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マグナム本田の妄想続編 〜今度は戦争だ!~『草原に黄色い花を見つける』

この作品ならセガールもさすがに出演できないのでは……?

理不尽な解散による総選挙、裁かれぬ悪、有効に活用されている気がまったくしないのに年々増えていく税金、ライブドア事件の影響で欽ちゃん球団はなくなりかけるし、ワイドショーは連日ミッチー・サッチー論争。一匹狼なデッカードを気どったところで現代社会に生きている限り気分が荒むことばかりだ。最後の2つは随分前のことのような気もするが(筆者はどちらかといえばミッチー派。突然しゃしゃり出てきた十勝花子はどうでもいい)。

 

そんな荒んだ気分で安酒場で安酒をあおり、空気の冷たさに世間の冷たさを重ねながら帰路につく午前0時、私の頭の中のジュークボックスから耳をつんざくようなギターリフが流れ出す。そう、相川七瀬の『夢見る少女じゃいられない』である。

とっくに閉店した電気屋のショーウィンドウに映るあの日の無垢だった自分を曲にあわせて銃を模した指を向け「バン!バン!バンバン!」と4発撃ってみる。ショーウィンドウの私は不思議そうな顔をして首をかしげている。「やめろ!そんな眼で俺を見ないでくれ!」と叫びながら走り出す。ほうほうの体で帰宅した私は着ていたシャツを脱ぐ。襟元を見てみると随分と黒ずんでいる。洗濯する前に漂白するべく洗面台に湯を張り漂白剤を溶かしシャツを浸けおきしていると腹が減っていることに気づく。安酒場でケチってつまみを食わなかったからだ。冷蔵庫に白菜と厚揚げがあったのでお出汁でさっと煮たやつを作ろうと思い、白菜をまな板にのせ切ろうとすると手に痛みが走る。さっき素手で漂白剤を触ってしまったせいである。白菜を放って入念に手を洗う私。頭の中の相川七瀬がサビ終わりの「夢見る少女じゃいられない♪」の節にのせてこう吐き捨てる。「手荒れで白菜刻めない♪」と。「おっ、ちょっとおもしろい」と思った私はもう白菜のことなどどうでもいい。あの節にのせておもしろい言葉を書き出すことにした。

 

「キセルで捕まり情けない」
昔、京阪深草駅でキセルで捕まった人を見たことがある。もう五十路を過ぎているであろうおっさんが駅員に連れられている背中はそれまで見た中で最も情けない背中であった。

 

「イルカがサライを歌わない」
無事放送中にゴールしたランナーを迎える黄色いTシャツの面々。その中には歌手のイルカもいる。イルカだけ黄色の面積が少ないのはトレードマークのオーバーオールを着ているからだ。紙ふぶき舞う中、大団円で『サライ』を歌う面々。カメラがパンしていくと明らかに歌っていない憮然とした表情のイルカの姿が。「ランナーと遺恨があるのか?」「楽屋で何かあったのか?」視聴者に深い疑問を抱かせながら放送は終了。まったく空気を読まない

 

「エバラ焼肉のたれ」のCMが流れ出す……。

と、ここまで書き出していると携帯電話がメールの受信を告げる。送信主は京都を中心としたカルチャーを紹介するエッジーでキンキーなWEB媒体「アンテナ」のハンサム編集長であった。「次はこの映画の妄想続編書いて」という本文。添付されたファイルを開く。『草原に黄色い花を見つける』(11月4日より京都みなみ会館にて公開)というベトナム映画であった。直前まで『武道館の黄色い面々』について考えていた私は襟を正して本編を観始めた。

 

『草原に黄色い花を見つける』のあらすじ、スタッフ、キャストについては下記公式サイトをご参照頂きたい。

草原に黄色い花を見つける

 

 

公式HP:http://yellow-flowers.jp/

セガールに取り憑かれた男

初めて観るベトナム映画ではあるが「まあよくあるアジアのジュブナイル小品だろう」とタカをくくっていた私は見事に予想を裏切られることになる。「アジアのジュブナイル小品」であることは間違いないのだが、パッと見のルックが非常にハリウッド的、というか明らかにスピルバーグ的なのである。これは!と思い監督であるヴィクター・ヴーのプロフィールを確認してみるとバリバリのアメリカ生まれアメリカ育ちのベトナム系アメリカ人であり、好きな映画監督にやはりスピルバーグを上げていた。初恋により少年期と思春期の間で揺れ動く主人公、無垢さという概念を具現化したようなその弟との関係はどこかエリオット少年とETとの関係と重なるところがある。

 

舞台は1989年のベトナムののどかな農村。直接描写はないものの、ある人物の姿によってかつてこの地にも大きな悲劇があったことを思い起こされる。そして劇中のお姫様と虎、カエルのおとぎ話は何のメタファーなのか…… 実に味わい深い作品であった。

 

「ふっ、『メタファー』という難しい言葉を初めて使ってやった。これで頭がいいと思われるに違いない」などと考えている暇はない。この作品の続編を勝手に妄想するのが本連載の主題だからである。腕を組んで虚空を見つめながら「どうやってスティーヴン・セガールを出そう……」と私はつぶやいた。

 

こんなはずじゃなかった。本連載はただ「続編を妄想して書く」という主題で始まったはずである。しかし第1回にウケ狙いでスティーヴン・セガールを出し、その後2回も続けて安易に出してしまった結果「スティーヴン・セガールの出る続編を妄想して書く」という連載に成り果てた。最近はどんな映画を観ていても「どうやって続編にセガールを出すか」を考えてしまって純粋に作品を楽しめなくなるという十字架を背負うこととなってしまった(セガール作品であればそんなことを考えなくてもいいのだが、セガール作品には「たいしておもしろくない」という大きな問題がある)。だがもはや乗りかかった船だ。お前がそれを書けというなら書いてやろうではないか!

それではセガールが出演する『草原に黄色い花を見つける』の続編を考えていこう。舞台はもちろんベトナムでいきたいのだが、ひとつだけ懸念すべきことがある。それは映画史的にベトナムは「チャック・ノリスのテリトリーである」ということだ。

チャック・ノリスという男、みなさんはご存知だろうか。古くは『ドラゴンへの道』のラスト、ローマのコロッセオでブルース・リーと死闘を繰り広げた空手家出身俳優であり、最近では『エクスペンダブルズ2』でスタローン達が窮地に陥った際に突然現れて敵を皆殺しするも、若い観客には「このチンパンジーみたいな顔のおじさんは誰だろう?」と思われた男である。

チャック・ノリスの代表作に1984年に大ヒットし、続編も制作された『地獄のヒーロー』(原題『Missing in Action』)という作品がある。原題の『Missing in Action』とは「戦闘中行方不明」のことでありMIAとも略される。『地獄のヒーロー』はベトナム戦争で取り残された米軍捕虜をノリスが単身乗り込み救いにいくという所謂「MIA奪還もの」と呼ばれるよくある内容なのだが、後のアクション映画史において非常に重要な役割を果たすこととなる。

 

この作品でスタントマンを務めた当時無名のベルギー人はその後ノリスのスパーリングパートナー、そしてノリスの妻の経営するレストランのウェイター兼用心棒となる。そのレストランで大物プロデューサーとのコネを作り、見事ハリウッドスターの座を射止めたのがジャン=クロード・ヴァン・ダム(通称JCVD)である。また『地獄のヒーロー』のヒットを受け、「武道家出身俳優主演映画」というジャンルが成立。この恩恵を最も享受したのが誰あろうスティーヴン・セガールその人なのである。

 

つまり『地獄のヒーロー』がなければ学校をサボった大学生の暇つぶしにおおいに役立ったテレ東の「午後のロードショー」や素晴らしい告知CMを大量に作った「木曜洋画劇場」は存在しなかっただろう。この2番組はアクション映画が下火になった90年代後半〜00年代前半にセガール、JCVD、ノリス、スタローン、シュワルツェネガーの作品を毎週のように放映してくれた偉大なる番組である。

とにかくセガールにはチャック・ノリスに対して返しきれないほどの恩がある。そんなセガールがノリスのテリトリーであるベトナムで気軽に映画を撮ってもいいのだろうか! 

 

たぶんいいと思う。なんせチャック・ノリスは第一線を退いているとはいえ、昨今のネットでの「チャック・ノリス・ファクト」での人気もあり年収は今でも1500万ドル。金持ち喧嘩せず。セガールが「ベトナムで映画撮っていい?」と訊けば気軽に「いいよー」と言ってくれるはずだ。

続編:草原に沈黙の黄色い花を見つける

唯一の懸念も解決したので続編である『草原に沈黙の黄色い花を見つける(仮)』のストーリーを考えていこう(ここから先、『草原に黄色い花を見つける』の些細な、ほんの些細なネタバレがあります)。

 

私はこの続編を『ベスト・キッド』(1984)のような所謂「師弟もの」の作品にしようと考えている。若い読者にはジャッキー・チェンとジェイデン・スミスが出演した2010年のリメイク版の方が馴染みがあるかもしれない。「『酔拳』や『蛇拳』で弟子を演じてきたジャッキーが遂に師匠を演じるようになったか」と往年のファンは感動したものである。リメイク版でのジャッキーはそれまで見せることのなかった渋く抑えた演技で演技派俳優としても国際的評価を高めた。つまりこれのセガール版を作ろうではないかということだ。2017年現在65歳のセガール、身体も動かなくなってきたのでこれからは演技派としてやっていくしかない。

 

しかしまたここで問題が発生した。セガールという男、吃驚するほど演技の幅がないのである。セガールにできる演技は基本的に3つしかない。「仏頂面」「やれやれ顔」「ニヤケ面」である。平時やアクションシーンは基本的に仏頂面、相棒のお調子者の黒人がふざけたり、上司に理不尽な命令を下された時はやれやれ顔、ヒロインとの会話や女性にマッサージを施すシーンはニヤケ面でこなすのがこれまでのセガールメソッドだ。しかしこれだけでは一作目のような心の機微に触れるようなジュブナイル作品は成立しないであろう。ではどうすれば良いか。これに関してはもう「頑張れ!」と言うしかない。頑張って頑張って頑張ればなんとかなる!頑張れセガール!(『がんばれベアーズ!』とかけている)

 

舞台は一作目の一年後である1990年。セガールの役どころはソ連出身のロシア系医師(時代的にアメリカ人が気軽に入国できないので)。セガールがまったくロシア人に見えないという意見もあろうが、『マチェーテ』という作品に出演した際はまったくメキシコ人に見えないメキシコ人役をやったことがあるので問題はないし、最近セガールがなぜかロシア国籍を取得したことも話題になったのでタイムリーだ。

 

一作目の不幸な出来事で歩行が困難になってしまった主人公ティエウの弟トゥオン。数々のベトナム人医師がさじを投げ、もはや一生歩けない身体になってしまうのかと思われたがそこにソ連からやってきたセガール演じるフトモモスキー医師(セガールは実際太ももが好きで女性を口説く時に太ももを撫でながら禅の思想を語ったりする)と出会う。セガールはお得意の東洋医学の知識を活かし不思議なお茶とか経絡のツボを押したりで瞬時にトゥオンの足を治してしまう。これをきっかけに少年達とセガールの心温まる交流が始まる。合気道を教えるセガール。コサックダンスを教えるセガール。「テトリス」というゲームがあることを教えるセガール。ピロシキを作って振舞うセガール。そして禅の思想を教えるセガール。

 

だがそんな平穏な村に事件が起こる。村近くのベトナム戦争時代からある捕虜収容所が何者かに襲われベトナム軍兵士は皆殺し、収容されていた米軍捕虜は姿を消していた。混乱から一夜明け、少年達はセガールも姿を消していることに気付く。そう、実はセガールはCIAからMIA奪還を命じられたアメリカ人スパイだったのだ。裏切られたことにショックを受ける少年達。しかしもぬけの空になったセガールの診療所で少年達に宛てられた一通の手紙を発見する。手紙には「私は私が『善い』と思うことをやった。君達も君達が『善い』と思うことをやれ。私が禅の思想を学んだ日本では善い行いを意味する『善』と『禅』は同じ発音なんだよ……」とかなんとかウマいことが書いてある。その言葉を胸に刻み込み、いつまでも夢見る少年ではいられないことに気付きだす少年達。そして翌年にはソ連が崩壊、ベトナムにも市場経済が流れ込む激動の時代へと進むのであった……。

 

以上が『草原に沈黙の黄色い花を見つける(仮)』の概要である。おお、完璧なシナリオではないか。もはや『草原に黄色い花を見つける』はスティーヴン・セガールが続編を演じる為に作られた企画であると思えてならない。

制作会社様には続編制作が決定した際はぜひアンテナ編集部にご一報頂きたい。脚本執筆の準備はできている。

 

というわけで『草原に沈黙の黄色い花を見つける(仮)』(制作・公開未定)をお楽しみ頂く為にも、11月4日から京都みなみ会館にて公開される『草原に黄色い花を見つける』にぜひ足をお運び頂きたい!

上映作品

草原に黄色い花を見つける

会場

京都みなみ会館

日時

2017/11/04(土)〜

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