COLUMN

【脇役で見る映画】『ウルフ・オブ・ウォールストリート』 せめて浮気でおってよね

(C)2013 Paramount Pictures. All Rights Reserved.

イエローとブラック。そんな目に痛々しいほどの鮮やかな組み合わせのツートーンの作品といえば、と問われてあなたは何を思い浮かべますか。

 

キル・ビル?それともバットマン?コミック版のウルヴァリン?

 

いかんせん難ありの人が出てくる映画ですけど。僕が黄色と黒で思い浮かべる映画といえば『ウルフ・オブ・ウォールストリート』なわけで。の作品に出てくる人物もまたどうしようもない奴らばかりなのです。いかんせん難ありの映画ですから。

社員旅行は飛行機で乱交

徹底的にどうしようもない奴らしか出てこない映画。それが『ウルフ・オブ・ウォールストリート』です。舞台はウォール街。ジョーダン・ベルフォート(実在の人物。映画の最後にもちょろっと出演している)は雇われのブローカーでしたが、かのブラックマンデーに襲われて失業。めげずに株式仲介会社のストラットン・オークモント社を設立。最初はガレージのオフィスで、地元の不良や主婦などをかき集めて作った会社でしたが、ジョーダンの口達者が奏功して次第に規模が大きくなってゆく。予告編によれば26歳で年収49億円だそうな。えっと、いち・じゅう・ひゃく・せん……僕の何倍?

 

金が金を呼び、欲が欲を呼ぶ。セックス、ドラッグ、金道楽。誰もかれもが欲望に歯止めが利かなくなってさあ大変。オフィスにストリッパーは呼ぶし、オフィスでめちゃくちゃセックスするし、社員旅行では飛行機を貸切って乱交したり。乱痴気、とはまさにこのこと。

 

千変万化多事多難。景気が良かった時は上り調子でしたが、駆け上がった階段から転げ落ちるダメージも果てしなく。挙句には奥さんとの関係も冷え込んで、やれ離婚だ、やれ娘の親権だ、で流血騒ぎの喧嘩をして――。

というか!

ひと悶着(3時間もかかる壮大なひと悶着である)こそあったけれども、最後の最後にはなんやかんやで復活。獄中でも持ち前の話術で「経済を掌握」し、刑期を終えても新天地でまた胡散臭い商売を……。元同僚は検察に売ってしまったし、奥さんとの関係も散々になったけれど、人間関係を代償に支払ってまで口八兆で金を稼ぐのがジョーダンの生き様なのだからしょうがないのかもしれな……

 

いやいやいや、ちょっと待ってよ!
みんな忘れてない?テレサという妻がいたことをさ!!!

 

今回スポットライトを当てる脇役はこの元妻のテレサ。彼女のことを思うと、彼女の半生を想像すると、暗澹たる気持ちで胸がタールで汚れていく。

リメンバー、元妻テレサ

テレサなんてひと居た?そんな声も聞こえてきそう。いやいや、居たよ。おったよ、確実に。

 

それも冒頭から1時間も。総弱ぜんぶで3時間もある映画だし、記憶に残らないのも無理はないかもしれません。なあんてフォローするとでも? あほか! あんな良い奥さんはおれへんよ。なんで忘れるんよ。

 

「徹底的にどうしようもない奴らしか出てこない映画」と申し上げましたが、唯一の例外がこのテレサという奥さんでございます。当初入社した会社で上司に仕事と心構えを教わり、さあ、これから!というその日がブラックマンデー。倒産。

 

「とりあえずは家電量販店の倉庫で働こうかな」
「今は株屋の仕事なんてどこにも無いよ」

 

と傷心するジョーダンに「仲介の仕事あったわよ」と広告を見つけてきてくれた立役者。縁の下の力持ちなんてそんな生易しいもんじゃない。メンタル面の大黒柱ですよ。わりかし「古風」とでも言うか、典型的な3歩後ろの人ではあります(この価値観は日米を問わずして少なからず今でも存在する)から、それに比べるとナオミはいささか彼女よりは主体的で今っぽいのが魅力なのかもしれません。でも、誰のためが内助の功だと言うのでしょう。それこそが彼女の主体的な選択だったに違いありません。そんな無下にするなんて。

浮気じゃなくて

「奥さんとの関係も散々になったけれど」と書きましたが、それは マーゴット・ロビー演じるナオミのこと。(ディカプリオとマーゴット・ロビーはここで共演していたんですね!)

 

「離婚騒動」の主役すらも新しい奥さんの方に取られてしまっているわけです。ジョーダンにとって、この元妻テレサは脇役どころか端役の存在なのかもしれません。ジョーダン・ベルフォートは実在の人物なので、齟齬があったら怒られるかもしれないけれど、「海を越えれば大抵のことは大丈夫」とCreepyNutsもラジオで散々言っていたから多分大丈夫。

 

閑話休題。かようにジョーダンはテレサからナオミへと妻を乗り換えるわけです。なんだかナオミが悪者みたいになってしまいましたが、彼女は彼女で苦労しているし、素敵な奥さんでした。

 

元モデル スタイル抜群 めちゃかわい。とまあ図らずも一句詠んでしまうような形になりましたが、所謂トロフィーワイフと言ってしまっても過言ではないでしょう。誰がどんな理由で誰のことを好きになってもあたしは構へんわけやけれども、素直に首を縦に振れないのは、ナオミが二人目の妻であるということ。ジョーダンはテレサと結婚しているときからナオミと関係を持っていたのでした。とまあそんな二股が発覚したシーンが想像を絶する緊迫感なわけですよ。ちょっと振り返ってみましょう。

テレサ:Do you love her ?
(あの子のことが好きなん?)

 

ジョーダン:<目を泳がせるのみ>

 

テレサ:Answer me.
(答えや、はよ。)

 

ジョーダン:<沈黙。汗を手で拭う。また沈黙 >

泣き崩れるテレサ。そしてカメラは引きで傍観するように二人を映す。目は口ほどに――と言いますが、こんなにも如実にかつ露骨な人間模様が表情に現れてしまうものなのか。(ここまでやって結局ディカプリオはアカデミー賞を獲れなかったけれども)

 

よめのめしも食わんとセックス・コカイン・キャッシュフロー。結局このシーンの日から3日後には離婚することとなります。こんな別れ方ある?作品内の尺としてもこの離婚騒動に時間が割かれることはなく、モノローグでさらっと済ませられる。

 

いやそんな扱いある? 何もかもを失いかけた時から支えて、成功を一緒に夢見てきたやんか。とんだ焦げ付きやわ。あたしはあんたと違って先物の売り買いは苦手やさかいに。ちゃうな、逆や。あんたは負ける株でも何でも売りつけんのは得意やからな。

 

好きでいてもらい続けるには、どないしたらええんやろうか。そりゃあ刺激は減る。飽きる、慣れる。隣の芝生には勝たれへんかもしれへん。穏やかな日々が心地よいと思っていたけど、それでは足りないと言われても困る。味噌汁に白い粉をいれてみるわけにもいかんし。別にあたしだけやのうてええけど、あたしのこともずっと好きでいて欲しかった。何でもしてあげてたのに。何でもしてあげるのに。

 

「このペンを俺に売ってみろ」とジョーダンがセミナー受講生に問いかけるシーンがあります。正解は「そこに名前を書け」です。名前を書く、という需要を生み出せば、そこに価値が出るからなのだとか。しかし、この映画の中では「名前を書き終えた後のペン」の価値にまで言及することはありません。すでに「持ってる」もんには、価値がない。婚姻届にサインした後のペンの価値とは、いかほど。

WRITER

RECENT POST

COLUMN
【脇役で見る映画】親の心もこの心も僕たちだけが知ってる『イップマン 完結』
COLUMN
【脇役で見る映画】ニール、かしゆか、天沢聖司『TENET』
COLUMN
【脇役で見る映画】 頼むから決めてくれ!『ショーシャンクの空に』
COLUMN
【脇役で見る映画】 役割をひとに頼らず生きていく『キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン』
COLUMN
【脇役で見る映画】「エピローグ」:ローディーは部活をやめる
REPORT
意味が溶解する水槽 SPEKTRA主催 『INTER+』 レポート
COLUMN
【脇役で見る映画】『トイ・ストーリー3』 バズよりもウッディよりも何よりも、アンディ母の育児の終わり
REPORT
集めて、分解して、理解する。デザイナーの後藤多美さんに聞くデザインの第一歩 言志の学校第2期レポート…
COLUMN
【脇役で見る映画】『アイアンマン』シリーズ スタークに寄り添うポッツ、ふしめのひ! 今日はにげきれ…
REPORT
「見つけてもらうために!」大垣書店の大垣 守可さんに聞く、流通視点の本の魅力 言志の学校第2期レポー…
REPORT
紙とインキも表現のうち!修美社の山下昌毅さんに聞く印刷の奥深さと面白さ 言志の学校第2期レポート② …
REPORT
超絶技巧は必要ない!物件ファンの森岡友樹さんに聞く心を打つ文章を書くための思考のステップ 言志の学校…
COLUMN
【脇役で見る映画】『愛がなんだ』 テルコより大切なのは仲原くん。赤いメガネのボスによろしく
INTERVIEW
第七藝術劇場 / シアターセブン
SPOT
修美社
COLUMN
【脇役で見る映画】『イット・フォローズ』 あの娘にはお願いだからセックスを他の誰かとしてほしくない
REPORT
言志の学校 第1期 まとめ
COLUMN
アンテナ的!ベストムービー 2018
COLUMN
【まとめ】編集部員が選ぶ2018年ベスト記事
REPORT
『言志の学校』第四回レポート ~発表! こんな本作りました!~
REPORT
『言志の学校』第三回レポート -デザインとは? 印刷って何? –
REPORT
『言志の学校』第二回レポート – 書くって?編集するって?文鳥社の2人に聞く –
COLUMN
もうダッシュできないオトナへ。映画『高崎グラフィティ。』が切り取った大人と子供のグラデーション。
REPORT
こんなフリペのアイディア出揃いました!TAKE OUT!! vol.2 レポート
INTERVIEW
『きみの鳥はうたえる』三宅唱監督インタビュー 映画の仕事は「見つめること」
REPORT
『ガザの美容室』特別トーク付上映。ガザ地区の今って?
COLUMN
『軽い男じゃないのよ』がレコメンド!『ズートピア』『ファインディング・ドリー』の後はコレ!「差別と戦…
COLUMN
千早の進路間違ってない?!組織運営ってそういうことか? 映画『ちはやふる 結び』を考察 面白かったけ…
COLUMN
アンテナ川合が選ぶ!4月に観ときたい映画!
REPORT
関西の映画シーンの今後は?「地域から次世代映画を考える」レポート
REPORT
「モテるフリーペーパー」大盛況で終宴。結局どうだった? All About TAKE OUT!!
COLUMN
誰だってマチルダは好きだ、僕だってレオンになりたい(『レオン』再上映へ寄せて)
COLUMN
アンテナ的! ベストムービー2017 (byマグナム本田・川合裕之)
REPORT
【川合裕之の見たボロフェスタ2017 /Day2 】 〜ステージの上も下も中も外も、全部ぜんぶお祭り…
REPORT
第五回 文学フリマ 大阪に行ってきました
INTERVIEW
「この作品のあるべき姿」映画『望郷』大東駿介・菊地健夫監督へインタビュー
REPORT
映画『獣道– Love & Other Cults』京都みなみ会館 舞台挨拶
INTERVIEW
学生映画って何?! 京都国際学生映画祭×関西学生映画祭 関係者に聞く!

LATEST POSTS

REPORT
これまでの軌跡をつなぎ、次なる序曲へ – 『京都音楽博覧会2024』Day2ライブレポート

晴天の霹靂とはこのことだろう。オープニングのアナウンスで『京都音博』の司会を務めるFM COCOLO…

REPORT
壁も境目もない音楽の旅へ‐『京都音楽博覧会2024』Day1ライブレポート

10月12日(土)13日(日)、晴れわたる青空が広がる〈梅小路公園〉にて、昨年に引き続き2日間にわた…

REPORT
自由のために、自由に踊れ!日常を生きるために生まれた祭り – 京都学生狂奏祭2024

寮生の想いから生まれたイベント『京都学生狂奏祭』 …

COLUMN
【2024年10月】今、大阪のライブハウス店長・ブッカーが注目しているアーティスト

「大阪のインディーシーンってどんな感じ?」「かっこいいバンドはいるの?」「今」の京都の音楽シーンを追…

COLUMN
【2024年10月】今、京都のライブハウス店長・ブッカーが注目しているアーティスト

「現在の京都のインディーシーンってどんな感じ?」「かっこいいバンドはいるの?」「今」の京都の音楽シー…