INTERVIEW

日本でスウィングが流行るには – Clap Stomp Swingin’インタビュー

若手スウィング・バンドのホープ、Clap Stomp Swingin’(以下クラスト)。以前当サイトでも取りあげたように、ラッパーとのコラボやクラウドファンディングでの大成功、さらには海外フェスへの参加など話題に事欠かない彼ら。

 

とはいえ、「スウィング」って、流行ってるの?

 

答えから先に言おう。世界では流行っているが、日本ではまだまだ普及していない。語弊をおそれずに言えば、新しい世界的なスウィング・ブームの潮流の中で、日本はかなり遅れをとっている。では、いったいどこが海外の状況と違うのか。日本でスウィングはもっとポピュラーになりうるのか。なるとすればどのようにしてか。今回のインタビューでは、マイナージャンルとしてのスウィングの限界を突破しつつ、世界を舞台に活動するクラストに、日本でのスウィングの可能性について聞いた。

 

インタビュイー:斎藤一郎(Ba.)、高田亮介(Gt. / Vo.)、山下拓郎(Cl. / Vo.)

インタビュアー:ケガニ

写真:松葉圭子

そもそもスウィングって?

──

スウィング・バンドと名乗って音楽活動をされているクラストですが、CDやライブを聴いていると、いろんなジャンルが取り入れられています。また、スウィングという言葉でダンスやファッションなどの文化を指すこともあります。そもそもスウィングって一体何なんでしょう。

山下

簡単に言ってしまえば、「スウィング」はただの音楽ジャンルです。1900年代初頭のジャズを指しています。これをいろんなミュージシャンが様々な形で現代にアップデートしたものが今のスウィング・ブームですね。だけど難しいところもあって。そこにダンスやファッションなんかのカルチャーも含まれます。

高田

僕たちで言えば、たとえばダンス。リンディ・ホップ(※スウィング・ジャズに合わせて踊るダンス)の現場にもよく演奏に行きますね。そこでは音楽はある意味でダンスのBGMに徹していなければならないので難しさはあります。3~4分におさめなければいけないとか、BPMを踊れるように合わせないといけないとか、力んで空回りみたいなこともあります。でも、そこで文化としてのスウィングのルーツ固めというか芯の部分を作っているところがあって。

斎藤

スウィングというジャンルには音楽もダンスも、どちらも大事な要素だと思います。

──

ほかにもクラストはいろんなジャンルのダンスとコラボレーションしてますよね。たとえばタップダンス(※靴音を鳴らしながらリズムをとるダンス)とか、バーレスクダンス(※キャバレーにおけるショーレビュー)とか。

高田

タップダンスでいうとボードビリアンのBaronとか、バーレスクダンスでいうとチェリー・タイフーンさんとか。そういうジャンルのダンスもやっぱりスウィング・ジャズと時代を共有しているぶん、合わせやすいですね。

バロンと世界一周楽団 ‐ Shine

──

ファッションについてはどうでしょう。クラストは衣装もヴィンテージでこだわってますよね。

高田

はい、衣装もスウィングの雰囲気をつくる大事な部分だと思っています。それでヴィンテージの衣装を着ることが多いかな。ただ、そういうものは古着やからすぐ破れる(笑)。これは真理ですね。

斎藤

ニューヨーク公演のときには衣装提供をしてもらったのですが、そのときは昔の形そのままに新しく作った衣装でした。ただ、なんというか時代感みたいなものはヴィンテージに勝るものはないですね。丈夫さをとるか雰囲気をとるかという(笑)。

山下

どちらにせよ衣装はバンドカラーを作るものであって、バンドサウンドで塗り替えていけばいいと思っています。というか僕らが衣装を壊すようなことやってるから悪いんであって衣装のせいではないから(笑)。

海外のスウィング・シーンとの違い

──

ニューヨーク、韓国、台湾と、クラストはよく海外公演をされているイメージがあるのですが、海外ではスウィングってどう受け止められているんでしょう。

高田

韓国はかわいい子が多いね(笑)。そこが日本と一番違うと思う。

山下

それはまちがいない(笑)。日本でジャズ・バーといえば、フォーマルな服装で行く場所とかそういうイメージがあるし、こう言っちゃなんだけど、お年寄りが多いイメージがあって。モダンジャズは踊れないですしね。

高田

うん、でもこれはたんなる冗談じゃなくて。日本は戦後のジャズの蓄積が大きい。だから、ある意味で現在は昔の音楽、つまりクラシックと同列に置かれていて、踊れるというイメージが今ではあんまりない。その点、韓国ではジャズ=踊れる、みたいなイメージがあるのか、今っぽい若い子がたくさん来ていて、そういう意味でかわいい子が多いということなんです。

──

韓国ではクラブも流行ってると思うのですが、どういう棲み分けになってるんですか。

斎藤

リンディはある程度技術がいるから、形になるまでに時間がかかって。ある意味、趣味として少し高度なんですね。そこでハマる人がいるというか。日本で流行ってもおかしくないんですけど、日本では社交ダンスに取られている人口が、韓国ではリンディに流れているような気がします。

高田

韓国にはダンススタジオもたくさんあって、生徒たちを連れて音楽のある場所に行ったりして。新しい世界を見せてあげるというか。あとは、発表会やコンテストも多い。この構造がでかくてしっかりしているのが大きいと思いますね。

──

ほかの国はいかがですか。台湾とか。

斎藤

台湾は初海外だったのでいろいろわちゃわちゃしていましたけど、クオリティが高かったのは覚えています。規模が大きくて、数百人単位でイベントを組んでいる印象ですね。アジアはほかにもタイやインドネシアにもシーンがあります。そういう国は政府から補助金が出て運営していたりするんです。だからヨーロッパ・アメリカからスウィングの大物がよく来てて。Gordon Websterとか、その辺の人たちはすごく忙しそうにしてはりますね。日本からもどんどん呼ばれるようになったらいいんですけど。僕らもぜひ。コストパフォーマンスいいですよ(笑)。

日本のスウィング・シーンの課題

──

日本のスウィング・シーンが他の国と比べて流行っていないとすれば、どうやったら流行るんでしょうか。具体的な課題はありますか。

山下

さっき話したように、シーン全体から見ると、ダンスなんかの文化とのコラボがうまくいくことが大事だと思います。さらに音楽でいうと、マイナージャンルにとどまらないことに気を付けてます。そのためにも、あんまり同じジャンルの音楽を聴かないですね。もちろん昔の音は聴いたりするんですが。発想が全く違うジャンルから引っ張ってきたほうが面白いというか。ヒップホップを聴く人もいれば、僕は最近ジプシー・キングスにはまってます(笑)。

斎藤

ただその中でも聴くのはたとえば、ジャンルへのリスペクトがありつつジャンルを超えるような音楽。ザッハトルテとか、松ノ葉楽団とか、バンバンバザールとか。ほかにも、最近だと吾妻光良さんプロデュースで話題のDrinkin’ Hoppysとか、メジャーデビューしたビッグバンドのGentle Forest Jazz Bandとか。みんなキャラ立ちしてて面白い。たんにマイナー・ジャンルじゃなくて、たとえばハロプロとコラボしていたりとか。

高田

Gentle Forestなんかは、衣装とかビジュアルの作り方がほかのバンドに比べてかなり海外っぽいなぁと思って感心したりしてますね。

GENTLE FOREST JAZZ BAND - 月見るドール

──

これからスウィングを盛り上げるために、クラストがやっていこうと思っていることは何でしょうか。

斎藤

今までもやってきてたことですが、他のジャンルとコラボレーションしたりしていきたいです。閉じたジャンルのなかでこもってるのではなくて、どんどんと外に開いていくのが理想。その意味ではさっき出てた(古い)ジャズのイメージを一新したいです。

高田

今まですごく忙しくて、MV撮ったりアルバム作ったりツアー出たり。話題はいっぱいあったのですが、自分たちの基盤固めをこれからはやっていきたいです。たとえば、9月16日にムジカ・ジャポニカでやった「スウィンギン・ラボ」とか、そういう自分たち発信のイベントを増やしたいですね。

山下

僕はクラストに入るまでバンドらしいバンドを経験してこなかったんですが、入ってからここまですっごく大変で(笑)。もちろんいい意味で、なんですけど。忙しいなかでも、ゆっくり足場を固める作業もやっていこうかなと思ってます。

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