INTERVIEW

KYOTO ART HOSTEL kumagusuku

ART 2016.12.26 Written By 森下 優月

「美術作品を見るためには美術館や展覧会へ行かなければならない」という考えはもう古いようです。今回取り上げるKYOTO ART HOSTEL kumagusukuのコンセプトは、なんと「宿泊型アートスペース」。ただでさえ美術鑑賞の際は飲食禁止でおしゃべりもはばかられる環境が一般的なのに、「宿×アート」とはおよそ結びつかないように思えます。

 

中央にバルコニーのような吹き抜けを擁した不思議なつくりの建物の中は、キッチンなど共用スペースのある1階と、4部屋ほどの宿泊スペースのある2階に分かれています。これら建物全体を使って空間そのものをアートに変えてしまうのがkumagusukuの最大の面白み。派手な色彩や演出で魅せるというよりも各作品や配置の意味などをつい考えたくなるような展示が多く、じっくり時間をかけて答えを導き出すことのできる「宿」という空間にまさにぴったりな展示方法といえます。食べたり寝たりする日常と紐付いた空間の中にいながら非日常の世界に迷い込んでしまったような面白さがあり、一晩泊まればもっと発見がありそう……!とおおいに興味をそそられました。

 

メディアなどで何でも気軽に手に入る時代だからこそ、生の体験でしか味わうことのできない価値を大切にしていると語るkumagusuku代表の矢津さん。普段あまりアートに触れる時間のない方こそ、時間を気にせずアートに存分に浸るという「宿」ならではの贅沢な体験をkumagusukuで味わってみてはいかがでしょうか。

KYOTO ART HOSTEL kumagusuku

住所

〒604-8805 京都市中京区壬生馬場町37-3

定休日

無休

TEL

075-432-8168

HP

https://kumagusuku.info

MAIL

mail@kumagusuku.info

30代というターニングポイントで、最終的に出てきたのがkumagusukuというアイディアだった

──

kumagusukuはもともと別の建物だったのをリノベーションされたらしいですね。

矢津

最初は町家で次にアパート、その次に倉庫になり、倉庫がほとんど廃墟になった状態から改装して今に至ります。この建物は壁もないし、内と外が分かれていないような雰囲気なので自由に改装しやすいんです。

──

いつ、何がきっかけでkumagusukuというプロジェクトを立ち上げられたんでしょうか?

矢津

本格的に動き出したのは2013年です。僕は今も本職としてはアーティスト活動をしていて、展覧会に出展したり大学で美術を教えたりしていました。そんな環境の中30歳を越えたあたりで、なかなか周りが20代のように勢い良く活動できなくなる現実を目の当たりにして。僕自身も辞めて就職するか、海外へ行くか先生に専念するか…という分岐点の中で最終的に出てきたのがこのkumagusukuというアイディアだったんですよ。

──

最終的にkumagusukuという選択肢を選ばれた理由は?

矢津

周りは海外に行く人が多かったんですが、皆と同じようにしていても現状はかえられないのではないかという思いがありました。同じお金をかけるなら京都に居つつ、今の日本美術に必要なことを新しくやってみたいと思って、それが宿泊の形態そのものを新しく作ってみようというプロジェクトに結びついたんです。

──

大学が京都だったということ以外に、京都を拠点にされている理由は何でしょう?

矢津

実は現代美術において京都ってすごくアドバンテージがある街で、ギャラリーや美術館の数が圧倒的に多いんです。なぜかというと、京都はアーティストの数が多いし中身も面白いから。ディープな人たちも結構横と繋がっていて、それが京都を拠点にしたいと思った一つの要因です。

──

もともとAntennaというグループでアーティスト活動をされていたそうですね。

矢津

大学卒業前から2006年までAntennaで活動していて、そのあと個人活動を始めました。僕は制作だけやっていたと思われがちなんですが、Antennaでは皆が制作だけでなくコンセプト作りやプロジェクトごとのディレクションなどオールジャンル担当していました。

美術とゲストハウスという形態が、人とかかわることにおいて親和性が高いなと感じた。

──

独立後、2013年から本格的にkumagusukuのプロジェクトを始動したとのことですが、具体的にはどのようにプロジェクトを進めていったのですか?

矢津

経営経験も実績もなかったので多くの人に助けてもらいながらスタートしました。特に、始めたばかりの頃に友人から瀬戸内国際芸術祭での企画に呼んでもらったことは実績として大きな足掛かりになりましたね。幸い周りには優秀なアーティストやデザイナーがたくさんいるので声を掛けていけば実現するんじゃないかと思っていた部分はあったし、性格としてもやり出したらとことん突っ走るようなところがあります。 

──

kumagusukuを知らない方にコンセプトを一言で伝えると?

矢津

宿泊型アートスペースと言っています。宿ではないんです。みんなゲストハウスというとホテルメインだと思われるんですが、基本的には作品を見るための場所なんですよ。

──

メインはあくまでもアートスペースだということですね。

矢津

そうですね。結局部屋で過ごすことがメインになるので、その空間をどう作るかはもちろん重要ですが。そこはこれから新店舗を作ることがあっても重視したいとは思っていて……実は今2号店を二条城の南側につくろうと計画しています。そちらでは部屋で過ごすという行為自体をもっと作品鑑賞に近い体験にしたいと思っています。

──

kumagusukuはお部屋にアート作品が飾ってあるんですよね。

矢津

そうですね、部屋全体に展示されているわけではないですが。宿の部屋に作品を置くという試み自体は今までもあったんですが、それをしっかり展覧会として見せるということはあまりされていなかったんです。kumagusukuはキュレーターにアーティスト選定・企画をしてもらってそれを見るために泊まってもらうという形なので、そこが斬新な所だと思います。

──

「宿」という形態をとったのはなぜでしょうか?

矢津

もともとゲストハウスが好きだったんですよ。国籍やバックグラウンドが全く違う人が集まって一晩過ごすわけですけど、そこで出会う人たちに情報を教えてもらったり一緒に旅することになったり、一期一会だけど深く知り合えるような面白いコミュニケーションの取り方ができるんです。加えて自分で何かしようと思った時に、美術とゲストハウスという形態が人と関わることにおいて親和性が高いなと感じたんです。

──

美術とゲストハウスの親和性というと?

矢津

美術は本来人に見てもらって完成するものであるべきなんですが、最近は発表する行為そのものにスポットが当たってしまって本来の目的が抜け落ちていっている印象がありました。そうすると鑑賞者の反応を実感できないまま次の作品を作るようになり、何のためにやっているのか分からなくなってくるんです。そこで人に直接作品を見てもらう機会としてゲストハウスという手段を用いることで、まとまった長い時間の中で作品をプレゼンテーションできることに気づいたんです。

──

美術館等では見たものを消化する時間や場をあまり設けられないということですね。

矢津

そうですね。時間を掛けずに見られるようなものが意識的に置いてあるので、そもそも10時間もいるような場所ではないんです。それならば最初から長時間過ごす前提の場所で展示をすることを試みたらどうだろうかと思いました。あとビジネス的な話をすると、京都の宿事情も理由の1つでした。

──

私は2012年に京都にやってきたのですが、観光地の割に泊まる場所が少ないなと思っていました。探せば個人宿もありましたが、分散していて情報も少なかったですよね。

矢津

その頃のゲストハウスってバックパッカーの人が行く安宿みたいなイメージですよね。老舗旅館とビジネスホテルの中間層の、個人経営で特色のある小さなホテルのようなものがあまりなかったんです。実際に宿が足りないと言われていたので、作れば話題になって経済的に成り立たせながらやりたいことも出来るかなという思いもありました。

──

美術館はその空間へこちらから足を運んで、見て、帰るといった風に一連の決まった流れが存在しているのに対して、kumagusukuは日常と密接に繋がった空間に美術作品があるので、その点がとても新鮮だなと感じます。

矢津

それは皆さん感じて下さっているようです。泊まることとアートを合体させている場所は他にも京都に何軒かあるので、既存の場所では出来ない企画をすることで差別化をはかっています。日常生活の中で絶対に行う「食べる・話す・トイレに行く・お風呂に入る・寝る」というところにアプローチする作品は美術館等では避けられてきたので、そこにアプローチできたらアーティストも展示へのモチベーションが上がるかなと。

──

今までの展示で、他のアートホステルと差別化が図れていると思う面白い展示はありましたか?

矢津

今やっている『THE BOX OF MEMORY』はまさにそうだと思います。古来からある「記憶術」というものに基づいた展示がされていて、例えばある部屋にはにお客さんが夢を記憶できるような仕掛けがされているんです。2段ベッドの下段の天井にあたる位置に夢を記憶する方法が書いてあって、それを読んで寝てもらうという試みです。夢日記を記すためのメモセット販売もしているのでそれを買っていただくとより展示の面白みが増すと思います。

2段ベッドの下段の天井にあたる位置に書かれた夢を記憶する方法( 2016年取材当時の展示 )
──

グッズはどんなものが好評ですか?

矢津

展覧会のカタログを毎回作って、それを読むことでより深くわかるような仕組みを作っています。普段は帰って時間あったら読もうかなくらいで終わってしまうけど、ここの場合は部屋でカタログを読んで、また作品を見てということが出来るんですよ。

僕は日本の美術をまず日本人に根付かせたいと思っているんです。

──

海外のお客さんも多いですか?

矢津

特別に多いわけではなく全体の2~3割ですね。ただ、僕は日本の美術をまず日本人に根付かせたいと思っているんです。日本人にとって美術がもっと身近なものにならない限りアートに関わっている人たちが食べていける状態は絶対に生まれないので、まずは日本人にしっかり見てもらう必要があるんです。もちろん美術に興味を持ってきてくれるなら海外の方もウェルカムです。

──

美術を日本人に根付かせる上でキーとなる部分は何だとお考えですか?

矢津

美術って見るのにお金を払わないといけないとか、買おうって意識があまり無いと思うんです。だけど美術を「生で見て体験する」というのはメディアで見るのとは全然別物なんです。新しいメディアが出てきて二次的な鑑賞が充実してきた分、一次的な鑑賞にさらに価値が出てくるということが芸術分野全般にいえると思います。情報が増えすぎてしまったがために、いかに体験でしっかり見せられるかが問われていると思うし、そこにスポットを当てていきたいと思っています。

──

何でもデジタル化される時代、美術を体験することもそうですし、どこかに泊まって知らない人と直接会話するということにも「生の体験である」という共通点があるのかなと思いました。

矢津

そうですね。いわゆるパッケージングされた観光地を用意されたままに見るというのは、その観光地に行かずにスマホで見ているだけと実はあまり変わらなかったりするので、いかにそこでしか出来ない経験に能動的かつ双方向的に関われるかということが大事だと思います。

──

正直、kumagusukuってアートに詳しくない人にとって敷居の高いところだと思っていたんですが、お話を聞いてハッとするところが多かったです。

矢津

もっとアートを身近にしていくことのできる場所なんですね。 敷居を下げて日常の中にアートを落とし込みたいという狙いはあります。人々にアートに触れてもらうために例えばアートフェアを催しても、仕組み自体が欧米由来だから日本人には馴染みが薄くて人が集まらないんです。だから日本人がアートを楽しむための一番の仕組みは何だろうというところから考えていく必要があると思います。最近は増えつつあると思うんですよ。たとえば分かりやすい例だと、チームラボの展示は家族やカップルみんなで楽しめる形になっていて、日本人がアートを見に行く仕組みづくりとしてとても上手いなと思っています。

──

最後に、今後kumagusukuをどんなお店にしていきたいですか?

矢津

もっと京都の人が関われる場所にしていきたいと思っています。今は観光客が泊まりに来るイメージの方が強いので、子供鉅人*みたいなイベントの回数を増やしていってもっと京都の人にも来てもらえるようにしたいです。中に入ってみたい気持ちはあるけど入りづらい……という人にも気軽に来てもらえる機会を増やしたいなと思っています。

*『劇団子供鉅人』による移動式パフォーマンス。各部屋を舞台としてパフォーマンスを繰り広げる。2016年10月にkumagusukuにて公演された。

──

ありがとうございました!

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