INTERVIEW

【実は知らないお仕事図鑑 P4:小説家】 土門蘭

BOOKS OTHER 2019.04.09 Written By 和島咲藍

書くことでようやく世界と対等になるんです

──

次は土門さんにとっての「書くこと」について聞かせてください。『音読』ウェブサイト上で連載されている子育てブログを読んでいると、例えば子育てする上でのバイアスに苦しむさまを率直に描かれていて「すごく生々しいな」と感じます。その「生々しさ」はどこから来るのでしょうか。

土門

やっぱりアウトサイダーなんでしょうね、王道の母性神話とかに、やっぱり子育てでもハマれなくて”母親”になれなかった。土門蘭として子供を産むことしかできなかった感じですね。個人として子供を産み、育て、そこで感じたことを「私はこう思う」って書いてるだけなんです。そうしてたら「それでもいいんだと思えました」っていうメールをいただいたりして、よかったなと思いますね。

──

読者に新しい視点を与えるようなことって考えて意識的にされているんですか?

土門

全然考えてないですね。あるがままに出てきちゃってるんだと思います。子育てブログなんかは特に、自分のために書いているものなので。

 

私は多分、自由になりたいがために書いている。自分の目でちゃんと見て自分が感じたことをきちんと書き留めることは自分の内面を浄化することなんです。周りから影響されたものではなくて、自分の主観で書かないと、自分の世界が誰かに寄りかかったものになってしまうので、私は「自分から見た世界」というのを大事にしていて、それがおそらく結果としてアウトサイダーになっている気がします。

──

「書くことで内面を浄化していく」ということについてもう少し教えてください。

土門

幼いころ、金銭的にも文化的にも恵まれなくて、でもこれを周りのせいにしているとこの境遇からは抜け出せないなって考えていた時に、田口ランディさんの本で「世界は自分が編集している」という言葉を見つけて「そうか、この世界が汚く見えてるのは自分の目が汚れているからなんだな」って思ったんです。

 

文章には見えたものがそのまま出てしまうので、自分の目が曇っていないかどうか、誰かのせいにしていないか、ちゃんと自分の頭でものを考えているか、手垢にまみれた言葉を簡単だからって使っていないか、というようなことを常に確かめて、目をクリーニングしていないといけない。だから書いてると自分が一応なんとか浄化された状態で居られる、みたいな感じです。生きてく上で絶対大事だから、私は仕事じゃなくても絶対書いていると思います。

──

書く以外、例えば人と話すなどでは浄化できないのでしょうか?

土門

できないですね。書かないと。

──

それは書いたものを読んで「ああ自分はこう思ってるんだ」って認識できるからですか?

土門

うーん、と言うよりは、「自分と世界の対話」みたいなことだと思うんだけど、人と話してても、世界との対話にならない。世界との対話の補助にはなると思いますけどね。

 

──

「世界との対話」「自分との対話」ってすごく大事だと思うんですが「世界との対話」をどのようなものだと考えてらっしゃいますか?

土門

世界って「あまりにも大きすぎて自分では捉えられない」と感じてしまうものだと思うんですが、「世界は自分が編集している」と思って書けばそこに世界が誕生するんですね。つまり、世界って実はそこまでおっきくないんじゃないか問題。私にとってはあまりにも世界が綺麗で大きすぎるので、自分が書くことによって世界をようやく対等に見れる。主従関係でいうと、ずっと世界が「主」で私が「従」だった。でも書くことでようやく対等になれて、対話ができるという感じです。

──

ライターは広すぎる世界を自分の言葉や対話によって自分の敷地を広げたり地図を描いていくということですね。それは書くことだけじゃなくてアウトプット全般に言えることかもしれません。

土門

そうかもしれないですね。アウトプットすると、なんだか世界に触れる感じがしませんか?自分がものを作ることによって世界に参加できたなという感じがあって、それがなかったら孤立感で死んでしまうと思う。

自分が読んで面白いものを書こうって思うと、いいものが書けるんです

──

土門さんが「書いててよかった」と思われるのはどんな時ですか?

土門

一番嬉しいのは自分の文章で自分が救われた時ですね。自分の書いたものが誰かの人生に掠るのって、本当に奇跡みたいな瞬間だなって思っているので、私の力ではないって思っているんです。運でしかない。本当にありがたいことだと思っていますけれど、それを狙って書いているわけではありません。

 

でも自分がちょっと楽になったり前向きになるのは毎回確実に狙って書いているので「ああ今回も自分がいいなと思う文章が書けた」と思うと、大きな喜びではないかもしれないけれど、確実に溜まっていく喜びだとは思っているんですよね。自分を少しずつ肯定していける感じ。

──

やはりお仕事として文章を書かれているとどうしても締め切りがありますよね。「どうしても書けない!」という時は、どうされていますか?

土門

まずは自分勝手になります。誰かの期待に応えようとするとやっぱり指が重くなってしまうので、一回それをぜーんぶ忘れて、私はこれから誰にも読んでもらえない文章を書くんだっていう感じに思い込むんですね。それで「もういいや、なんでも書いちゃお、何書こっかなー」ってやると、書ける。自分が読んで面白いものを書こうって思うと、いいものが書けるんですよね。

──

それでもどうしても書けない時ってありますか?

土門

ありますよ。そんな時は「書けない」って柳下さんに言います。そしたら「なんでも話してごらん、壁に話しかけるよりはマシだから」って言われる。書けない理由を排除してくれるのが編集者なので、書いたものを送って「本当に書きたいことってなんだろう、本当にこれで合っているのかな」というのを柳下さんと対話していきます。それが最終手段ですね。

──

人から依頼されて書くよりは自分で企画して書いたりする方がやりやすいんでしょうか?

土門

誰かから依頼されたものでも、最初「めっちゃ面白そう」と思って乗っているので、それを引き受けた時の純粋な自分の好奇心や興味に立ち返るんですよね。いつの間にか付着したものを一回そぎ落として「あれ、私何書きたかったんだっけ」ということを考えます。

──

やっぱり自分のために書かないといけないんですね。

土門

そう。まずそれをクリアしないとみんなには絶対届かないので、最低条件みたいな感じです。

小説家という肩書きは自分に課しているものです

──

土門さんはインタビュアーとしてもご活躍なさっていますが、どういう姿勢で取り組んでいらっしゃいますか?

土門

私は自分にはライターとしての専門性がないと思っているんです。何にも詳しくない。でも一人一人の哲学や美学を聞き出すのはすごく好きで、専門性よりももっともっと根本的な、みんなに通用するような普遍的なところを聞きたいという気持ちがすごく強いので、そこで仕事をしています。

──

「ライターとしての専門性がない」というのは意外でした。ライターというよりは創作や、「人の中から出てくる」ものを書きたいという感じなんでしょうか。

土門

そうですね、そこでしかないんでしょうね。例えばカフェにしても、店長の生い立ちとか、辞めたいと思ったことあるのかなとか、そういうところにばっかりいってしまいますね。だからインタビューはすごく好きです。

──

土門さんがこれから挑戦したいことはありますか?

土門

対談がしたいです。インタビューを18歳くらいから初めてもう15年になるんですが、最近になって一方的に言葉をいただく行為であるはずのインタビューがだんだん対話に近づいてきていることに気づいたんです。『経営者の孤独』というインタビュー連載をやっているとすごく顕著で、「”孤独”というテーマについて一緒に掘り下げてみたい」という気持ちが出てきた。だからそろそろ対談っていうものをやってみたいなと思っています。

 

インタビューでは、言葉をいただくので「主」はインタビュイーにあるんだけど、一人の人と対等になって一つのテーマについて語り合うみたいなことができたらいいなと思っているんです。

──

例えばどんなことについて対談してみたいですか?

土門

例えば「愛ってなんだろう」とか「子育てってなんだろう」とか「未来って」「依存って」とか、みんなに共通する普遍的なことを再定義するような対談ができたら面白いなと思っています。

──

それはどんな方との対談を想定していらっしゃいますか?

土門

「この人は自分の足で立って歩いている人なんだなあ」という人なら誰とでも面白い対談になりそうだなあと思っているんです。そういう方と対等に話すためには自分も強く立って歩いていなければならないんですけど。言葉をもらうんじゃなくて、言葉を投げ合う。こっちがゼエゼエ言ってたらキャッチボールにならないので、すごく体力のいることだと思います。

──

土門さんが文章を書くことで成し遂げたいことは何ですか?

土門

いつも考えているのは「今書いてる小説を書き上げたい」という、本当にそれだけです。今書いている小説には「これを書き終えたら死んじゃってもいいかな」と思うくらい入れ込んだんですけど、そうしてたらまた書きたい小説ができちゃって、次これ書こう、っていうのをもう柳下さんとも話しているんです。

 

多分この繰り返しだろうなって思っていて、次の作品を書いている時もまた「これが書けたら死んじゃってもいいな」って思うだろうし、そうしていたらまた次に書きたいもの、テーマが出てくる。それを繰り返しながら、行けるとこまで行くみたいな感じだと思います。

──

最後に、土門さんは小説、短歌、エッセイ、インタビューなど、様々な分野で執筆されていますが、現時点でご自身の肩書きをどう設定されていますか?

土門

「小説家」ですね。多分私は小説を書き続けるから、小説家として短歌を書きたいし、小説家としてインタビューしたい。それはこれからもそうだと思います。

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