INTERVIEW

京都みなみ会館

MOVIE 2020.07.02 Written By 児玉 泰地

京都みなみ会館・旧館時の取材記事

2016年2月2日公開

京都にある歴史あるミニシアターのみなみ会館は数々の新しい試みを行っている。有名なのはオールナイトイベントやパンのサービスだが、時には笑ってしまうような変てこなイベントや各種サービスが目白押しだ。そんなことを本気でやってしまう映画館だからこそ雰囲気がよく、客と店員の距離が近いのかもしれない。立場や年齢を超えて知らない人同士が映画の話で盛り上がっている光景はなかなか見られるものではないと思う。

 

「手軽に映画が見られる時代だからこそ映画館で映画を」とは館長の吉田さんの言葉だ。今映画は大衆娯楽からちょっとだけ贅沢なものになってきているのかもしれない。確かにyoutubeで映画を見たり、金曜ロードショーを家の小さなテレビで見るのも悪くはない。でもたまには友達や恋人とふかふかのソファに身を委ねて巨大なスクリーンと驚くような音量で映画を見るのもいいはずだ。みなみ会館なら昔見た大好きなあの名作も、まだ誰も知らない生まれたばかりの意欲作も見ることができる。その時の新しい出会いや発見が人生を少しだけ彩ってくれるだろう。

住所

〒601-8438 京都市南区西九条東比永城町79

営業時間

9:30~22:00

電話

075-661-3993

HP

http://kyoto-minamikaikan.jp

※移転前の情報です。現在の情報は1ページ目を御覧ください。

京都みなみ会館吉田館長にお話を伺ってきました。
──

みなみ会館の外観はパッと見て映画館に見えないのが面白いですね。

吉田

昔のパチンコ店の時の名残ですね。駐車場のネオンも昔はもっとギラギラしてたんですけど、今はネオン管を外してもらってちょっとマシになりました(笑)

──

元々ここはどういった建物だったのでしょうか?

吉田

遡れば51年前からあるみたいなんですが、最初は本当にただの木造の映画館だったようです。そこから1階にスーパーが入ったり、パチンコ店が入ったり……いつから2階に映画館があるのか正確にはわからないですが、多分この状態になってから30年以上は経っているはずです。

──

みなみ会館と言えばジャンルにとらわれない様々なイベントをされていると思うのですが、それはどのような経緯でされるようになったのでしょうか?

吉田

今はどこの映画館も、“映画+α”っていうのを提供できるように様々な企画を打ち出しているんです。映画だけなら家でも見れるし、何なら携帯電話でも見れてしまう。でも映画館には、その“+α”があることで、その人の記憶により深く映画の記憶が残ってくれるんじゃないかって思っていて。そのαの部分は例えば音楽のライブだったりするんですけど。ちなみに以前は、当館でライブだけをやるっていうイベントもあったみたいなんですが、私になってからまだそれはやってないんです。ただ、映画にちなんだ音楽を演奏してもらったり、映画の世界観にあっているバンドに来てもらって、彼らの音楽を奏でてもらうっていうのは今後もやっていきたいなぁと思ってます。

──

根本には映画を見て欲しいという気持ちがあるんですね。

吉田

ゲストアーティスト目的で映画館に来てみたけど、その時にやっていた映画を観てみたら面白かった!とか、そんな感じで映画の楽しさに触れて貰うのもいいなあと思っていて。音楽が好きな人も、映画が好きな人も、自分の趣味に時間やお金を掛けられる人という点では、似通ったものだと思うんですよ。だから音楽好きな人は絶対映画も好きになれるし、逆もしかりなんじゃないかって信じていて。音楽×映画のコラボは今後もやっていきたいですね。

──

映画への入門としておすすめがあれば教えていただきたいです。

吉田

映画館は音響も解像度も、家庭とは全然違う空間なんですよ。一番分かりやすいのは、自分がDVDで観て好きだと思っていた作品を、改めて映画館で観てみるっていう行為なんですけど。もう本当に全然違う。入ってくる情報量の多さや、感じ取れることがすごく多くて、自分が感じていた何倍もの面白さが、そこにあるんです。 当館は、毎月オールナイト上映をやってるんですけど、ほとんどが旧作の特集上映なんです。もし、好きだけど映画館では観た事ないなぁ…ていう作品がその中に入っていたら、是非観に来て欲しいって思います。映画館で映画を観る事の歓びに、気づいて貰えるんじゃないかと思っていて。そこから徐々に、新作を観る時にもDVDを待つのではなく、映画館まで足を運んで貰えたらなぁって思ってます。

──

来られているお客さんを見させていただいていると、みなみ会館は比較的若いお客さんが多いのかなと思うのですが。

吉田

オールナイト上映を始めてからかなり客層が若返りました。どこの映画館もメインの客層って60歳以上のシニアの方々なんですよね。もちろんそういった方々も大切なんですが、何も工夫をしていないとそのうち映画を見る人がいなくなってしまう。そうならないための答えが当館はオールナイト上映でした。それでかなりお客さんが若返ってきたんですよ。客層が若いっていうのは当館のひとつの特徴ですかね。

──

ちなみにお客さんで一番みなみ会館に通われている方って何年くらい通われているんですか?

吉田

もう2,30年くらいじゃないですか。

──

歴戦のツワモノですね。やはり同じものを見るのでもみなみ会館で映画を見たいというお声は多いでしょうか?

吉田

ありがたいことにそう言ってくださる方もいます。当館はミニシアターのわりにスクリーンが大きい方だと思うんです。同じ作品がかかるなら、みなみ会館で見たいと言っていただけるのはありがたいことですね。

──

ミニシアターの存在価値はどういった部分だと思いますか?

吉田

ミニシアターが町から無くなって、大きなシネコンだけが“映画館”となってしまうと、昔の巨匠たちの名作群や、低予算ながらもインディーズで自由にのびのびと作られたような作品たちは、なかなか見られない環境になってしまいます。多彩な映画が観られる環境を守りたいという思いが一番ありますね。 全国どこでも同じサービスが受けられるチェーン店にも行くし、たまには個人経営の個性的なお店にも入ってみようかな、と思う日もある。そんな感じで、ミニシアターはあり続けたいと思いますね。お客さんが、観たい作品をセレクトできなくなるっていうのは何だか寂しいですよね。

──

みなみ会館のミニシアターとしての色があれば教えてください。

吉田

とにかく、ごった煮で色々な作品を上映しているのが当館の特徴だとは思うのですが、やっぱりどこか独特な作風の映画が好まれてるような気はします。とにかくカルト映画に強い!あとは、ゾンビものとかスプラッターとか。でも、すっごいオシャレな昔のフランス映画とかもやるし。とにかく、おもちゃ箱をひっくり返したような、何でもござれなラインナップを心掛けてやってます。

──

特撮系も多いですよね?

吉田

そうですね、毎月特集上映をやっています。最近では、怪獣と言えば京都みなみ会館!みたいな感じで全国からお客さんが来てくれるのですごく嬉しいんです。ちょっとしたコミュニティーみたいなものも出来たりしていて、ここに来れば同じものを好きな人がいっぱいいて、そういう輪が広がっていく様子を見るのはとても嬉しいです。

──

とても理想的な状態ですね。

吉田

映画館は、映画が好きな人同士が集まる場所ですから。共通の趣味を介して、常連さん達が気軽に声を掛け合うような、そんな場所になったらいいのになぁ、と思ってやってます。

──

そんな中に映画を知らない人が入っていくのも大丈夫ですか?

吉田

大丈夫ですよ!何度も言うようですが、オールナイトイベントは、そういう方の為の入り口になれたらと思ってやっているので。是非、ふら~っと遊びに来て下さい!オールナイトは寝てもいいんですよ。うとうとしながらでも、大勢の人たちと夜通し映画を見るって体験を楽しんで貰いたいですね。うとうとしながら見て、後で映画の内容を友達と答え合わせなんてしながら。「いや、そんなシーンなかったで?それ夢ちゃう?」みたいな(笑)。まずは外に出て色んな体験をして欲しい!

──

ありがとうございます。次に吉田さん自身が映画にのめりこむようになったきっかけはありますか?

吉田

高校1年生の時に、友達に誘われて映画研究部に入ったのがきっかけですね。第1回目の部活動で寺山修二監督作の『田園に死す』を観たんですが、もう凄いんですよ。出てくる人達はみんな顔面白塗りやし、画面に女性の裸体がバーン!って出てくるし(笑)。とある女性の赤ちゃん(女の子)が亡くなるシーンなんかは、川上からひな壇が流れてきたりとか…!「えぇー!なにこれ!」みたいな(笑)。友達は完全にドン引きしてたんですけど、私は何故か、「こんな面白いもん観た事ない…!」って思ってしまったんです。それからレンタルショップに行っては、最初はそればかり借りて見てて。そこから、どんどん違う映画も観て行ってという感じですね。

──

かなり強烈な入門ですね(笑)。映画を仕事にしようと思ったのはいつごろなんでしょうか?

吉田

色んな作品を見ていくうちに、「あっ…私、目に楽しい映画が好きなんやわ」って気付いて。高校生の時は、美術セットや衣装に凝ってる映画が好きだったんです。で、私もそういう物を作る人になりたいと思って、映画を学べる大学に入ったんです。

──

それがいつの間にか館長になっていますね。映画館の館長としてはかなり若いでしょうし、苦労も多かったのではないかと思いますがいかがでしたか。

吉田

私が館長になった時は24歳で、本当に何もわからなくて、何にも知らなかった。当時のみなみ会館って、割とお客様との距離もあったように思うんです。今ほどオープンな環境ではなかった。でも、本当に何もかもが分からなさすぎて、特集を組むにしてもどんな風に組んだらいいんやろう…とか。結局、そういう事に一番詳しいのは、長年ここに通ってらっしゃる常連さん達や!って気づいて、色々と聞いてみるようにしたんです。すると結構親身になって意見をくれたりして、顔見知りのお客様が増えていって、それが何だか楽しくて。

──

それがみなみ会館の良い雰囲気に繋がっているんでしょうね。吉田さんは京都という場所にこだわりはありますか?

吉田

私は生まれも育ちも京都なんですが、高校生の頃はずっと京都を出たかったんです。映画を勉強するなら大阪芸術大学に行きたいと思ってたんですが、「京都でも勉強できる!そこに芸大あるがな」と親に一蹴されてしまって(笑)。もちろん、長年住んできたこの土地が今は大好きです。

──

その京都の中で好きな場所はありますか?

吉田

鴨川!

──

鴨川は本当に京都に住んでいる人に愛されている憩いの場所ですね。最後に吉田さんが今一番興味関心があることを教えてください。

吉田

『東京タラレバ娘』っていう漫画ですね。アラサーの独身女は全員読め!って思います。今焦っとかなあかんねんな…という事実にビビり倒してます。皆さまも是非!

──

ありがとうございました!

ライター:堤大樹

WRITER

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