変化を選び続けた彼女たちの軌跡 – CuBerry『ニューストーリー』インタビュー
人種の問題、ジェンダーの問題、セクハラ、パワハラ、SNSで個人が声を上げやすくなった近年、今まで遠い国や場所で起きていたことだと思っていたことが身近になった気がする。しかし、目や耳にする意見はどちらか一方に極端に偏った意見であることもしばしばで、議論や争いの不毛さを感じることの方が多い。そんな風にあらゆる問題について達観しているふりをする自分にも苛立ちを覚える。
今回インタビューした、映像×音楽のアートユニットCuBerryのKanaco(Vo/Gt)とSetsuka(映像/アートワーク)は、映像と音楽を通じて「共生」について考えたいと話す。たくさんの問題にうんざりしていた私だが、二人の話を聴いてワクワクしていた。CuBerryが持つビジョンが夢物語ではなく、現実味を帯びた希望のある話だと感じたからかもしれない。二人の話に芸術が交差することで生まれる可能性を垣間見たからかもしれない。
変わることを怖れないCuBerryの姿勢は、「異なる状況について考え変わっていく」という1つの「共生」のかたちであると感じた。そんな、CuBerryのこれまでの変化とこれからについて、2020年4月14日に発売(全国流通は7月1日から)した1stフルアルバム『ニューストーリー』を軸に話を聞いた。
CuBerry
Kanaco(Vo/Gt)Sue(Ba)Yuiko(Dr)Setsuka(映像/アートワーク)による、京都発4人組アートユニット。
2016年から活動を開始。バンド名でもある「キューベリー」という妖精を中心とした世界観を軸に、音楽と映像を使った独自の表現方法を求め活動している。これまで発表してきた映像が、さまざまなコンペティションにて賞を受賞、バンドとしてもSONY主宰のオムニバスに参加するなど、音楽・映像とともに評価を受ける期待のアートユニット。
アートユニットだからこそ行けるバンドという世界の外側
CuBerryの活動は、Setsukaさんが制作した短編映画『夕暮れの影』の劇伴を、Kanacoさんに依頼したことで始まったんですよね。お二人がユニットを組むに至った経緯を教えてください。
『夕暮れの影』は、大学2年生の時に制作しました。その頃から友達として、Kanacoちゃんが奏でる音楽に触れる機会があって、すごく良いと感じたんです。そのことがきっかけで、短編映画で使う音楽の制作を頼みました。Kanacoちゃんが作った曲と音が入ることで、映画が自分の手を離れて生命を宿したように感じ、感激したことを覚えています。Kanacoちゃんの音楽は、私の作品が持つ可愛いけれど物悲しくて切ない雰囲気に本当に合うんです。それは私達二人が、幼い頃から触れてきた文化や好きなものが共通しているからなんだと思います。
音楽と映像のユニットを組もうと誘ったのもSetsukaさんですか?
短編映画を作ってから、好きな音楽の話をするようになりました。そして意気投合した流れで、「ユニットみたいなこともしたいね」と話が進んでいきました。
CuBerryの活動の最初期は二人組のユニットでした。バンドではなかったのはなぜですか?
バンドは曲を作ってライブハウスでライブをするというイメージがあって、名乗ってしまうと自分たちの活動の幅が狭くなってしまう印象がありました。私たちは映画の制作とバンド活動を分けては考えていません。なので、その既存のイメージに囚われずに活動したかったのでユニットとして活動していました。メンバーが増えた今でもその意識は持っています。
映像と音楽の制作ユニットとして活動することで、実際に範囲が広がった感覚はありますか?
映画と音楽では世界が違って、活動場所が違えば出会う人も全く違います。そのどちらにも顔を出しながら横断できることは面白いところだと思います。
そういう意識がある中で、Yuikoさん(Dr)、Sueさん(Ba)を入れて、バンド編成に変化していきました。どういう心境の変化がありましたか?
CuBerryとしてはバンドという形に囚われたくないですが、私自身はバンドがやりたいという気持ちもあったので、まずは身近な人達に声をかけていくことを考えたんです。その中で、swimmeesというバンドをやっていた時も一緒に演奏していた妹のYuikoを誘い、最初はツーピースで活動していました。その後、父にサポートメンバーとしてベースで参加してもらい、ベースに従姉のSueを誘ってからは、父にはサポートギターを弾いてもらっていました。父がサポートを抜け、今のスリーピースの形になっています。
バンド編成でライブを活動していくことにSetsukaさんはどういうことを感じられていましたか。
ライブハウスや音楽の世界に足を踏み入ることができて、しかも舞台に立てるというのはすごく嬉しかったですね。どういう編成であれ、CuBerryというフィルターを通せば新しいやり方を見つけられると思いますし、なんでもやってみようと考えるようになりました。
お父様(こばやん)はサポート終了後、名誉会長に就任されたらしいですね。
私が好きなイギリスのバンドMystery Jetsは、ボーカルのBlaine Harrisonの父親がメンバーとして在籍していたことがあり、父が参加することは、Mystery Jetsみたいでかっこいいかも!と思っていました。実際、父を入れて演奏した時の父のギタープレイは、メロディアスでリズム感も抜群で、曲の良さを引き出していたと思います。しかしその反面、父以外のメンバーが父に頼った演奏になっていく感覚があったんです。これではダメだと思い父には、相談に乗ってもらったり、見守ってもらう「名誉会長」に就任してもらうことになりました。父は、私たちをものすごく成長させてくれた本当に偉大な存在です。
メンバーの変化と挑戦から生まれた『ニューストーリー』
今回のアルバムは、“ニューストーリー”や“青い城”などの比較的新しい楽曲から、“観覧車”や“雨の日”といった活動最初期からライブで演奏されていた楽曲も収録されています。どのようなコンセプトで収録した曲を選ばれたのでしょう。
アルバムに特定のストーリーを持たせたということはなくて、ライブのセットリストを組むような感覚でアルバムを通して聴いた時に一番良い形になるように選びました。ここ一年で今のスリーピースのバンドメンバーになったので、「このメンバーの音で録りたい楽曲」ということを考慮しましたね。
昨年にリリースされた7inchシングル『光の街 /TWINE 』のリリースパーティは、レコーディングと並行して行われたと思います。このツアーはレコーディングに影響しましたか?
すごく影響したと思います。それまでサポートメンバーとしてギターを弾いてくれていた父が抜け、Setsukaちゃんが留学に行っていてVJありのパフォーマンスができないという状況でのツアーでした。その中で、バンドメンバー3人のプレイに視線が注がれることへの慣れや、“ニューストーリー” や“青い城”のような今までの柔らかいイメージとは違った曲を演奏することでスリーピースバンドとしての表現の幅が広がりましたね。
なぜ、“ニューストーリー”と“青い城”では、今までのCuBerryの柔らかいイメージの音楽とは違う新しいサウンドに挑戦されたのですか?
私はライオット・ガールが好きなんですが、そのムーブメントの中にいたバンドは激しくシャウトするようなパンク・バンドが多いんです。その中でも私はDelta 5が好きで、彼女たちは淡々と力強く歌うスタイルで、一度バンドでも曲をカバーしたんですね。その時の、タイトなドラムフレーズの中でベースが激しいリフを弾いて、ギターがショッキングに入ってくるという形が気に入りました。“ニューストーリー”の歌詞も、ライオット・ガールが抱えていたジェンダーの問題を意識したものにしようと決まっていたので、これでやろうと思いました。
たしかに、“ニューストーリー”と“青い城”のサウンドはニューウェーブやポストパンク的な鋭さを感じます。
“ニューストーリー”と“青い城”は今の体制になってから作った曲なんです。スリーピースでの一番かっこいい形を追求していくうちに、余白を持たせながら一つ一つのリフや音に重きを置き、且つポップなサビや展開を大事にする、という作り方がしっくりくるようになりました。そういうこともあって、この二曲は今までのポップなイメージとは違い、ソリッドにしたいと思っていましたね。
この二曲について、KanacoさんはTwitterで「私たちなりのメッセージを込めた曲」と言ってらっしゃいましたね。
Kanacoちゃんだけでなく私たちはずっと、ジェンダーやフェミニズムというトピックに興味がありました。『夕暮れの影』もLGBTを題材にした映画なんです。“ニューストーリー”ではレベッカ・ソルニットの、『説教したがる男たち』から歌詞の要素になりそうなものを拾ってきました。“青い城”は、私が今作っている同じタイトルの映画を考えている時にできた曲です。映画ではフェミニズムをテーマに、社会的な観点ではなく、個人がそれぞれに持つ物語からメッセージを伝えようと試みました。曲の内容も映画の物語に依拠している形になっています。
「沈黙を破り 影の中から現れる彼女の物語は」などのフレーズから、“ニューストーリー”の歌詞は、インターネットやSNSが発達し個人が発言をしやすくなったことで、ジェンダーやフェミニズムという問題を人々が少しずつ考えるようになってきているという、現在の環境に沿った内容だと感じました。
そういう風に受け取ってもらえたら嬉しいですね。この歌詞は、historyって his story(彼の物語)に分解が可能だということに着目して書きました。どんな分野であっても、歴史の教科書に登場するのは男性がほとんどを占めているんです。そんな男性中心の歴史の中で声を上げ、名を残したアクティビストやライオット・ガールという女性たちの姿に感化され、私たちも彼女たちと同様に、新しい歴史を作っていきたいという思いを込めています。
アクティビストやライオット・ガールのどのような姿に感化されたのでしょうか?
私が大きく影響を受けたのは、レベッカ・ソルニット、カーラ・パワー、ルーシーMモンゴメリ、スリッツ、そして私の友人たちです。彼女たちはさまざまな方法で、この世界がより良くなることを願って声をあげてきました。その姿にはかっこよさと同時に悲しさも感じる。でも希望に溢れているんです。彼女たちの言葉や音楽、物語はいつも私に勇気と羨望と怒りをもたらし、新しい見方を示唆してくれます。だから私も、映画や歌詞を作り、パフォーマンスをすることで、彼女たちの物語を繋いでいきたいなと思っているんです。それは性別関係なく、すべての人へのメッセージであり、私のためであり、今はまだ生まれていない人たちのためでもあると思っています。
私が強く影響を受けたのは、2017年に公開されたThe Slitsのドキュメンタリー映画、『Here to be Heard: The Story of The Slits』です。女の子のステレオタイプなイメージに閉じ込められることに真っ向から反抗した彼女たちの活動をドキュメンタリーで見て、涙が出そうになるくらいかっこよくて共感できました。Bikini Killのボーカリストでライオットガールムーブメントの創始者とも言えるキャスリーン・ハンナの伝記映画『The Punk Singer』にも影響を受けました。Bikini KillのRebel Girlという曲の歌詞で、反抗的でかっこいい女の子を第三者として登場させて、「彼女は私たちのクイーン、親友になりたいな、彼女の服を試してみたいな」と歌う手法は、“ニューストーリー”と同じなんです。物語を通してメッセージを伝えるという形はかっこよくて強い表現だなと確信しました。
“ニューストーリー”の歌詞に込められた、新しい歴史を作りたいという前向きな姿勢とは対照的に、“青い城”はネガティブで抑圧されているイメージがあります。
この曲の元になった映画は、ポーランドの古いおとぎ話、「ワルシャワの人魚」を中心に、ルーシー・モード・モンゴメリの『青い城』と、日本のジェンダーギャップの状況を掛け合わせた作品になっています。映画には苦しんでいる女の子が登場するのですが、その子の気持ちを歌詞に込めて、沈んでいって出られないような状況を表現しています。
CuBerryの映像作品は、色味や出てくるフォントが丸く柔らかい雰囲気のものが多いですが、“青い城”と“ニューストーリー”は、書き殴られたようなフォントと無機質な角ばったフォント、原色に近い色が使われています。音楽で新しいテーマに踏み込むことに合わせて、映像側でも新しいことをしようという意図はありましたか?
意図的に新しいことに挑戦したわけではないです。“ニューストーリー”と“青い城”に関しては、Kanacoちゃんが作った曲と、映画や本からくるイメージに感化されて、今まで作ったことのないようなものに導かれたという感覚はありましたね。
なるほど。曲に引き寄せられていったという感じですかね。
私が作る作品は、柔らかくかわいいものになってしまう傾向があるんです。なので、曲がもっと柔らかいものだったら、もっと柔らかい映像になっていたと思います。
ジェンダーやフェミニズムの問題への興味を持ちながらも、今までCuBerryの楽曲ではその問題に触れてきませんでした。表現として踏み込めるようになった要因はどのようなものでしょうか?
音楽でジェンダーやフェミニズムの問題に触れるという点において、強いメッセージを持った音楽やライオット・ガールのバンドは激しいパフォーマンスが多く、そういうパフォーマンスは私たちには合ってないと思い、自分たちのスタイルが見つけられるまでは避けていた部分もありました。しかし、私達らしくメッセージを発信できる音楽を探す中で見つけられた着地点の1つが、今回の二曲なんだと思っています。
私は今まで、映画ではLGBTの話や難民の話を取り上げてきました。その1つ1つの根幹には「共生」というテーマがあります。これまでCuBerryの歌詞にそういったテーマが表に出てこなかったのは、歌詞を書く上でそういう考えを無意識に切り離して考えていたのかもしれません。でもここ最近になってリンクできるようになってきていて、そのきっかけが“ニューストーリー”と“青い城”だったのかもしれないです。
「共生」という新たな物語への挑戦
「共生」というテーマについて、どのようにとらえられているか、もう少し詳しく教えていただいてもよろしいでしょうか?
他人同士、異なる存在同士は完全に理解し合うことはできないと思っています。でも、理解はできなくても、一緒に生きていかなければならない。だから異なる存在同士が生きていく中で、誰かが虐げられていたり差別を受ける状況について考えなければいけないと思うんです。そういうハードな状況じゃなくても、宗教によっても価値観が違ったりする。そういう自分と違うものも排除せず、考え続けて行くことが今必要なんだと思います。
音楽や映像は、それに対してどのように力を発揮できると思いますか。
映像のいいところは、はっきり断定しないところだと思うんですよね。人によって違った見方ができるし、作品を通じてお互いの価値観を話し合うきっかけになると思っています。あとは、作品を作ることで私の中で考えていたことが整理されて、自分の考えを作品が教えてくれることもあります。
表現者とそれを受け止める人、もしくはそれを受け止める人同士で、お互いの価値観を話し合ったり、伝えられることができるツールということですね。Kanacoさん、音楽はどうですか?
音楽は、耳を通して体に流れ込むものなので、メッセージを伝える力が強い表現だと考えています。かといって私たちはダイレクトに訴えたり、ハードに訴えることはするつもりはなくて。物語を通すことで色んな捉え方ができたり、鑑賞する余地のあるメッセージを伝えることができると思うので、CuBerryでは映像や映画とリンクした音楽のアプローチをしていきたいですね。
今回のアルバムは、活動初期のポップなサウンドからソリッドなサウンドに移り変わったことや、これまで興味のあったテーマに、楽曲を通して踏み込めるようになったことから、CuBerryの「変化」が顕著に表れた作品だと感じました。ここを始点として、これからどんな表現をしていきたいですか?
私たちが一貫して表現してきたことは、妖精キューベリーの世界や、Setsukaちゃんを軸として発信していくメッセージなんです。そこさえ込めて入れば、どんなに音楽性が変化してもCuBerryの音楽になると思うので、さまざまな表現に挑戦していきたいです。“ニューストーリー”と“青い城”を通して、社会的なメッセージも表現できることがわかったので、そういった問題にスポットを当てることも多くなっていくと思います。
私は今まで以上に試行錯誤を重ねながら、変わっていくことに対して怖がらずに進んでいきたいですね。やってみたいことを自由にやりながら、社会問題と向き合ったり「共生」というテーマについて、CuBerryと映画を通じて考えていこうと思います。
ニューストーリー
アーティスト:CuBerry
発売:2020年4月14日(2020年7月1日から全国のCDショップでも発売開始)
価格:¥2,200
Official Shopping Site:https://cuberry.official.ec
収録曲:
1. ニューストーリー
2. 光の街 (album ver.)
3. Mr.Postman
4. TWINE (album ver.)
5. Aライン
6. 観覧車
7. DOOR
8. 雨の歌
9. 青い城
Webサイト:https://cuberry.me
Twitter:https://twitter.com/_CuBerry
メディア出演情報
7月16日(木) |
yes-FM 21:00〜22:00 『WEST SIDE JUNK ROCK NEXT』 (7月19日16時から再放送あり) |
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7月23日(木) |
FM京都 α-station 19:00〜21:00 『LIFT』(コメント出演) |
ライブ出演情報
日時 |
2020年7月19日(日) open 19:30 / start 20:00 |
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会場 | 西院ネガポジ |
出演 | CuBerry Bagus! |
料金 | ¥ 2,000(+1ドリンク別) |
チケット |
日時 | 2020年7月24日(金・祝) start 18:00 |
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会場 | Live House nano |
出演 | VANILLA.6 THE FULL TEENZ CuBerry Club 80’s(DJ Act) |
料金 | ¥ 3,500(若干名のみ会場鑑賞可) |
チケット | VANILLA.6公式HP |
WRITER
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98年京都市生まれ京都市育ち。左京区の某芸術系大学に通いながら、毎日楽しく暮らしています。心が踊る音楽が大好きです。
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