INTERVIEW

京都みなみ会館

MOVIE 2020.07.02 Written By 児玉 泰地

2018年3月に休館し、2019年8月に移転・再オープンした京都みなみ会館(通称:みなみ会館)。シアターは3つに増えて、幅広い作品が鑑賞できるようになった。移転前から人気だったオールナイト上映も健在だ。以前の建物のすぐ斜向かいにオープンしたことでなじみのお客さんにも喜ばれ、京都駅より南側のエリアを盛り上げるスポットとして存在感を増している。

 

アンテナでは再び吉田館長にインタビューし、移転に伴って変化したことや、変わらない思いを伺った。映画のストリーミング配信も普及した昨今だが、だからこそこの場所へ映画を観に行く価値がある。

みなみ会館

住所

〒601-8424 京都府京都市南区西九条川原城町110

営業時間

上映スケジュールによって変化

お問い合わせ

TEL:075-661-3993

MAIL:info@kyoto-minamikaikan.jp

Webサイト

https://kyoto-minamikaikan.jp/

Twitter

京都みなみ会館:https://twitter.com/minamikaikan

取材日:2020年1月17日

移転の場所を告知したら「嬉しい」と言われたのが意外だった

──

改めて、移転再開おめでとうございます。前のみなみ会館とほぼ位置が変わらないことに驚きました。

吉田館長(以下吉田)

ありがとうございます。場所がほぼ変わらないからリーフレットやチラシに掲載する地図も、以前のものを少し変えるだけですみました。ずっと通っていただいていたお客さんも九条に移転が決まったことを喜んでくれて。実はそれが意外だったんです。

──

それはなぜですか?

吉田

移転する前は、お客さんから「不便だ」と言われ続けていたので(笑)。「ケンタッキーやモスで時間潰したな」とか「オールナイト明けは10分ぐらい歩いて京都駅まで帰ったな」とか、そういうみなみ会館と街にまつわる小さな思い出がお客さんの中にあったからこそ、「戻ってきた」と感じていただけたのかなと思っています。全く違うところに行ってしまってたら、以前とはまったく違うものになってたんじゃないかな。

──

それだけ「みなみ会館と場所」という関係が多くの方の中で大切なものになっていた。

吉田

そうなんですよ。それに改めて気づきました。みなみ会館って「わざわざ行く映画館」だと思っているんです。左京区に住んでいる学生なんかは、自転車を漕いで1時間かけて来て、映画を見てまた1時間かけて帰る。私自身もそうやって自転車をこいで家から通っていましたし。でもそれも「あの映画を求めてみなみ会館まで行った」という思い出として残りやすいんじゃないかと思います。それがこのエリアでやっていこうと思える理由ですね。

──

リニューアルにあたって何に一番苦労されましたか?

吉田

建築家さんを選ぶのに一番苦労しました。当館の名物企画にオールナイト上映というものがあるんですが、その上映を確立させるためにはある程度の座席数が必要なんです。でも京都市の条例では、バリアフリーの観点から二階建ての建物にはエレベーターを絶対につけないといけなくて、館内にエレベーターを作ると客席を確保できない。だからこちらが希望する席数を確保してくれる建築家さんを選ぶことに一番苦労しました。

 

最終的に頼んだ建築家さんは「外にエレベーターを出せばいい」と、全部外に出して100席を確保してくれました。その建築家さんは学生の頃によくみなみ会館に通っていたという方だったので、とても話が早く進みました。やっぱり私たちのことを知っていて、リスペクトしてくれる方とご一緒できたのは大きかったです。信頼して預けられると思ったので、内装は基本的に自由にしてもらいました。ただ一つ、「1番シアターは、絶対以前の印象を残してください」とだけ伝えて。床も同じ色で、緞帳も前のシアターを思い起こさせる刺繍を作ってもらっています。

──

1番シアターもですが、扉など、前の建物にあったものも持ってこられているので、懐かしさがあると思いました。

吉田

閉館して物を出していった時に、扉が残っていて。置いて行くことなんてできなくて、みんなで外して持ってきました。やはり全部なくしてしまうことはできなかったですね。

創り手とスタッフのやりたいことを叶える映画館へ

──

新しいみなみ会館で、変わったことは何ですか。

吉田

スクリーンが増えたことで、以前はできなかったいろいろな冒険ができるようになったのが良い変化です。前はオールナイトでしかできなかったことが、昼間の時間帯にもできるようになった。例えばお客さんが入るか読みにくいけど、自分たちがそれでも推したい作品は二階の30席のシアターでかけるなどしています。インディペンデントの映画にも手を出しやすくなりました。

 

今は、監督が「上映してほしい」と言って直接持ってきてくれた、配給会社のついていない作品でもチャレンジすることができます。そうするとすぐに舞台挨拶に来てくれたりするんです。「東京からみんなで車を運転してきました」みたいな感じで、毎日劇場に立ってくれる人もいて。製作者の方と触れ合う事ができるのは、ファンにとっても私たちにとっても嬉しいことで、ありがたいですね。

──

小さな作品も積極的に上映できるようになったというのは、以前から吉田さんが話されていた「インディペンデントの作り手が育つ土壌をちゃんと残したい」という思いの延長にあることですよね。

吉田

そうですね。劇場公開をしたいと思ってくれるなら、枠がある限り行いたいなと思います。今の時代、他にも公開の仕方はあると思うんです。 YouTubeにアップすれば世界中の人に見てもらえるわけですから。それにも関わらず「劇場公開をしたい、映画館でかけたい」と思ってくれる方がいることが嬉しい。「映画を作っている人だ」と感じるんです。ミニシアターの館長として、「映画館でかかるものが映画だ」と言い続けなくてはならないと思っているので。

──

前回のインタビューの時と違う、自負のようなものを感じます。

吉田

それを思ったのは、こういうミニシアターが連盟している全国コミュニティシネマという団体の会議がきっかけなんです。5年程前に「映画の中に登場する食べ物を実際に食べながら、その映画を観よう」というようなイベント上映が多く行われるようになった時期があって、その時の会議の中で「映画館じゃない場所でのそういった特殊な体験を、映画館体験と言えるのか」という話が持ち上がったんです。その時、「映画館で投影する光だけが映画ですから」と言い切った方がいたんですね。ちょっとびっくりしつつも、どこかですごく感銘を受けて。もちろん、そういったイベント上映から広がっていく体験の感動がある事も分かっていますが、私もいち映画館の館長である限りは「映画館で投影される光だけが映画館体験だ」と言い続けようと思いました。

──

他には何か変化はありましたか?

吉田

スタッフがほぼ全員新しくなったんです。3人だけ残して15人ぐらい入れ変わりました。それと昼間の時間帯にも好きなことができるようになって、企画の方向性も変わってきた印象があります。みなみ会館ではスタッフから提案された企画を、あまりボツにしないんですよ。みんながやりたいと思うことを言ってくれたらできるだけ形にしたいと思っています。

──

それはなぜですか?

吉田

アルバイトって大学生など20代の人たちも多いんですが、私はそういう人たちって、「みなみ会館にとどまらず、社会に巣立って行く人たち」だと思うんです。だから、ここにいる今だからこそできる経験をしてもらいたい。その最たるものが、上映の企画から興行までを行うことだと思っています。企画をすると「自分の流したい映画で、お客さんの興味をひきつけるにはどうしたらいいか」を考える。そういう考え方が身につけば、将来全く違う仕事に就くことになっても、それを活かせると思います。ものすごく失敗してもいい。成功するためにどうしたらいいかという思考力がついてくれたらと思っています。

──

なかなかそこまでしてくれる映画館ってないですよね。

吉田

とにかく他の人のアイデアというのが欲しい、という下心もあるんですよ(笑)。私一人では365日三つのスクリーンを埋めることはできないので、みんなのアイデアはウェルカムでやっています。

──

そうなると、今後もスタッフが変わればみなみ会館のラインナップの特徴も変わっていくんでしょうね。

吉田

そうなんですよ。その時々にいる人で、企画の内容が全く違うのも面白いんです。

映画館という文化を残していく

──

前回のインタビューのときから映画を取り巻く環境は大きく変化していると思うのですが、ストリーミング配信が普及したというのが一番大きな変化ではないでしょうか。

吉田

そうですね。お手軽でいいし否定するつもりはないですが、「映画を見るなら家のパソコンでいいじゃん」と思っている人には「少し違うんだよ」と伝えたくて。「他人と時間を共有する」という要素は、映画館にしかない良さだと思います。上映が終わったら一生すれ違わないかもしれない人たちと、時間と空間を共有する。オールナイトだとそれが特に顕著で、「あの夜にいたみんな」という感じになる。 それでとんでもない映画を知って帰って欲しいなと思いますね。

──

確かにオールナイトで初めて見た映画はなかなか忘れられないでしょうね。その「知らない作品」との出会いがあることも、映画館の体験とストリーミングで好きな映画だけを見ることとの大きな違いではないですか?

吉田

自分の興味があるジャンルだけを突き詰めるというのもいいことですが、映画館では、今まで知らなかった世界に、偶然出会ってしまうという事もあります。例えばオールナイトで好きな映画と知らない映画が併映されていると知らない作品も見る。

──

確かに途中で席を立つ人はいないですよね。

吉田

お年寄りの方だとパッと帰ってしまう人もいるんですが、暗闇の中で「その映画を観る」ということだけに集中してもらえるのは強みですね。

 

「携帯の画面も見ちゃダメ」という状態で何にも邪魔されずに、自分の時間を「映画を観る」ことだけに費やせるのは、この時代にはすごく贅沢なことだと思います。時間を作って映画館に行くと、意外にそこに贅沢な時間が待っていたりする。

──

たしかに、こういう場所が世の中にあるというのはすごく価値あることだと思います。

吉田

この場所での映画館体験の魅力を伝え続けないといけないと思っています。もちろん家で見る映画も楽しいし、私も見ちゃいます。見ちゃうけど、体験としては違う。その違いを言い続けて映画館という文化を存続させていくことが、京都みなみ会館の館長である私の務めです。

NEXT PAGE

京都みなみ会館・旧館時の取材記事はこちら

WRITER

RECENT POST

COLUMN
【Dig! Dug! Asia!】Vol.6 後編:ジャンルを融合させるパキスタンアーティストたち
COLUMN
【Dig! Dug! Asia!】Vol.6 前編:パキスタンの「文化の床」Coke Studio …
REVIEW
FNCTR – five
COLUMN
俺の人生、三種の神器 -児玉泰地 ③大和郡山 編-
REVIEW
谷澤ウッドストック – folknia
COLUMN
俺の人生、三種の神器 -児玉泰地 ②役者でない 編-
COLUMN
俺の人生、三種の神器 -児玉泰地 ①靴屋のゴジラ 編-
REVIEW
谷澤ウッドストック – 無料の音楽

LATEST POSTS

COLUMN
【2024年11月】今、京都のライブハウス店長・ブッカーが注目しているアーティスト

「現在の京都のインディーシーンってどんな感じ?」「かっこいいバンドはいるの?」「今」の京都の音楽シー…

REPORT
『京都音楽博覧会』を糧に、可視化された京都のサーキュラーエコノミー-資源が“くるり”プロジェクトレポート

思わぬものが‟くるり”と変わる。それがこのプロジェクトの面白さ …

INTERVIEW
あの頃、下北沢Zemでリトル・ウォルターを聴いていた ー武田信輝、永田純、岡地曙裕が語る、1975年のブルース

吾妻光良& The Swinging BoppersをはじめブレイクダウンやBO GUMBOS、ペン…

COLUMN
【2024年11月】今、東京のライブハウス店長・ブッカーが注目しているアーティスト

「東京のインディーシーンってどんな感じ?」「かっこいいバンドはいるの?」京都、大阪の音楽シーンを追っ…

REPORT
これまでの軌跡をつなぎ、次なる序曲へ – 『京都音楽博覧会2024』Day2ライブレポート

晴天の霹靂とはこのことだろう。オープニングのアナウンスで『京都音博』の司会を務めるFM COCOLO…