彼らが見ている景色の先は、新たな時代の創造
奈良発のスリーピース・ロックバンド、Age Factory が2020年4月29日にリリースしたフルアルバム『EVERYNIGHT』は心の奥底から沸き起こる感情に目を向けると同時に、何ものにも代えがたい心象風景を唄った作品だ。清水エイスケ(Vo / Gt)は生まれ育った土壌に自身の核となる「旗」を突き立て、得てきたものと共に新たな時代を創ろうとしている。
序盤・中盤では生まれ育った地で仲間と音楽を作り続ける意思表示と、新たな時代の到来を告げるような構成だ。その前者のメッセージを最も表しているのは細やかなリズムを刻むドラムのハイハットとギターのアルペジオが壮大に絡み合うイントロのM2 “HIGH WAY BEACH”だ。夜明けまで友人と作業をしていた時、高速道路の音が波の音に聞こえたことから着想を得た歌詞であり、海のない奈良県で確かに幻の海が広がってくるようなのだ。また「いつか僕ら / 目覚めてしまわないように」という歌詞の中には、アイデンティティを形成してくれた奈良という場所から新しい時代への狼煙をあげる意思が表れている。いつ・どこにいても全国と繋がるネットワークが構築された時代だからこそ、得てきたものと今の自分を照らし合わせながら前に進んでいきたいという姿勢がうかがえる。
一方で新たな時代への「招待状」とも言うべき楽曲が、ヒップホップの感覚を取り入れたM5 “CLOSE EYE”だ。ネガティブなワードが無機質に呟かれ、リズム隊のブレイクを挟んだサビで一気に「CLOSE EYE」というフレーズが叫ばれる。清水が普段目にするがリアリティがなく、不快に思う言葉の数々を並べることでフラストレーションを開放している。そのフラストレーションは聴き手を未来へと進ませる起爆剤のようだ。「2020年 / もう形に意味はなくなり / 新しい人の時代 / 僕らはどうしたい」と自身に、そして聴き手に問題提起し、主体性が問われる新たな時代へと招待する。清水の「目を瞑れ」と叫ぶ姿には、一人ひとりの人間が確固たる信念を持ち、垂れ流される情報に動じないエネルギーを持てというメッセージが込められている。
アルバム終盤では、新時代への道すがらにおける自分たちの立ち位置を改めて確認した上で辿り着いた、現在の境地を発信する。時代を一気に変えるのではなく、当事者意識を常に持ち、過去を振り返りながら一歩一歩進んでいこうとする先導者としての決意の表れだろう。特に清水の生まれ年がタイトルとなっているM9 “1994” では「間違った答えを / 僕らは求めている」と同年代に向けて、他人に流されていないかと問いかけ、自分らしさを追い求め走れと鼓舞する。また元きのこ帝国の佐藤千亜妃をゲストコーラスに迎えたM10 “nothing anymore”ではこれまで手に入れてきた大切なものを失わないようにと歌う。正しいとも間違っているとも言えない価値観同士がぶつかり合い、SNS上で容易に可視化されてしまう現代において、確かなことを追い求めるのは難しい。しかし確実に存在し、大切にできるものは過去のノスタルジックな風景であり、体験だろう。いずれのメッセージを放つ彼らの姿は清々しいほどに真っ直ぐで迷いがない。
またこれまでの楽曲にも歌詞には「君と僕」のストーリーが多く登場するが、本作では「君」の対象が広くなっているのも大きな変化だ。仲間との繋がりや、より多くの人に語りかけるような楽曲が多く、共感者を増やし、新時代の人口を増やしていく。彼らが奏でる音楽の景色の中に聴き手の原風景が重なってほしいという思いが色濃くなった。
一瞬の静寂と爆発の狭間に生き様を投影してきた彼らだが、『EVERYNIGHT』から放たれる火は優しく、かつ力強く燃え続けている。本作を聴いたあなたはどうだ。燃えているだろうか。自我を保つことにすら、疲弊しきっているものも多いのではないだろうか。彼らが目指す新たな時代とは、誰もが「生きること」へ矢印を向け、人に流されない精神性を持つ世界の到来だ。この作品は、私たちに主体性を持つことへの執着心を呼び覚ます。
Age Factory 『EVERYNIGHT』
仕様:CD / デジタル
発売:2020年4月29日(CD)
価格:¥2,500(税込)
収録曲
1. Dance all night my friends
2. HIGH WAY BEACH
3. Merry go round
4. Peace
5. CLOSE EYE
6. Kill Me
7. Easy
8. Everynight
9. 1994
10. nothing anymore
WRITER
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1994年生まれ、鳥取県育ちの左利きAB型。大学院をサッポロビール片手に修了。座右の銘は自己内省ポップ。知らないひと Gt.Vo
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