INTERVIEW

ライター・編集者 羽佐田瑶子にとってのインタビューって?― 人は目で、身振りで、しゃべって「語る」第2回

インタビューは楽しい。普段は話せないような人に、普通じゃ聞けないようなことも聞ける。けれどそれって、不自然な行為でもある。改めて考えると、インタビューとはどういう行為なのだろうか。この連載では、日常的にインタビュー(的な行為)をしている人々への取材を通じて「インタビューとは?」を見つめ直してみる(全10回を予定)。第2回はライター・編集者の羽佐田瑶子さんに話を聞いた。

OTHER 2026.04.17 Written By 白鳥菜都

羽佐田瑶子さんは、ジェンダーやフェミニズムをテーマに、映画、アイドルなどさまざまなカルチャーを横断しながら多くのインタビューを手がけてきた。インタビューを仕事にする人のなかには、羽佐田さんのようにテーマを決めて取材をする人もいれば、広いジャンルで仕事をする人もいる。

 

羽佐田さんがジェンダーやフェミニズムというテーマを持って働いている背景、そしてそれをインタビューという行為を通して発信している理由を聞いた。

 

写真:相澤有紀

羽佐田瑶子

ライター、編集者。主にジェンダーやフェミニズムをテーマに、アイドル、映画、本に関連するインタビューやコラムを執筆。映画パンフレットの執筆・編集にも携わり、『21世紀の女の子』『永遠が通り過ぎていく』などを担当。

 

Webサイト:https://yokohasada.com/

X:@yoko_hasada

Instagram:@yoko_hasada

「やりたいことをやらなきゃ」からライターへ

──

羽佐田さんは、ライターや編集者の仕事をする前はどんなことをされていましたか?

羽佐田

私は、東日本大震災の年に新卒一年目だったんです。就活のときはリーマンショックも起こって、就活中に突然面接がなくなるとか、そもそも「新卒を取らない」という会社も多かった。だから大きい会社で働くこと=安定というイメージを持ちにくかったですし、わかりやすいレールに乗ることへの憧れが、自分にも周りにもあまりなかった気がします。

 

逆に、「人生はどうなるかわからない。自分のやりたいことをやらないと」という空気は強くありました。自分も周りの子も生きていくことに値する働き方ってなんだろうとすごく考えていたと思います。

 

そんな中で、映画会社でアルバイトをし、PR会社に入社して、どちらも昼も夜も関係なく働くような環境でした。

──

その後、どうしてライターに?

羽佐田

結構ハードワークだったので、ある時、果たして本当に私はこの仕事がやりたいのかなと考えるようになったんです。

 

「やりたいことをやろう」と思った時に、自分は映画のパンフレットが大好きだということを思い出して。パンフレットとか雑誌とか、紙ものを作る仕事に就きたかったから、早くに会社を退職しました。

 

でも、最初はなかなか紙ものを作る仕事の面接には受からなくて、訪日外国人向けに日本のカルチャーを紹介する多言語媒体に就職しました。そこで初めて編集とライティングの仕事をするんです。働いているうちに、私は人に話を聞いたり書いたりすることが向いているし、好きだと気づきました。

羽佐田さんのデスク。「すぐに眠くなってしまうからタイマーをかけて仕事しています」と羽佐田さん。
──

どういうところが向いていると感じました?

羽佐田

日本のカルチャーを海外の方々に伝える媒体だったので、出張で日本全国を周って、いろんな地域のいろんな人に話を聞いていたのですが、いわゆる有名人ではない市井の方もいました。そこで、どんな人にも物語があるんだなと感じて面白かったんです。

 

それに取材を通して、私は人の良いところを見つけるのが得意かもしれないと気づきました。話していると、その人の良いところや好きなところが見えてきて、どんどんと聞いてみたいことも溢れてくる。自分の性格は「聞く」ということに向いているんじゃないかなと思いました。

留学先で目にした光景が仕事のテーマに

──

羽佐田さんはよくプロフィール欄に「主にジェンダーやフェミニズムをテーマに〜」と書かれていますよね。最初からこういったテーマについて執筆していましたか?

羽佐田

2016年にフリーランスになったのですが、その時からジェンダーやフェミニズムをテーマに書きたいと思っていました。会社員時代に所属していたメディアでは自分の関心事を扱うには限度がある。もっとやりたいことを突き詰めるためにフリーランスになってみるのもいいかなと思って独立したんです。

──

どうしてそのテーマを書きたいと思ったのですか?

羽佐田

自分自身の理不尽な経験が、言語化される感覚を何度か味わったことがありました。とくに大きな影響を受けたのは、学生時代にアメリカのシアトルに留学をしたとき。シアトルってカナダとの国境にあるエリアなんです。カナダにはヨーロッパ系の移民や黒人がたくさん住んでいて、隣接するシアトルにも多様な人が住んでいました。さまざまな人種の人が住んでいるから差別の問題がよく話題になるし、社会運動も頻繁に行われている。また当時は、スーパーのアルバイトの賃金格差が話題で、どこかしらで運動が起こっているので、周りの子も行くから私も行くようになって。

 

そんな中で、人種だけではなくて女性差別もよく話題になっていることに気づきました。私はそこに関心を持つようになって、ジェンダーやフェミニズムのことを学び始めたんです。

──

今でこそジェンダーやフェミニズムをテーマにした記事を見かける機会は増えましたが、羽佐田さんが独立した2016年当時はどんな状況でしたか?

羽佐田

もちろん最初からそんなにうまくいったわけじゃなくて、1記事5,000円みたいな仕事もたくさんしていましたし、来た仕事は全部受ける、みたいな時期もありました。

 

でも、私が独立したのと近い時期に「She is」というウェブメディアが立ち上がって、ご一緒するようになったんです。「She is」もジェンダーやフェミニズムを扱う媒体だったので、そこで書いた記事をきっかけに似たジャンルの仕事で声をかけていただくことが増えたり、つながりが広がったりしました。未だに「She isで記事を読んでいました」と声をかけていただくこともあります。

 

いまでは私が独立した頃に比べて、同じような関心を持ったライターさんもすごく増えていて嬉しいなと思いますし、心強いです。インタビュー相手も以前は女性ばかりでしたが、徐々にいろいろなジェンダーの方にインタビューする機会も増えてきました。そういうときに広がりを感じて嬉しく思いますし、もっとこの輪を広げていきたい。

──

これまでに担当されたインタビューで特に印象に残っているものを教えてください。

羽佐田

2019年の和田彩花さんの記事がとても記憶に残っています。もともと私はアイドルが好きで、和田さんが所属していたハロー!プロジェクトのファン。そんな中で、「She is」を通して和田さんと直接お話しする機会をいただいて、同じような関心を持っていることがわかって。私もアイドルに違和感を感じる部分があり、自分が好きなアイドルというジャンルはフェミニズムやジェンダーの視点で語ることができるんだと気づかせてくれる取材で、記事もすごく読まれました。それ以降も、和田さんとはよく会ってお話しするようになって、最近では和田さんの『アイドルになってよかったと言いたい』(太田出版)でもインタビュー記事を担当させてもらいました。私にとって大事な出会いとなった取材です。

 

あとは、写真家の長島有里枝さんの記事も印象に残っています。長島さんの写真がとても好きで、写真集もいろいろ持っているのですが、話を聞いてみたらより「この人かっこいい!」と思いました。長島さんにもフェミニズムの視点から取材をしたのですが、すごく明確に問題意識を持って作品作りをされていることがわかりました。あと、コロナが落ち着いて少し経った頃の取材で、すごく久しぶりの対面取材だったんですよね。長島さんに肩を組んで励まされるような距離感で、そういう意味でも記憶に残る取材でした。

──

その後も近しいテーマで数多くの取材をされてきたと思うのですが、ターニングポイントになるような仕事はありましたか?

羽佐田

『21世紀の女の子』という映画のパンフレットは、「自分は今後もこのテーマで書いていくべきだ」と確信できた仕事でした。編集とライティング、どちらも担当したのですが、この作品に参加した14人の映画監督みんなとやりとりさせてもらったんです。

 

インタビューと寄稿、どちらもあったんですが、「自分自身のセクシャリティあるいはジェンダーがゆらいだ瞬間が映っていること」をテーマにした映画だったので、必然的にみんなそういった話をしてくれて。全員に話を聞き終わって、原稿を読み終わった時、一つのテーマでもこれだけ多様な声があるんだとひしひしと感じました。ジェンダーとは多様なものであると気づかせてくれた、自分にとって心に残る仕事です。プロデューサーの山戸結希さんをはじめとした監督、カメラマンの飯田エリカさんなど、このときの出会いが今でも生きています。

羽佐田さんが編集・ライティングを担当した『21世紀の女の子』(2019)パンフレット

インタビューは「超特等席」で「妖怪行為」でもある

──

羽佐田さんがインタビューの仕事を積極的にされている理由は何でしょうか。

羽佐田

やっぱり人に話を聞くことがすごく好きなんだと思います。インタビュアーって超特等席に座れる仕事ですよね。自分にはなかった考えを知れる。取材相手の見ている景色を少し分けてもらえる感じがある。

 

それに、カルチャーをジェンダーやフェミニズムの視点で紐解いていくことに関心があるので、実際に動いている人たちの内面を聞いて伝えたい気持ちも強いです。少し難しそうな話題でも記事をきっかけに、フェミニズムに興味を持ってもらえたり、その映画を見てくれたり、本を読んでくれたり。大げさに言えば社会の関心が変わるかもしれない。誰かが一歩踏み出すきっかけを作りたいという意味でも、インタビューは積極的にやりたいです。

──

エッセイやコラムも書かれると思うのですが、どんな違いがありますか?

羽佐田

大前提、書くのが大好きなので、エッセイやコラムも依頼をいただいた時には積極的に引き受けます。でも、やっぱり自分の考えや悩みを掘っていくことには限界もある。それに私は承認欲求が希薄なんだと思います。だから書くことは好きだけれど小説家のような方向性は向いていないと思った。それよりも、この世界に存在するいろいろな価値観に興味があるので、インタビューで新しいことを知ったり、世界が広がったりする感覚を届けられることが面白い。

──

そういった楽しさはよくわかります。一方で、羽佐田さんが扱われるテーマのインタビューでは、センシティブな話題が出てくることも多々あると思います。インタビューするなかで、ためらいやしんどさを感じることはありませんか?

羽佐田

ありますね。すごく辛いことを相手にさせているなと思う瞬間もあります。インタビュー相手を消費して、削って削って、私はいっぱい栄養をもらって……。取材が終わる頃には私がエネルギー100%で、相手は40%くらいに減っているんじゃないかなと。

 

『21世紀の女の子』のときに、山戸結希さんが「カメラを向けることには暴力性がある。カメラを向けられることがどれだけ怖いことか私は理解したい」とおっしゃっていて。私はそれを聞いたとき、インタビューも同じだなと思いました。いま向き合っている人の何かを取ろうとする妖怪みたいですよね、私たち。非常に恐ろしいことをやっている、という自覚は持っていたいですし、だからこそ資料調べや質問案づくりなど事前の下準備は、インタビューの工程でもっとも時間をかけています。オタク気質なので取材対象者が発表した作品を追いかけ、インタビュー記事も読みあさり、相手よりくわしくなっていることも(笑)

 

インタビューの際はなるべく手放して、目の前の会話を大事にしますが、下準備を丁寧にすることが私のできる誠実さかなと思っています。

──

そういった暴力性があると自覚した上で、インタビューをするときに心掛けていることはありますか?

羽佐田

「安全・安心な場」にすることをすごく大事にしたいと思っています。取材相手が話したくないことは話さなくて良いと最初に提示しますし、絶対に原稿はチェックしてもらいます。

 

それから、できるだけインタビュー中に相手にも発見があるといいなと思って話を聞いています。こちらがただ受け取って終わるんじゃなくて、問いかけることや自分の考えを話すことで、相手も「そういう視点で考えたことはなかった」と思えるような時間になったらいいなって。

 

確かに時にはしんどい取材もありますが、考えるのをやめたら、誰も話題にできなくなってしまうかもしれない。言葉にしづらく、発言しづらいテーマでも、安心安全な場を作って語れるようにするのが私の役目なのかなと思っています。

──

ちなみに他の観点からも、インタビューにおいて大切にしていることはありますか?

羽佐田

インタビュー相手と仲良くなりたいって思いすぎないことですかね(笑)。やっぱりインタビューの仕事を始めたばかりの頃は、「インタビュー相手と仲良くなって、その人の取材にまた呼ばれて……」なんてミーハーな憧れもありました。でも、「仲良くなりたい」と思った瞬間に、自分のエゴが出てインタビューに集中できない気がしたのでやめました。

 

オダギリジョーさんに何度か取材させていただくなかで、「作品そのものを見てくれている気がする」と言ってくださったので、私のやり方は合っているのかもと思いました。

羽佐田さんがインタビューをするにあたって影響を受けた本。上から中村佑子『マザリング 現代の母なる場所』(集英社)、島森路子『ことばを尋ねて 島森路子インタビュ-集1』(天野祐吉作業室)、イ・ミンギョン著・すんみ 小山内園子訳 『私たちにはことばが必要だ フェミニストは黙らない』(タバブックス)

世に出る記事が次の語り手を呼んでくる

──

インタビュー後の原稿執筆時にも意識していることはありますか?

羽佐田

原稿執筆はかなり気を遣っていると思います。最終的に私たちのインタビューって記事として世に出るので具体的に言うと、すごくセンセーショナルな言葉を見出しに使わないと決めています。話題もセンシティブなものが多いので、そのセンセーショナルさばかりが切り取られて、世の中に出ていってしまうだろうと思うので。最終判断は編集部さんになりますが、できるだけ取材相手が本当に伝えたいことや、私自身が勇気づけられた言葉を見出しとして提案するようにしています。

──

以前ご自身のブログで、インタビュー後の原稿執筆について「ものすごく時間がかかる」と書かれていましたね。

羽佐田

時間かけすぎだな、すごく効率悪いな、私の時給いくらだろうな、と考えることはあります(笑)

 

なるべくその人の雰囲気が記事から立ち上がってくるようなものにしたいなと思っていて。口癖をなるべく消さないとか、語尾もその人がしゃべっていたものをできるだけ活かしたいとか、相手が嫌な気分にならないようにあらゆる可能性を考えてまとめたいとか。そうしているうちに時間が経ってしまって。現場で聞いたことをそのまま書けばいいわけでもなくて、どう原稿にするかで印象がかなり変わるので、すごく考えます。

 

私が書いた記事をきっかけに、誰かと誰かがその課題について語ってくれたら、やってよかったと思う。話題にしづらいと思っている人が、素直に自分の気持ちを出せたらうれしい。記事をきっかけに「私もそのテーマに関心があります」と言ってくれる人がいたら、私はまたインタビューしに行きたいです。


筆者は、羽佐田さんの記事とその記事に登場する人々に励まされてきた一人だ。語りにくいであろう話も、ぐっと踏み込んで伝えてくれる記事の数々に心を揺さぶられてきた。

 

今回話を聞いて、それらの記事の背景にある羽佐田さんの覚悟に触れたように思う。センシティブな話題を扱う時、覚悟を決める必要があるのは、インタビューされる側だけではない。「安心・安全」は自然には出来上がらない。「絶対にこの場を安心安全にする」「話してよかったと思える記事にする」。そういう意思と行動の上で行われるインタビューだからこそ、一人だけで考えたり書いたりするよりも多くの言葉が引き出されるのだろう。

これまでの「人は目で、身振りで、しゃべって「語る」」

この連載について

インタビューは楽しい。普段は話せないような人に、普通じゃ聞けないようなことも聞ける。けれどそれって、不自然でもある。改めて考えると、インタビューとはどういう行為なのだろうか。この連載では、日常的にインタビュー(的な行為)をしている人々への取材を通じて「インタビューとは?」を見つめ直してみる(全10回を予定)。

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