COLUMN

Dig!Dug!Asia! Vol.5 : Khana Bierbood

MUSIC 2020.10.13 Written By Sleepyhead

「台湾のシーンが熱い」と透明雑誌が日本のインディーシーンを騒がせて、早くも10年近くになるだろうか。その間にもアジア各国を行き来するハードルはどんどんと下がっていった。LCCの就航は増え、フェスなどのリアルな場、そしてSNSや各種プラットフォームが整備されていくことで、文化的な交流も随分と増えたように思う。

 

その中で日本はどうだろうか?十分に交流が生まれているだろうか?アジア各国からの発信を待つだけでなく、もっとこちらから知ることが必要ではないか。なぜならとっくのとうに、アジア各国はつながっているから。アジア各国からの発信を待つのではなく、こちらからももっと近づきたい。

 

そんな思いからはじまったこの連載。アンテナのライターが月替りでそれぞれにピンときたアジアのアーティストを今昔問わず紹介することで、読者の方とアジアのシーンにどっぷりつかってみることができればと思う。

紹介するアーティスト:Khana Bierbood

拠点 : バンセーンビーチ / タイ
活動年 : 2012年 –
公式Instagramアカウント : https://www.instagram.com/khana_bierbood/?hl=ja

僕がタイの4ピースサイケデリックロックバンド、Khana Bierboodを見つけたのはアムステルダムを拠点とするレーベル、Guruguru BrainのBandcampページだった。

 

タイ語をアルファベット表記に起こしたKhana Bierboodという名前は、一見ではどのように読めばいいかわからない。さらに腕が4本生えた怪しげな男が佇むトロピカルなアートワークはミステリアス。しかし僕はそんな不思議な魅力なアートワークであればあるほど、その内側に閉じ込められた音楽を確かめたくなる。

隠し味としてのモーラムの存在

彼らはタイの首都バンコクから車で1時間ほどのリゾート、バンセーンビーチ出身の4ピースバンドだ。バンド名は密造酒という意味だそう。2012年に結成後、西洋起点のサイケデリックロックをベースに、彼ら自身の出自とタイの民謡であるモーラムを取り入れた音楽を作っている。

 

モーラムは隠し味であることに意味がある。例えば、”Plankton Bloom”のイントロの軽快なギターはリズムこそサーフロックのようだが、メロディはモーラム風の歌謡曲を思わせる不思議なキャッチーさを残している。

 

 

また冒頭のブルージーなリフと、古びたラジオから聞こえてくるようなローファイなサウンドプロダクションがクセになる”Bad Trip”にも、モーラムを参照としたアプローチが感じられる。ファジーなギターが空間いっぱいに広がり漂い続けるサイケデリックなサウンドスケープは、ケーンが作り出す反復の気持ちよさに通ずる非西洋音楽の歴史を感じさせる魅力がある。

 

 

ただあくまで楽曲のベースは欧米が培ってきたサイケデリックロック。Khana Bierboodが2019年にリリースした初のフルアルバムのタイトルは『Strangers from the Far East』。Khana Bierboodはあえて”From Thailand”とせず”From the Far East”としたのは、目線がタイやアジアに向いているのではなく、欧米を捉えていることがわかる。

欧米のシーンに勝つための武器 アイデンティティ

プロデューサーであるGo Kurosawaは、Khana Bierboodに「アジア人が欧米の音楽をそのままやるだけでは現地のバンドに負けてしまう。自分たちにしか作れない音楽を追求するべきだ」といったことをアドバイスしたそうだ。

 

近年ではKhruangbinが70年代のタイファンクを取り入れてサウンドのアイデンティティとした。もし彼らの目線が国内の音楽シーンに向いているのであれば、すでに海外でトレンドとなったサウンドを輸入することで、ドメスティックな人気を獲得することを目指すだろう。しかし、ポップスやトレンドを追い求めるサウンドで勝負するなら欧米はレッドオーシャンだ。

 

そこで彼らは自国では歴史ある「過去の音楽」と認識されがちなモーラムのテイストを抽出して、サイケデリックロックに混ぜ込むことを選んだ。外部に軸足を置いて、自分たちの立ち位置を見つめ直すこと。そうして自分たちの魅力を再発見し、アイデンティティを確立していったに違いない。

 

結果Khana Bierboodは「ローカルな民族音楽を伝承する」だけにとどまらずそれを武器に世界の市場へ躍り出ることができた。タイのビーチを思わせる陽気なサウンドのポップで民謡的なサイケデリックロックは日本のリスナーにも届くはずだ。あなたが耳の早い音楽ファンなら「極東からのよそもの」Khana Bierboodはチェックしておきたい。

 

アンテナのレコードショップ”Fish Ranch Records”では『Strangers from the Far East』のレコードを取り扱っている。ぜひフィジカルでもサイケデリックなKhana Bierboodの音楽に浸かってみてほしい。

คนแปลกหน้าจากดินแดนบูรพา​/​Strangers from the Far East

▼収録曲
1.ยางมะตอย/Rustic Song
2.แสงดาว/Starshine
3.แพลงก์ตอนบลูม/Plankton Bloom
4.เย็นมาริน/Jeanmaryn
5.อัตคัด/Bad Trip
6.ลูกรัง/Dusty Lane
7.นวลนางบางแสน/Bangsaen Lady

 

▼購入はこちらから

Khana Bierbood – คนแปลกหน้าจากดินแดนบูรพา​/​Strangers from the Far East

WRITER

RECENT POST

INTERVIEW
身近な距離感のインディーロックが生まれる原点とは – YONLAPAインタビュー
INTERVIEW
時間をかけて他人の言葉に身を委ねる「表現としての翻訳」とは – 藤井光インタビュー
COLUMN
変わりゆく自分の現在地|テーマで読み解く現代の歌詞
COLUMN
Vol.3 Sovietwaveトラックガイド
COLUMN
Vol.1 Sovietwave 時代の移り変わりでねじれるソ連のノスタルジー
COLUMN
【Behind The Music of Asia】Vol.1 : South Korea 前編
REVIEW
The Neon City – Fancy in Twenties
COLUMN
【Dig! Dug! Asia!】Vol.2 : YONLAPA

LATEST POSTS

REPORT
地域のライブハウス、フェスはどうやって生き残る?アジア各国での取り組みーTRENDY TAIPEIパネルディスカッション

2024年9月9日(日)、台北ミュージックセンターで開催された東・東南アジアのイノベーション×音楽の…

REPORT
台北都市型フェス“Jam Jam Asia”はアジア音楽の“今”を見るショーケース―TRENDY TAIPEI 2024前編

2024年9月8日(土)、9日(日)に都市型音楽イベント『JAM JAM ASIA』が台北ミュージッ…

REVIEW
今度のコンセプトは教祖!?音楽だけに収まりきらないロックンロール・クリエイティビティーゆうやけしはす『ロックンロール教団』

ロックンロールに依存し、ロックンロールに魂を売り、ロックンロールに開眼する。彼の活動を追っていると、…

COLUMN
【2024年9月】今、京都のライブハウス店長・ブッカーが注目しているアーティスト

「現在の京都のインディーシーンってどんな感じ?」「かっこいいバンドはいるの?」「今」の京都の音楽シー…

COLUMN
【2024年9月】今、大阪のライブハウス店長・ブッカーが注目しているアーティスト

「大阪のインディーシーンってどんな感じ?」「かっこいいバンドはいるの?」「今」の京都の音楽シーンを追…