【閉店】只本屋
東山五条に店を構えるフリーペーパー専門店、只本屋。月末の土曜日と日曜日だけ店先に暖簾がかかり、全国から取り揃えたフリーペーパーを目当てにたくさんの人が訪れる。近年では、フリーペーパー専門店としてだけでなく、クリエイティブに関心を持つ人々が交流する場所としても機能している。また、アンテナと共催の『TAKE OUT!!』をはじめ、さまざまなイベントやワークショップなども行なっており、まさに京都のカルチャーを語る上ではずせないスポットの1つだと言える。
今回お話を伺った前店長の森谷彩加さんと次期店長の伊藤邑さんは、普段の仕事とは別に只本屋のスタッフとして活動している。家でも職場でもない、いわばサードプレイスとして彼女らの生活の中に存在する只本屋は、何をもたらしているのだろうか。
只本屋
住所 | 〒605-0871 京都府京都市東山区慈法院庵町594−1 |
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営業時間 | 毎月末の土・日 |
お問い合わせ | MAIL:info@tadahon-ya.com |
HP | |
オンラインショップ | |
只本屋との出会い
只本屋のスタッフは、普段は他にも仕事をされていると伺いました。お二人はどのような仕事をされていますか?
普段は、京都のコーヒー屋で勤めています。時間のあるときは大学時代に仲の良かった教授のアシスタントとして、本を作る際のリサーチなどを行う仕事もやっています。
私は山田(山田毅:只本屋代表)に知り合いを紹介してもらい、映像の編集であったり、さまざまな芸術分野の撮影の仕事をしていたんですが、最近は独立してフリーランスでデザインのお仕事をはじめています。
大学では、今の職に関係することを勉強されていたのですか?
私は芸術大学出身で、そのままアートとかクリエイティブの仕事に流れ込みました。
私は芸大出身ではないですが、デザインも学べる学科にいた縁でアシスタントをさせてもらってます。大学で学んだこととは関係ないのですが、店を作っていくことや接客に興味があったので、喫茶店に就職を決めました。
大学生の時から、只本屋に関わっていたのでしょうか?
私たち2人は同い年なんですが、森谷は二回生の秋に入って、私が三回生の秋に入りました。
きっかけを教えていただけますか。
大学では、フリーペーパーを制作する学生団体に所属していて、その活動のなかで只本屋に出会いました。作ること自体は楽しかったのですが、作ったものをもっとうまく人に届けられるようになりたいと思い「スタッフになりたい」と志願したのがきっかけです。
大学のゼミの先輩が只本屋のスタッフで、文章や印刷物に興味があると話をしたら只本屋を紹介してもらって、営業日やイベントに参加させてもらってるうちに誘っていただいて参加することになりました。
代表の山田さんは、“スタッフのプライベートを最優先したい”とインタビューでよく語られていますが、実際活動されていて生活のリズムなどに変化はありましたか?
今までの生活リズムの中に無理やり只本屋の予定が入るのではなくて、できる範囲で只本屋の予定を入れています。
それこそ私たちは社会人一年目で、仕事の方が大変な時期なんですが、あまり店に出れないということを山田がわかってくれているのか、今は彼が一番店を切り盛りしてくれているんです。お互いの理解で成り立っている部分はあります。
只本屋という心の拠り所
只本屋で活動する中で、社会人や学生だけの活動では経験できないようなことをされてきたと思うのですが、活動の中で得られたことはありますか?
只本屋のおかげで、自分の活動範囲が広がったように感じます。大学生の頃は、何から手をつけてよいのかわからず、課外活動もあまりしていませんでした。ですが、只本屋の活動を通じてたくさんの人と出会い、「何かしたい!」と思いついたときに、今は意見を求められる人や頼れる人達がいるので、できることも増えたんです。私自身もこの場所を通して得た出会いや繋がりを誰かに渡せたらと思っています。
私は今までクリエイティブな思考を持った人と関わる機会がなかったので、只本屋の面々をはじめ、面白い考えの人に出会えたことが大きかったです。そういう人たちって真面目じゃないことを真面目にやる人たちだと思っていて、只本屋に入らなかったら、私はただ真面目なことを真面目にやって生きていたと思います。
なるほど。
今までの自分であれば、追い詰められた時に「もうだめだ」と思ってしまっていましたが、只本屋の活動の中でギリギリのところでなんとかできた経験があるので、今では「いろんな選択肢がきっとあるから何とかなる」と楽観的になりました。
その考え方は仕事でも活きていますか?
逆に仕事では、それを活かしたらダメだと思っています。仕事の時は、真面目に真面目なことをやろうと心がけていますが、小さいところでは楽観的な部分が出てると思いますね。
それはスイッチを切り替えているっていうことですか?
言われてみればそうかもしれないです。只本屋の時は思いついたことをフィルターをかけずに言っていますが、仕事になると言い換えたりいろいろ考えないといけないので、そこでオンとオフを切り替えているのかもしれないです。
只本屋のメンバーとはフィルターをかけなくても通じ合えるんですね
なんでも言っちゃいますね。
プライベートの話や相談もします。メンバーは恋バナが好きなので、話しているうちに最終的に人生相談になっていることはよくあります。
友達なのか友達じゃないのかよくわからない、名前のない関係性。
友達とは違いますか?
なんか違うよね。同じ大学だったら絶対友達になってなかった。
え、ほんと?(笑)
わからないけど、私がビビると思う。
確かに。最初は互いに関わったことがない感じのタイプだから探り探りでした。異色なメンバーが多いから、みんな只本屋にいなかったら関わってない人が多いと思います。
そういう点では、只本屋はお二人にとって特殊な場所なんですね。
そうですね。友達でも親でもなければ、仕事場でもない。一言で言い表すと“救いの場所”ですかね。息抜きじゃないけど、そういうフィルターかけずに自分をさらけ出せる場所。
距離感がちょうどいいんですかね。
月に2日しか会わないので。イベント準備とかで会う回数が多くなりますが、学校や職場ほど会わないという距離感がちょうどいいです。
お二人とも就職されても只本屋の活動を続けている理由はなんですか?
卒業するからやめるという発想はなくて、逆に只本屋の活動を続けるために京都で職を探しました。
やっぱりここが心の拠り所だからですね。社会人になって強くそう思うようになりました。
今後、只本屋を通してやってみたいことはありますか?
みんなで本気の本屋やってみたいねと話しています。みんながもっとちゃんと集まれる場所にしようとか、入口をギャラリーにしようとか。
今は、フリーペーパーとちょっとZINEを置いているだけなんですけど、もう少し広い枠組みのことも巻き込んでいきたいです。カルチャーに興味のある人にも来てもらえるので、縦横無尽にそういう人たちを繋げられたらいいなと思っています。
本にはない、フリーペーパーならではの魅力
それでは最後に、お二人のおすすめのフリーペーパーを教えていただけますか。
宮崎市が発行している『宮崎食堂』がいいなと思いました。最近の地域のフリーペーパーはデザインが良いやつが多くて、パラパラと見ただけなんですけど、これは今後推していくだろうという予感がしております。
たしかに地域の紹介をするフリーペーパーはクオリティが高いものが多いですよね。
佐賀県を紹介する『SとN』をはじめ、地域のフリーペーパーは本当に人気ですぐになくなってしまいます。でも代表の山田も過去のインタビューで話していましたが、地域がいいフリーペーパーを発行するのは、地域が盛り上がってないから人を呼ぶため、という理由がほとんどのようです。課題解決のために作られたフリーペーパーですが、私たちからすると知らなかった町のことを知るきっかけになるので、相互作用があるなはあると思います。
伊藤さんはいかがでしょう。
私は『フリースタイルな僧侶たち』(以下、フリスタ)はすごく好きで、新刊が出る度に必ず持って帰ります。フリーペーパーの面白いところは、特定の世界のことがとことん深掘りして書いてあることだと思うんですが、その点でフリスタはずば抜けていますよね。紙の質もしっかりしてるのもポイントだと思います。
紙の質はポイントですか?
紙の質とデザインは同じくらい重視していますね。わら半紙を使ったものや、型にハマらない独特なデザインのもののも好きだし、そういうところが魅力のフリーペーパーもあると思います。
型にハマってないフリーペーパーは、作り手の顔がなんとなく見えるんですよね。。そういうフリーペーパーは「これを伝えたいんだ!」という作り手の情熱が紙面から溢れているんです。このフリーペーパーの作者は一番これが伝えたかったのか!とか、作り手の思いや状況が見えるものもあって面白いですよ。
そういう楽しみ方もあるんですね。
『Himagine』というフリーペーパーもすごく好きで。くだらない内容を真面目に作ってる人たちで、内容は思わず笑ってしまうくらい面白いんです。紙はわら半紙で綴じ方が雑なんですが、それがすごい良いんです。「締め切りに追われて急いで作ったのかな……」とか、想像できるのも魅力のひとつだと思って人に勧めています。一周回って愛おしいフリーペーパーですね。
クオリティの高いものだけがいいものではない、作った人が滲み出るようなものの良さがあるんですね。
フリーペーパーの醍醐味だと思います。
装丁や内容から向こう側の人を感じられるっていうところが、普通の本にはない魅力です。
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WRITER
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98年京都市生まれ京都市育ち。左京区の某芸術系大学に通いながら、毎日楽しく暮らしています。心が踊る音楽が大好きです。
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