SPOT

Kaikado Café

FOOD 2020.08.28 Written By 出原 真子

1875年創業、初代からの手作り製法を貫く茶筒の老舗・開化堂。その開化堂が2016年にオープンしたのがKaikado Caféだ。旧京都市電の車庫兼事務所を改装した店内に入ると、高い窓から差しこんだ光に包まれる。カウンターで個人焙煎のパイオニア・中川ワニさん焙煎のKaikadoブレンドコーヒーを注文して席に着くと、茶筒をはじめ、さまざまな工芸品が店内のそこかしこに置かれていることに気づく。POPや看板を最小限に留め、余白をもたせた空間だからこそ、工芸品一つひとつの存在に自然と意識が向くようだ。

 

余白は私たちの心にもゆとりをもたらし、工芸品と向き合う時間をつくる。決して押し付けがましくなく、あくまで自然体な場作りを行うKaikado Caféは、”今の時代の生活がどのように工芸品を取り戻していくのか”のヒントを示しているのかもしれない。

INFORMATION

住所

京都市下京区河原町通七条上ル住吉町352

営業時間

11:00~18:00 L.O. (18:30 close)

定休日

水曜日、木曜日

お問い合わせ

TEL:075-353-5668

リンク

Kaikado café:http://www.kaikado-cafe.jp/

開化堂:https://www.kaikado.jp/japanese/

オンラインショップ:https://kaikadocafe.handcrafted.jp/

Instagram:https://www.instagram.com/kaikadocafe/

Facebook:https://www.facebook.com/kaikadocafe352/

「心を亡くすと書いて『忙しい』」とは言い尽くされた言葉だが、忙しい日々は時に身の回りにある”良いもの”を感じとる私たちの心を奪ってしまうのかもしれない。しかしカフェで珈琲を飲みながらひと息つく時間的余白は心のゆとりを生み、身の回りの”良いもの”に心を寄せられるようになる。Kaikado Caféはそんな気持ちがふとゆるんだ瞬間に工芸品との素敵な出会いを提供してくれるお店だ。

0101 / 04

その出会いの橋渡しをしてくれるのが店長の川口さんだ。「茶筒を集めすぎてオーナーから買うのを止められた」と言うほどの開化堂のファンだった川口さん。今も愛好家の目線で、工芸品の魅力や暮らしに取り入れる方法をお店の中で提案してくれる。

 

「工芸品を”展示”していると、時に見る人との間に距離ができてしまう。でも実際にカフェで使ううちに、手になじむ感覚や使い勝手を五感で味わうことができます」と川口さんは語る。取材のついでにお店で珈琲をいただいていると、カップの飲みごこちの良さに驚いた。聞けば宇治市〈朝日焼〉の珈琲カップらしく、口当たりと持ちやすさを徹底的に追究して生まれた一品とのこと。 他にも店内に置かれたものをなんとなく眺めていると、工芸品を暮らしに心地よく取り入れる形を静かに提案してくれていることが伝わってきた。

0101 / 03

高度経済成長期から機械化による大量生産やライフスタイルの変化で手作りのものが売れにくい時代となり、伝統産業は私たちの暮らしから姿を消しつつある。開化堂もその煽りを受けて一時は売上が低迷したものの、手作り製法を貫き、海外進出や商品開発で生き残る道を模索。現在は注文待ちが出るほど人気となった。 機械が生み出す製品は確かに便利でリーズナブルだ。反面、無機質で味気なく、製品だけに囲まれると人間らしさを失うような錯覚に陥ることがある。私たちはその反動で無意識に生の実感を求めているのだろうか?そんな時、工芸品に刻まれた職人の手あとや、使う中で変化するツヤや手ざわりは私たちに生の実感を与え、ほっとさせてくれているのかもしれない。

そんなことを感じられるのも、Kaikado Caféが忙しさに埋没しがちな私たちの感性を優しく掘り起こしてくれる場所だからこそ。「良いものは良い」。そんな単純なことも繰り返しの生活では忘れてしまいがちなのだ。その時に「良いものは良い」と思える感性を家に持って帰りたくなるのだろう。2度3度とKaikado Caféを訪れるうちに茶筒を買ってしまう人の気持ちがわかったような気がした。(時に大切な人に贈るのだろう)。

 

私もKaikado Caféの余白の心地よさと茶筒の美しい佇まいが忘れられず、特に忙しい時にはあの空間を求めてしまう。Kaikado Caféを再訪する日も、我が家に茶筒を迎える日も近いかもしれない。

0101 / 02

WRITER

RECENT POST

COLUMN
MEET ONE’S LOOK – 北欧ライフスタイルマガジン a quiet day…
COLUMN
MEET ONE’S LOOK 誰かの視点に出会う – Standart Japan &…
COLUMN
MEET ONE’S LOOK 誰かの視点に出会う – 旅と文化をテーマにした本 …
INTERVIEW
店主の人生を味わえるレシピ。『recipe for LIFE』発起人・會澤健太さんが言葉にかける信念…
INTERVIEW
〈菓子屋のな〉の店主・名主川千恵さんに聞く、お菓子と人をつなぐ言葉の力とは
COLUMN
往生際が悪いなぁ|魔法の言葉と呪いの言葉
INTERVIEW
“心が動く”を追い求める旅。カフェ・モンタージュ 高田伸也さんが考える感性の…
SPOT
HOTOKI
SPOT
murmur coffee kyoto
COLUMN
俺の人生、三種の神器 -出原真子 ③FUJI ROCK FESTIVAL ’18と “サ…
COLUMN
俺の人生、三種の神器 -出原真子 ②十二国記編-
REVIEW
いちやなぎ – naked.
COLUMN
俺の人生、三種の神器 -出原真子 ①カメラ編-
COLUMN
【SXSW2020私ならこれを見る:出原 真子】Roan Yellowthorn:流麗な調べに潜むス…
REVIEW
Special Favorite Music – TWILIGHTS

LATEST POSTS

REPORT
退屈の先へ。逆境を打ち破る『不時奏』のこれから【きょうもどこかで音楽が Vol.3】

ライブハウスに集まる人がイベントを育て、それがライブハウスの一つの顔になる。数あるライブハウスの中で…

COLUMN
【2025年3月】今、西日本のライブハウス店長・ブッカーが注目しているアーティスト

「各地域のインディーシーンってどんな感じ?」「かっこいいバンドはいるの?」このコラムでは、西日本エリ…

COLUMN
【2025年3月】今、東日本のライブハウス店長・ブッカーが注目しているアーティスト

「東日本のインディーシーンってどんな感じ?」「かっこいいバンドはいるの?」今聴いておきたい注目のアー…

INTERVIEW
マリンビスト松本律子が採集する会話・民話・自然音-福島県川俣町でのアルバム制作に至る、彼女の生きる道

マリンバ奏者の松本律子が、2025年2月7日にアルバム『Dear KAWAMATA』を発表。福島県川…

INTERVIEW
音楽が好きな人の気持ちを後押しする 町の小さなレコード屋〈cuune〉

cuune 住所 〒910-0018福井県…