REVIEW
five
FNCTR
MUSIC 2020.08.30 Written By 児玉 泰地

チームで作り上げるサックスの曼荼羅

「このワクワクするサウンドは、一体何だ?」2017年5月の結成以降、京都を中心に活動する4人組インストゥルメンタルバンド、FNCTR(ファンクター)。2018年にデジタルリリースし、7月18日にサブスク解禁された1stアルバム『five』のラストトラック、“5_5”を聴いたとき、その緻密さと楽しさに驚いた。

 

彼らが標榜するマスロックやプログレの楽曲が概してそうであるように、“5_5”も複雑な音構成が特徴だ。しかし難しさに頭を抱えるような心配は無用である。11×2(ケイ)(Sax)の吹き鳴らすアルトサックスが、曲が進行するにつれルーパーによって多重再生されていく。機械的に1音1音を繋げずに発していく1フレーズ目に、流れるように上昇していく2フレーズ目が重なった瞬間など楽曲の雰囲気が一気に明るくなり、聴く者のテンションも驚きとともに跳ね上がる。合計3つのメロディが重ねられ、音量を繊細に変化させながら渾然一体となって広がっていく様は、さながら釈迦を中心に四方へ展開される曼荼羅を思わせる。しかしその世界観に翻弄されるだけでなく、我々がしっかりと体を揺らすこともできるのは、Fey(フェイ)(Key)のキーボードが発する簡潔なビートや、Oz(オズ)(Dr)が叩き出す軽快なリズム、そして16:32(ヒロミツ)(Ba)が奏でる弾むようなグルーヴが、聴く者を置いてきぼりにせず牽引してくれるからだ。そして全パートをアッパーな演奏にすることで、それぞれが主役級の存在感を放ちながら楽曲全体として統一感がでるよう計算されている。

探求の末にたどり着く一曲ごとの方程式

“5_5”を含め『five』に収録された曲に共通するのは、聴く者の心を惹きつける要素と、ともすれば違和感にも思える難解な仕掛けが巧みに組み合わされていることだ。Ozがエイトビートと9拍子を交互に叩き続けるM2“5_2”はその難解さに気づきやすい。典型的なエイトビートかと思ったらすぐに首を傾げさせられ、そのとき感じた引っかかりは徐々に確信に変わる。重なる他のメンバーの演奏に意識を向け、身を委ねてしまうこともできるのだが、やはり一度気づいた仕掛けは忘れることができず、「わかりやすさ」とはまた別の愉しさとして脳に刷り込まれるのだ。かたやM3“5_3”ではOzと11×2がいくつかの定まったフレーズを繰り返すことで全体のイメージを統合したかと思えば、Feyのキーボードプレイが複雑さと速度を増していくことでイメージが再び混沌を迎える。M4“5_4”においては11×2がエフェクターを駆使して操るアルトサックスの奇怪な音色が特徴的だが、16:32の爪弾く重厚なベースメロディが合わさることで、クールなロックのレイヤーが被せられる。

 

このように、各曲ごとに仕掛けられた多様なファクターは、リスナーへの挑戦とも、彼らの遊び心とも言い換えられる。そのような要素をあえて取り入れる姿勢は、彼ら自身を「知的好奇心に忠実」と称していることに表われている。マスやプログレ以外にもテクノやモダンジャズ、ミニマルを吸収して生まれたアイデアをどれだけ盛り込み、かつ聴く者の心を離さずにいられる楽曲を作ることができるのかという、自分たちに対する好奇心。試行錯誤し考え出された、作品ごとの方程式。これがあるからこそ、聴く度に興味も駆り立てられ、楽曲の更に奥へと迷い込んでしまうのだろう。

 

five

 

 

アーティスト:FNCTR

仕様:デジタル

発売:2018年4月2日

価格:¥1,000(購入方法によって金額差があります。)

 

収録曲

 

1. 5_1

2. 5_2

3. 5_3

4. 5_4

5. 5_5

 

Webサイト:https://www.tunecore.co.jp/artist/fnctr
Twitter:https://twitter.com/fnctr_official

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