誰でもウェルカムな最高の夜—Turntable Films presents 「Welcome」vol.1 2017.09.23
9月23日、土曜日。Turntable Filmsによる京都での新企画「Welcome」の記念すべき一回目が木屋町UrBANGUILDで開催された。彼らが「大好きなバンド」をゲストとして迎え、良い音楽と、美味しい料理を楽しもうというコンセプトが掲げられている。
オープンの時刻が過ぎ、少しずつ埋まっていく客席。アバンギルドのバルのような雰囲気と相まって、和やかな空気が満ちていく。みな、おいしいお酒や料理を前に、ライブ前の緊張感ではなく、「遊びに来た」というような緩やかさをたたえた表情をしていた。テーブルの上のキャンドルの火が、今かいまかと揺れていた。
この日はアバンギルドの名物料理に加え、Turntable Filmsのスペシャルメニューが用意されていた。そのひとつ、「スモークサンマのオイルコンフィ」をいただいたが、燻製されたサンマの香ばしい香りと、レモンと生玉ねぎの爽やかな風味がぴったりだった。
スーパーノア
まずはスーパーノアの登場である。今年6月に1stフルアルバム『Time』をリリースし、リリースツアー、ナノボロフェスタの大トリを完遂した彼ら。今回はサポートドラムの稲毛僚也を含めた5人体制でのステージとなった。
落ち着いた空気の中、『Time』の一曲目でもある”U(n)A”からライブは始まった。Key.岡村の跳ね回るようなシンセの音と、掻きむしるように鳴らされるGt.赤井のカオティックなギターの音が印象的に場内に響く。メンバーは大げさに熱くなるでもなく、淡々と演奏しているように見えるが、音はかなりエモーショナル。複雑なリズムに分厚い音が乗っかって飛んでくるのがなんとも気持ちいい。丸い輪郭とさらりとした耳触りを併せ持つVo.Gt.井戸の声にどんどん惹き込まれて行く。
ライブ中盤で演奏された”雨の惑星、ステレオの向こう”に打ちのめされた。8分の6拍子のリズムにあわせ体を左右に揺らす観客たちの上に響く、切なさが溢れ出しそうなコード進行とメロディー。感情に任せずに、大切にじりじりと上げていくVo.Gt.井戸の歌声。この曲の持っているパワーに突き動かされるように叩くDr.稲毛のドラムのダイナミクス。大きく体を揺らしながら力強く、かつ繊細に鳴らされるBa.岩橋のベースライン。どうしようもなく愛しいからこそ失うのが怖い、大切な思い出がまぶたの裏に浮かんでくるような感覚になる。上がる音圧に胸が圧され、喉が詰まる。
食って打たれるスネアが独特のリズムを作り出すアンセム、”what light”。全ての心をぶつけるように全身全霊をかけて演奏するメンバーの姿に胸を打たれる。そしてラストはみんな大好き、”リリー”! 転がるように進んで行く軽快なリズム&メロディーに胸は高鳴り、踊らずにはいられない!
Turntable Films
スーパーノアの余韻も冷めやらぬまま、いよいよTurntable Filmsの登場だ。実はこの日が今年Turntable Filmsとして京都でライブをする初めての日だとか。近年メンバーそれぞれのソロでの活動も盛んになり、3人揃ってのライブはレアなものになってきている。「もっとやって欲しい!」というのがファンの気持ちだろう。
メンバー3人とサポートメンバー2人(スライドギター・キーボード)の5人体制でステージに上がる。ゆるく組まれた円陣を合図にサウンドチェックが始まる。すると、会場には一気にカントリーな空気が流れ込み、会場は彼らのものになる。
「こんばんは、Turntable Filmsです。ウェルカム! 張り切ってどうぞ!」と両手を上げて宣言するVo.Gt.井上の声とともに1曲目”What You Find”のイントロが始まる。先ほどまでの飄々とした佇まいと打って変わって、憂いを帯びたコードが響き、Vo.Gt.井上のブルージーな歌声とBa.谷の美しいコーラスが沁み入る。2曲目”Cello”では、緩やかな音の変化がアンニュイな雰囲気を醸し出すGt.岩城のスライドギターの音と、間奏で楽しそうに16分のドラムを叩くDr.田村のにこにこの笑顔に、こちらも口角が緩む。
日本語詞の曲と、英語詞の曲が混ざりながら披露されていく。カナダへの留学経験があるVo.Gt.井上の日本人離れした英語のニュアンスに、外国のフィルム映画のような風景が浮かぶ。淡い青空、乾燥した空気。タンテの曲には、聴く者を別の世界へ連れていってくれる力がある。ライブで生でそれを感じ、その世界に浸る心地よさ。
ライブ中盤は、幾重にも重ねられた音の層が繊細で美しい”Light Through”や、メンバー3人でのアカペラのコーラスに胸がキュンとなる”Where Is My Little Heart”、静かに響くバスドラムとファルセットにハッとする”Summer Drug”に彩られる。
ライブ終盤、およそ3年ぶりに披露された初期の名曲”Bye Bye Love”にファンは笑顔で応え、ともに口遊む人も少なくなかった。自由で楽しげなパフォーマンスで観客の目を奪ってきたKey.佐々木が大きく手拍子を求め、観客がそれに応える。会場が一つになる瞬間だった。ここまで優しく諭すように歌ってきたVo.Gt.井上が力強く声を張り上げて歌う”Won’t Let You Down”で本編は終了。ステージからはけきらないうちに再登場した彼らがアンコール(?)として披露したのは、今回のイベントの名前のついたライブ定番曲”Welcome To Me”。メンバーそれぞれの超絶プレイが炸裂するソロ回しが死ぬほどかっこいい! ラスト、次第に速くなるBPMとともに会場の熱気も「全部出し切ってやる!」と言わんばかりに上がっていった。ああ、楽しいパーティーが終わってしまう……。
Turntable Filmsとスーパーノア。ともに京都を拠点として長く活動しているバンドだ。MCでスーパーノアが「好きなバンドとして呼ばれて嬉しい」と話し、それに応えるようにタンテが「スーパーノアとの付き合いは長いのになかなか距離が縮まらない」とこぼす場面も見られた。少しの気恥ずかしさあるのだろうが、お互いへのリスペクトを感じるステージだった。
「Welcome」と名付けられたこの企画。蓋を開けてみればなんてうってつけのネーミングだろうか。会場に集まった人々はみな、「友達と集まる機会」というような表情をしていたように思う。全体的にゆったりとした雰囲気なのも気を張らずに楽に楽しめてちょうどいい。良い音楽と、おいしいご飯。懐かしい友だちに会うように、またふらりと、彼らに会いたい。
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1997年生まれの大学生ライター。
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丸眼鏡がトレードマークだが編集長と被っている。
ブログ「九六フィートの高さから」では、かっこわるいことをかっこつけて書いておりますが、別にかっこついてないです。