれない。

CHAI “ACTION”(2021年)

“Yes, I’m Changing”は、自分を変えるような重大な出来事を受け入れ変化していく自分を歌った曲だったが、CHAIは自らポジティブな変化を求めていく。“Be the change that you want to see”〈あなたが見たい変化になれ〉と歌う。“Action is more than words”〈言葉よりも行動だ〉と歌うように、コロナ禍で停滞した人生の舵を取り直すためのアクションを後押しをする曲と言える。

Billie Eilish “everything i wanted”(2020年)

10代の間に目まぐるしいスピードで世界的なポップスターへの階段を駆け上がったBillie Eilish(ビリー・アイリッシュ)。急激な変化と彼女の苦悩、そして兄Finneas(フィニアス)との関係を歌う“everything i wanted”では、“And it feels like yesterday was a year ago”〈昨日のことがまるで一年前みたいに感じられる〉と歌われている。1年かけて成し遂げることを一夜にしてやってのけてしまう彼女の時間感覚は、ぼくらには到底理解できないだろう。しかし急速な周囲の環境や世間での認知の変化は日々の境界線を曖昧にしてしまった。状況が刻一刻と変わりゆく日々の中で、今ではそっと不安な心に寄り添ってくれる一曲となった。

坂本慎太郎 “君はそう決めた”(2011年)

日常で少しづつ積もった感情に動かされ、ある時閾値を超えた時にスッと変わっていく自分を坂本慎太郎は表現する。周りの人間からすると突然決断したように見えるけれど、当事者は案外自然な移り変わりとして変化を受け入れていくのではないかと思う。1978年、村上春樹は神宮球場でデイブ・ヒルトンが二塁打を打ったその時「そうだ、小説を書いてみよう」と思い立ったそうだ。きっと無意識の中で小説を書きたいという気持ちが膨らみ続け、ふっと弾けたのだろう。〈今日目覚めて君はそう決めた 突然に〉と坂本慎太郎が歌うように、心の奥でこっそり温めている気持ちがあなたをある日突然変えるかもしれない。

「#テーマで読み解く現代の歌詞」の記事に登場する楽曲プレイリスト

 

 

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