マグナム本田の妄想続編 〜今度は戦争だ!~『ボーダー 二つの世界』
生活を続けているとなにかと理不尽なことが起こりがちだ。過日、喫煙所で喫煙していたところ、なんと表現したら良いのだろうか、関西風にいうと「ヤニこい」おっさんがやたらうまい口笛を吹きながら近寄ってきたと思ったら「煙草を1本くれ」と言う。おっさんは前歯がなかった。「嫌です」と返すとおっさんは「カッ!」と謎の言葉を吐いた後、また口笛を吹きながら去っていった。曲はワーグナーの『ワルキューレの騎行』であった。「あの口笛のうまさは前歯のなさに起因しているのだろうか」などと思うと同時に、悪意のこもった「カッ!」という言葉を浴びて、どす黒いものが澱のように心に積み重なっていくのを感じる。
こんなことが起こる度にいつも思う。「嗚呼、北欧の風に吹かれたい」と。北欧の爽やかな夏の風ならば私の心に積もった澱も吹き飛ばしてくれるのではなかろうか。
北欧と聴くと真っ先にドルフ・ラングレン(『ロッキー4』や『ユニバーサル・ソルジャー』の敵役でお馴染み)のことを思い浮かべる私であるが、他にも『マイライフ・アズ・ア・ドッグ』、フリーセックス、フィヨルド、フリーセックス、ノーベル賞、フリーセックス、スウェディッシュポップ、フリーセックス、川上麻衣子(スウェーデン生まれ)、等々それなりに北欧には詳しいつもりだ。
そして北欧といえば北欧神話だ。昨今はマーヴェル映画の『マイティ・ソー』シリーズでモチーフにされている北欧神話、私は昔から北欧神話が好きで自分のバンドで『ヴァルハラへの鎖』という北欧神話をテーマとした曲を作ってしまったほどだ(「ヴァルハラ」は主神オーディンの宮殿であり、最終戦争「ラグナロク」に備えた戦士たちの魂が集められる場所)。神話を扱っているために壮大になりすぎてイントロだけで1分30秒、最初のサビまで3分、全体で6分にも及ぶ、昨今のサブスク時代における「1分以内にサビにいくべし」というJ-POPマナーを完全に無視する曲になってしまった。
さて、まるでバラエティ番組に番宣のために出演する俳優のように実に自然に、ナチュラルに、読者になんの違和感も感じさせぬように自分のバンドの宣伝をしたが本題に入ろう。
久々の妄想続編である。初めて読む方のために説明すると、本稿は任意の映画を観た私がその続編を勝手に妄想し、それを書く、という実にアカデミックかつ高尚な連載である。
今回の妄想元となる映画はみなみ会館にて上映中のスウェーデン映画『ボーダー 二つの世界』だ。北欧に詳しい私にぴったりである。公式サイトのイントロダクションにはこうある。
スウェーデンの税関に勤めるティーナは、違法な物を持ち込む人間を嗅ぎ分ける能力を持っていたが、生まれつきの醜い容姿に悩まされ、孤独な人生を送っていた。
ある日、彼女は勤務中に怪しい旅行者ヴォーレと出会うが、特に証拠が出ず入国審査をパスする。ヴォーレを見て本能的に何かを感じたティーナは、後日、彼を自宅に招き、離れを宿泊先として提供する。次第にヴォーレに惹かれていくティーナ。しかし、彼にはティーナの出生にも関わる大きな秘密があった——。
原作・脚本のヨン・アイヴィテ・リンドクヴィストは傑作北欧ホラー『ぼくのエリ 200歳の少女』の原作・脚本でもあり、『ぼくのエリ』は『モールス』としてハリウッドリメイクもされた作品である。『ぼくのエリ』は北欧映画の格調高さとジャンル映画としての表現が融合した実に素晴らしい作品だ。私は大きな期待を胸に『ボーダー 二つの世界』を観賞した。
ネタバレを避けて感想を述べるならば「北欧ーーー!」の一言に尽きる。不穏かつ意図的にモタったテンポの前半が過ぎ、ある1つの謎が明らかになったとき私は快哉の意を込めて思わず「北欧ーーー!」と叫んでしまった。また『イレイザー・ヘッド』や『エレファントマン』等のデヴィッド・リンチ作品からの影響も感じられる。そして深読みするならば、人種間、民族間の衝突の暗喩ともとれる実に重厚かつ、それでいてミステリとしてのおもしろさを損なわない傑作であった。
それでは続編の妄想に取り掛かるとしよう。手元に濃い目に淹れたコーヒーを用意し、紫煙を燻らせること2時間、出てきた答えは「無理!」であった。本作はホラーやファンタジーなど色々な要素が含まれているがあくまでミステリである。なにをどうやってもネタバレを避けられないのだ。
なので今回は『ぼくのエリ』同様ハリウッドリメイク版を妄想していこうと思う(ただし本筋とはあまり関係のない若干のネタバレはご容赦願いたい)。
妄想:ハリウッドリメイク版『ボーダー 二つの世界』
まずは監督だ。私は迷わずマット・リーヴスを推したい。『クローバーフィールド/HAKAISHA』そしてリブート版『猿の惑星』シリーズの監督で知られるリーヴスは前述した『ぼくのエリ』のリメイク『モールス』の監督でもある。『モールス』は『ぼくのエリ』よりも若干ジャンル映画感を強めており、それはそれでおもしろい作品であった。今回の『ボーダー』も同じように進めていって欲しい。
続いて主演の2人を誰にするか。スウェーデン版『ボーダー』の主人公の税関職員ティーナと怪しい旅行者ヴォーレを演じた俳優は20キロの増量と見事な特殊メイクで異様さを醸し出していたが、ティーナ役は『モンスター』や『タリーと私の秘密の時間』で増量経験のあるシャーリーズ・セロンで決まりだ。『マッドマックスFR』や『アトミック・ブロンド』同様、ジャンル映画でも独特の気品を表現してくれるだろう。では物語のキーマンである怪しい旅行者ヴォーレには誰をキャスティングするか。私は更に2時間熟考し「うん、スティーヴン・セガールだな」という結果に辿り着いた。
過去の連載をお読みの方は「またか・・・っていうかセガールのキャスティング前提で書いてるだろ!こんな連載読む時間があったら『PとJK』でも観た方がマシだ!」とお思いになるだろうが待ってほしい。本稿を読み終わったときには「ヴォーレ役はセガールしかない!」と思うはずだ。あと『PとJK』とかのティーンムービーを無闇に貶すのはよくない。これからの映画界全体のためにも若者が映画館に足を運ぶのは重要なことなのだ。
私の『PとJK』の感想? 「土屋太鳳がかわいかった!」である。
私がハリウッドリメイク版『ボーダー』にセガールをキャスティングする理由、まず第一に監督であるマット・リーヴスが関係する。マット・リーヴスはローティーンの頃にスピルバーグ主催の8ミリコンテストでJJ・エイブラムスと共に入選し映画界に入った早熟の天才であるが、初めのうちは脚本家として活動している。そして一躍彼の名を世界にひろめたのが脚本を務めたスティーヴン・セガール主演沈黙シリーズ第二弾『暴走特急』なのである。つまりセガールの代名詞的名セリフである「貫通しているから撃たれたうちに入らない」や「キッチンで負けたことはないんだ」はマット・リーヴスによるものなのだ。まさに「スティーヴン・セガールなくしてマット・リーヴスなし」「マット・リーヴスなくしてスティーヴン・セガールなし」と言わざるをえない。
セガールをキャスティングする第二の理由。前述したようにスウェーデン版では主演2人は増量と特殊メイクにより異様な姿になっているが、セガールの最近の画像を検索してみてほしい。増量も特殊メイクも不要だ。私は先日セガールの『沈黙の達人』をわざわざ金を出して観た。セガールはいつものように「バーチャファイター2」くらいの頃のポリゴンのような生え際のオールバックなのだが、珍しく一瞬だけ髪を下ろしたシーンがあり、そのウェーブがかった長髪はまさに今回のヴォーレ役にぴったりである。
そして第三の理由、それは「おもしろいから」である。数々のジャンル映画作品を制作してきたセガールであるが、実はホラー要素とは食い合わせが悪かったりする。2009年の『斬撃 ZANGEKI』ではゾンビを相手に戦うのであるが、いつも戦っているテロリストがゾンビに代わっただけであって「セガールが強すぎてまったくハラハラしない」というホラーとしては致命的な欠点を持つ駄作であった。だが発想を転換してみてはどうだろう。セガールがホラー映画におけるモンスター役を演じるのである。世界に4人いるセガール識者達の長年の研究によると、セガールと互角に戦えるのは『ジョジョの奇妙な冒険』第2部の完全生物となったカーズか『刃牙』の範馬勇次郎だけであろうと言われている(セルの完全体も候補に上がったが、セガールを吸収しない限りは完全体とは言えないと結論づけられた)。そんなセガールが演じるモンスターは怖くて怖くて仕方ないはずである。バトルシーンこそないもののそんなセガールが演じるヴォーレはさらに怖ろしくなるであろう。
また劇中、ヴォーレが普通の人間の男性ではないことが決定的に明かされるシーンがあるのだが、そのシーンをセガールが演じるのを想像しただけで笑いが止まらない。映画史に残る名シーンになるのは確実だ。ヴォーレを演じるには芋虫を食べなければならないが、漢方や薬膳に詳しいセガールならまったく問題ない。万が一それを拒否された場合はセガールの好物であるうどんを細工して芋虫に見えるようにすればいいだろう。
以上が『ボーダー 二つの世界』のリメイクにセガールを起用する理由であり、妄想続編、もとい妄想リメイクの概要である。
おお、まるで最初からセガールが演じるために作られた作品であるかのようではないか。というわけで『ボーダー 沈黙の世界』を楽しむためにも、11月7日までみなみ会館で上映中の『ボーダー 二つの世界』にぜひ足を運んでいただきたい。
上映作品 | ボーダー 二つの世界 |
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会場 | |
上映期間 | 2019年10月11日(金)〜 2019年11月7日(木) |
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WRITER
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プロフィール“19XX年、京都府北部に落ちた隕石の落下現場にて発見され施設で育つ。
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14歳の時にカート・コバーンに憧れ施設から脱走。紆余曲折を経てシアトリカル・テクノ・ポップ(TTP)バンド「マグナム本田と14人の悪魔」を結成。
京都のバンドシーン関係者8割くらいから嫌われている。
https://youtu.be/1tYuVpXR1qY