【マグナム本田の妄想続編 〜今度は戦争だ!~】コール・オブ・ヒーローズ 武勇伝
初夏の匂いが漂いつつも日が落ちると冷え込みが強くなり、衣替えで冬物を箪笥の奥にしまったことを少し後悔していたある5月の夜のことである。私はもともと高い教養をより高めるべく寝台に寝転び読書(実話ナックルズのバックナンバー)に耽っていた。「ナヌ!あの芸能人にも薬物疑惑が!」「あの有名企業のバックには黒い存在が!」などと読書の悦びに浸っていたところ、ふとあることに気付いた。枕元の読書灯と壁との位置関係により私の手の影が壁面に大写しになっていたのである。
これを見た私は「おっ、ちょっとドイツ表現主義っぽくね!」と思い、ひとしきり手指を動かして遊んだ後、「ちょっとHな影絵を開発してみよう」と思い立ち、指の関節の可動域を極限まで駆使しながらボンド映画のタイトルバックに出てきそうな裸の女性のシルエットを作り出すことに成功した。「これは記録を撮っておかねば」と思い、スマートフォンを構えようとするも両手が影絵のために塞がれておりどうやってシャッターを切るか悩んでいたところ「ポロロン♪」という間抜けな通知音が鳴り響いた。私は影絵遊びという文化的遊興を邪魔されたことに対し舌打ちをした後、緊急の連絡だったら困るので複雑に形作った手指をほどき届いたメールを開いた。
メールの送信主は本連載を掲載している「アンテナ」という京都で最もイケてるWEBマガジン & フリーペーパーの編集長であり、本文には「バカなことしてないでこれ観て妄想続編書きやがれ!」とあった。彼には遠視の能力があるのか、それとも私に対して「常にバカなことをしている」というイメージがあるのかどっちだろう・・・と思い悩みつつも、今回の妄想続編の課題作品を観ることにした。
映画『コール・オブ・ヒーローズ 武勇伝』のあらすじ
初めて読む方のために説明すると本稿は「ある映画を観て、まだ存在しないその続編を妄想する」というものである。今回の課題作品は『コール・オブ・ヒーローズ / 武勇伝(以下『CoH』)』である。
あらすじやキャスト、スタッフについては下記サイトを参照いただきたい。
1910年代の中国。国内は内戦状態にあったものの、片田舎の村・普城ではヤン団長が指揮する自警団が守りを固めていたため人々は平和に暮らしていた。だが、各地で略奪と虐殺を繰り返す、ツァオ将軍率いる軍閥が普城に迫っていた。ある時、将軍の息子ツァオ・シャオルンが一人で村に乗り込み、女性と子供を含む3人を亡き者にし……。
「サモ・ハン is Back!」と題された特集上映の第二弾(第一弾の『おじいちゃんはデブゴン』は現在みなみ会館にて絶賛上映中)であり、今回の『CoH』ではサモ・ハンはアクション監督として名を連ねている。サモ・ハンについて30代以上の方々には説明不要であろうが若い方のためにご説明させていただこう。
サモ・ハン(旧名サモ・ハン・キンポー)は1952年生まれの現在65歳。10歳の時に中国戯劇学院にて京劇を学び(ジャッキー・チェンやユン・ピョウも同門出身)、子役を経てスタントマンに興味を持ち、1970年に本格的に武術指導として映画界に進出。腕を見込まれたサモ・ハンは尊敬するブルース・リーにフックアップされ「燃えよドラゴン」で共演を果たす(少林寺での御前試合でブルース・リーに腕を極められる太っているのにやたらキレのあるアクションをする男が若き日のサモ・ハンである)。その後主演作品『燃えよデブゴン』、ジャッキー、ユン・ピョウとの三大スター共演の『プロジェクトA』で日本でも人気となり、現在に至っても武術指導、アクション俳優、またアクションなしの俳優としても高い評価を得ている。
とりあえずこんなところだろうか。他にも『プロジェクトA』が日曜洋画劇場で放映された際、解説の淀川長治氏の「サモ・ハンキンポー、キンポー、この「キ」を「チ」に間違わないようにしてくださいねー」という名解説のことや、吹き替え版でほぼ全てのサモ・ハンの声を演じた水島裕(テレビ東京系列で放映された、まだそこまで売れていなかった頃のSMAPの冠番組「愛ラブSMAP!」の二代目司会者でお馴染み!)が同じ頃テレビアニメ「ときめきトゥナイト」の真壁くんというサモ・ハンとは対極にある役をやっていたことなどにも触れておきたいが、本稿の趣旨からどんどんずれていくのでここまでとする。
で、『CoH』本編を観た。製作・監督のベニー・チャンにより黒澤明とセルジオ・レオーネに献辞が捧げられていることからもわかるように、隠すことなく『七人の侍』や『用心棒』そして数々のマカロニウェスタンへのオマージュにあふれた傑作であった。
『七人の侍』における菊千代(三船敏郎)の役どころであるエディ・ポンと「香港の荒木飛呂彦」ことウー・ジンの胸躍るアクション対決、本作の白眉とも言える「香港の松平健」ことルイス・クーの悪逆非道っぷり、そして確実に爆笑を誘おうとしているある2つの演出など非常に楽しんで観られた。もちろんそれらを支えているのは京劇出身のサモ・ハンらしい、俳優の生身の身体性とワイヤーアクションなどのケレンを絶妙なバランスで組み合わせたアクションである。特にサモ・ハンの三男であるサミー・ハンのトンファーさばきは必見である。
「あーおもしろかった」と実際に声に出した私は飲みかけの缶ビールを干し、布団に潜りこもうとしたが妄想続編を書くまでが私の仕事であったことを思い出し、本作の舞台である1910年代の中国に思いを馳せた。
『コールオブヒーローズ2』のキーパソンを演じるのはもちろんあの人
さて、続編はどのような内容にしようか……と思索を始めて2分ほどだろうか。「続編……いらなくね?」という結論に至った。というのも前述した通り本作は黒澤明『七人の侍』をベースに作られており、『荒野の七人』『七人のおたく』などの数ある七人の侍オマージュものの中では出色の出来なのであるが、『七人の侍』自体が1本の映画として完成されたものであり、続編を必要としないものだからである。考えてみて欲しい、野武士との戦いの後が描かれた『七人の侍2』なんてものが作られたとしてそれがおもしろいかどうかと(『荒野の7人』には3作の続編があるが尻すぼみな印象がある)。しかし、ここで諦める私ではない。脳裏に素晴らしい考えが浮かんだ。純粋な後日譚としての続編ではなく前日譚、所謂プリクエルというやつでいこうと。というわけで続編は1作目でラウ・チンワン演じる村の自警団の団長ヨンが自警団を結成するまでの話にすることにした。
時代は1作目から遡ること2年、1912年の清王朝崩壊後の軍閥が割拠し内乱状態の中国。軍閥たちの略奪にあえぐ村に一人の流れ者がやってくる。その男は村の惨状を見て、ヨンや村の青年たちに戦闘のノウハウを伝授、自警団を結成し見事軍閥を撃退。村に平和が訪れる。というと1作目とほぼ同じプロットであるが、大事なのはその流れ者を誰が演じるかである。1作目ではエディ・ポンが流れ者を演じているが『七人の侍』で三船が演じた菊千代ほど強い印象は残していない。『七人の侍』の製作秘話の中に最初は六人でいくつもりがジョーカー、異物としての菊千代というキャラクターを創造したところ急激に物語が転がりだした、というのを聞いたことがあるのでここは強烈なジョーカーを投入しようと思う。その男の名はそう、スティーヴン・セガールである。
この時代の中国はすでにイギリスやドイツが入植を始めており、欧米人がいても不自然ではない。だがアメリカは浸出していない。あのセガールにイギリスのクイーンズイングリッシュを話せというのは確実に無理。そのため人物設定はアメリカ人にしなければならないのだが、幸いアメリカには1848年のゴールドラッシュ以降、数多くの中華系移民が流入しているので中国との交流はあるはずだ。というわけでセガールの人物設定は「中国に中華料理を学びに来た元ガンマン」これでいくことにした。設定を料理人にしたのは訳がある。セガールの代表作『沈黙の戦艦』と『暴走特急』の主人公ケイシー・ライバックはコック(元特殊部隊)であり作中でも50人分のブイヤベースやブランデーケーキを作り料理の腕を披露している。全国に4人いるセガールファンなら料理人という設定だけでニヤリとするはずだ。また『CoH』1作目ではある料理が前半のシーンで非常に重要な役割を果たす(一番の爆笑シーンでもある)のでこのあたりは2作目でも受け継ぎたい。
一言申したい
セガールを配役する理由はまだある。それを説明するには昨今のアクション映画、特にアメリカのアクション映画について語る必要があるだろう。
ここ10年くらいのアクション映画を観ていてこう思っている方も多いはずだ。「なんかもうチャカチャカチャカチャカしてんなあ!」と。最近のアクション映画は格闘シーンでやたらとカットを割るのである。この潮流が生まれたのは2002年の『ボーン・アイデンティティー』に始まるジェイソン・ボーンシリーズからだと私は記憶している。それまでは文化系オタク的イメージの強かったマット・デイモンがスピーディーなカット割で格闘する姿は衝撃的であったが、以降「早いカット割りで撮っときゃあスタイリッシュなんだろ?」と早合点した三流映画人が粗悪品を量産することとなる。さらにはそこにザック・スナイダー的なスローモーションを加えるなどの小細工もしたりするのだが、ジェイソン・ボーンシリーズが成功したのはマット・デイモンが身体作りと格闘訓練に長い時間を費やしたこともその一因であることを忘れてはならない。生身の身体性と演出の相乗効果であのシリーズはアクション映画の新たなクラシックの仲間入りを果たしたのだ。
この「早いカット割り」演出のタチの悪いところはあまり身体性の高くない俳優のアクションでもそれなりに見えてしまうという点で、それまであまりアクションのイメージがなかった中年俳優が最近やたらとアクション映画に進出しているのもこれがその要因である(欧米系の映画でこの演出が成功しているのはジェイソン・ステイサムの『トランスポーター』くらいだろう)。
話をセガールに戻すが、実はセガールこそこの演出をいち早く取り入れた人物なのである。80〜90年代前半にかけて合気道ベースの所謂「セガール拳」で人気を博したセガールも90年代後半になるとブクブクに太り始め、かつての動きのキレがなくなり無駄なアップや前述の早いカット割りでごまかすようになっていく。さらにここ最近の2作『沈黙のアフガン』や『沈黙の粛清』では人物設定をスナイパーに設定し、もはや動く気すらないようだ。
つまり私はこう言いたいのだ。「セガールよ、香港でサモ・ハンに鍛えなおしてもらえ!」と。自分で製作も兼ねた主演作ばかり撮ってお山の大将状態のセガールに、かつて合気道を学びに単身日本に渡ってきた時のような新鮮な気持ちを思い出してほしいのだ。
奇しくもセガールとサモ・ハンは1952年生まれの同い年、サモ・ハンが武術指導としてドニー・イェン主演『イップ・マン 序章』でアクション設計賞を受賞したり、監督としてもアンディ・ラウから出演を直訴されるなどの尊敬を集める一方、セガールはDVDスルーの作品を乱発したりあまりリアルでないリアリティ番組に出たりで半笑いの対象である。チンケなプライドなど捨て、すぐにでもサモ・ハンに弟子入りしてほしい。想像してみてほしい。ここぞ!という時に京劇的なキメがあったり、ケレン味あるワイヤーアクションを見せるセガールを。私なら大爆笑だ。
『コール・オブ・ヒーローズ2 〜沈黙の業火〜(仮)』
さて、ここからは本稿の主旨である『コール・オブ・ヒーローズ2 〜沈黙の業火〜(仮)』の具体的なストーリーについて妄想していこう。因みに副題の「業火」は中華料理の強火をイメージしてみた。
19世紀末、アメリカ西部でのインディアン戦争で凄腕のガンマンとして活躍したセガールは引退後、開発の進むカリフォルニアに定住し趣味の料理を楽しんでいた。ある日1848年のゴールドラッシュ以降に流入した中華系移民の街を訪れた際に食べた中華料理に感動、店主に頼み込み、住み込みで弟子入りをする。そして中華系移民と寝食を共にすることにより料理だけでなく漢方や功夫、東洋思想を知り、本場中国本土でそれを学びたいと思うようになる。
1912年、中国に渡ったセガールは軍閥に略奪され荒廃しきった寒村に辿り着く。ここには何もなさそうだと通り過ぎようとするがそこに運悪く軍閥の下っ端が女を漁りにやってくる。見慣れない欧米人にからむ下っ端だが手首を変な風にひねられ投げ飛ばされる(もちろんアクション指導はサモ・ハンだ)。慌てて銃を取り出そうとするが自らの眉間にセガールがほぼ全ての作品で使用する愛銃コルト・ガバメントの銃口が押し当てられていることに気付き逃げ出す。
ところでこの時代にコルト・ガバメントのようなオートマチック拳銃が存在するのを疑う方もいるだろうが、ガバメントの正式名称は「コルトM1911」。1911年にアメリカ軍に正式採用されているので時代考証的に間違っていない。余談だが、コルト・ガバメントは11.4ミリの弾丸を使用する比較的大きな銃であるが(最近の主流は9ミリ弾を使用する)、身長193センチと巨大な体躯のセガールが持つとかなり小さく見える。私はこの光景を見る度に「なんや、テレビが大きいんやなくて阪神君が小っちゃいんやんか〜」というオール阪神巨人の漫才を思い出す。
セガールが軍閥の下っ端を追い返すのを見た村人達は仕返しを恐れてなんてことをしてくれたんだと詰寄る。だがそこに割って入る村の青年団の長ヨン。「このまま軍閥どものいいようにされていていいのか」と演説をぶち、自警団の結成を宣言する。そしてその自警団の指導をセガールに頼み込む。セガールは「うまいメシを食わせてくれたらいいぜ」と条件を出す。そこでヨンは従兄弟の料理人が作った村の名物である牛肉麺を差し出す。ネギのたっぷり入った牛肉麺をすすったセガールは「オーケーだ」と返す。セガールと麺類の相性が良いのは30代以上の日本人にはお馴染みである。
村の青年団改め自警団にアメリカの中華街で学んだ功夫を発展させたセガール拳やインディアン戦争で使用した様々な戦術やトラップを伝授するセガール。あまり身体能力が高くなく、接近戦に向いていないヨンには鞭の使い方を教える。
案の定、村がセガールの指導によって城砦と化しているのも知らずに復讐にやってくる軍閥の一群。人っ子一人いない村を調べるとかまどにかけられた鍋からうまそうな匂いがしている。下っ端が蓋を取ってみるとかまどが爆発!これを合図に隠れていた自警団が軍閥に襲い掛かる。思わぬ奇襲に狼狽する軍閥一団。しかもデカイ外人が変な拳法でバタバタ味方を倒している。こうなったら、と銃を構える軍閥の将。銃口の先にはセガールの姿が。それに気付くヨン。だがもう間に合わない。するとセガールは懐から幅広の中華包丁を取り出し……(このセガールの行動が後に『CoH』1作目のクライマックスでヨンのとるある行動のヒントとなるので詳細は省く)
見事軍閥を撃退したセガールと自警団。セガールはその功績により村人達から「神(シェン)」と呼ばれることとなる。ラストシーン、村人に惜しまれながらも新たな中華料理を学ぶため別の地へ旅立つセガール。馬にまたがり去るセガールの背に村の少年が叫ぶ「シェーン、カムバック!」
おお、完璧なシナリオではないか。もはや『コール・オブ・ヒーローズ 武勇伝』はスティーヴン・セガールが続編を演じる為に作られた企画であると思えてならない。制作会社様には続編制作が決定した際はぜひアンテナ編集部にご一報頂きたい。脚本執筆の準備はできている。
というわけで『コール・オブ・ヒーローズ2 〜沈黙の業火〜(仮)』(制作・公開未定)をお楽しみ頂く為にも、6月17日京都みなみ会館にて公開される「コール・オブ・ヒーローズ 武勇伝」にぜひ足をお運び頂きたい!
Illustration by 中城海図
上映作品 | コール・オブ・ヒーローズ 武勇伝 |
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上映期間 | 2017年6月17日〜 |
会場 |
WRITER
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プロフィール“19XX年、京都府北部に落ちた隕石の落下現場にて発見され施設で育つ。
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14歳の時にカート・コバーンに憧れ施設から脱走。紆余曲折を経てシアトリカル・テクノ・ポップ(TTP)バンド「マグナム本田と14人の悪魔」を結成。
京都のバンドシーン関係者8割くらいから嫌われている。
https://youtu.be/1tYuVpXR1qY