COLUMN

俺の人生、三種の神器 -児玉泰地 ②役者でない 編-

OTHER 2020.05.18 Written By 児玉 泰地

▼俺の人生、三種の神器とは?

人生の転換期には、必ず何かしらきっかけとなる「人・もの・こと」があるはずです。そのきっかけって、その当時は気づけないけれども、振り返ると「あれが転機だった!」といったことはありませんか?そんな人生の転機についてアンテナ編集部で考えてみることにしました。それがこの「俺の人生、三種の神器」。

折角なのでもっとアンテナ編集部員ひとりひとりのことを知ってもらいたい!そんな気持ちも込めたコラムです。これから編集部員が毎週月曜日に当番制でコラムを更新していきます。どうぞお楽しみに!

自己紹介でも書いたが、「役者でない」という名で演劇をしている。由来を知らない人からは「ややこしい」と言われ、知っている人からも「変えたら?」と言われる。それでも変えるつもりはない。「役者でない」こそが、演劇をするうえでの私のアイデンティティであり、最大のターニングポイントだからだ。現在のスタイルで作品を作ることがなければ、私の人生はもっと味気ないものだったと思う。

演劇との出会いと、わずか5分の初舞台

まずは演劇を始めた経緯から辿ろう。中学の頃、母が連れて行ってくれた劇団四季をきっかけに演劇を観ることが好きになり、高校生になると京都の大学生劇団などを観に行くようになった。決め手となったのは、京大西部講堂で観た演劇ユニット ベビー・ピーの『はたたがみ』との出会いだ。約20人の出演者がバンドの生演奏をバックに合唱するシーンを観て泣きに泣き「自分もこんな演劇に出演したい!」と思ったのだ。しかし高校には演劇部はなく、3年生がクラスごとに演劇を行う文化祭を心待ちにしていた。3年になり劇の配役と役割を決める時には真っ先に役者に立候補して認められたのだが、脚本を立候補したクラスメイトに一任したところ開幕5分で殺される役に。抗議しても聞き入れられず、高校生活最初で最後の舞台出演は、登場から5分で共演者に担ぎ出されて終わりを迎えた。

劇中で凶器として使われた小道具。今も保管している。

悔しさでますます演劇への思いが強くなり、大学入学後、キャンパスを拠点に活動している演劇サークルのドアを叩いた。1年2年と続けていくうち、演じている様が面白いと言ってもらえたこともあり、ますます夢中になっていった。「理工学部の学生は、3年になったら課題が忙しくなるから演劇を続けられないよ」という先輩からの“助言”を参考に、迷いなく文系の学部に転部。チャンスが有れば学外の劇団でも出演し、まさに演劇三昧だった。演じる側になってからも、演劇を観ることが大好きで、月に5本以上観る生活を4年間続けた。これが後に役立つことになる。

 

15年春に大学を卒業し、奈良県で就職したあとも、漠然とだが「他の人が作る作品に出演していけたらいいな」と思い、演劇ができる場を探し続けていた。幸運にも、知人から誘いを受けて、翌年2月に上演する演劇への出演が決定。仕事を終えてから稽古に向かう日々は疲れもあったが、久しぶりに演劇に出演できることを想像して、学生の時以上に喜んでいた。

 

しかし、本番の3日前に高熱が出た。インフルエンザだった。

本番に出られない奴は……

どうするべきか分からなくなった私は主催者に判断を仰いだ。当然ながら言い渡されたのは降板。演出家に代役をしてもらい公演は事なきを得た。しかし私は内心穏やかではなかった。熱で朦朧となりながら「なんでこうなんねん」とボヤき、自分を慰めるために「出られなくてむしろ良かったんじゃないか」と強がって、次の瞬間強がった自分にも嫌気がさし、どうしたら出られただろうかと無意味な「たられば」を考え、これでもう一生舞台に出演できないのではないかとさえ思い不安になった。考えても仕方のないことが繰り返し脳内に去来する。寝られない病床でマイナス感情の群れが体内を這いまわるようだった。

 

しかし明け方、ふと思いついた。一晩体の中を巡ってきた、負の思考たちの並びを整理すれば、一人芝居にできるのではないか。その発想はまさに「降りてきた」としか言いようがなく、そんな感覚は後にも先にもこの時にしかない体験だった。

 

すぐに手元にあったメモを掴み、まずはボヤキや悩みを片っ端から書き出した。そしてそれをパズルのように並び替えた。最初はこの話で心をつかみ、真ん中で大きな動きを交えながらこの話をして、最後にまた前を向けば、作品としても、ただ愚痴るだけのものでなくなるのでは……。そうして構成と演出を考えてみると、「このシーンはあの公演で観たことを取り入れてみよう」など、それまで演劇を見続けてきたことが役に立ち、シーンごとの色を変えることができた。

 

そうこうして脚本を一晩で創り上げてしまった。休みもせず上演できる場がないかを検索し、3ヵ月後の2016年5月に奈良演劇祭というイベントがあり、幸いにもまだ参加団体を募集中であることを知り早速応募した。応募用紙の「団体名」欄を埋めるため、とっさにつけた名前は「役者未満」。しかし、どこか馴染みにくい印象がある。数日悩んだ末、「インフルエンザで本番に出られない奴は役者でない」という実体験を表した一文を思いつき、「役者未満」から、語呂の良い「役者でない」へと名義変更をして、演劇祭当日を迎えた。

役者でない 旗揚げ公演。タイトルもそのまま「役者でない」だった。撮影:宣伝美術家TOM

物語があまりに自虐的過ぎたため、何人かに「これはフィクションなのか、ノンフィクションなのか?」と問われたことと、演じている時に、舞台上にもクスクスと聞こえてきた笑い声が良い思い出だ。

続けるほど、続けたくなる

「役者でない」は当初その一作で終わるはずだったが、終わってみると思いが変わっていた。飼っていた犬との思い出も芝居にしたい、「後悔」をテーマに作品を創っても面白いのではないか、銀河鉄道の夜も一人芝居に取り入れてみたい……と、アイデアが湧いてきたのだ。奈良演劇祭だけでは満足できず、滋賀、京都、兵庫、大阪と各地の演劇祭などを調べてはエントリーし続けた。何作かは共演者をお願いしつつも、大半は一人芝居。上演できる作品を、できる時にできる場所でさせていただいた。作品を創るほどに新しいアイデアが生まれ、演劇がますます楽しくなっていく。また、公演する度に、前作も観てくれた人や疎遠になっていた友人、そして初対面の人と出会えることが嬉しかった。演劇を始め、「役者でない」として続けてきたからこそ、今とても充実しているのだ。

 

これからも「役者でない」を続けていく。その中でどんな作品を創り、どんな人と出会っていくのか、常にわくわくしている。

最新作 役者でない 一人芝居『足跡姫 時代錯誤冬幽霊』より。撮影:河西沙織(劇団壱劇屋)

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