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映画から学ぶアートとお金の関係『ファウンダー ハンバーガー帝国のヒミツ』

自分で描いた絵を売る私は、アーティスト・村上隆の言葉を常に心に刻んでいる。

 

“現代社会の競争原理の中で生計を立てるなら、芸術の世界であれ戦略は欠かせません。作品を作るための場所や資金の確保も必要です。何があっても作品を作り続けたいのなら、お金を儲けて生き残らなければならないのです。芸術家も一般社会を知るべきです。

引用元:村上隆、『芸術起業論』(2006年、株式会社幻冬舎)”

 

作品をつくり続けるにはお金がかかる。必要な資材や場所、作家に影響を与える体験にもお金が関わってくる。

 

初めて自分の作品を売ったとき、アートでお金を稼ぐ難しさや厳しさを知った。初めて出展したアートイベントには59,000人もの来場者が訪れていたが、私の作品はほとんど見向きもされなかった。私の技術が未熟なこともその理由の一つだが、来場者の動きを観察する中で、作品をつくる技術だけでなく“作品を売る技術”も必要なのだと知った。しかし「アートで稼げなくてもいい」とは思わない。思ってはいけない。なぜならイベント出展を重ねるうちに、私の絵を好きだと言って購入してくださるお客様が増えたから。そのことは私の励みになるだけでなく、「お金をもらった以上、期待以上の結果を出していこう」という気合にも変わっていった。

 

自分の体験をきっかけに、お金を稼ぐことについて学ぶことにした。自分のために、そして、アートで稼ごうとする人のために、アーティスト自身がお金について身近に語れる日が来るべきだ。お金は手段なのだから。

 

そこで本記事では『映画から学ぶ、アートとお金の関係』と題して、お金について考える機会を与えてくれる映画を紹介していく。稼げるアーティストを目指すために、アートとお金の関係を考えていきたい。

第1回で紹介するのはマクドナルドの“創業者”を描いた映画『ファウンダー ハンバーガー帝国のヒミツ』。本作は、ビジネスの世界の厳しさとそんな世界で成功を掴むために必要なものを教えてくれる。

 

なぜマクドナルドが世界最大のファストフードチェーンへと成長できたのか。それは、野望に満ちた主人公レイ・クロックの、成功とお金への執着心だ。本作では、稼げるアーティストを目指す第一歩として、ビジネスを成功させるためのマインドについて学んでいきたい。村上隆曰く“芸術家も商売人”(※1)。アートは“商品”だ。

『ファウンダー ハンバーガー帝国のヒミツ』

2016年にアメリカ合衆国が製作した伝記映画。監督はジョン・リー・ハンコック、主演はマイケル・キートン。マクドナルドを世界最大のファストフードチェーンに成長させた一人のビジネスマン、レイ・クロックを描いた物語である。

 

「52歳にもなるさえない営業マンが、どうやって世界一の“創業者(ファウンダー)”にのぼり詰めたのか。答えはひとつ。“執念”だ」

 

成功者の代名詞とも呼ばれているレイ・クロックだが、本作はサクセスストーリーと呼ぶほどキラキラした物語ではない。どちらかというとギラついたおっさんの映画であり、本編を観た人の大半は(もしかしたら予告編だけでも)レイのやり方に腹立たしさを覚えるのではないだろうか。なぜなら彼は、成功するためなら手段を選ばない。

 

レイは元々、ミキサーを売るしがない販売員だった。マクドナルド兄弟が経営するハンバーガー店にミキサーを売りに来た時、レイは彼らの店がもつ可能性に惚れ込んだ。経営拡大の話を持ちかけられた兄弟はそれに同意。しかしマクドナルドのフランチャイズ展開が進むにつれて、レイの野心が露わになっていく。

 

この物語の結末は、“マクドナルド 創業”と検索すればすぐにわかる。レイはマクドナルドの”創業者”と名乗っているが、実のところは、マクドナルド兄弟が0から作り上げたブランドを乗っ取り、彼らの存在を蔑ろにして規模拡大を広げ、その称号を得た。物語終盤にさしかかると、レイはマクドナルド兄弟に「出会った時からこの店を狙っていた」と言ってのける。彼は初めから「彼らの店は金になる」と狙いを定めていたのだ。

 

レイの言動は金、もしくはビジネスの成功が目的である。レイがもし、人か、金か、という岐路に立たされたとするならば、彼は迷いなく金をとるだろう。むしろ、金のためなら人をも利用する、そんな印象だ。それゆえ、彼の言動全てが非道なものに感じられるかもしれない。

兄弟から見れば悪役だが…

マクドナルド兄弟は、自分たちの手が届かない範囲での事業拡大に慎重な姿勢だったが、レイは自分の人生をかけた壮大な夢を追い求めていた。その夢を叶えるために、彼は努力する。自ら従業員を教育し、閉店まで残って店を掃除する。どうしたら品質を落とさずに店の規模を大きくできるかを行動で示し、リスクを承知で前へと突き進む。彼の兄弟への言動はめちゃくちゃなので、本作を兄弟視点から見ていると彼が悪役に見えるだろう。けれど、自ら率先して動く彼に着目して映画を見ると、彼のひたむきさに魅力を感じられるようになる。

 

彼は根っからの営業マンで、経営や資金調達のプロではない。それゆえ、フランチャイズ展開を始めたばかりの頃は経営を人任せにしすぎたことで、オーナーに好き勝手に商売され、ブランド価値を下げてしまうなど、失敗や苦労を味わうことにもなる。銀行からお金を貸してもらえなかった時には、妻に無許可で自宅を抵当に入れ、なんとか資金を得る始末だ。

 

だが、弱肉強食なアメリカ資本主義の世界において、“執念”だけで勝ち残ろうとするレイの大胆さは、人々の心を捉え、投資に協力する者や助言を与える者が現れる。大きな転機となったのは、銀行の窓口でたまたま隣になった青年との出会い。レイの野心とビジネスプランに興味を持った彼は、効率よく資金調達ができる方法をアドバイスする。その方法は、マクドナルド兄弟との関係悪化につながるが、彼との出会いでレイの野望はまた一歩前進するのだ。

 

レイは物語終盤、マクドナルド兄弟に向かって「溺れているライバルの口にホースを突っ込むぐらいでないと事業は拡大できない」と言い放った。恐ろしい発言だが、この世界で勝ち残ることができるのは“執念”深く食らいついていったものだけ。今のマクドナルドを見てほしい。マクドナルドを世界的大企業にしたのは、紛れもなくレイだ。

アート=商品を売るために必要なメンタリティ

『映画から学ぶ、アートとお金の関係』の第1回に本作を選んだのは、アートで稼ごうと思うのなら、レイ・クロックのメンタリティを見習わねばならないと感じたからだ。

 

「アートでお金を稼ぎたい」「自身の活動で社会に影響を及ぼしたい」「名を馳せたい」などの強い欲望があるのであれば、レイを見習って目的を達成するために最善を尽くすべきである。誰かに嫌われようと敵視されようと、成功のためならなんだってやる。失敗したら損失を、成功すれば栄光を手にする、そんなチャンスが目の前に転がってきたときには、リスクを食らう覚悟で突き進む。そのぐらいじゃないと、成功なんてできないのかもしれない。

 

ここでひとつ情けない話をする。正直な話、現時点での私はマクドナルド兄弟のように規模の小さな商売を着々と積み重ねていくほうが向いている。人か、金か、という岐路に立たされた時、私はレイのように金に突き進むことができないことを知っているから。

 

だが、お金が発生する商品を生み出している自覚を持って作品づくりに取り組まなければ、お客様に失礼だ。活動を続けていくのに必要なお金を稼ぐため、自分の作品は立派な商品なのだという意識を持ち、ビジネスとしてアートと向き合いたい。

 

そして、活動を続けていくうちに芽生えてきた強い欲望を、私は自覚している。欲望が膨らみ、こじんまりとしたビジネスに満足しきれなくなるのであれば、その夢を叶えるために私はレイに変貌しなければならないだろう。

 

予告編のナレーションは厳しい現実を物語ってくれる。

 

「きれいごとだけでは、夢は絶対に叶わない」

 

アートで稼ぐことを考えるのであれば、今後も愚直にお金と向き合おうではないか。

※参考文献

  1. 村上隆『芸術起業論』(2006年、株式会社 幻冬舎)
  2. 芸術家がお金の話をすると、なぜ悪者扱いされるのか?|芸術企業論|村上隆 – 幻冬舎plus
  3. レイ・クロック、ロバート・アンダーソン共著『成功はゴミ箱の中に レイ・クロック自伝―世界一、億万長者を生んだ男 マクドナルド創業者』(2007年、プレジデント社)
  4. ふたりの経営者が読み解く鬼才、レイ・クロックは「英雄か、怪物か」 Forbes JAPAN
  5. 桑原清幸『駆け出しクリエイターのためのお金と確定申告Q&A』(2017年、株式会社 玄米光社)

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