下鴨車窓『散乱マリン』(京都公演)
劇作家・演出家の田辺剛が主宰する演劇創作ユニット下鴨車窓が、2020年1月から4月にかけて、京都、広島、三重の三都市を回るツアー公演『散乱マリン』を行う。
下鴨車窓は公演ごとに出演者を集めるスタイルを取っており、作品をレパートリー化して定期的に再演やツアーを行うことが特徴。2018年11月に京都で上演した『微熱ガーデン』は、特殊な環境におかれた人物たちの日々が、繊細で日常的な言葉を用いて描かれていた。
今作は2014年に東京と神奈川で上演され、2015年の第22回OMS戯曲賞最終候補に選ばれた『 scattered(deeply)』を、タイトルも出演者も一新して上演されるものだ。バラバラにされた自転車を「生活の道具」と見る者と「芸術作品」として見る者を描く。
それは祖母の形見の自転車だった
それはある美術作家の遺作だった
佐藤マキは「そんなことがあるの」とつぶやいた。盗られてしまった自転車は大好きだった祖母から譲り受けたものでそれが撤去されたという。ペラペラのハガキに書いてある保管所の地図は彼女が住むところからは遙か遠い。引き取ったところでその距離を乗って帰ってくることを考えるとウンザリするけれど、盗んだ誰かへの腹立たしさも手伝ってきっと取り戻してやると心に誓った。昼間の仕事をなんとかやりくりして取りに行けたのは保管期限もギリギリのときだった。
伊佐原リョウタは焦っていた。ビエンナーレ開幕も間近に迫っての担当キュレーターの交代はアーティストを不安にさせる。後任の担当者は作品のタイトルが読めなかった。彼の作品は野外展示のインスタレーションだが天候の悪い日が続いて作業もはかどっていない。そこにきて台風が来るニュースだ。すぐに若いスタッフが作品を守るために現場に向かってくれるという。「ありがとうありがとう」。時間をかけて準備してきた。必ずやり遂げようと彼は心に誓った。
空にはカラスが舞い、野犬の群れが駆け抜ける。
果てしなく広がるその野原はいまでは海の底に沈んでいる。
公式HPより
既に発表されている戯曲では、生活の道具としての自転車と、まるでマルセル・デュシャンのレディ・メイド作品のように美術作品と捉えられた自転車を通して、二つの世界が交錯する。果たして舞台上ではそれがどのように描かれるかが見どころだ。
どう描かれようとも『散乱マリン』が提示するのは、もちろん自転車への新しい視点ではない。それを見る二つの視点を通した、人間の有り様への思考だろう。二つの世界の営みが重なるとき、両者は相手に理解を示すのか、それとも平行線をたどるのか。はたまた全く別の様相となるのだろうか。そしてそれを観て、観客は目の前で起こっていることを何に重ねるだろうか。
不条理性の高い物語を、隠喩を用いてコミカルに描いた今作。初演を観たという方も、見逃したという方も、ぜひこの機会に足を運んでほしい。
公演 | 下鴨車窓『散乱マリン』 |
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脚本・演出 | 田辺剛 |
出演 | 西村貴治 / 福井菜月 / 澤村喜一郎 / 西マサト / 北川啓太 / 坂井初音 / 岡田菜見 / F.ジャパン |
スタッフ | 舞台監督:山中秀一 舞台美術:川上明子 照明:葛西健一 音響:森永恭代 |
主催 | 下鴨車窓 |
企画制作 | mogamos / 田中直樹 |
助成 | 芸術文化振興基金(京都・広島公演) |
公式サイト | |
戯曲Kindle版 |
日時 | 2020年 1月23日(木)19:30★ ※受付開始:開演の40分前
★トークイベント有り |
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会場 | 京都芸術センター 講堂 Googlemap ※駐車場無し |
料金 |
※当日券は残席数に応じて販売。入場は開演直前。 |
チケット予約 | 予約フォーム |
主催 | 下鴨車窓 |
共催 | 京都芸術センター |
日時 | 2020年 ※受付開始:開演の40分前
★トークイベント有り |
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会場 | |
料金 |
※当日券は残席数に応じて販売。入場は開演直前。 |
チケット予約 | 予約フォーム |
主催 | 下鴨車窓 |
共催 | (公財)広島市文化財団 アステールプラザ |
日時 | 2020年 4月11日(土) 4月12日(日) ※開演時間未定 |
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会場 | |
料金 |
※当日券は残席数に応じて販売。入場は開演直前。 |
チケット予約 | 2月8日(土)受付開始 |
主催 | 三重県文化会館 |
後援 | レディオキューブFM三重 |
WRITER
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92年生。「役者でない」という名で役者してます。ダンスやパフォーマンスも。言葉でも身体でも表現できる人間でありたいです。
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