INTERVIEW

身近な距離感のインディーロックが生まれる原点とは – YONLAPAインタビュー

タイの第二の都市、チェンマイをベースに活動するインディーロックバンド、YONLAPAの魅力はなんだろうか。2020年12月にリリースされた1st EP『First Trip』を聴いてみると、人を惹きつける歌の魅力と、サイケデリックロックの影響が醸し出す浮遊感が混ざり合う絶妙なバランス感覚がYONLAPAらしさを作り出しているのだと僕は思う。流行のポップスに寄りすぎることもなく、ディープな音楽ファンだけを目掛けて作られたロックサウンドでもない。その調和を生み出す根源を探るため、インタビューを行った。

MUSIC 2021.06.28 Written By Sleepyhead

YONLAPAのサウンドが持つ「ちょうどいい」バランス感覚

YONLAPAの音楽を聴いていると、バンドメンバーと協業して一つのサウンドを作り上げる時に、ボーカルのNoina(Gt / Vo)さんのシンガー・ソングライターの経験が役立っているように思える。アップテンポなインディーポップでも、しっとりと歌い上げるバラードでも、自在にチューニングできる彼女の歌声が曲をまとめあげながら、バンドとしての可能性を拡大しているからだ。では、そんなNoinaさんはなぜソロ活動からバンド結成に踏み切ったのだろうか、バンド結成の経緯や、音楽的なバックグラウンドから紐解いていこう。

 

「インディーアーティストの音楽なら、音のバイブスや、ギター一本よりもベースとドラムが一緒になっているバンドセットで聞くことが好きで。中学の頃バンドに所属してましたが、その後ソロで活動していてYONLAPAを結成するために友人をつてにバンドメンバーを集めました。」

 

Noinaさんのバンドサウンドにおける原体験は昔からあったようだ。その結果生まれたYONLAPAの音を作り上げる絶妙なバランス感覚は、Gun(Gt)さんとNawin(Ba)さんの音楽的ルーツであるサイケデリックロックの要素と、NoinaさんとFew(Dr)さんのポップサウンドの融合から生まれている。Gunさんは音楽的なインスピレーションを交えながらそのバランス感覚について語ってくれた。

 

「個人的には、ピンクフロイドやグレイトフル・デッドなどのサイケデリックミュージックにとてもハマっていましたし、現行のネオサイケも好きです。そういったジャンルの音楽をいつも聴いていたこともあってサイケデリックミュージック的なギターリフやサウンドが入っていても不思議じゃないですね。Nawinも僕同様にサイケデリックミュージックが好きなので、NoinaとFewのポップミュージックのバイブスとミックスすることはYONLAPAはベストな方法と言えると思います。」

 

バンドとして自由な活動を大事にするYONLAPAのスタンスは、2010年代の終わりから現在に至るまで続いているDIYでインディペンデントな活動をする世界中のバンドと共通している。ライブでは、Men I TrustやBoy Pablo、同じアジアの落日飛車(The Sunset Rollercoaster)やHyukohなどのカバーソングが演奏されることが多い。お気に入りの世界中のインディペンデントなバンドからの影響を受けることもあるようだ。

 

 

 

 

活動の拠点としているチェンマイも少なからずバンドのあり方に影響を与えているのではないかと思う。文化の中心地といえるバンコクから距離をおいた場所で生まれるシーンに属することは、音楽のメインストリームに巻き込まれにくい所に身を置くことであり、インディペンデントなYONLAPAらしさが生まれている。YouTubeがますます盛り上がり、SNSを通じてローカルで生まれたフレッシュなインディーサウンドの鮮度をそのままに、世界中に届けられる土台が確立されたこともプラスに働いている。土地に根付いた独自のカルチャーや歴史は、メインストームとは毛色が違ったアーティスト活動を支えているのではないか。

 

「チェンマイは文化的な街で、たくさんのカルチャーや生活様式がバンコクとも違っています。私たちが曲を書く時、チェンマイの人々が持つ視点やユニークな特徴を多かれ少なかれ組み込もうとしているのかもしれません。」

 

MVに対するこだわりも、YONLAPAのDIY精神を反映している。”Let Me Go”や”Last Trip”などの映像はホームビデオのような親密でリラックスした自由な空気を含んでいる。

 

 

 

 

 

「個人的にはVHSやレトロな映像の雰囲気が好きで。ユニークに見えながらも、タイムレスな印象を与えていると思います。使える予算もそこまで大きくなかったからほとんどの部分はiPhoneで作っていて、ミュージックビデオのインスピレーションは、「私たちが好きな場所へ漂っていくことは誰にも止められない」ということ。ギターを弾いたり、屋上でスケートしたり、ノープランで街中を歩き回ることだって、やりたいことができる。好きなことをやった後に後悔がないようにしたいと思っています。」

 

MVへのこだわりからも感じられる通り、YONLAPAは音楽マーケットのトレンドだけを追い求めているわけではない。自分たちがやりたい音楽を届けることは誰にも止められない。そして自然発生的に生まれたバンドへの愛とこだわりが軸となり、YONLAPAが放つポップセンスで曲を届けている。MVに現れる彼女たちの価値観は、インディペンデントな活動には欠かせないだろう。

好きな場所に漂っていった先に生まれた『First Trip』

チェンマイでインディペンデントな活動を続けてきたYONLAPAが、デジタルリリースで徐々にリスナーの認知を獲得し、そのファンベースを拡大してきた絶好のタイミングでリリースした1st EPの『First Trip』。日本でもEPはレコードショップやSNSを通して話題となり、確実にファンを増やしている。最初はシングルをデジタルで少しづつリリースをしながら、まとまった作品としてEPをリリースするタイミングを計っていたのかと僕は考えたが、彼女たち自身はなぜこのタイミングで『First Trip』をリリースしようと思ったのだろうか。

 

「メンバーのスタイルがそれぞれ違っているので、スキルや音楽に対する視点を作品にミックスしようとトライしていたこともあり、最初はこのEPに完成したコンセプトは必要ありませんでした。だから、何が僕らにとってベストなのかその結果がどうなるのかを知る必要がありました。どのシングルも一つ一つ慎重に作り込んでいって、”Sweetest Cure”がリリースされた時には最初のシングルをリリースしてから時間が経っていましたが、バンドの中で起こる化学反応がフィットし始めたそのタイミングが僕らの作品を全て一つにまとめる完璧なタイミングだったのだと思います。」

 

 

 

EPリリースに踏み切ったきっかけの曲”Sweetest Cure”のMVは、YONLAPAの自信が醸し出されている。ポップセンスと切なさが絡み合いつつも、インディーロックらしい身近な距離感が絶妙な曲だが、DIY精神が際立っていた過去作品と比較してもストーリー性がはっきり出ている。また、バンドメンバーは出演せずに女優をキャスティングした本格的な映像作品となった。YONLAPAが前に進む新しいチャレンジと捉えられる”Sweetest Cure”のMVが制作された背景について聞いてみた。

 

「日本のチームから”Sweetest Cure”のMVの制作を協力して取り組みたいと連絡を受けて、私からは、ディレクターのやりたいように音楽と歌詞を作品のスタイルに翻訳するように伝えていました。女優のパフォーマンスもとても見事で、彼女の雰囲気は作品に完璧にマッチしていていましたし、結果的にミュージックビデオは素晴らしい出来でした。このミュージックビデオを良いものにしようとしてくれたShuhei MurataとNairu Yamamotoには感謝してもしきれません。」

 

彼女たちは日本人の映像チームにディレクションを一任した。まるで作品を自由に解釈してもらった方が、結果としてYONLAPAとして表現したいことがMVに反映されることを知っていたかのようだ。インディペンデントな音楽活動を続ける上で必要なスタンスを、外部のチームにも求めたのだろう。クリエイションにおいて自由であること、自分たちで作りたいものを作り上げるインディペンデントな姿勢が、YONLAPAの音楽の根底に流れていることを感じられた。

 

 

また、彼女たちの代表曲とも言える”Why Why Why”には、YONLAPAの音楽が身近な存在に思える要素が詰まっている。

 

「“Why Why Why”は二年前に他界した母親に対しての感情を歌っていて、毎日いまだに彼女のことを考えてしまいます。彼女を探したり、昔みたいに電話をしようとするんだけど、返答はもう二度と返ってこない。でも私は今も元気にやっているし、母が天国から見守ってくれていると願っています。」

 

亡くなった母親への愛という身近な存在への愛を緩やかなメロディーとソフトな楽曲で歌い上げる「歌モノ」としての側面すら持ち合わせている。Noinaさんがシンガー・ソングライターとしてのキャリアを持っているからこそできるバランスで、彼女のパーソナルな愛を起点にした楽曲はリスナーの心にスッと入り込む。

 

Noinaさんのシンガー・ソングライターとしてのキャリアを、Gunさんをはじめとしたサイケデリックロックのバックグランドが掛け合わされてYONLAPAらしさを生み出している。インディペンデントで血の通った音楽は彼女たちが音楽に向き合う姿勢から生まれているのではないだろうか。MVに込められた「私たちは好きな場所へ漂っていくことは誰にも止められない」という思いは、好きな音楽を表現したり、パーソナルな感情を歌に乗せる彼女たちの活動につながる。チェンマイをベースに活動し、ますます世界中でその認知を広げるYONLAPAはどこまで活躍の幅を広げていくのだろう。しかし、彼女たちの音楽はいつも近くに触れられる場所にある。その身近なバランス感覚が、YONLAPAらしさを保ち続けるだろう。

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