REVIEW
大阪へやって来た
友部正人
MUSIC 2020.08.30 Written By 辛川 光

京都拠点のローカルな視点からインディペンデントな活動を行っているバンドマンやシンガーたちにスポットを当ててきたANTENNAの音楽記事。REVIEWでも主に関西のライブハウス・シーンで活動しているアーティストの新作を論じてきました。

 

そんな「今」を捉えてきたレビュー記事に新たな軸が加わります。題して『Greatest Albums in 関西』。ANTENNAが拠点を構える京都、ひいては関西から生まれた数ある名盤の中でも現在の音楽シーンにも影響を与え続けているアルバム作品を、2020年代に突入した現在の視点から取り上げていきます。

 

関西の音楽には全国的なムーヴメントに発展した音楽も数多あります。1960年代末の関西フォークから、70年代のソウル・ブルース、関西NO WAVE、ゼロ世代……『Greatest Albums in 関西』はこの地域の音楽文化史を作品を通して徐々に編んでいこうとする壮大なプロジェクトです。どうぞ長い目でお楽しみください。

 

企画概要:https://note.com/kyoto_antenna/n/nebb1fa9e3cde

1人の若者が映し出した人間の強さと弱さ

友部正人のデビュー作『大阪へやって来た』は1972年にリリースされた。経済大国という地位を確立しつつも、若者が保守的な考え方を否定する学生運動が起こった60年代から70年代。激動の中で変わりつつある人々の姿を、本作では主観的・客観的な目線を交えて捉えている。

 

M1 “大阪へやって来た”では、活気に溢れるあまり、他者を置いてけぼりにする関西の街の様子を描写する。将来を約束されていない自分自身は、危険な仕事や周囲からの偏見に晒される日々。一方で、対比として歌われている街の人々は生き急ぎ、転んで歩けなくなる人もいると描写されている。つまり慌ただしく生きるがあまり、自分らしさを失っているという表現ではないだろうか。人はそれぞれ、葛藤や周りとの軋轢を抱えるものである。その中で「あれはいけない / これがいいのさ / でももう結構 / 僕は誰が素敵な奴かを知っている」という歌詞と、繰り返し歌われる「僕はやせながらぬれて立つ」には、揺れ動く友部自身の心模様を認めつつ、それでも自我を持とうとする姿勢が表現されている。この歌には友部の考える「命の輝き」が込められているのだ。

一方M3 “もしもし”では「もしもし大工さん / ぼくの窓わくをとりはずしてくださいな」と自身の固定観念を捨てたいという心情も吐露されている。作品全体を通して、必死に生きていこうとしながら、自分のふるまいはどことなく悲観的に捉えている。たゆたう時代の中で生活する一人の若き歌い手もまた、揺れながら存在しているという強さと弱さ、どちらも率直に表れているのが本作最大の魅力だ。

 

およそ50年前の作品であるにも関わらず、友部の歌詞は時代を感じさせず、現代の人々にもそれぞれの生き方を考えさせてくれる。これは友部自身が人々の心模様を捉え、普遍的なメッセージに変換する能力に長けていたことによるものではないだろうか。不穏な時代に揺れ動く心を認めつつ、地に足をつけ生きていけというメッセージは、今の世界を生きる人々にとっても道しるべになるだろう。

大阪へやって来た

 

 

アーティスト:友部正人

発売:1972年

 

収録曲

1. 大阪へやって来た
2. 酔っぱらい
3. もしもし
4. まるで正直者のように
5. 真知子ちゃんに
6. 梅雨どきのブルース
7. まちは裸ですわりこんでいる
8. 公園のベンチで

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