立ち呑み キセノン
2017年10月17日、木屋町の一角にオープンした立ち飲み屋、「キセノン」。小笠原哲(おがさわら・あきら)さん、通称「サワラさん」が切り盛りするこのお店は、オープン当初から連日盛況が続いています。
カウンターで300円までの「小鉢」をつつきながら「芋・麦・米の焼酎」をぐいっといく。想像するだけでも夜が待ち遠しくなります。「13番路地」の赤ちょうちんのお店、今後も木屋町のホットスポットとなるはずです。
インタビューから見えてきたのは、人をひきつけてやまないサワラさんの人柄とこれからの展望。はやりの「コンセプト居酒屋」みたいないっときのブームに終わらない、人間の温かみみたいなものがそこにはありました。キャパシティこそ少ないものの、その分、人の入れ替わりが起こりやすい立ち飲み屋。写真からわかる通り、清潔感もあって1人でも通いやすい雰囲気です。新しい話題や人との出会いにあふれる場所になることでしょう。
このお店を開くきっかけや、店名の由来、そして、木屋町への思いなど、気になることを聞いてみました。
インタビュー・文:ケガニ
写真:岡安いつ美
住所 | 〒 604-0961 京都市中京区木屋町通四条上る13番路地東入 |
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営業時間 | 16:00ー24:00 |
定休日 | 日曜祝日(但し、金土日が祝日または祝前日の場合は営業)・臨時休業あり |
キセノンランプのような店
「キセノン」ということばを調べたのですが、希ガスの名前とありました。どういう由来で店名になったのでしょうか。
20代前半の頃、僕は某映画館の映写業務にアルバイトとして従事してました。その際使用していたクリスティと言う名の映写機の光源が、「キセノンランプ」という大出力ランプで、僕はその不思議な、どこか可愛げのある響きがその頃から妙に気に入っていて、「いつの日か自分が何か大きなアクションを起こす時には、なんらかの形でこの単語を使用して躍動してやるのだ」と思い続けてて。そして、この度自分の店を持つにあたり、これまで生きてきた人生の中でも1、2を争う程の (借金的にも) 壮大な転機を迎え、「今しかない!」と、屋号を「キセノン」と名付けました。
目の前で起きているお客さんのドラマを映し出す、それこそ「キセノンランプ」のようなお店になればいいですね。
ちょっとロマンチックな気もしますが、ほんとにそうなればいいですよね。
今回、開店に至った経緯はどんなものでしたか。以前、サワラさんが店長をされていた「きゃさ」には僕も個人的にお世話になったのですが、あえて自分の店を出すことになったきっかけを教えてほしいのですが。
坂本九さんも歌ってらっしゃるように、「この世で一番かんじんなのは/ステキなタイミング」と。この質問に関してはもうタイミングとしか言いようがありません。経緯と呼べる様な経緯、理由と呼べる様な理由もなくて。「きゃさ」が開店9周年を迎えた頃、「そろそろ我が身の振り方を」、つまりは「自分の店を持つということを真剣に考えなければ」、と。
場所を「ここだ」と決めたのも含めて、具体化したのはどういう感じだったんですか。
自分の店について考え始めたタイミングで、13番路地のある店舗が閉店なさって空き店舗になるという情報がふと入ってきて。尊敬する先輩方の後押しもあって、「今ここで手を挙げなければ一生自分の店なんか持てない!」とか、「ここでやらねば男が廃る!」など、随分とテキトーで根拠も曖昧な、やらなければいけない理由だけをなんとか無理矢理手繰り寄せ、ほとんど勢いではじめることにしたのです。
なるほど。木屋町の13番路地といえば「きゃさ」のすぐ近くですし、店をイメージしやすかったのもあるんでしょうね。
天国と地獄が表裏一体だと教えてくれた町
サワラさんは木屋町と木屋町の「のんべえ」についてどんな印象を持っていますか。
天国や地獄、喜びや悲しみが全て表裏一体であると、知識ではなく実地で教えてくれた町です。ろくでなしが時に周りをハッとさせるほどの優しさを持っていたり、まるで聖人君子の様な人間がゾッとするほど残虐な面を併せ持っていたり、悲喜こもごもの表情が一杯の酒や一品のアテに帰結して、またそこからさらなる広がりや奥行きを見せる町ですね。
いくら勝手知ったる木屋町といえど、開店準備は大変だったんでしょうか。オープンも少し遅れたりしましたよね。
もう何もかもが大変で。大変じゃなかったことを見つける事のほうが大変なくらい、大変でした。なので、ここで大変だった事を列挙するのも骨が折れますし、読んでくださる方々も陰鬱な気持ちになられるでしょうから、恐縮ですがやめておきます。ただひとつ、僕は今回の大変さを一生忘れませんし、大変な財産になったことは確かです。
サワラさんは「サワラデザート」という名前で音楽活動をされていますよね。音楽活動のモチベーションとお店がリンクしたりすることはあるのでしょうか。
あまり考えたことがありませんが……、敢えて言うならば、僕の曲を聴いた人が「聴いてよかったな」とか、「ライブに来てよかったな」と思ってほしい! といった欲求は店を営業する上で大きな原動力になっています。ちなみに閉店作業中に曲がふと浮かぶ時がまあまああります(笑)。
なんというか、サワラさんの音楽を聴いているときの「居心地の良さ」の理由がわかってきたような気がします。共通していることをあえて言葉にすれば、「ホスピタリティ」なのかもしれませんね。
「焼酎と小鉢」
これが飲んでほしい、というメインのお酒や、おつまみなどはあるんでしょうか。
メインのお酒は芋、麦、米などの焼酎です。その他にも生ビール、ハイボール、梅酒などがあります。アテは主に100円〜300円くらいまでの小鉢です。焼酎をメインに据えた理由は、単純に僕が好きだからです。小鉢をメインに据えた理由は、単純に僕が好きだからです。簡単すぎる理由で申し訳ない。ちょこちょこつまみながら焼酎を飲むのが好きなのです。
単純に好きなのいいですね(笑)。小鉢と焼酎、最高です。立ち飲みなのに長居してしまいそうです。さて、最後にお聞きしたいのですが、これから「キセノン」はどんなお店になっていく予定ですか。
まだはじまったばかりの店です。今はただ目の前のことで一杯ですが、皆様が「あの店行ったらなんかおもろいで〜」、と肩の力を抜いて来ていただけるような店になるよう、僕も肩の力を抜いてのんびり営業していきます。そんな事でいいのかな。なんかもっとこう必死に、目を血走らせて、力一杯、筋トレとかしながら、ニンニクかじりながら、あとは、ほら、もっとこう……。お待ちしておりまーす!
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神戸の片隅で育った根暗な文学青年が、大学を期に京都に出奔。
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アルコールと音楽と出会ったせいで、人生が波乱の展開を見せている。