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Polarisと僕たちの共通項はいつだって自由に音楽を楽しめるという事だった

MUSIC 2016.12.01 Written By 山田 克基

2016年6月衝撃的なニュースが僕たちの耳に飛び込んできた。なんとあのPolarisが僕たちの住む京都に拠点を置くバドミュージックに移籍したというのだ。しかもしばらくすると東名京の三都市でのワンマンツアー開催の発表である。これは京都に住んでいる以上は行くしかないでしょう。という事で11月20日に京都は磔磔で開催されたPolarisワンマンツアー『NEW SONG』に参戦してきた。

 

アンテナのニュースでも取り上げたが、今回のワンマンライブについては非常にコンセプチュアルなものになっている。ライブレポートの前に少しだけそちらに触れておきたい。イベントタイトルにもなっている『NEW SONG』。ライブに来ると受付でライブのフライヤーと空の状態のCDとケースが配られる。フライヤーはジャケットになっており、その日に披露される新曲が後日ダウンロードできるようになっていた。当日配られたCDに焼くことで新曲のシングルCDが完成されるPolarisとお客さんによる”共作”のCDなのだ。しかもダウンロードは12月24日からというPolarisからの何とも粋なクリスマスプレゼントである。こういった経緯もあり、オープンしてからの磔磔のフロアでは配られたCDとジャケットを見る人が多く、新たな試みに笑顔が溢れ、ライブへの期待も高まっていた。

 

スタート時間になると歓声の中観客をかき分けて登場するメンバー。ステージに上がると、まずは今回のライブからドラムを叩いている川上優 (Nabowa) の紹介を始めた。川上はそれほどPolarisの二人から信頼を得ているのだと感じるシーンだ。そしてオオヤの「たっっっぷりやります!」という声に二度目の歓声。静寂の中から心地よいアルペジオリフから始まる”Slow Motion”。ギター、ドラム、ベースと順々に入るイントロだけで、会場全体を十分に揺らしていく。川上が入る事により、以前よりもアグレッシブになった重厚なビートの上に、ギターのクリーントーンもふくよかな歪みも複雑に絡み合い、3ピースだからこそ、その中でもストレートにオオヤの声が抜けてくる。新生Polarisを魅せつけるにはこれ以上ないくらい素晴らしい導入に感じた。”深呼吸”を演奏し終わるとこの日初めてのMCを挟む。そこでDr.川上を執拗なまでにいじりたおす二人からは、川上への愛が感じられ、ゆったりとしたMCで僕たちとの距離をグッと縮めてくれる。今夜は僕たちにとってもPolarisにとっても素敵な夜になる事を感じさせてくれた。

MCも多めにゆったりとライブが進む中で、Fishmansの”SEASON”が披露された。ソロでも最近よくやっているとのことで、それをBa.柏原に聞かせたところ、「いいじゃん」とやる事が決定。非常にPolarisらしいアレンジに昇華されていたのはこの3人が3人のPolarisである事を楽しんでいるからに他ならない。MCでも曲中でも飾らない姿を見せてくれるのが、僕たちにとっては何よりも嬉しかったし、純粋に彼らと一緒に音楽を楽しむことができた。

 

そして、僕らが一番待っていたのはイベントタイトルでもある”New Song”。まだタイトルも決まっていない新曲が披露されると、南国の空の下のようなトロピカルな香りのするイントロからレゲエのリズムへ。そしてPolarisの真骨頂といっても良い生活感のある歌詞と伸びのあるメロディにメンバーも体をゆっくりと揺らす。海沿いの町を散歩しているような風景が目に浮かぶ。僕たちの生活と彼らの生活は何も変わらない。そんな日常をPolarisは僕らに寄り添って紡いでくれるのだ。

 

”光と影”ではイントロが始まるなり、会場からは歓声がこだまする。彼らの魅力がたっぷり詰まった一曲だ。Vo/Gt.のオオヤは発語が他のミュージシャンに比べ圧倒的に綺麗だと僕は思っている。一文字一文字を丁寧に発語していき、”光と影”のサビではその魅力が存分にあふれ、キレのいい中でも子音から母音に移り変わる瞬間さえ綺麗に聞こえるほど彼の声がじっくりと両耳から体の中に染み込んでくるのだ。そしてそれをさらにBa.柏原のメロディックなのに、時に細かいスタッカートなどを入れつつ力強いビート感でぐいぐい押し出している。Dr.川上もその世界観をしっかりと支えつつ、細かいニュアンスにしっかりと反応しているのが良く分かる。

途中MCで10月からα-Stationで始まったオオヤの番組がちょうどこの時間にやっている、ラジオを全員で聴いた。まさかライブハウスでライブ中に本人出演のラジオ番組を聞くこと等想像もしてなかった僕たちは驚きながらもその自由さにホッとした。どんなライブでもそうだが、ステージに立っているメンバーが楽しむことが、フロアの人たちが楽しむ為に必要不可欠なのだ。

今回のワンマンでは軽快なリズムの楽曲も多く演奏されたのが印象に残っている。特に”瞬間”ではDr.川上の特徴といえる非常にアグレッシブなドラミングで、二人をリードしていく。そこから”ねじまわし”でも小気味よいカッティングとどっしりとした低音でまだまだ僕たちの体を揺らしてくれる。体の芯から揺れている感覚がずっと続いて押し寄せてくる多幸感の波に僕たちはすっかり酔ってしまっていたようだ。オオヤの参加するユニットohanaの楽曲でもある”オハナレゲエ”では、オオヤが高らかに歌い上げ、会場もシングアロングするシーンも。Ba.柏原がさらに会場を煽り、しっかりとこの日のテンションの頂点をここに持ってくるライブ展開は美しさすら覚えた。

 

終盤オオヤは「Polarisっぽくなくても、これからはやりたいと思う曲をやっていこうと思う」と京都に所縁のあるどんとの”波”を披露。好きな事をしているからこそ、この3人のステージからは笑顔が弾け、それがフロアにも浸透しているのである。”コスモス”を演奏している時には僕たちもPolarisメンバーも一音一音心に刻み込んでいるようで、この共感覚といえるようなものが彼らと僕たちを結びつける絆のような気がした。

 

最後に力強く「また会おう」と言ってくれたオオヤ。レーベル移籍もあり、京都に住む僕たちにとってはグッと近づいたPolaris。これからの彼らの活動に僕たちも寄り添って、新しい景色を一緒に見つけに行きたいと思う。

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