COLUMN

【Dig! Dug! Asia!】Vol.2 : YONLAPA

MUSIC 2020.04.22 Written By Sleepyhead

「台湾のシーンが熱い」と透明雑誌が日本のインディーシーンを騒がせて、早くも10年近くになるだろうか。その間にもアジア各国を行き来するハードルはどんどんと下がっていった。LCCの就航は増え、フェスなどのリアルな場、そしてSNSや各種プラットフォームが整備されていくことで、文化的な交流も随分と増えたように思う。

 

その中で日本はどうだろうか?十分に交流が生まれているだろうか?アジア各国からの発信を待つだけでなく、もっとこちらから知ることが必要ではないか。なぜならとっくのとうに、アジア各国はつながっているから。アジア各国からの発信を待つのではなく、こちらからももっと近づきたい。

 

そんな思いからはじまったこの連載。アンテナのライターが月替りでそれぞれにピンときたアジアのアーティストを今昔問わず紹介することで、読者の方とアジアのシーンにどっぷりつかってみることができればと思う。

紹介するアーティスト : YONLAPA

拠点 : チェンマイ / タイ
活動年 : 2018年 –
公式Instagramアカウント : https://www.instagram.com/yonlapa/?hl=ja

YouTubeで偶然出会ったタイのインディーバンド YONLAPA

YONLAPAに初めて出会ったのはYouTubeのレコメンドだった。自分の好みに合いそうな新しいインディーロックバンド探すとき、サムネイルやバンド名が気になるMVをYouTubeでいくつか観るようにしている。好きなテイストで音楽を作るバンドと新たに出会えるチャンスが広がっているからだ。

 

ある日、いつも通りYouTubeで好みに合いそうなMVを探していると、爽やかな青い空の下でギターを弾く女性が写る“Let Me Go”という曲のサムネイル画像が目に留まった。ポップで鮮やかな色づかいが気になり曲を聴くと、シティーポップの上品さを感じさせつつキャッチーなギターリフが散りばめられたサウンドにすぐ心が惹かれた。この“Let Me Go”をきっかけにタイを拠点に活動するバンドのYONLAPAに出会い、リリースされている他の曲も繰り返し聴くようになった。今ではお気に入りのバンドの一つだ。

タイ第二の都市 チェンマイから発信されるサイケデリックポップ

昨今の東南アジアの音楽シーンに影響を与えている音楽といえばシティーポップだ。日本にもファンが多いタイのPhum Viphuritは心地のいいカッティングギターと甘い歌声でシティーポップを表現する。また、インドネシアのIkkubaruが山下達郎からインスピレーションを受けたと公言していることもファンの間ではよく知られている。

 

 

 

そんな東南アジアシーンの文脈の中から、YONLAPAが頭角を現しつある。タイで2018年に結成したフレッシュな4ピースバンドで、発表している楽曲はそれほど多くはないが、2019年11月末にリリースされた“Let Me Go”はすでに再生回数が100万回を超えている。Noina(Gt / Vo)の伸びやかで深みのある歌声が魅力的で、シティーポップのニュアンスと、サイケデリックロックの浮遊感を掛け合わせ、東南アジアの音楽シーンで存在感を高めているバンドだ。

 

また、前述のPhum Viphuritは首都バンコク出身だが、YONLAPAは第二の都市チェンマイをベースに活動している。チェンマイは歴史的建造物が並ぶ街で、日本で例えるなら京都のようなところだという。人口が一極集中するバンコクから少し距離をとったチェンマイのローカルシーンに属しながらも、YouTubeでの露出によりタイ国外にもファンを獲得したバンドなのである。

シティーポップをサイケデリックな解釈で鳴らす

YONLAPAのサイケデリックポップを最も体感できるのは、少ない音数で構成されるミドルテンポの“U”だ。リズム隊は控えめだが随所で存在感を放ち、Noinaの深みがありメロウな歌声が強調され心地よく響く。台湾のSunset Rollercoaster(落日飛車)のように心の奥にまで沁みわたり、ネガティブな感情すら優しく包み込まれるような懐の深さを感じさせる。

 

 

 

“Why Why Why”はNoinaの歌の強さをシンプルに活かしたスローバラード。そっと寄り添うように柔らかで、ネオソウルからの影響が垣間見える艶やかなNoinaの歌唱力は、リスナーの心をほぐしあたたかな気持ちにさせる。バンドサウンドだけでなく、歌に焦点をおいた曲作りができる表現の幅広さは、YONLAPAがタイ国内だけでなく、世界中のリスナーを惹きつけている魅力の一つだ。

 

 

そして代表曲ともいえる“Let Me Go”は、爽やかな夏の日を思わせるVHSのようなノスタルジックなMVと、ポップに突き抜けるメロディーがクセになる一曲だ。ベースやギターのフックになるリフをぶつけ合うような楽曲にも関わらず、全体としてのバランスが取れている。深いリバーブがかかるギターや、耳に残るキャッチーなリフがリピートされるサウンドはサイケデリックポップの印象を強め、身体がふわりと浮かんでいるような軽快さが気持ちいい。

 

 

YONLAPAは、今のところ日本語はもちろん、英語で読める情報もあまり見当たらないバンドだ。しかしYouTube上での人気や、サイケデリックな要素をシティーポップのフィルターを通してキャッチーに仕立てる楽曲のクオリティーを思うと、今後確実にアジアから世界に羽ばたいていくバンドになるだろうと個人的に期待している。今はまだ日本の音楽ファンに広まる一歩手前のタイミングだ。ぜひYONLAPAの音楽を先取りしてほしい。

 

WRITER

RECENT POST

INTERVIEW
身近な距離感のインディーロックが生まれる原点とは – YONLAPAインタビュー
INTERVIEW
時間をかけて他人の言葉に身を委ねる「表現としての翻訳」とは – 藤井光インタビュー
COLUMN
変わりゆく自分の現在地|テーマで読み解く現代の歌詞
COLUMN
Vol.3 Sovietwaveトラックガイド
COLUMN
Vol.1 Sovietwave 時代の移り変わりでねじれるソ連のノスタルジー
COLUMN
Dig!Dug!Asia! Vol.5 : Khana Bierbood
COLUMN
【Behind The Music of Asia】Vol.1 : South Korea 前編
REVIEW
The Neon City – Fancy in Twenties

LATEST POSTS

INTERVIEW
あの頃、下北沢Zemでリトル・ウォルターを聴いていた ー武田信輝、永田純、岡地曙裕が語る、1975年のブルース

吾妻光良& The Swinging BoppersをはじめブレイクダウンやBO GUMBOS、ペン…

COLUMN
【2024年11月】今、東京のライブハウス店長・ブッカーが注目しているアーティスト

「東京のインディーシーンってどんな感じ?」「かっこいいバンドはいるの?」京都、大阪の音楽シーンを追っ…

REPORT
これまでの軌跡をつなぎ、次なる序曲へ – 『京都音楽博覧会2024』Day2ライブレポート

晴天の霹靂とはこのことだろう。オープニングのアナウンスで『京都音博』の司会を務めるFM COCOLO…

REPORT
壁も境目もない音楽の旅へ‐『京都音楽博覧会2024』Day1ライブレポート

10月12日(土)13日(日)、晴れわたる青空が広がる〈梅小路公園〉にて、昨年に引き続き2日間にわた…

REPORT
自由のために、自由に踊れ!日常を生きるために生まれた祭り – 京都学生狂奏祭2024

寮生の想いから生まれたイベント『京都学生狂奏祭』 …