REVIEW
folknia
谷澤ウッドストック
MUSIC 2020.07.28 Written By 児玉 泰地

谷澤ウッドストックは京都を中心に、ギターの弾き語りスタイルで活動しているシンガーソングライター。フロントマンを務めていた4人組アコースティック・バンド、Novelmanの活動を休止し、ソロ活動に専念して初めての新作『folknia』を5月20日にリリースした。

 

ファーストアルバム『無料の音楽』のレビューで、筆者は谷澤のことを「音楽を思うままに楽しんでいる人」と書いた。本作もその趣は健在だ。歌謡曲を思わせるメロディが耳に残るM5“日々”、跳ねるようなコーラスと力強いコード弾きが重なって馬に乗って走る様子を思わせるM2“宝物”、子供の頃のクイズ番組の思い出から大人になった現在、そして宇宙まで想像を広げていくM3“クイズ番組”など、歌詞でも演奏でも遊び心を発揮している。

『無料の音楽』に比べて『folknia』では、「今このCDを聴いている人」への意識が強く、M1“若者のすべて”から既にそれは現れている。一人の人に宛てた手紙を読み上げる歌だが、CDプレイヤーが喋っているように聞こえ、ふとそちらを見た。まるで谷澤がそこにいるかのよう。バンド編成でなくソロの弾き語りだからこそ、音と耳との距離に現実味がある。なるべくマイクに近づいて歌っているからか、谷澤の持ち味である力を抜いた歌声がはっきりと聞こえてくる。一音一音落ち着いて楽しめるスローテンポのギターがそこに合わさり、特別な高揚感はなくても、ラフに聴いていられるのがホッとする。

 

その他にも、谷澤自身が聴く者の隣に立って自分が見ているものを指し示すM6“ヤング 若者の詩”、話し相手の失敗を「聞いたよ聞いたよ」と話しながら、決して責めはしないM4“大丈夫”など、どの曲も「聴いている人の心地よい距離にいよう」という心配りに溢れている。それは、谷澤の企画ライブ「好き勝手にうたう会」でいつも感じていたことでもある。会場に行くと、カウンターで酒を飲む人も座敷で定食を食べる人も谷澤の近くで歌に耳を傾ける人もいる。みんな思い思いにすごしていて、かつ穏やかに笑っているのは、主催者自身がその雰囲気を醸し出しているからにほかならない。この作品はさながら「CDで自宅まで届けるライブ」だ。一人のときにかけると、生の会場の心地よさが部屋に広がる。

 

これまでは頻繁にライブを行い、その会場でのみ作品を販売していた谷澤だが、本作は初めて販売サイトを構えての発売となった。ライブが少なくなった分、家でゆったりと楽しみたい。気に入った曲を覚えて口ずさめば、いつでもどこでもその歌は一緒にいてくれるだろう。鴨川で缶ビール片手に、無言でも共にいられる旧友のように。

folknia

 

 

アーティスト:谷澤ウッドストック

仕様:CD

発売:2020年5月20日

価格:¥500(税込)

 

収録曲

 

1.若者のすべて
2.宝もの
3.クイズ番組
4.大丈夫
5.日々
6.ヤング 感情の詩
7.1000
8.歩く人生
9.はじまりのゆくえ
10.街
11.季節の花

 

公式販売サイト:https://tanizawaya.thebase.in/

谷澤ウッドストック

 

 

関西を中心に弾き語り。

ライブハウス、居酒屋、喫茶店、服屋、ギャラリーなど、場所を選ばないライブスタイルで聴く人に寄り添う歌を歌う。

何気ないことを大げさに、壮大なテーマを何気なく。

 

Webサイト:https://tanizawawoodstock.jimdofree.com/

Twitter     :https://twitter.com/woodstock_dayo

Instagram  :https://www.instagram.com/woodstock_dayo/

You Tube   :https://www.youtube.com/user/novelman11

WRITER

RECENT POST

COLUMN
【Dig! Dug! Asia!】Vol.6 後編:ジャンルを融合させるパキスタンアーティストたち
COLUMN
【Dig! Dug! Asia!】Vol.6 前編:パキスタンの「文化の床」Coke Studio …
REVIEW
FNCTR – five
COLUMN
俺の人生、三種の神器 -児玉泰地 ③大和郡山 編-
INTERVIEW
京都みなみ会館
COLUMN
俺の人生、三種の神器 -児玉泰地 ②役者でない 編-
COLUMN
俺の人生、三種の神器 -児玉泰地 ①靴屋のゴジラ 編-
REVIEW
谷澤ウッドストック – 無料の音楽

LATEST POSTS

INTERVIEW
あの頃、下北沢Zemでリトル・ウォルターを聴いていた ー武田信輝、永田純、岡地曙裕が語る、1975年のブルース

吾妻光良& The Swinging BoppersをはじめブレイクダウンやBO GUMBOS、ペン…

COLUMN
【2024年11月】今、東京のライブハウス店長・ブッカーが注目しているアーティスト

「東京のインディーシーンってどんな感じ?」「かっこいいバンドはいるの?」京都、大阪の音楽シーンを追っ…

REPORT
これまでの軌跡をつなぎ、次なる序曲へ – 『京都音楽博覧会2024』Day2ライブレポート

晴天の霹靂とはこのことだろう。オープニングのアナウンスで『京都音博』の司会を務めるFM COCOLO…

REPORT
壁も境目もない音楽の旅へ‐『京都音楽博覧会2024』Day1ライブレポート

10月12日(土)13日(日)、晴れわたる青空が広がる〈梅小路公園〉にて、昨年に引き続き2日間にわた…

REPORT
自由のために、自由に踊れ!日常を生きるために生まれた祭り – 京都学生狂奏祭2024

寮生の想いから生まれたイベント『京都学生狂奏祭』 …