INTERVIEW

エンゲルスガール

MUSIC 2016.06.23 Written By 森下 優月

五条通りからほんの少し横道へ入ると、モダンな木造平屋が立ち並ぶ一帯が見えてきます。その中にある一軒が中古レコード屋・エンゲルスガールです。

 

「こんなところにレコード屋?」と意外に思う人も多いのではないでしょうか。店長の下司さんはかなり変わったスタイルをお持ちの方で、この場所を選んだ理由も「単純におもしろそうな場所だったから」とのこと。自らの商売を「公開道楽」と言い切る店内は、まるで気心の知れた友達の部屋のようで、なんだか落ち着きます。棚や段ボールの中にざっくばらんに置かれたレコード達は、すべて下司さん自ら足を運んで買ったこだわりの品。掘り出し物の宝箱を覗く感覚で、お気に入りの一枚を見つけて欲しい、そんなユニークなお店です。

エンゲルスガール

住所

〒600-8802 京都府京都市下京区中堂寺櫛笥町5-24

定休日

不定休

営業時間

14:00 ~ 19:00

電話番号

075-822-8006

Twitter

@ENGELS_GIRL

──

いつからお店を始められたのか教えてください。

下司さん

それが覚えてないんだよ……。エイプリルフールにしておけば嘘がバレても怒られないし、だから4月1日にオープンしたことにしてる。始まってから9年目というのは確かです。季節?覚えてない!( 笑 )

──

そんなことがあるんですね (笑) 。もともと下司さんは公務員だったという噂を聞いたのですが、そこからレコード屋に転身された経緯を教えていただけますか?

下司さん

もとは郵便局員だったんですよ。当時は今より職員の自由度が高かったのもあって、ひげモジャに五分丈パンツとかで配達に行ってたんだけど、そういうのが厳しくなって……(笑) 。だんだん「何でこんなことしてるんだ」と思うようになって辞めてしまった。それで次に始めたのがレコード屋でした。

──

音楽は昔からお好きだったんですか?

下司さん

昔は3000枚ぐらいレコードを持ってたかな。ただ嫁と喧嘩するたびに割られちゃって、最後には全部売り払われたので全然残ってない (笑) 。かなりのコレクションだったんだけどなあ。

──

なぜレコード屋だったのでしょう?

下司さん

こどもの頃、近所に入り浸っていたレコード屋があって「こういうのいいな、いつかやりたいな」とずっと思ってた。小学校の卒業文集に「大きくなったらレコード屋になりたい」って書いたくらい。それで郵便局を辞めることになったときに、今しかないと思って始めました。

──

ずっと叶えたかった職業だったんですね。五条という場所選びにこだわりはあったんですか?京都のレコード屋は三条・四条あたりが多いですよね。

下司さん

ううん、全然!五条周辺はこれから開発されていくであろう街だったから、おもしろそうだなと思って即決しました。趣味でやることになるのは分かりきってたし、一生懸命レコード屋を経営されている方に悪いような気がして、レコード屋がたくさんあるような場所でやるのはなんだか恥ずかしいなと思ってます。人に頼まれて年に1回レコード祭り*にも行くけど、恥ずかしいからいっつもコソコソ隠れてレコード漁ってる。

*京都レコード祭り…Kyoto Record Association主催で年1回行われるレコードCDフェア。2016年度は7月9日 (土) ~7月10日 (日) 、ZEST御池にて開催予定。

──

京都の中で、営業スタンスが似ているなと思われるレコード屋はありますか?

下司さん

ないと思う。というのも、うちは赤字を前提にしてしまってるから! 

──

え?!どうやってお店をまわしているんですか? 

下司さん

郵便局でバイトとして働いて補ってるよ。17時半ぐらいまではお店は店員に任せてる。 

──

バイトをしてまで経営しようという点が一般的なお店とは違うなと思うのですが、お店をされること自体がお好きな部分もありますか?

下司さん

それもあるけど、「お店」という感覚でやってないんだと思う。営利は目的としていないのでNPO法人みたいな気持ち。その分数字を気にしなくていいのは気が楽だね。

──

店内は置かれている商品数が少なく厳選されているような印象を受けるのですがどうですか?

下司さん

一般的なレコード屋よりは少ないと思うしジャンルも整理されてないですね。普通はジャンル分けされてレコードの状態が書いたりしてあるけど、宝箱から探すようなイメージでわざと見つけにくいように置いてるかな。だから初心者の人には探しにくくて売れないんだと思う。店内に分かるものないでしょ?

──

ビートルズ、エリック・クラプトンくらいですかね……。二階堂ふみさんの本が置いてあるのがとても気になるんですが。

下司さん

うん、すごく面白かった。活字が好きなのでよく本屋さんには行きます。自分が買って面白かった本は読んだ後そのまま中古品として店に出してます。

──

ご自分で買ったものをお店に並べているんですか?

下司さん

そう!普通ならまとめて安く仕入れたものに価格を付けて利益を出すけど、うちは単体で買って購入価格より安く売るという。売れたとしても当然赤字ですよね (笑)

──

どう考えてもまわらないですね…… !

下司さん

だから完全に自分の買い物をする目線で欲しいものを買っているだけ。商売としては邪道だから、レコード屋という肩書は違う気がするんだよね。レコード以外のものも置いてあるし「多分、レコード屋さん」って言うようにしてる。

──

お話を聞いていて、だんだん見えてきた感じはあるんですが……一言でいうとコンセプトはどのようなものですか?

下司さん

「道楽・伊達・酔狂」かな。

──

一般の人にオープンに公開していらっしゃる道楽、というような。

下司さん

そう、まさにそれ。「公開道楽」だね。

──

そもそもレコードの魅力は何だと思われますか?

下司さん

それはやっぱり音の良さじゃないですかね。もともとレコードの音質が魅力的というのもあるけど、特に80年代以前のものを聴くならCDよりレコードの方が圧倒的に本来の良い音で聴けると思う。80年代頃にレコードからCDに移行していったけど、アナログ盤の録音をCDにするとどうしても音が落ちてしまうから。

──

レコード初心者が店に来ることはありますか?また、そのことについてどう思われますか?

下司さん

ありますね。それは気にしないですよ。ただジャズや海外盤が多めかなってぐらいでジャンルもはっきり分かれていないし、そういう人たちにとっては探しにくいかもしれない。ツボにハマる人は自分の家みたいに居心地がいいと言ってくれますけどね。

──

アナログ盤の音の良さが分かる一枚、レコード初心者におすすめの一枚があればそれぞれ教えてください。

下司さん

普段から自分が聴きこんでいる曲が一番分かりやすいかもね。ただそうでなくても、録音状態の良いものを聴けば音の良さは分かると思う。

~試聴~

音の良さが分かる一枚:Gerry Mulligan Quartet ‎『Recorded In Boston At Storyville』
初心者におすすめの一枚:大瀧詠一『Niagara Moon』
──

音が鮮やかで柔らかいですね! CDだと耳が疲れてしまうこともありますが、レコードの音はずっと聴いていられそうな心地よさです。

下司さん

レコードは15分経ったらひっくり返さないといけないから、一度休憩できる所もいいよね。

──

最後に、どんな人にお店に来てほしいですか?

下司さん

自分の趣味の幅を広げたいなと思っている人には楽しい場所だと思いますね。「好きなジャンルはある程度あるけどそれ以外も聴いてみたい」という人がもしいれば、そのための手伝いはできると思います。夕方の時間帯なら僕は店にいるので聞いてくれればお話ししますよ。

──

ありがとうございました!

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