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うちで観よう、今はとりあえず そしてアレが終わったらミニシアターに行こう!

新型コロナウィルス(COVID-19)の世界的感染拡大による……以下略。と、もはや説明不要なほどに世界はたったひとつのウィルスによって一変してしまった。経済的にこの影響を受けない業種は皆無であるが、殊に音楽ライブ、演劇、映画などの人を集めてなんぼのエンターテイメント業界はいち早くその打撃を受けた。その中でも巨大資本を背景に持たない街のライブハウスやミニシアターは存亡の危機に立たされている。

 

未だ収束の尻尾すら掴めていない現状(執筆時4月現在)であるが、私は未来の話がしたい。アンテナ誌内においてはライブハウスに関する記事を書ける有能なライター、ミュージシャンが多くいるので、私はミニシアターの未来について書きたいと思う(「お前はミュージシャンではないのか」という意見は無視する)。

 

ミニシアターに来る客の年齢層は高い。単純なハッピーエンドではない、ある程度人生の酸いも甘いも経験した者が観て共感できる作品、或いはある程度のカルチャーリテラシーを必要とする作品が多いからではあるが、若いうちにわけがわからないまま観る体験もそれはそれで貴重であるし愛おしいものだ。現に私は「若いときにこれ観ときゃよかった!」と思う作品が多くある。また「迫力のある大作は劇場で観て、静かなミニシアター作品は家で観る」という方も多いだろうが、私はミニシアター作品こそ劇場で観てほしい。トイレ行き放題、食べ物豊富な家庭内はノイズが多い。隣家から「エバラ焼肉のタレ」のCMや「お前とおったらおもろいわっ!」とガナるジャパレゲの音が漏れてきて台無しにされた経験がある(エバラ焼肉のタレはいい商品です!)。

 

なのでこれまでミニシアターに縁のなかった方にもミニシアターへの間口を広げたく、私がこれまでミニシアターで観てきた映画の中で印象深い10作品及び監督と上映劇場を列挙しようと思う。劇場に足を運びにくい現状であるが、時間が余っているうちに今はとりあえず・・・今はとりあえず!レンタルや配信でこれらの作品を観賞、製作者やキャスト、上映劇場をチェックして、その情報をもとに収束後はぜひミニシアターに足を運び悶絶していただきたい。

①『愛のむきだし』園子温監督

みなみ会館で観賞

稀代の純愛映画であり、コメディ映画であり、アクション映画であり、アイドル映画でもある本作は4時間の長編ながらまったくその長さを感じさせない大傑作だ。劇場だとインターバルの時間があるが、この作品ほどインターバルを長く感じ、早く続きを!と思わせる作品はない。私はみなみ会館で3度観賞しているが、すべての回で爆泣している。

②『セシル・B ザ・シネマウォーズ』ジョン・ウォーターズ監督

みなみ会館で観賞

シネフィルの方の中には「なんでコレなの?」と言われそうな作品であるが、好きだから仕方ない。『ピンクフラミンゴ』という稀代のカルト映画を作ったジョン・ウォーターズ(その実アメリカインディー映画界の良心でもある)の映画愛炸裂映画であり、過度の整形による顔面崩壊直前のメラニー・グリフィス(当時はアントニオ・バンデラスと結婚していた)や現在は「キーファー・サザーランドになりそこねた男」感のあるスティーヴン・ドーフの瞳孔開きっぱなし演技も堪能できる作品。特に右手にメガホン、左手にデザートイーグル(大型拳銃)を持って絶叫するスティーヴン・ドーフの姿は最高だ。「すべての映画監督にこうあってほしい」と私は思っている。

③『シークレット・ヴォイス』カルロス・ベルムト監督

出町座で観賞

2016年日本公開の『マジカル・ガール』で世界にその名を轟かせたカルロス・ベルムトの長編第二作目。極めて小規模で公開された作品であるが、個人的に昨年のベスト作品。「記憶喪失の歌姫にかつての姿を思い出させるために雇われたファン兼モノマネ名人、それぞれの母娘の交錯」という設定に痺れる。中盤の長回しシーンはぜひとも真っ暗な部屋で目を見開き、なおかつヘッドホンで体験して欲しい。

④『ELLE』ポール・ヴァーホーヴェン監督

京都シネマで観賞

オランダ出身でかつては『ロボコップ』や『スターシップ・トゥルーパーズ』などハリウッドでも活躍した奇才中の奇才であるヴァーホーヴェンのヨーロッパに本拠地を移してからの今のところ最新作。レイプ被害にあった女社長の復讐譚ミステリースリラー……、とは単純に言い切れぬ作品。

 

ジェームス・キャメロンが描きそうな「タフ・チック」(強い女)とはまた違った女性像、人間像はイザベル・ユペールの演技も相まって最高。途中、絶対に観客を笑わせようとしているシーン有り。ただしレイプ描写があるので観る際は注意してほしい。

⑤『スーパー!』ジェームズ・ガン監督

みなみ会館で観賞

「映画なに好き?」と問われた場合、私が必ず挙げるのがこの作品。笑いあり涙あり、ハッピーでサッド、ポップでグロテスク、相反する要素が詰まっているが、「それって人生そのものじゃないか」と気付かされる。マーヴェル作品『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』でしかジェームズ・ガンを知らない人はぜひ観てほしい。ただしほぼデビュー作の『トロメオ&ジュリエット』はもの好きにしかおすすめしない。

⑥『片腕マシンガール』井口昇監督

みなみ会館で観賞

「タイトルがすべて」と言って過言ではない作品。外国映画に未だに視られる間違った日本描写を逆手にとった手法は同監督の『ロボゲイシャ』にも引き継がれることになる。個人的に返り血を浴びた女性の顔の魅力に目覚めた作品である。また「スーパー遺族」の存在は犯罪被害者、及び加害者の人権問題についても考えなくもないが、考えすぎだと思う。

 

上記のような劇映画だけでなくミニシアターではドキュメンタリーの上映も多い。ここからは私の好きなドキュメンタリー作品を挙げていく。

⑦『ホドロフスキーのDUNE』フランク・パヴィッチ監督

みなみ会館で観賞

1975年にSF小説の金字塔『DUNE』を『エル・トポ』『ホーリー・マウンテン』のアレハンドロ・ホドロフスキー監督で映画化しようとし、そしてポシャっていく過程を関係者の証言で綴る作品(『DUNE』はドゥニ・ヴィルヌーブ監督、ティモシー・シャラメ主演で製作され、公開を控えている)。

 

歴史的意義や小難しい話はさておいて、とにかくホドロフスキーという人物がいかにエネルギッシュでデタラメで魅力的なジジイであるかがわかる。個人的にはダリ、デヴィッド・キャラダイン(『キル・ビル』のビル役でお馴染み)、そしてデヴィッド・リンチとのエピソードが話の盛り方も含めて大好きだ。

 

ホドロフスキーのカルト作品への入門編として最適であるし、特にこれを観てから自伝的作品『リアリティのダンス』『エンドレス・ポエトリー』を観ることをおすすめする。

⑧『ロスト・イン・ラ・マンチャ』キース・フルトン ルイス・ペペ監督

みなみ会館で観賞

頓挫した映画に関するドキュメンタリーといえばこれも忘れてはならない。テリー・ギリアム(『未来世紀ブラジル』『12モンキーズ』)が10年かけて構想し、撮影にこぎつけた『ドンキホーテを殺した男』が頓挫していく過程を見せつけられる。

 

戦闘機の騒音に頭を抱えるギリアム、セットが洪水で流されてしょんぼりとそれを見つめることしかできないギリアム、問題が起こりすぎて逆に楽しそうに見えるギリアム、すべてのシーンのギリアムを後ろからそっと抱きしめてあげたくなる。そして耳元でこう囁きたい「20年後、完成するよ」と。

⑨『ROOM 237』ロドニー・アッシャー監督

みなみ会館にて観賞

これまで数多く語られてきたスタンリー・キューブリック論だが、今やホラー映画の古典とも言える『シャイニング』だけに論を絞った作品。ジャーナリスト、歴史学者、劇作家、作家、神秘学者の5人の識者がそれぞれ『シャイニング』に隠されたメッセージを語る、というと堅苦しく感じるが、中にはあまりにも考えすぎのトンデモ論も飛び出して、シャイニングマニアの居酒屋与太話を聞いている感覚に近い。

 

最後にミニシアターとはいえないが個人的に印象深い映画館体験をした作品を挙げておく。

⑩『沈黙の鉄拳』キオニ・ワックスマン監督

天六ホクテンザ2で観賞

前年の『アバター』の大ヒットで3D映画が増えてきた2010年、スティーヴン・セガール研究家としてそれなりに活動しつつも、一度も劇場でセガール作品を観たことのなかった私だったが、「オヤジだって3D Dandy! Dynamite! Dangerous!(※映画は2Dです)」という素晴らしいキャッチに感動してわざわざ大阪まで足を運んで観賞した。ホクテンザは今はなき天六シネ5ビル内5つの劇場のひとつで、メインの1階ユウラクザ、5階のホクテンザ1&2、ポルノ映画を上映する2階のコクサイと地下2階のユーラク地下からなっていた。ポルノ上映の2館は普通の映画館とは別の使われ方をされていたようで、1階ロビーにいる時に地下から上がってきた初老の紳士に舐めるように見られたことが印象深い。

 

『沈黙の鉄拳』については全然憶えていないし忙しい皆さんは観なくていい。


以上、とりあえずパッと浮かんだミニシアター映画(1つは例外)10作品を挙げてみた。かなり偏っていてアレもコレも書き漏らしているが、ぜひこの機会に各作品を鑑賞してもらいたい。

 

あと上記はすべて当時新作として公開されたものだが、ミニシアターではゴダールやトリュフォーなどのヌーヴェル・ヴァーグの巨匠作品やヨーロッパやアジアのアニメなどが特集上映として新旧問わず観賞することができる。今後映画館に行ける日が来ればぜひ足を運んでほしい。

 

また、現在窮地に立たされているミニシアターを支援する運動がいくつかある(みなみ会館が発起した京都、兵庫、大阪の映画館を支援するプロジェクト「Save our local cinemas〈関西劇場応援Tシャツ販売〉」は4月13日に受付終了)ので以下にリンクを記しておく。支援したいという気持ちがある方は映写機の灯を消さないためにも無理のない範囲でご協力願いたい。

 

SAVE the CINEMA(ミニシアター支援の総合的なサイト)

http://savethecinema.jp/#wrapper

 

ミニシアターエイド基金

https://minitheater-aid.org/

 

仮設の映画館

http://www.temporary-cinema.jp/

 

UPLINK Cloud

https://www.uplink.co.jp/cloud/

 

出町座未来券

https://motion-gallery.net/projects/demachiza2020

 

新型コロナウイルス被害に対するカルチャーへの支援窓口まとめ

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